「捨てないで」
花流 様 作



 付き合い始めて2週間目に京一の態度が変わった・・・・・・


 2週間前、俺は決死の思いで京一に告白して、京一は笑顔でOKしてくれた。
 そしてその場でファーストキスした。 
 そのキスは触れるだけだったけどすごく優しくて、
 これからの幸せを予感するには十分なものだった。

 実際、その日から家では勿論の事、学校でさえ京一は今まで以上に俺にベタベタと寄り添いキスなんかこの2週間で数え切れないほどした・・・・・
 けど、その先には一歩も進んでなかった。
 それでも、京一に愛されてるってすっごく良く分かったから、俺は何も言わなかったし京一にされるがままになってた。
 うんん、それ以上に俺からもベタベタしてた。


 なのに何故?
 何故急にキスしてくれなくなったの?
 どうして俺に触れてくれないの?

 
 ある日突然京一は俺の傍から離れだした。
 学校では親友だったあの頃より俺との距離をとるようになってた。
 俺から近づいても京一が逃げるように離れていって・・・・・
 女の子達と楽しそうに・・・・・俺に見せ付けるかのように話してる。
 俺の家に居る時でさえ、前なら抱きしめてくれたりキスしてくれたりしてたのに、今は俺に触れてさえくれない。
 会話さえ付き合いだす前よりなくて、家に遊びに来てくれる日数もどんどん減ってる。


 ねぇ、どうして・・・・・・・?
 これってやっぱり俺・・・・京一に飽きられちゃったの?
 俺は捨てられるの?


 不安は日に日に積もってく。
 嫌な考えは何度打ち消しても頭の中から消えてくれない。


 でも・・・・・・京一に確かめる事もできない。
 だって、怖いから。
 確かめて別れようって言われたら・・・・・
 俺、どうしたらいい?
 でも、このままの日々を過ごすのも辛いんだ。
 だって、まるで俺が京一から離れるのを京一が待ってるみたいなんだもん。
 そう、自然消滅ってヤツ。
 別れ話を切り出すのさえ面倒なのかもしれない。
 俺と付き合ったのはただ単なる遊びで・・・・OKしてくれたのも俺をからかっただけなのかも知れない。
 そして、京一には新しい彼女がもういるのかもしれない。
 

 どうしようもない想いが俺の心を蝕んで、もう笑うことすら出来ないよ。
 幸せになれるって思ったのにね。
 あんなに毎日ドキドキして幸せだったのにね。
 まだ、京一の事好きだから・・・
 今の俺が京一の為にできることって・・・・
 京一の心を確かめることぐいらいかな。
 少しでも早く京一が・・・・・俺から自由になれるように・・・・。


 そう思ったら独りでに自嘲の笑みが浮かんだ。
 それが余計に悲しかった。


 決心してからの俺の行動は早かった。
 その日の内に俺は京一を学校の屋上に呼び出した。
 今は4時間目。
 授業中のこの時間なら誰も来ない事はしょっちゅう京一と授業をさぼってここにいたことから把握済み。
 誰にも邪魔されずにゆっくりと話ができるはず。
 そう最後の恋人同士の会話ってヤツが・・・・・・。

 暫くすると京一が現れた。
「ひーちゃん、話って何だよ?」
 以前と変わらない声色で俺に訊ねる京一に俺は心の内を一気に話し出す。
 早く言わないと・・・
 京一の顔見てたら言えなくなりそうだから。
「京一・・・・・ねぇ、俺の事もう飽きちゃった?キスするのも嫌なくらい嫌いになっちゃたの?ねぇ・・京一。そうなら、お願い。京一の口からちゃんと言ってよ。俺・・・なるべく冷静に聞くようにするから・・・・。ねぇ、お願い」
 泣くまいと思っていたのに俺の瞳からはとめどなく涙が零れてきた。
 それでも、言いたい事は・・・伝えたい事は言えたからもう言い。
 後は京一の返事を待つだけ。
 これでもし、別れを告げられても・・・・・
 忘れる事はきっと出来ないけど、京一の為に別れる事は出来るから。
 

 でも・・・・・・・別れたくないよ。
 だって、京一の事大好きなんだよ。
 どうして・・・・・・幸せになれるって思ってたのに・・・・・
 どうして・・・・・・こんなことになるの?
 どうして・・・・・・・


 俺の言葉を聞いた京一は目を見開いたままその場に固まっていた。
 その間にも俺の涙は流れ出す。
 沈黙が別れを認めているようで痛かった。

 が、突然京一は慌てたように頭を振り、
「違う、違う、ひーちゃんなに言ってんだよ。何時俺がひーちゃんの事嫌ぇになったんだよ。そんな事あるわけねぇだろ。俺はひーちゃんを愛してるんだぜ」
 俺の両肩を掴んで必死の剣幕で言う。
「じゃ、なんで・・・・」
 それでも俺の涙は止まらない。
 それを京一は優しく拭ってくれた。
「ひーちゃんは気付かなかったかもしんねぇけど、俺達が付き合ってるってことが学校の連中にばれそうになってたんだ。変な噂とか流れちまっててさ。まっ、結構俺達ベタベタしてたから仕方がねぇのかも知んねぇけど・・・・けどな、俺は付き合ってる事ばれたくなかったんだ。ばれて俺があいつ等にどんな目で見られたってかまわねぇけど、ひーちゃんが汚ねぇモノ見るような目で見られるのだけは堪えらんねぇから・・・・・・・だから、なるべくひーちゃんの傍にいねぇようにしてた。女の子達とつまんねぇ話とかしてさ、俺の女好きは健在だってアピールしたりもしてたし、ひーちゃんにキスしなかったのもそんな事したら自分をぜってぇ抑えられなくなってひーちゃんの事抱いちまうから・・・そしたら痕つけちまうだろ。それはやばいって思ってたから・・・けど、俺の態度のせいでひーちゃんを不安にさせてちまったのは悪かった。泣かせちまってわりぃ」
 京一はそう言って頭を下げた。
 俺はそんな京一の頭をポカポカ殴った。
 安心して、嬉しくって、ホッとして・・・・
 力なんて全然入らない手で。
「京一のバカ。俺だって別に構わないのに。誰にどんな目で見られたって、痕を誰かに見られたって京一が俺の事愛してくれてるんだったら何も気にしないのに。俺、すっごく不安だったんだからな」
 京一は俺の両手を掴んで体を引き寄せ、初めてしたキスと変わらない・・・・
 うんん、それ以上に優しくて俺の蟠りを全て溶かすようなキスをしてくれた。
「もう、ぜってぇ龍麻を不安になんかさせねぇ。もう誰にばれたってかまわねぇよ。何時も傍にいて龍麻の身も心も守るから。だから、俺を捨てねぇでくれよ」
 京一は俺を抱きしめて耳元で囁いた。
 だから俺は・・・・・・
「俺の方こそ捨てないでね、京一。ずっと愛してるよ」
 静かに囁き返した。



<完>

■管理人コメント■
ううう…かわいい…かわいいひーですよ皆さん(泣)。京一にべた惚れ、京一のために涙を流すひー!そんな君が大好きだー! 京一の事が大好きだから、その相手の態度の変化一つで不安になったり苦しくなったり。ちょっとした誤解から一人で勝手に京一との別れを考えてしまうひーちゃん…そしてそれにびびる京一! 何から何まで私のツボです(笑)。乙女ちっくひー万歳です!でも闘いになったら鬼のように強いって感じだと尚のこと素敵だなあと妄想したり。 こちら、「桜月乱舞」様でキリ番を踏んだ際に管理人のお1人・花流様にお願いして書いて頂いたラブ京主でございます。 花流様、かわいらしいひーちゃんをどうもありがとうございました!