これも必要なこと



「マジうぜえ」
  言われ慣れていることとは言え、今は身体の痛みも伴っている。歩遊は自分にしか聞こえない声量でぼそりとそう呟いた男子生徒に身を震わせた。
「全く使えねーしな。耀とつるんでるからって調子のってんじゃねーっての」
  いつだって誰かからの悪意は酷く胸に突き刺さる。慣れているはず、こんなこと、別に初めてじゃない。必死にそう思いながら、歩遊は傍で悪態を吐く2人のクラスメイトから視線を外すべく俯いた。
  そうしてたった今痛めた自らの膝を見つめる。じくじくとした痛みと共にぷっくらと浮かび上がって見えたのは鮮明な赤い血だ。ただ転んだだけだし、大したことはないと頭では分かっているのだけれど、元々血を見るのが苦手な歩遊は、痛みよりもその派手な出血自体に胸の鼓動を速めた。
「歩遊!」
  その時、歩遊がいた場所から相当遠くにいた耀が駆け寄ってきて、焦った風にその場へ屈みこんできた。両手両足がグラウンドの砂で汚れることなどまるで構っていない、勢いこんで歩遊の足の怪我を見つめる姿はいきなり土下座でもしたかのようだ。
「大丈夫か、すげぇ派手にすっ転んでたけど!? うっわ、血ぃ出てるじゃん! 痛いか!? 大丈夫か!?」
「う、うん、大丈――」
「しかもボール当たったの、何か耳に近かったろ!? うっわ、こっちもちょっと擦りむいてんな…!」
「あ、でもこれはボールのせいじゃなくて、転んだ時に砂で……」
「おい、お前ら!」
  けれど随分と興奮したような耀は歩遊の言葉を最後まで聞かず、立ち上がるとすぐに傍で白けたような顔をしている級友2人を睨みつけた。先刻、歩遊に悪態をついていた生徒たちだ。
「どういうつもりだよ! 歩遊の顔面狙ってわざと蹴っただろ!」
  耀のその言い方は確信に満ちていた。歩遊はそれでぎくりと身体を揺らしたが、目線自体は下を向いたまま、3人を見やることは出来なかった。耀が自分の為に真剣に怒る様子も、それに対し明らかに全身から苛立ちを発しているクラスメイトの顔も、怖くて見ていられなかったのだ。
「はあぁ〜? 何言ってんの。言いがかりつけんじゃねーって」
  ただ、この歩遊たちの級友は、耀に対しては強く出る気はないらしい。クラス内だけでなく、学校全体に影響力を持つ人気者の耀を好き好んで敵にしたくはないのだろう。先刻まで歩遊に向けていたような悪意ある声はなりを潜め、ふざけたような軽い口調で、何とかこの場をかわそうとしている。
「俺のナイスパスにケチつけんなよ。むしろ相羽が勝手にスッ転んでパス殺したんじゃん」
「んだんだ。大体、相羽が試合の流れ全然読まねーで余計なとこばっかうろちょろすっからこんな事になったんだろ? 俺らに当たんなって」
「バカ、あんなパスがあるか! あんなのパスじゃねえ!」
「玄人のお前と一緒にすんなよー。俺らはド素人だぜ?」
「ちょっと血が出ただけじゃん、耀、何ムキになってんの? お前は相羽の保護者か?」
「おいお前ら、何してる!」
  2人が耀をからかうようにげらげらと高い笑声を上げ始めてようやく、別グループの試合を観ていた体育教師が怒鳴りながら駆け寄ってきた。2人はそれで「やべえ」「うぜえ」と口々に零した後、再びフィールドへ散って行ったが、その場に留まった耀と歩遊はその教師から「何をやってるんだ!」と無駄に怒鳴られた。
「怪我か? 気を抜いているからそういうことになるんだ。集中していれば怪我なんぞしない。無闇に試合を中断させてサボるんじゃない!」
  歩遊たちの学年を指導しているこの体育教師は、ロクに生徒の話も聞かずに始終恫喝を繰り返すだけの「横暴教師」だと、生徒たちの間ではすこぶる評判の悪い人物だった。けれど学年主任でもあり、恐らくは他の教師たちにも一目置かれ、恐れられているようなこの大柄のベテラン教師に、真っ向から逆らおうなどと思う者はおらず、そのことがまた余計彼の態度を助長させていた。
「歩遊は悪くありません」
  しかしこの時の耀はきっぱりとそう言って、先刻の2人に対したのと同じように、その教師を睨みつけた。
「耀君…!」
  もちろん歩遊はぎょっとした。足の痛みなどあっという間に消えてしまう。耀がこの教師に何を言おうとしているのか、瞬時に得意の防衛本能が働き、「いけない」と思った。常にトロイ、ノロマ、グズなどと罵られる歩遊だけれど、こういう時の状況判断、危険信号の発する速さは、恐らくそこらの高校生よりも勝っていた。
「すみません、僕大丈夫ですっ。試合します!」
「歩遊!? 何言ってんだよ、だって――」
「大丈夫! もう大丈夫だから!」
  耀が教師から意識を外してくれたことに歩遊はほっとした。自分のせいで耀がこの教師から無駄に目をつけられることなどあってはならない。だからもう一度「僕、大丈夫だから」と繰り返し、血が流れたままの足を無理やり掌で拭った。
  するとそれを傍観していた体育教師は呆れたように吐き捨てた。
「そんな出血した状態で走られてもグラウンドが汚れるだけだ。とっとと保健室へ行ってこい」
「なっ…その言い方っ」
「それと太刀川」
  再び喰ってかかろうとする耀を相手の教師は最後まで喋らせなかった。
「お前、少しくらいサッカーが出来て藤川先生たちに可愛がられているからって、あまり調子に乗るなよ」
「は!? 俺のどこが――」
「耀君っ」
  今度は歩遊が殆ど半泣きの顔で耀の腕を引っ張り、発言を止めた。耀はそれでようやく引き下がったが、むかむかとした気持は収まりがつかないのだろう、今度は自分が歩遊の手首を掴み直して、さっさとグラウンドの外へと出て行く。体育教師は耀に「お前まで行かなくていい!」と呼び止めようとしていたが、耀はわざと聞こえないフリをして歩遊と一緒に保健室へ向かった。
  散々な授業である。特に今日の種目は耀の好きなサッカーでもあるのに。
  歩遊のクラスが体育でサッカーの紅白試合をやるという日は、授業中にも関わらず、他学年の生徒や職員室にいる教師陣までもが、窓からその様子を覗き見する。無論、プロのスカウトが声を掛けるほどの耀の技巧が観たいからだ。学校内で耀の活躍を楽しみにしている者は多い。……その耀が、たかだか「歩遊」という、思い切り戦力外な選手の怪我のせいで一緒に試合を放棄したとあっては、チームの仲間は勿論、同じサッカー部で試合を楽しんでいた隣のクラスの友人たちもさぞやガッカリなことだろう。
  歩遊はただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。が、耀は保健室に着くまでそんな歩遊には一言も口をきかなかったし、遠ざかるグラウンドにも一度も視線を返さなかった。

「うあ〜! マジむかつく!!」

  それでも根がとことんまで明るいというのは、耀の素晴らしき長所だろう。
  何故か保険医のいないガランとした保健室に入ると、耀は歩遊を椅子に座らせて消毒液を出した後、いきなり――、それこそ本当に唐突に「むかつく」と叫んで、胸の内にあっただろう黒い気持ちをあっという間に飛散させた。
  もっとも、悪口自体はその後もぽんぽん出していたが。
「ホントあいつ、最っ低だな! 何であんなのがセンセイなんてやれんだよ!? 歩遊こんな怪我してんのにあんな言い方ってさ、ないだろ!? しかも俺らは何も悪くないし、悪いのは歩遊にボールぶつけたあいつらなのに! そうだ、あいつらだ、あいつらが元々悪いんだ、そもそも試合だって全然真面目にやってなかったし、『ディフェンスなら後ろで立ってるだけで楽だからイイ』とか舐めたこと言ってよ! バカじゃねーのかって! 前からちょっとむかつく奴らと思っていたけど、あんな最悪な性格してるなんて知らなかったよ!」
「ぼ、僕が下手だからいけなかったんだよ。わざとぶつけられたわけじゃないよ」
  それは歩遊の願望に過ぎず、真実は恐らく耀の見立ての方が正しい。
  歩遊は今でこそ耀に構われてクラスでも独りになることが減ったが、それで当初あった「クラスで浮いている」状態から脱したのかと言えば、そうとも言い切れない。耀を通じて何となく話せるようになった前席の生徒などもいるが、基本的には耀以外で親しくしている級友などいないし、今日のように歩遊のもたつき具合が一際目立つようなことがあると、周囲の心ない者たちから意地悪をされたりもするのだった。
「歩遊、沁みるかもしれないけど、我慢な」
「う、うん。でも耀君、僕なら大丈夫だから、試合……」
  自らも傍にあった椅子に座り、率先して怪我の治療をしてくれようとする耀に歩遊は惑った。こういう優しい耀がいてくれたからこそ、俊史と別のクラスになっても歩遊は何とかやってこられた。……が、この友人に甘え過ぎるのは良くないと思うのである。
  けれど耀は歩遊のその言葉をあっさり遮った。
「あーもー、いいよいいよ。あんな奴らとサッカーしても全然面白くねーもん。しかもあいつの授業を受けるってのが今日はもう無理! かぁ〜、思い出すだけでまだムカムカする〜!」
「で、でも、みんな耀君の活躍を観たがってるのに…」
「今から戻ってもこの気持ちじゃ活躍なんかできないって」
  それより歩遊、沁みるか?と、ガーゼに消毒液をつけて歩遊の膝に当てていた耀は、心底心配するようにそう訊いた。歩遊はふるふると首を振り、改めて自分の片膝を見つめた。
  半月板よりやや下、先刻まであれほど派手に出血していた部分も、今は周辺がやや赤黒いだけだ。痛みはあるが、消毒液をつけてもらったお陰で随分と見られる姿に戻っている。歩遊はほっと息を吐いた。
「実は僕、血が苦手なんだ。止まってくれて良かった」
「あぁ、そうなんだ? そういう人結構いるよな。鼻血とかもダメ?」
  耀の問いに歩遊は恥ずかしそうに頷いた。
「うん。ちっちゃい頃の話なんだけどね。公園にあったジャングルジムに上れって言われて、凄く怖かったんだけど『上らなきゃ殴る』って言われたから嫌々のぼってさ。そしたら、やっぱりって言うかで、足が滑って上から落っこちて」
「ひえ〜、マジか? それ大丈夫だったのかよ。って、今こうしているから大丈夫なんだろうけど。下手したら死ぬじゃん。誰だ、そんないじめっ子なこと言ったクソガキ! 俺がそん時その場にいたら、そんな奴ぶん殴ってやったのに!」
「ええ…?」
  耀のその言葉は率直に歩遊を嬉しい気持ちにさせたが、この時は妙に照れくさくて思わず下を向いてしまった。
「それ言ってきたの、凄く大きい上級生で…多分、小学校高学年くらい。僕はその時、確か小1か小2で」
「ふうん。でもさぁ、幾ら上級生って言ってもそんな奴、瀬能なら退治出来るだろ? その頃だってもうずっと一緒にいただろ?」
「瀬能君はいなかったんだ。……で、その時ね、実はあまり細かくは覚えていないんだけど、とにかく頭から凄く血が出たみたいで、ジャングルジムの下の地面がこう、僕の血でじわじわって広がっていくの。それだけは凄くリアルに覚えててさ、それで……多分、それで血が苦手になったんだ」
「うーわー…それはグロイよ……想像しただけで俺もやばいもん。しかし歩遊、その後どうなったのか覚えてねーの?」
「うん、もうあと覚えているのは家にいて目が覚めた時かな。お母さんと俊…瀬能君がすっごく怖い顔してて、後でめちゃくちゃ怒られたよ。おばあちゃんだけが庇ってくれて」
「へえ〜。何かそのシーン、超想像できる! 何で歩遊が怒られなきゃいけないんだ?って感じだけど、あの2人なら焦ってカッとなってそうだし。けど、歩遊のおばあちゃんかぁ! 凄く優しそうだな!」
「うん。凄く優しかった」
  当時は歩遊が誰かにいじめられて泣いて帰っても、家で待つ祖母が優しく慰めてくれるのが常だった。今よりも家にいることが多かった母などは「情けない」、「男なら立ち向かえ」などと言って歩遊を無理やりいじめっ子にけしかけようとしたし、俊史は俊史で、自分こそ歩遊を一番いじめているくせに、自分以外の人間に歩遊がいじめられたと知ると烈火の如く怒り狂って、「どうしてちゃんと逃げないのか」、「どうしてそんなにノロマなのか」と、無駄に歩遊を責めたてたりした。
「そう考えると、あんまり昔と成長してないな……」
  つい過去を回想して歩遊が力なくそう言って笑うと、耀はそれを暫く黙って見やった後、憮然として首を振った。
「そんなことないよ。歩遊は偉いし、凄いと思う」
「え? ど、どこが?」
「だってさ、そんな悲惨な過去語っても、全然その苛めた奴のこととか恨んでねーし、今日だってあいつらみんなすげえむかつくのに全然悪口言わないし! 人間出来過ぎだろ、俺には真似できないよ」
「ぼ、僕は単に弱いから……」
「違う。絶対そんなことない」
  耀はきっぱり言って歩遊の両腿をばちんと叩いた。体育中はジャージの着用は上着しか許されておらず、男子生徒は皆指定の短パンだったから、それは歩遊も例外ではなかった。だから怪我も酷くなってしまったし、今も耀の気合が直接素肌に響いて痛かったわけだが。
  ただ今のそれは足の怪我とは違う、心にもよく響く心地のよい痛みだった。
  そして耀はさらに言った。
「あのな、歩遊。もっと自信持っていいんだから」
「え?」
「歩遊は全然ダメなんかじゃない、イイ奴だよ。だからもっと自分に自信持っていいんだ」
「で、でも……」
  あまりに言われ慣れない言葉なせいで歩遊は面喰らった。耀という大切な友人が自分を認めてくれる、そのことは無論胸が熱くなるくらい嬉しいのだけれど、どういう反応を返していいのか分からない。
  これまではずっと“お前なんてダメなんだから”を日常生活のBGMにしてきたのだし。
「耀君――」
  けれどそれでも歩遊が何とか耀に感謝の気持ちを伝えようと身を乗り出した時、だ。
  ガラリ、と。保健室のドアが開いた。
「俊――!?」
「瀬能、お前授業中――」
  その場に現れた俊史に、歩遊たちは一斉に視線を向けてそれぞれ驚きの声をあげた。
「――………」
  けれどそんな2人の様子にも一切表情を変えず、俊史はその何を考えているのか全く読めない静かな雰囲気のままツカツカと歩み寄り、歩遊を押しのけて、耀の胸倉を両手でがつりと掴みあげた。
「うっ!」
「俊ちゃんっ!?」
  あまりに突然のことで、そして本当に一瞬のことで、歩遊はもちろん、運動神経の良い耀でさえ、俊史の行動を避けきれなかった。椅子に座っていたはずの耀は俊史に引きずり上げられるような形で腰を浮かした。ジャージごと勢いよく掴みあげられて首まで絞め挙げられるその体勢に、耀は何とかもがいてその拘束から逃れようとしたが、俊史は微動だにしなかった。
「俊ちゃん!」
  歩遊は悲痛な声を上げた。すかさず俊史を耀から引きはがそうと飛びつくようにその腕にも縋りついたが、やはり俊史は動じない。耀を締め上げる力を緩めようとはしないし、むしろその力は増しているかのようだ。歩遊は必死に「やめてやめて」と懇願した。耀は何も悪くないのに、どうして俊史はいつもこうなってしまうのか。俊史は歩遊に優しくする耀を憎んですらいる。耀に優しくしてもらう歩遊を許せなく思っている。そのことが堪らなく恐ろしく、そして悲しかった。
  耀はただ歩遊に自信を持てばいいと言ってくれただけだ。悪意あるクラスメイトから、意地悪な体育教師から庇ってくれて、後から自分が周りにどう思われるかも構わず、ただ歩遊を気に掛けてくれただけなのに。
「い……いい加減に、しろッ!」
  その三つ巴のような体勢がどれくらい続いたのだろうか。
「お、前、ふざけんなよ…!」
  渾身の力を込めた耀が、ようやく俊史の片手だけを振りおとすことに成功した。すると俊史のもう片方の手も自然と離れた。見ると、怒りに満ちた声を発した耀と同様、いつの間にか俊史の方も殺気立った顔で僅かに息を乱している。耀と歩遊の両方の力を制していたのだ、無理もないだろう。
「お、前っ! 頭、おかしいんじゃねえの!?」
  耀は自らの首元を押さえながらやや掠れた声でそう言った。それでもよほど苦しかったのだろう、その後げほごほと酷く咳き込んだ耀は、やや前のめりにすらなって、自分の呼吸が落ち着くのを暫し待たねばならなかった。
  勿論、そんな僅かな間だけで耀の怒りが鎮まることはなかったのだが。
「結局は、こういうお前のせいだろッ!」
  普段は俊史から何だかんだと乱暴なことをされても、呆れ顔をするか苦笑するか。2人の間で真っ青になる歩遊を思いやってのこともあるだろうが、ともかくは耀の至って「大人な対応」が3人の力関係を何とか保たせてきた。
  けれどこの時の耀は俊史に対して心底腹を立てていて、仄かに赤く染め上がった顔を真っ直ぐ向けながら叩きつけるように怒鳴った。
「お前のせいで歩遊は自信なくしたりッ! 今日みたいに、そういうところを周りからうざがられたりッ! そんで…、ホントに、なんっも悪くないのに、無駄にいじめられりするんじゃねーか! お前、考えたことあんのかよ!? お前のせいで、歩遊がこれまでどんだけ辛い目に遭ってきたのかって!」
「耀君っ」
「駄目だ歩遊、俺はもう我慢できねえッ! お前、授業も抜け出してソッコーここに来たってことは、さっき俺らの体育の授業で何があったかも知ってんだろ!? それで、お前の首を絞める相手は俺かよ!? 違うだろ!? 何なんだ!? いや、別にあんな奴らにやり返せとは言わねーよ、けど、それでも今日みたいなことは昔からよくあったんだろ!? それが自分のせいだとは微塵も思わねーの!? お前…っ。ホント、意味分かんねーよ! 歩遊のこと一番心配してる俺に当たってんじゃねーよ!!」
「一番…?」
  ずっと黙っていた俊史がこの時初めて口を開いた。耀も歩遊もその時の俊史の恐ろしく低い声には気づかなかったが。
  気づかないまま、耀は依然興奮を持続させたまま歩遊に対しても怒鳴った。
「歩遊っ! もうこんな冷血漢とは手を切れよ!!」
「えっ…」
「こんな奴とは縁切れって言ってんの!!」
「でっ…でも……」
  耀のここまで怒るところを歩遊はついぞ見たことがなかった。俊史も珍しく耀に何も言い返さず石像のように動かないし、それでいて気づけば歩遊の手首はがっつり掴んでいるし。……歩遊の胸は痛んだ。俊史も耀も、その意味合いこそ違えど、どちらも大切な存在なのに、どうしてこんなことになってしまうのか。
「あら、どうしたの? 怪我?」
  その時、タイミングが良いのか悪いのか、部屋を空けていた若い女性の保険医が戻ってきた。そして、何やらただならぬ雰囲気の男子学生らを前に、実にあっけらかんとした調子で「ごめんねえ、ちょっとサボってた」などと言い出す。
「……先生」
「ん?」
  しかしそれが却って良かったのかもしれない。平然とした美人保険医の態度は耀をたちまち冷静にさせた。ハッと我に返ったように一旦口を噤むと、随分とバツの悪そうな顔をして俯く。
「……お願いがあります」
  ただ、怒りをすぐに収めることも難しいのだろう。耀はぶすくれた声で保険医に呼びかけると、さっと扉の方へ向かってから、去り際俊史を目だけで指し示して言い逃げのような台詞を放った。
「そこの馬鹿に、頭の良くなる薬渡しといて!」
「ええ?」
「そいつ、病院レベルだから!」
「ちょっと太刀川君?」
  意味を掴めない保険医は廊下へ出て行く耀の背に声を掛けたが、耀がそれに返答した様子はなかった。保険医はそれに対して「なあにあれ」と歩遊たちに訊ねたが、その後歩遊も俊史から引っ張られるようにしてそこを出たから、その後彼女がどんな表情で自分たちを見送ったのかも分からなかった。
  俊史は歩遊の手首を強く掴みながら長い廊下を歩き続けたが、その間も一言も喋らなかった。
「……っ」
  歩遊は戸惑いながらそんな俊史の背を見つめた。こういう風に歩く時はいつだって俊史が歩遊を先導するように前を行くから、歩遊には俊史の背中しか見えない。手を繋いでも並んで歩くことなど稀だと思う。そこにはいつも明確な上下関係が存在していて、歩遊は常に従う方と決まっていた。
  耀のように対等の友人関係を築いたことなど一度もない。
  そして恋人同士になったはずの今も、対等な恋人関係にはなっていないのだった。
  その俊史は、歩遊をどこへ連れて行くかと思えば、そのまま真っ直ぐ校舎の出口である昇降口まで引っ張って行った。しかもそこには既に「戸部さんから言われてこれ持ってきました!」といやに緊張した面持ちの下級生がピンと背筋を伸ばしていて、俊史と歩遊の学生鞄を、まるで奉納物でも差し出すように渡してきた。
  俊史はそれを黙って受け取ると、また歩遊をぐいぐいと引っ張って校舎を出た。
「俊ちゃん…」
  歩遊が小さく声をかけたのは校門を出て電車に乗り、自分たちの家がある最寄駅に着いてからだ。
「俊ちゃん」
  それは俊史から明らかな「話しかけるな」オーラがあったから控えていたことだが、ここまで来るとさすがに緊張も限界値を越えそうだった。おまけに人々の視線も痛い。何故って歩遊は体操着のまま校舎を出てきていたし、俊史がそんな歩遊の手をずっと掴んで離さないのだ。しかもその表情は不機嫌そのもの。俊史の顔のつくりがまともだからまだ救いがあるものの、これが少しでも面相の悪い学生のしていることならば、柄の悪い不良生徒が気の弱い下級生を拉致してどこかへリンチでもしに行くのかと誤解されても仕方がない。
  実際、歩遊の手首はじんじんと鈍い痛みを訴えていた。怪我をした足にしてもそうだ。俊史の早い歩幅について行く為に無理やり動かしてはいたが、それも相当なストレスと共に大分悲鳴を上げていた。
  だから俊史を呼んだのに、それでも俊史は全く返事をしない。
  それで結局2人は一言も口をきかないまま家に帰り着いた。
「手、洗ってこい」
  歩遊の自宅に上がって完全に2人きりになってやっと俊史は口をきいた。
  しかもその第一声が「手を洗ってこい」。それは帰宅したばかりの歩遊に俊史がいつも言う「お母さん」的躾の一環でもあったのだが、その甲斐あって帰宅後すぐに手洗いうがいをするのは歩遊の決まりきった習慣でもあった。
「うん…。でも、手……」
  けれど俊史がずっと手を掴んでいるから。
  そう言おうとしてどうしようかと悩んだ時、俊史はようやく自分が歩遊をずっと捕まえていたことに気づいたらしい。自分でも随分と驚いた顔をして、俊史はぱっと歩遊から手を離した。
「……いっ」
  思わず「痛かった」と言いそうになって歩遊は慌てて口を閉ざした。けれど学校からこの自宅までずっと掴まれていた手首は案の定、痣のように赤くなっている。厭味のつもりもなくそこを擦りながら手を洗いに行った歩遊は、その所作に俊史がどう感じたかも気づかぬまま、ただずっと「俊ちゃんがこのまま不機嫌だったらどうしよう」とぐるぐる考え込んでいた。
  しかし洗面所から戻ってきた歩遊は「その光景」に全てを忘れた。
  そこには、ソファになだれ込むような形で横たわり、何やら苦しそうに呻いている俊史の姿があったのだ。
「俊ちゃん!?」
  慌てて駆け寄った歩遊は、しかし俊史が自らの顔を覆い隠すようにして添えていた腕を取ろうと手元に触れた途端、再度驚愕した。
  その手がとても熱かったから。
「俊ちゃん、熱あるの!?」
「ねぇよ」
  素っ気ない声がすぐに返ってきたものの、俊史は明らかに普通とは違った。頬に触れてみた歩遊は「やはり熱があるのだ」と確信する。
「いつから具合悪かったの、今朝から!? でも朝はこんな…」
「煩い、耳元で騒ぐな…」
「ごっ、ごめん、でも!」
  歩遊はオロオロとしてから、体温計や熱冷ましの薬などが入っている救急箱を取ろうと立ち上がった。
「うわっ」
  けれど慌てていたせいで思い切りローテーブルの角につまずき、そのまま派手な転倒を決める。1日で2回も転ぶとは、さすがの歩遊にもあまりない経験だ。
「いったぁ……」
「……バカ。何してんだ」
  俊史が思い切り眉をひそめながらゆっくりと起き上がった。歩遊はそれにはっとしてすぐに自分も立ち上がりながら「寝てなよ!」と俊史に縋ったのだが、俊史はそれを鬱陶しそうに払って大きく嘆息した。
「俊ちゃん…」
「煩い。何でもない、こんなの」
  ちっともそんな風には見えない。歩遊は泣きそうに相貌を崩し、ソファに座る俊史の足元へすとんと膝をつくと、窺うように目線を上げた。そっと俊史の膝に手をのせたがそれは払われなかった。
「俊ちゃん、大丈夫?」
「ああ……」
「ベッドで寝た方がいいよ。僕、隣からパジャマ取ってくる。あ、それとも自分の部屋で寝た方がいい?」
「別に平気だ。熱もない…」
「う、嘘だよ、あるよ。熱かったもん、身体…!」
「ないって言ってんだろ。それより歩遊。……ここ座れ」
  俊史はいかにもけだるそうな様子だったが、不意に口調を変えると、自分が起き上がったことで空いたソファのスペースをぼすんと叩いた。
「え?」
「いいから、ここに座れって言ってんだ。……足見せろ」
「足? あ…」
  ようやく自分の怪我のことを言われているのだと思った歩遊はすぐに首を振って「大丈夫だよ」と早口で答えた。
「大したことないんだ、転んだだけだし。消毒もしてもらったから――」
「歩遊」
  けれど俊史は全く納得していない。有無を言わせぬ迫力で、ともすれば熱のせいか地なのか、半分据わった目で脅すように繰り返す。歩遊はたちまちびびってしまい、急いでソファに腰をおろした。殆ど条件反射のようだ、歩遊は所詮俊史には逆らえない。
「本当に何でもないんだよ?」
  それでも言い訳のようにそう訴えながら、歩遊は怪我した方の膝を曲げて俊史に向き直り、その部位を見せた。
  未だ赤く擦りむいた痛々しい痕を見せるそこは、しかし確かに耀の治療もあって出血は完全に止まっていたし、じくりとした痛みも大分引いていた。
「………痛いか」
  けれど俊史はそう訊きながら半月板をそっと撫でた。歩遊は黙って首を振り、俊史のその優しい手つきと真剣な眼差しに息を呑んだ。
「あ」
  しかも俊史はすうっと身体を折り曲げて歩遊の膝元に近づくと、そのままその傷口のすぐ上に押し付けるようなキスをした。
「俊…」
  歩遊は急に、こうして俊史に足を向けている態勢がとても恥ずかしくなった。けれど俊史はその後も二度三度と歩遊の足にキスをし、それから手首を取って先刻赤くなってしまったそこへも唇を当てた。
「ぼ、僕、大丈夫――」
  言いかけて歩遊はまた言葉を飲んだ。更に近づいて距離を縮めてきた俊史が今度は歩遊の唇にキスをしたのだ。歩遊の曲げた片膝が障壁のようになっていたのに、それを挟みこむ形で俊史は歩遊に覆いかぶさった。突然の口づけ。それが何度も繰り返されて、歩遊は狼狽した。俊史からのキスはもう何度も経験しているけれど、俊史は熱があるのに、いつもと様子が違うのに、と。だからその啄むような口づけを従順に受けとめつつも、歩遊は困ったように眉をひそめた。
「……悪い。風邪うつるか」
  すると俊史が不意に唇を離してそう言った。歩遊がえっとなってそんな俊史を見つめ返すと、俊史は同じように熱っぽい視線を向けながらさらりと歩遊の前髪を撫でた。
  そして言った。
「歩遊。太刀川が好きか」
「……え?」
  聞き返した歩遊に俊史は繰り返さなかった。
「そ、そんなの……」
  だから歩遊は余計オロオロしたのだが、俊史からの視線から逃れる術も見当たらず、半ばまくしたてるように答えた。
「好きなのは当っ…当たり前、だよ…? だって耀君は友だちだから。初めて、あの学校で僕と友だちになってくれた。いつも凄く優しいんだ」
「……そうか」
「でも! 俊ちゃんに想っている好きとは違う!!」
  誤解されないように歩遊は素早く付け足したが、俊史は何の反応も示さなかった。いつもなら耀を好きと言ったことを怒るか、俊史を好きと言ったことを「そんなの当たり前だろ」とバカにするか。とにかく何らかの反応はくれるのに、今は熱のせいもあるのかだんまりを決め込んでいる。
「俊ちゃん…好き……」
  だから歩遊はもう一度言ってみた。率直に言ったのが良かったのだろうか、今度は多少の効果があった。
  俊史はぴくりと身体を動かした。
「ほ、本当だから!」
  それが嬉しくて歩遊は急いで言った。
  けれど俊史は。
「お前のその大切な友だちとやらが俺と縁を切れって言ってんのにか」
「え…」
「それでもお前は俺が好きか」
「……うん」
  歩遊が恐る恐る頷いてそれを肯定すると、俊史はいやに乾いた笑いを浮かべて首を振った。
「俊ちゃん…?」
  それがとても不安な態度だったので歩遊は泣きそうになったのだが、それは俊史もすぐに察したのだろう、おもむろに来いと言う風に腕を広げた。
  歩遊はそれで迷わず俊史の懐に飛び込んだ。
  俊史のギュッとした抱擁がすぐにきて、歩遊はそれでようやくほっとした。
  ただ俊史の方は暗い気持ちをまるで上昇させていないらしい、突然、歩遊が思いもしないことを口にし始めた。
「俺も、ジャングルジムでのこと、覚えてる」
「え?」
  歩遊は俊史の懐でぱちりと目を開けた。ただ、俊史を見上げようにも、ぎゅっと抱きしめられているせいでなかなか顔を上げられない。
「俊ちゃん…?」
「俺がそこへ行った時、お前は血だらけになって倒れてた。周りには誰もいなくて……とんでもないよな? 誰に助けられることもなく、お前はその場に放置されてて……俺が近づいた時は死んだみたいに目を瞑ってた」
「俊ちゃんが見つけてくれたの?」
  耀との会話を聞いていたのか。そう思いながら何とか顔を上げて俊史を見上げると、俊史はそんな歩遊を抱き直し、自らも見つめ返しながらキスをした。風邪がうつるからもうキスはしないと言っていたはずなのに、歩遊を見ていると自制が利かなくなるらしい。何度も髪を撫でてはそこにも繰り返しキスをする。
  一方の歩遊はその俊史からの優し過ぎるキスにドキドキした。熱のせいなのだろうが、俊史がやけに優しいと思った。学校へ帰るまではどうなることかと思ったが、今の俊史は不自然に静かなことを除けばとても穏やかだし、抱きしめてくる力にも普段の強引さは見られない。
「僕、あの時のことあんまり覚えていないんだ」
  そんな俊史と話がしたくて歩遊は言った。
「血がたくさん出たことだけははっきり映像みたく残ってるんだけどね。でも、そうなんだ。やっぱり俊ちゃんが助けてくれたんだ?」
「助けてないだろ……」
「何で? 俊ちゃんが見つけてくれたんじゃん。俊ちゃんが来てくれなかったら死んでたかも」
「やめろ! バカなこと言うな!」
「うっ! ………うん」
  死ぬという言葉に過剰反応した俊史が急に声を荒げたものだから、歩遊はひゃっと首を竦めた。
  一瞬妙な間が出来る。
  それでもすぐに声を出したのは声のトーンを落とした俊史だった。
「……あの時は、俺がお前をあそこに置きざりにしたんだ。だからお前はあそこで独りで……遊んでて、それで」
「そ、そんなの」
「確かにあいつの言う通りだ。……元はと言えば俺のせいだ」
「俊ちゃん!? そんなのどうでもいいよ、そんな昔のこと!」
  「反省している俊史」に気づいたのはこの時が初めてで、これまでの俊史の静かさが熱のせいだけではなかった事に思い至った歩遊は心の底から困惑した。俊史が落ち込んでいる。しかも自分のせいで。歩遊は必死に「僕は俊ちゃんが助けてくれて嬉しかった」と繰り返したのだが、それでも俊史の気持ちは一向に上昇しなかった。
「今日だって、お前を助けたのはあいつだろ。俺じゃない」
  俊史のこんな沈んだ声はついぞ聞いたことがない。酷く押し殺すような、何かを必死で耐えるような。そんな事実を認めたくないのに、でも認めざるを得ないそれを、そして何もできなかった自分への憤りを、俊史は何とも表現出来ずにただ深く息を吐き、辛そうに目を伏せた。
「歩遊。太刀川のこと……好きか?」
  そして俊史はもう一度訊いた。
「………俊ちゃん」
  歩遊は俊史をじっと見上げた。いつもとは違う俊史。弱気になっている俊史。それがありありと分かる、普段は鈍感で何に対しても鈍い自分でさえもよく分かる。
  そしてそんな俊史を驚きと共に「嫌だ」と思っている。
  歩遊は率直にそう感じた自分自身にもまた驚いた。
「俊ちゃんが好き。俊ちゃん……俊ちゃんのことが、一番好き」
「一番……」
  歩遊の台詞を俊史が微かに反復した。歩遊はそれにすぐ頷き、再度俊史の胸に顔を擦りつけながら続けた。
「落ち込む俊ちゃんなんか見たくない!」
「歩遊…」
「そん、そんなの、困るよ……。僕、どうしていいか」
「………バカ、俺だって落ち込むことくらいある。俺を何だと思ってるんだ」
「それは――」
  自分の恋人だと胸を張って言いたかったけれど、さすがに躊躇われて歩遊は口を閉じた。
  耀は自信を持てと言ってくれた。でもやはり歩遊には俊史の恋人だと胸を張って言えるほど己に自信を持てないし、今の2人の関係それ自体にも自信が持てない。
  けれどそれでも、毎日少しずつでも、成長はしていきたいと思う。
  俊史と一緒に。
「俊ちゃん。今日、僕が夕飯作るね。俊ちゃんの分も」
「え?」
「それで、一晩俊ちゃんの看病する。だから……隣で一緒に、寝てもいい?」
  だから歩遊はそう言ってきゅっと俊史のシャツを掴んだ。拒絶されたらどうしよう、そう思いながら、歩遊は俊史を見上げながらねだるように「一緒にいたい」と繰り返した。
「……バカ、何言ってんだ」
  それに対して俊史は。
「一緒になんか寝たら本当にうつるだろ。……それに、お前の飯なんか食ったら余計具合悪くなる」
「そ、そこまでひどいの作らないよ!」
「どうだか」
  ふっと笑った顔は、しかしそうは言いつつ歩遊の申し出を完全に拒絶した風でもなかった。それどころか俊史は再度歩遊の頭を撫でて、子どもに接するように甘く優しいキスをその額に落としながら、「飯って何作る気なんだよ?」と訊ねたりもした。
「う? うーん………卵焼き、とか?」
「それがお前の今日食いたいもの?」
「う、うん。俊ちゃんの凄く美味しくて好き。あんなのは作れないだろうけど」
「お前用に無駄に甘くしてやってるからな」
「あっ…だから俊ちゃん、朝ごはんの時にあれ出しても、いつも自分は食べてなかったんだ」
  今更そんな事実に気づいて歩遊はぼっと赤面したが、それでもひたすら優しい目をしてくれる俊史が嬉しかったから「とにかく」と無理に強引に言い張った。
「僕、絶対看病する。俊ちゃんのご飯も作るから!」
「分かったよ。けどあんま無茶やるなよ」
  すると俊史は意外や割にあっさりとその申し出を受け入れると、小さく笑んで歩遊の頬を撫でた。
「うん」
  だから歩遊もただもう嬉しくて満面の笑みになった。そしてそのこみ上げた気持ちのままもう一度好きだと伝えようとしたのだが、その唇はまんまと俊史に塞がれてしまい、結局何も言えなかった。
  そしてそのひとしきりのキスの後、俊史はようやく。
「歩遊……もう二度と、あいつにあんな顔見せるな」
  ――そう強く言って、再び歩遊を抱きしめた。
「いいな?」
「う、うん」
  あんな顔ってどんな顔だろう?
  そうも思ったが、歩遊は俊史に問い返すことはしなかった。ただ俊史にこうして抱きしめられキスされることが嬉しかったから、自分もそれをすぐに返したかったから。歩遊はそっと大好きなその背に自らも手を回した。
  そうしていよいよ熱くなり始める俊史の唇を「まずいなあ」と思いながらも、暫くの間はその降りやまぬキスに身を任せ続けたのだった。



 









俊史は風邪を引いたというより、知恵熱みたいなもので
発熱したんじゃないかと…(知恵熱って幼児か)。