「緋勇龍麻のチャレンジクッキング♪〜謎の鳥さん鍋編〜
わたあき様 作



 緋勇龍麻十七歳は、諸事情あって東京で一人暮らしをしている。育ち盛り食べ盛りの彼にとって、目下最大の悩みは食糧事情だった。
  ロクに料理もできない上に、戦闘続きの毎日で買い物にも行けない彼は、美味いと評判のラーメン屋に足しげく通っている。
  だがしかし。いくら美味かろうと同じものばかり食していては、いい加減に飽きもくる。
  ゆえに。そう、だから彼がかなりトチ狂ったことを考えてしまっても、誰も責めることはできないであろう!
「 コレ、喰えるかな?」
  場所は旧校舎地下16階。龍麻に張り飛ばされたそれは、彼の言葉に何も応えなかった。
  以上、シリアス調の導入部終わり(ツッコまれると悲しくなるか見逃してください←切実)

  本日のディナー 「謎の鳥さん鍋」 
  調理人    劉弦月 
  アシスタント 緋勇龍麻   

  キッチンは整然と片付けられていた。というより、使用した形跡がまったくないため、シンクもレンジフードも新品同様のキッチンに、 二人は腕を組んで佇んでいた。目の前には黒い羽毛の鳥、まな板に横たわり調理されるのを待っている。
「 なんでしょうか、コレは?」
「 謎の鳥さん」
  旧校舎帰りに、晴れ晴れとした笑顔で自宅へのご招待を受けた劉は期待に胸をふくらませていた。
  そりゃそうである。兄とも慕う最愛のお相手からお家にご招待、なんてされれば期待も妄想もふくらむというものである。なのに彼が自宅に帰るなり直行したのはキッチン、そして取りだしたのは例のブツである。
「 その謎の鳥さんが、何故ここに?」
「 わからない。だから謎なんだ」
  きっぱりと言い切る義兄に対して、劉はどうツッコむべきなのか悩んだ。
  謎の鳥さん、どう見てもタクヒ。どこからどう見ても絶対にタクヒ。もしかすると鳧蹊(フケイ)かもしれないが、旧校舎地下16階付近に生息する鳥形モンスター。クイチギルを得意としているが、余裕で倒せる相手である。
「 細かいことは気にするな。それよりもさぁ、その自慢の青龍刀で謎の鳥さんをさばいてくれっ!」
「 謎の鳥さんちゃうやんっ! って言うより、こんなもん喰う気なんかぁっ!」
「 おうよっ、人間チャレンジ精神が大事だっ」
  自分の不都合を隠すために、わざと威気高々に接しつつも、龍麻の目は不安そうに劉を見ている。その仕草の可愛さに、劉はわざとらしい咳払いをして口調を改めた。
「 でも、なんでワイに頼んだん?」
  ほんのわずかな、ほんっとーにわずかな期待をこめて、劉はウルウル目線を送った。
「 ワイのこと、頼りにしてくれてるて……」
「 鳥さばけそうじゃん、青龍刀って」
  劉は今日の旧校舎メンバーを思い返した。龍麻を含めた真神五人衆に裏密、マリィと藤咲とアラン。京一の所持武器は木刀だった。
「 そうかぁ! 刃物持ってたん、ワイだけかぁっ!」
  だくだくと涙を流しながら、劉はタクヒに向かった。もうこうなったら龍麻のご期待に応えて、ご褒美に自分の期待にも応えてもらうしかない。
  覚悟を決めたらやることは早い。タクヒをつかむなり水を流し、テキパキと調理に取りかかった。思わず龍麻が拍手をすると、にっこりと笑いながら背中の青龍刀に手をかけた。
「 見ててやっ!アニキ」
「 すごいぞ劉、お前のような弟を持って俺は幸せ者だ!」
  感無量の龍麻の隣で、劉も感涙にむせび泣いていた。
( アニキが幸せやて、ワイのそばにおると幸せやてぇ!)
  劉、曲解フライング。教育的指導。
  そうこうしている間にも(鳥さばきは詳しく書くとなんなので省きます←笑)「謎の鳥さん」は見目麗しい食材へと変貌を遂げていた。その艶やかな鳥肉を見て、ふと龍麻は疑問を覚えてしまった。
「 なぁ、劉」
「 なんや、アニキ。待てへんのやったらコレでも先に喰うといてや」 
  手渡された地鶏まんを頬張りつつ、龍麻は覚えなければよかった疑問を口にした。
「 お前ってひよこ研究会なんだよな」
「 会長なんやで」
「 そのお前が、なんで鳥さばくのに手慣れてらっしゃるんでしょーか?」
  龍麻本人としては軽い冗談のつもりだった。しかし、劉はふ、と視線を泳がせて、悲しげな微笑を口許に浮かべた。あたりには寒々とした空気がたちこめて、龍麻は自分のしでかした過ちに気づいた。
「 ……アニキ」
  劉は天井を見上げて、遠くへ視線を投げた。つられて龍麻も上を向いた。
「 ワイはひよこ研究会の会長やねん」
「 それはさっきも言ったぞ」
「 ひよこやねん」
「 だから?」
「 ひよこ限定やねん」
  穏やかに微笑を浮かべて、劉は龍麻と目を合わせた。キッチンには「謎の鳥さん鍋」の美味しそうな匂いが漂う。白い湯気を挟んで、義兄弟はひきつった笑顔を見せ合った。
「 ニワトリ研究会やないねん」
「 ……それは、つまり?」
  可愛く首を傾げてみせる龍麻に、劉も同じように首を傾けた。
「 オレがたった今、美味しくいただいた地鶏まんも?」
「 ひよことニワトリは別モンなんやねーんっ!」
  場の雰囲気に耐えきれず叫んだ劉の足許に、龍麻は崩れ落ちた。
「 うああぁぁぁぁああああぁぁっっっっ!!」
  龍麻の脳裏に、愛らしい黄色のひよこさんの姿がよぎった。劉に誘われてひよこを見にゆき、あまりの可愛さにお持ち帰りを言い出しそうになった思い出が、走馬灯のように駆けめぐった。
「 ごめんなさい、ひよこさん。成仏してください、美味しかったです……」
  床にひざまずいてブツブツと呟き続ける龍麻をよそに、ついに「謎の鳥さん鍋」は完成した。失われた生命に対して神妙な面持ちを作りつつも、空腹に屈した龍麻は箸を手にとった。
「 あ」
  劉も箸を手にしていたのだが、龍麻の声に動きを止めた。
「 謎の鳥さんって、麻痺攻撃するよな?」
「 するな」
  まだ謎の鳥さん呼ばわりするか、龍麻よ。そしてそれに合わせるか、劉よ。
「 喰ったら麻痺なんかしたりしてな?」
  あはは、と笑い飛ばしながら劉は箸を下ろした。龍麻もにこやかに箸を下ろし、代わりに携帯電話を手に取った。
「 もしもし、京一? 今オレんちで鳥鍋作ったんだけど、来れないか?オレの手作りだぜ、お前だけ特別だ」
  神速の剣士はその名に恥じぬ速さでやってきた。そして一仕事終えて和んでいる劉に対抗意識を燃やし、鍋を一人で食べきってしまった。
  数分後。
「 あ、麻痺した」
「 そうかぁ……やっぱりやったか」
「 白目剥いてるし。怖いから外に出してもいいよな?」
「 ええんと違う? それよりアニキ、ワイ今から帰るん面倒いんやけど」
「 泊まってけよ。遠慮するな、オレとお前の仲だ」
  ひそかにガッツポーズを決める劉に、京一は全身を痺れさせながらも奥義をかまして阻止しようとした。
「 悪いなぁ、京一はん。今度、剄教えたるで堪忍な」
  京一の目の前で両手を合わせた劉は、ベランダまで京一を運ぶと気合い一発、思いっきり放り投げた。ちなみに龍麻の住んでいるのは6階である。
「 ついでにとどめの黄龍螺旋昇っ」
  手強い敵を葬り去った劉は、静かに窓を閉めた。
「 劉〜、腹減ったけど先に風呂入ろうぜ。なんか鳥臭い」
「 アニキ一緒に入ろや、背中流すわ」
「 おう、サンキュー」


  その後、龍麻は性懲りもなく新たな食材を求めて、旧校舎の地下深くへと潜り続けた。
  結果としてレベルはメンバー内最高を誇ることとなり、鍛錬を欠かさぬ姿勢(みんな勘違い)に仲間たちの尊敬を一身に集めるカリスマ黄龍様となった。そしてそんな彼の隣には、食材探しに献身した劉の姿があったという……



<完>

■管理人コメント■
食べたい盛りの龍麻と、そんなひーに振り回される劉(と京一)がとっても愛らしく、そして意外にブラック(笑)。いや、黒いのは劉だけなんだけど…う〜ん、したたか。そんな彼に【愛】連打。そしてまんまと麻痺攻撃受けちゃった京一には更に【愛】連打(笑)。3人の関係がコミカルに描かれていてまさに私のツボ作品!わたぽん、どうもありがとう〜!