「あと少し、もう少し」 |
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わたあき様 作★ |
如月の家に入り浸るようになって、結構な時間が経つ。 最初は、旧校舎帰りのひと休み程度に上がらせてもらっていたのだけれど、そのうち家へ帰るのが面倒になって、ずっと居つくようになった。 お互いに一人暮らしみたいなものだから、気兼ねがなくて楽でいい。そう笑って泊まりこんで、気がついたら流されてた。 嫌じゃなかったのは、相手が如月だから。 でもきっと如月は、そんな台詞を信じたりしないだろう。 だから辛くなる。どうしたって縮まらない距離があるって、わかったから。 「 あー、なんかもうヤだな」 「 なにがだい?」 思わずグチった途端に、ひょいと如月が顔を出した。ついさっきまで倉へ商品の在庫確認に行っていたはずなのに、もう戻ってきている。 奥座敷で寝転んでいた僕のそばに座ると、 倉が暑かったのか手で首筋を扇いでいる。 その割にはちっとも汗の臭いがしない。 「 何か気に入らないことでもあったのかい?」 「 んー……うん。ま、如月には関係ないことだからいいや」 「 またそういう風に言う」 しかめっ面になった如月は、ぼんやりと天井を見ていた僕の身体に軽く寄りかかった。 「 重い」 「 君が悪い。我慢しろ」 なおも不満をもらすと、如月は顔のすぐ近くに手をついて、静かに顔を近づけた。 間近で見ると、本当に綺麗な顔立ちをしている。 女の子で綺麗なコは割合見慣れているけれど、男でこんなに「綺麗」と思える相手はそんなに知らない。 しばらく目を開けたままで見とれていたら、如月の少し困った声が降ってきた。 「 目、閉じてもらえないか?」 「 あぁ、ごめん」 慌てて目を閉じたらキスをされた。 触れ合うだけの軽いキスから、だんだんと深くなっていく。呼吸ができなくてうめいたら、わずかに唇をずらしてくれた。 舌先が絡まる。暑がっていたくせに如月の皮膚はひんやりと心地よく、なのにかわす唇の熱さは溶けそうになるくらいだ。 この熱に溺れて、流されてしまった。 「 するの?」 本当はキスの雰囲気でわかっていたけど、目を覗きこんで確かめてみた。 「 嫌かい?」 「 って言ったら、やめる?」 「 やめない」 あっさりと答えられて肩をすくめた。手を伸ばして如月の肩に触れる。わずかに浮いた身体を支えて、如月が服を脱がす。 している最中よりも、ずっと気恥ずかしく感じる。 こんなときに何か話していいのかもわからなくて、結局黙ったまま如月に任せきりになる。衣擦れの音だけがいやに大きく響く中で、僕は如月にキスをした。 指先が優しくて、大切に扱われている気がする。キスして、髪を梳いて、それから肌に触れて。ゆっくりと時間をかけて、順番に行為を重ねていく。 やがて如月の手が、下半身へ滑り落ちた。手のひらで包むように撫で上げられて、身体が震える。吐く息が荒くなっていくのを楽しむように、如月はじっと僕を見つめていた。 この瞳が悲しい。昏くて深くて、何も映していない瞳の色が悲しい。確かにそこに僕は映っているのだけれど、本当は見ていないんじゃないかと疑ってしまう。 なんの感情も浮かばない如月の瞳に手をあてて、 視界をさえぎった。 そうしている間も、 ずっと如月の指先は僕を煽っている。 「 龍麻、見えない」 やんわりと、如月が抗議する。空いている手で僕の手をどけようとしたのを、僕は拒んだ。半分だけ見える如月の顔が、少し困ったように歪んでいる。 「 龍麻」 指先に力を入れられて、息が詰まった。一瞬の苦しさのあとに、何もかもが流れでるような快楽が押し寄せる。達した解放感で吐息を漏らすと、如月は力の抜けた僕の手を振り払った。 白濁した液体を指の間に絡みつかせて、その手でわざと頬に触れる。自分の放ったそれに与えられた感触が、ねっとりと精神を昂ぶらせる。 再び勃ち上がりかけた僕自身には触れず、如月はまたキスをした。如月の頬にも白濁した液体がついて、それが余計に熱をもたらす。 ぎゅっと抱きつくと、如月も抱きしめてくれた。指が後ろへまわり、挿し入れられる。わずかな痛みはすぐに快楽に変わり、吐息と呻き声をこぼした。 「 如月……」 キスをしながら名前を呼んだ。夢中で舌を這わせながら呼びかける。 「 も……ダメ」 背中に爪をたてて喘いだ。これ以上は、本当にもたない。身体が震えて、抑えきれない。 「 如月っ」 返事をしない如月に訴えると、彼はようやく視線を合わせた。 さすがにわずかだが瞳が潤んでいる。それが嬉しくて、泣きそうになった。 「 もうダメ」 「 これ以上はするなって?」 「 違う……して欲しいの」 言ってから恥ずかしくなって、胸に顔を埋めた。如月は何も言わないで、指を抜いた。 腰に手を添えて浮かす。 充分に濡れてはいるのだろうけど、 まだ怖くて身体を強張らせたら、 如月がまぶたにキスを落とした。 「 んっ!」 まだ痛むそこを一気に突き上げられて、声が出てしまった。何度かしてはいても、そう簡単に慣れるものでもない。 痛みにのけぞる身体を抑えつけられて、畳に圧しつけられる。加えられる力をどこへも逃がせなくて、身体中がきしむ。 「 きさ……っ」 それだけ言うのがやっとだ。呼吸が乱れて名前も呼べない。激しく揺さぶられれば、それだけでイキそうになる。 「 ヤダ……如月っ!」 叫んで肩に噛みついた。さっきよりももっとずっと大きな快楽にさらわれそうになって、怖くなる。必死で抱きつく僕の頭を抱えるように抱きしめて、如月が深く分け入ってきた。 落ちていくような感覚。高いビルから突き落とされたみたいな、そんな浮遊感。吐き出した自分自身のものの熱さと、身体中に広がる如月のものの熱さが、混じりあって身体を溶かす。 本当にこのまま、何もかも溶かしてくれればいいのに。そうしたら、こんなに如月を遠くに感じなくてもすむのに。 如月は一度も「好きだ」と言わない。なんとなく、遊び半分みたいにして流されて、ズルズルと何度も抱き合った。決して本心を見せないから、すぐに醒めてしまう。 この身体の熱がひいたら、また何もなかったような顔をするんだ。 「 如月」 掠れた声で呼んだ。いつも呼ぶのは僕の方から。一方通行の関係そのまま。 「 嫌……だったのか?」 如月が呟く。抱きついているから顔が見えない。 「 え? なに?」 「 さっき。一人でいたとき、もう嫌だと言っていたから」 「 うん、嫌だよ。なんかもう、色々考えるのイヤだ」 「 何を考えるんだい?」 「 如月の気持ち」 如月が苦く笑った。 玄武だからね。 そう続けようとして、お互いに口をつぐんだ。 護らなければならない主人。 絶やしてはいけない飛水の血。 だからこの気持ちが本当だとは、決して口にしない。 だからいつか、血を残すために伴侶を選ぶだろう。 如月は星の定めに背きはしない。そこまでは好きでいてくれないから。 「 ね、イヤになるでしょ?」 僕が言うと、如月は深い溜息をついて抱く手に力をこめた。 息ができなくなるくらいに強く、抱きしめる。なんだか子どもじみた執着だった。 「 君が……それを言うのか?」 「 ごめん」 如月の身体を抱いて、彼が漏らす呟きに目を閉じた。それは僕も、繰り返した言葉だった。 『 誰か…… この距離を埋める術を知っているのなら。 どうぞ誰か− この距離を、埋めてくれ』 |
<完> |
■管理人コメント■ ……うー、何てこったい。この2人の距離を埋める方法?そんな、元々距離なんかないと言うのに…。2人はもう立派に愛し合ってて他の人間なんて好きになれないって、傍から見たらそういう感じなのに〜!…でもそんな不器用な2人が愛しかったりする(病)。特に如月。激烈にひーを愛しているくせにストレートにいけない彼がカッコええ…。そのまま独占欲爆発でこの後ひーを完全に自分の物にしてもらいたいものです。 こちら、私の心の友・わたぽんが当サイト1万HITお祝いに下さった作品です♪わたぽん、この調子でどんどん陰如主を書いて下さいね |