異端




「ごめん。ちょっと散らかってる」
  ドアを開けながら龍麻が申し訳なさそうな顔をして少しだけ笑う。京一はそういう時の龍麻の顔が大好きだ。龍麻の顔なら大抵何だって大好きだが。
「別に気にすんなよ、俺だって急に押しかけてんだし」
  努めて冷静を装って京一はぶっきらぼうにそう言った。落ち着け。龍麻の部屋に入るのが実はこれが初めてとか、部屋行きをOKされたからには確実に「決めなければ」とか、そんな変なプレッシャーは考えないでいるに越した事はない。
  とはいえ京一はらしくもなく、今現在かなり緊張した面持ちでいた。
  龍麻にとっては「いつもの通り」京一とつるんでいただけで、何となくこうなった流れかもしれないが、京一にしてみれば今日は紛れもなく「デート」していたわけで、そこから行き着いた「お泊まりコース」なのだ。
  互いの捉え方は全く異なるものだが、しかしこの際そんな事は京一にしてみればどうでも良い。大切なのは今自分が龍麻の部屋にいて、2人っきりで、そして自分は龍麻が好きなのだという事実。
「京一、何飲む?」
  台所から龍麻が声を掛ける。京一は未だ玄関先でボーッと突っ立っていたのだが、その声にハッとして慌てて目を瞬かせた。
「ん…あ、ああっ。何でもいいぜ」
「んーとねえ、今あるのは、冷たいのだと苺牛乳と麦茶。温かいのだったらコーヒーも紅茶も…あ、緑茶もあるよ?」
「………」
「京一?」
「………」
「京一って!」
「はっ!?」
  再びぼうとしていた京一は龍麻の声にぎくりとして顔を上げる。どうした事だろう、今までこんな風に挙動不審になったり緊張したり、そんな経験した事がない。どんな敵を相手にしても臆した気持ちは抱かなかったし、自分を惑わす人間にも会った事がなかったから。
  そう、どんな人間にだって関心なんて持った事がない。全部自分ではない、その他大勢だ。
  だって世の中なんて、全部意味がなくてくだらない。やたらムキになったり熱っぽく入れあげるなんてみっともない男のすること。
「何か変なの、京一」
「な…何だよ…?」
「いい加減入りなよ。幾ら散らかってるからってさ。適当にそこらへん座ってくれればいいから」
「分かってるよ!」
  無駄に怒ったような素振りを取り、京一はようやく部屋の入口から一歩を踏み出した。
  どくん、と。やっぱり心臓が高鳴った。
「ホントに何でもいいなら勝手に紅茶にするよー?」
「ああ…」
「お湯沸かすからちょっと時間かかるけど、待てるよね」
「別に…」
  今日は泊まるつもりなのだから時間なんて気にしない。そう言いたかったのに喉の奥で言葉が詰まってまた京一は黙りこくった。ここへ来る時、どさくさに紛れて「今日はお前んちに泊まる」とは言ったものの、それに関して正式な許可は貰っていない。もし改めて言って「泊まるのはやっぱり迷惑」などと言われたら立ち直れない。周りがどう思っているかは知らないが、これでもかなり繊細な男なのだ。
  ぐるぐると頭の中でそんな無駄な事を考えながら、京一は意識を逸らそうと改めて龍麻の部屋を見回した。
  散らかっているなどと言うが、京一の部屋の比ではない。きちんと整理された部屋はいっそ殺風景過ぎて人の住んでいる気配が薄いくらいだ。食事を取る為のローテーブルにクッション。あとはテレビとDVD機器。ただそれらは埃が被っていて使用されている形跡はない。周辺には学校鞄が無造作に置かれ、雑誌が何冊か積みあがっている…が、決して見苦しい範囲ではない。奥の部屋は戸が締め切っているので分からないが、恐らくは寝室だろう。そうすると洋服ダンスなどもその隣室にあるのかもしれない。
  何にしろ、生活の主を占めるであろうリビングがこれとは。
「しっかし何もねえな…」
「えー?」
  京一の呟きに台所にいた龍麻が反応した。京一はようやく今いる場所に慣れた気持ちになり、いつものようにだらりと胡坐をかいた格好で背中を逸らせ、両手を後ろについて言った。
「何もねえなって言ったんだよ。引っ越してきてどんくらいだ?」
「うん? あぁ…まあ、数ヶ月は経ったかな?」
「困んねえの?」
「別に? むしろ必要最低限以上のものがありすぎるよ」
「これで?」
「それに広いでしょ? この部屋」
「ん…」
  龍麻が薄く笑いながら言う。京一は言われて確かにと、改めて室内を見回す。
  指摘されればもっともだ。高校生の1人暮らしにしてはこのアパートは贅沢かもしれない。キッチンはさほど広くもないが、そもそも1Kの多い学生アパートに置いて、食器棚が置けるキッチンがある事自体恵まれている。きちんと見てはいないが風呂とトイレも別々のようだし、そもそも2部屋は要らないだろう。
「お前んちって金持ちだっけ?」
「普通だと思うよ」
  でもねとヤカンの火を止めて傍の棚からカップを2つ出した龍麻は、意外にも手際よくお茶の準備をしながら続けた。
「鳴瀧先生が紹介してくれたんだ、ここ。家賃もさ、父さんたちはいいって言ったみたいなんだけど、先生が出してくれてるの」
「あのオヤジが……」
  然程話はしなかったが、龍麻の拳の師匠という男。拳武館をまとめている長というだけあって、身の内から発せられるオーラはタダ者ではなかった。そもそもあの男が龍麻をこの新宿に、ひいては真神に連れてきたという事はつい最近知ったのだが、「それ」自体には感謝しても、出資うんぬんについては面白い話ではないなと単純に思った。
「お前さぁ…それって平気なのかよ」
「何が?」
「あのオッサン、確かに強そうだけどよ…」
「うん、凄いよ。俺なんかまだ全然敵わない」
「や…そうじゃなくて。あのオッサン、何つーか、見るからにエロそうだし……」
「え? 何?」
  京一が最後の方の台詞をぼそぼそと発したせいで龍麻には聞こえなかったらしい。こぽこぽと温かい湯をカップに注いでいたせいかもしれない。龍麻は紅茶を淹れ終えてから京一のいる部屋に来て、「何?」と改めて訊いた。
「何でもねえよ…。ただ、あのオッサンとはその…よく、会ってるのか?」
「ううん、こっちに来てからは全然。だから…先生が苦境に立たされている事にも気づけなかったし」
「ああ……そうか」
「もっと頻繁に連絡取ってれば良かった。そしたら壬生君とも―」
「あいつが何だ!?」
「わっ」
  突然京一ががばりと身を乗り出してきたせいだろう、龍麻は盆からテーブルへ移そうとしたカップから数滴の紅茶を零して驚いたように動きを止めた。
「び…っくりした。もう何なんだよ…?」
「あ…いや、別に。けど、壬生が何だって?」
  京一はあの男が嫌いだ。済ました顔で何を考えているのか分かりづらく、また後から出てきたくせにやたらと龍麻を気にして、龍麻に接近しようとしている。
  そしてそれを龍麻が喜んでいる風だからまた余計にイライラした。
「この紅茶さ、壬生君がくれたんだよ」
「な、何ぃ…!?」
  そうして京一のもどかしさなどどこ吹く風で平然とそんな事を言ったりする。
「壬生君も僕と同じで1人暮らしなんだって。…お母さんが病気されていて入院中だから…。それで、家事とかしているうちに料理するのが好きになって、普段の食事だけでなくてお菓子作りなんかも好きになったって」
「それで何で紅茶が出てくるんだよ」
「この間ケーキ持ってきてくれて。それに合うからって、この紅茶も一緒にくれたんだよ」
「………」
「京一?」
  不意に黙りこんだ京一に龍麻が再度不思議そうな顔をする。
  しかし京一にしてみればそんな龍麻を気遣う余裕はなかった。自分は龍麻と知り合って数ヶ月後、ようやっと初めてこうして部屋に来る事が出来たのに、つい先だってフラリと現れたような新キャラはもうここへ来ていた。

  しかも一緒にケーキとお茶だ? なめきってんのか!?

「マリィちゃんもいたよ」
  京一の怒りをよそに龍麻は話し続ける。
「凄く大きなホールケーキだったから。マリィちゃんも凄く美味しいって喜んでた。何でか、壬生君とはあんまり仲が良さそうじゃなかったんだけど」
「そりゃそうだろ…」
  あの少女も根本では自分と同じだ。龍麻の部屋に招待された事自体は嬉しくとも、あの男と龍麻が仲良くするのは面白くないに違いない。いや、あのマリィの事だから密かに抹殺でもするかと画策したかもしれない。
  しかし今大事なのはそんな事ではない。
「お前…何で俺には声かけなかったんだよ」
「え?」
「何で俺には事後報告なんだよ!」
「え…そんなに京一、苺のショートケーキが―」
「食いたくねえよッ! 俺は―!」
  お前が俺の知らないところで知らない事をしているのが許せない―。
  そこまで言おうとして腰を浮かしかけたところで、しかし京一の制服に収まっていた携帯がいきなりけたたましく着信音を奏で出した。
「チッ!」
  こんな時にと思いながらも、勢いで何となくそれを手にして相手を確認する。これは美里葵だ。あの女のアドレスなど決して登録しないと決めているが、あまりに何回も寄越すものだから記憶させずとも自分で覚えてしまったのだ。
  メールには、今小蒔や醍醐、それに新聞部のアンコとでラーメン屋に来ているから、京一も来ないかというものだった。先日東京区内で起きた猟奇事件の新情報もあるからと、如何にも京一が興味を持ちそうなネタも添付して。
「フン…」
  それでも京一は嘲るように鼻で哂うと乱暴に携帯を閉じてそれを仕舞った。誰が行くかと思う。第一、どうして自分にだけそんな事を知らせてくる。何故龍麻の携帯には同じような文面を送らないのだ。
  以前、それとなくその話をした時は、美里の代わりに桜井が生意気な顔でこう言っていたが。

  “あんたに知らせれば自然と緋勇クンの耳にも入るでしょ”と。

  そういう問題ではないと思う。そういうところがあの連中の頭にくるところだ。協力し合おう、自分たちは仲間になれる、そう言いながら彼女たちは何だかんだと龍麻も「戦い」の輪には入れようとするが、それ以外は基本「スルー」だ。それに、京一が動かなければ龍麻だけを単体で誘うという事はない。
  どこか龍麻を異端者のように弾いて無意識のうちに見ようとしていないところがある。
  それが何故なのかと疑問に感じ始めたのは龍麻を好きだと認識し始めてからだけれど。
「美里さんから?」
  黙りこんでいると龍麻が口を開いた。
「あぁ?」
「はは。その顔。美里さんなんでしょ? 何だって?」
「どうだっていいだろ、あんな女のこと」
「またそんな」
  困ったように龍麻は笑い、それから自分の分の紅茶を一口飲むと、そのカップの中身を眺めながら平然と言う。
「行ってきたら?」
「は?」
  それに京一が不審な顔をすると、龍麻はここで顔を上げた。何も読み取れない顔だ。
「美里さん。京一のこと呼んでるんでしょ? 行ってきた方がいいんじゃない?」
「何でそうなる」
  あからさまに不快な顔を見せたが、龍麻はそ知らぬ顔だ。とぼけたように続ける。
「みんな、京一のことを頼りにしてるんだよ。それに。京一もみんなのこと、口で言うほど嫌いじゃないよ」
「はぁ…?」
「むしろ好きかも」
「何言ってやがる、俺は―」
  ムキになりかけて腰を浮かした京一は、しかし龍麻の冷静な態度に自分が「それ」では格好がつかないと、一拍を置いた後堪えて再び腰を下ろした。
  龍麻が何かというと美里たちと自分をくっつけようとしている事には慣れた。いい加減いちいち頭にくるのは止めようと思う。
  けれど、でも。
「俺はあいつらとはつるめねえよ」
「どうして」
  心底不思議そうな顔をする龍麻に苛立ちが募る。それでも必死に怒った顔を見せまいとして、京一はふいと横を向いた。
「確かに、嫌いじゃねェかもな。ただ、どうでもいい。だからあいつらにも俺って存在には構わないで欲しいだけだ」
「そんなの無理だよ。だって京一だもん」
「はぁ? 何だよそれは」
「京一はさ。みんなを引っ張る力があるっていうのかな。惹きつけるんだよ。カリスマ性っていうの? そういうのがあるんだよ、うん」
「し、知らねーよ、んなの。勝手に祀り上げんな!」
  龍麻に誉められるのは悪い気はしない。けれど単純に照れてもいられない。京一はぐらぐらと沸き立つ胃を片手で抑えながら「ならお前だって」と結局ムキになってしまった。
「お前こそ、尋常じゃねェその《力》で敵だった奴らも惹き付けまくりじゃねーかよ。お前こそ……」
「僕は違うよ」
  にこりと笑いながらもあっさりと否定して、龍麻は酷く優しい目で京一を見つめた。その瞳に京一がどきりとした事に気づいているのかいないのか、龍麻は何気なく己の拳に視線を落とした後言葉を継いだ。
「僕は違う。美里さんたちも何となく感じてるんじゃないかな。だからね、京一。みんなが学校で僕のこと無視したり嫌ったりしないでちゃんと話し掛けてくれる事がね。僕は凄く嬉しいんだよ?」
「………」
「だから、それだけで十分なんだよ? 京一が代わりに怒るのは変だよ」
「俺は…っ」
  別にお前の代わりに怒っているとかじゃない、フツーに奴らの態度がむかつくだけだ。
  そう思ったのに言葉が出ない。何もかも察しているような龍麻に驚いて声が出ない。
  以前から「ああいうの」は好きじゃないと思っていた。2人でいても奴らは自分にばかり視線を向ける。話し掛けてきて、何だかやと誘いの言葉を掛ける、でも龍麻にはそれをしない。龍麻に声を掛けるのも、自分が承知しない時に限ってだ。龍麻を良いように利用しているだけに思えてただ腹立たしいと思っていた。
  どうしてあいつらは龍麻を居ないもののように扱うのか。
  そりゃあ勿論、自分を差し置いて龍麻にばかりちやほやされても嫉妬でどうにかなってしまうのだろうけれど。
「元々立ってる場所が違うんだよ、京一」
  京一が考えている事が分かったのか、龍麻は静かに言った。
  いつもはぼけぼけとしてのんびりとした風で、鈍感で。事実、京一の気持ちになどお構いなしに無神経な発言だってするのに。
  今の龍麻はどこか神がかった美しさすら感じさせる。
「小さい頃からそうだったもの。僕は、僕が持っている《モノ》はこの世界には表立ってあるものじゃないし、あっちゃいけないものなんだ。京一たちの《力》とは根本的に違うんだよ」
「……だからあいつらがお前に対して冷たいのも当然だってか?」
「冷たくなんかないよ? みんな優しいよ?」
  その気持ちに偽りはないらしい、龍麻は京一の言葉をまた「仕方がないなあ」という風に否定した後、拳をすっと差し出してきて、きつく握ってみせた。
「だから…戦いが早く終わるように頑張るよ。そうしたらさ…みんなと仲良しのままここを去りたいなと思う。父さんたちの所に帰るんだ」
「………」
「京一とも、いい相棒でいたいな」
「いい相棒として別れる…ってか?」
「京一」
「冗談じゃねえ…」
  ぐぐっと自分も拳を固めた後、京一はさっと立ち上がると龍麻の傍へ歩み寄り、それからどっかりとその目の前で胡坐をかいた。
  ああ、だから面倒なのだ。今のこの境遇にはむかっ腹が立つ。
  折角龍麻の部屋に来たのに、「決めなければ」いけないのに。
  いつだってこのいっぱいいっぱいな龍麻を慰めるのに忙しくて、色っぽい事をしている暇がない。
  そして本当はとても弱くて人恋しいこいつに、いつまでもこんな無理をさせているどっかの「ラスボス」が猛烈に憎い。
「あいつらがよ。新たな敵の情報握ったらしいんだよ」
「え…? あぁ、さっきのメール? なら尚のこと―」
「確かに敵はぶっ倒さなきゃならねえ。勿論俺は全力で叩き潰す。……けど、今は行かねえ。絶対にお前を独りになんかさせねえ」
「京一?」
「『代わりに壬生君呼ぶからいい』とかも絶対言わせねえぞ…」
「い、言わないよ、今日は壬生君仕事だって言ってたし」
「そんな理由か!」
  思わず唾を飛ばして怒鳴った京一は、ハッとして慌ててぶるぶると首を振ったが、すぐに龍麻の手首をがつりと掴むと言い聞かせるように顔を近づけた。
「とにかくだな…。いい加減にしろよ全くお前は…。俺は絶対お前を独りになんかさせねえし、相棒でいるのも…この先もずっとで、それはこの問題が終わってからも続くわけで」
「うん…?」
「あー、色々考えるのめんどくせー! とにかくっ! お前はごちゃごちゃ余計な事考えてねーで、俺と一緒にいればいいって話だよ!」
「………」
「俺はお前を《違う奴》だなんて括らねえ! お前は異端なんかじゃねえ! お前は…お前は緋勇龍麻で、俺の………親友、だろ?」
「……うん」
「ったく。何度も言わないと分からねーのかよ」
「うん。僕バカだから」
  先刻とは明らかに種類の違う笑顔を見せた龍麻は、しかし今の方が明らかに清々とした表情で京一の事を真っ直ぐに見つめやった。
「う」
  その顔があまりに可愛らしく京一が途端ボッと赤面すると、龍麻はそんな相手に構わずごつんと頭をもたげかけ、京一の胸に擦り寄った。
「た、龍―」
「ありがと、京一」
「お、おう……」
  これは抱きしめてもいいんだよな? そう心の中で何度か葛藤した後、京一は恐る恐る龍麻の背中に両腕を回した。そうして勢いでぎゅっと強く抱擁すると、龍麻は別段それに逆らうでもなく、自分も更に京一に顔を押し付けた。
  そして言った。
「あのね。本当は……今、京一がみんなの所へ行っちゃったら、きっと僕は寂しかったと思うよ」
「!」
「そんなの慣れてる事だし、平気なはずなんだけどね。たぶん、京一がいなくなったらそう思う。京一は僕に甘いからね」
「甘い……」
「そうだよ。僕を駄目にする。普通の人間みたいにしちゃう」
「ばっ……か」
  龍麻の闇は測り知れない。きっと自分が思うよりも深くて暗くて、そして寂しい。
「バカ野郎…」
  それでもそんな龍麻が愛しくて仕方がない。
  京一は更に龍麻を強く強く抱きしめると、自分の胸の中にいる龍麻の漆黒の髪に唇を押し当てた。そうして何度もそれを繰り返し、唇だけで「好きだ」の言葉を象った。
  音に出して言えなかったのはどうしてなのか、それは自分でも分からない。
  それでも今はただこの懐に抱く存在を守りたくて大事にしたくて、京一はただじっと互いの熱を意識し続けた。



<完>




■後記…龍龍のひーちゃんが「正義の味方」である美里たちから何気にスルーされたり無視されているのは、ひーちゃんがどちらかというと天童やマリィ、陰的な場所いにる壬生と同じ立ち位置にいる人間で、京一たちとは「違う」種類の人間だから…というお話でした。それをひーちゃんは何となく感じ取っていて、美里たちは天然で、というか本能でひーちゃんをスルーしている、だからしょうがないと思っている…と無理矢理解釈。だって!何か理由がないとあいつらが何故あそこまで京一ばっか好き好き光線でひーちゃんを無視しているのか分からないんですもの!…まあとにかく、そんなこんなで前作に引き続き、光の場所にいる京一と「異端」な龍麻とは、なかなかくっつくのにも時間がかかりそうという結論でした(ヲイ)。そろそろ京一にもイイ目を見せてあげたいけど、壬生主とかも書きたい〜!