「 SHORT・TIME・LOVER 」
わたあき様 作



  龍麻には人目をはばかる恋人がいる。年が離れている上に、同性であるなら当然のことだ。しかも相手は暗殺を正義として遂行する拳武館のトップ、鳴瀧冬吾。立場もあるし地位もある。拳武館を快く思わない勢力との、熾烈な争い事もしょっちゅうだ。
  だから龍麻は彼のために、決してわがままは言わないと決めていた。
  逢うのはいつも短い時間。それも鳴瀧が誘ってきたときだけ。自分からは連絡を入れない。どんなに逢いたい夜があっても。


  誰にも見られないように、細心の注意を払って乗りこんだリムジンの後部シートには、すでに鳴瀧が座っていた。難しい顔で書類を見ていたが、龍麻が身を滑らせて隣に落ち着くと、相好を崩して書類を投げ捨てた。足元に散らばる紙を一枚ずつ拾い上げて、龍麻は鳴瀧へ差し出した。
「 はい。ダメでしょ、捨てたりしちゃ」
  龍麻の軽い叱責に苦笑いを浮かべて、鳴瀧はその肩を引き寄せた。 敏感な龍麻の耳朶を口唇でたどって、 甘く囁きをもらす。
「 ゆっくり逢えなくて、すまない」
「 いいよ、そんなの。今日も時間ないんでしょ?」
  甘えた口調の問いかけに、鳴瀧はうなずいた。龍麻の表情が一瞬だけ曇って、それからなんでもないようなさり気なさで鳴瀧の首へ腕をまわした。
「 じゃ、早くしよ?」
  龍麻に促されるまでもなく、鳴瀧は彼のジーンズの中へ手を潜りこませている。無骨な指先はその形状とは正反対に、滑らかにうごめき龍麻の性感帯を刺激する。鳴瀧の愛撫を受け入れやすいように、腰を浮かせて応えながら、龍麻は鳴瀧にカーテンを閉めてくれるように懇願した。
  鳴瀧は龍麻への愛撫を止めることなく、器用にもう片方の手で、運転席と後部シートの間にカーテンをひいた。電動式なのでカーテンはゆっくりとしか閉まらない。まだ運転手に見えているだろうに、鳴瀧はかまわず龍麻のジーンズを下着ごと引き下ろした。
  先端から滴る透明な体液がシートにこぼれる。後で掃除をさせられる運転手に悪いと思いながらも、この行為をやめようとは思えない。龍麻がちらりとルームミラーを見ると、運転手と目が合った。鳴瀧お抱えの運転手は心得ているのか、ルームミラーの角度を変えて視線をそらしてくれた。そして、カーテンがぴったりと閉じた。
  それを合図にしたように、鳴瀧は龍麻を膝の上へ抱え上げた。スーツの上からでもわかる厚い胸板に引き寄せられて、龍麻は身動きできずに、背後から伸びる鳴瀧の手の動きにされるがままに翻弄された。
  自らが流す体液でこすり上げられ、こらえきれずに射精する。鳴瀧の手の中へ放った恥ずかしさで目を閉じるのだが、鳴瀧はくぐもった笑い声を耳へ流し入れる。嫌でも自分のしたことを思い知らされるようで、羞恥心で身体が火照る。
  鳴瀧は指に龍麻が射精したものを絡ませて、秘所へ挿入した。 鳴瀧の次の行動は身体が覚えていたから、自然と前方へ上半身を傾ける。リムジンの車内は決して狭くはないのに、それでも充分に愛し合うにはやや手狭い。
  自分で考えて態勢をとる不自由さと、それだけのために動いているのだという自覚が欲情をあおって、龍麻を駆りたてる。
  鳴瀧に指を入れられたまま、龍麻は彼の股間へすり寄った。 口で金具をくわえてチャックを下ろし、手を使わないで鳴瀧のものを探り当てた。 反りあがるそれを口に含んで、喉の奥へこすりつける。 息が出来なくて苦しいのに、鳴瀧を歓ばせられるのならいくらでも我慢する。 舌と口唇と歯と、口内のすべてで鳴瀧に奉仕した。
  最初は抵抗があった。男性性器を舐めるなんて、汚いとも思った。まだ経験はないが、女性に対して行うのもためらわれるくらいだったのだ。でも、今はなんともない。むしろしたくてしたくて仕方がない。できるならずっと、こうして飽きるまで舐め続けていたいほどだ。鳴瀧のものならかまわない。
「 鳴瀧さん」
  性器から顔を離して、あまり表情の変わらない彼を見上げた。
「 ね、だしてよ」
「 嫌いじゃなかったか?」
「 好きになったの。ね、だして? 鳴滝さんの飲みたい」
  鳴瀧の手が龍麻の顎に伸びた。もう片方の手も龍麻から抜いて、その手で自分自身をこすった。
「 口を開けて、龍麻。だすよ」
  鳴瀧に命じられるまま、口を開けた。そこへ向かって鳴瀧は射精した。受け止め損ねた精液が龍麻の口からこぼれる。慌てて顔を寄せて、鳴瀧の精液を受ける。まぶたや鼻先にもかかる生温かいそれを、龍麻は萎えない鳴瀧のものでこすりつけた。
「 まだ飲んじゃいけないよ、龍麻」
  からかうように、鳴瀧が意地悪な命令を下した。龍麻は素直に口内に残る精液を溜めて、口を閉じた。
「 いい子だ」
  龍麻のシャツをはいで裸にすると、鳴瀧はうつ伏せにしてシートにドアに手をつかせた。龍麻もわかっているから、挑発するようにわざと大きく足を開いて腰を高く上げた。
  鳴瀧は龍麻の身体に密着して分け入った。
  龍麻が吐息をもらす。ぽたりと口に含んだままの精液がこぼれたので、龍麻はぐっと口唇を結んでそれ以上こぼすまいと顎を上げた。口許と挿れられている個所に意識が分散して、じれったい。鳴瀧も挿れたままでじっとしているから、龍麻は焦れて自分で腰を動かした。たぶん鳴瀧は、それを待っていたのだろうと思う。
  それから鳴瀧の動きは一変した。激しく龍麻を突き上げると、姿勢を変えさせて膝立ちにさせた。無理やりに乱暴なまでの行為が、受ける側の負担を余儀なくさせるがそれさえも、龍麻にとっては快楽となる。
  もっと深く、もっと。
  声に出せない分、身体で鳴瀧を体内の奥底へ導きいれようともがく。乱れる龍麻の限界を察したのか、鳴瀧はその口許へ指を這わせた。
「 龍麻、もういい。飲みこみなさい」
  咽喉を鳴らして鳴瀧の精液を飲み下すと、龍麻は上ずる声をあげた。
「 鳴瀧さんっ、来てよっ! イカせてっ!!」
  恥も外聞もなく叫んだ龍麻を、鳴瀧は膝へ落としてうなじに口づけた。目立たない場所に所有の徴を刻んで、もたれかかる龍麻の性器を握った。
  それだけでたやすく達した龍麻の体液は、カーテンに染みを広げた。
「 大きな声をたてると、聴こえてしまうよ」
「 だって……ホントにもう、イきたいんだよ。ねぇ、お願い」
「 私はもうしばらく、こうしていたんだがな」
「 ダメでしょ、時間ないクセに」
  鳴瀧の視線は腕時計に向いた。確かに龍麻の言うように、もう時間がない。
「 一緒にいられるの、あと何分くらい?」
「 5分……だな」
「 じゃ、イかせてくれるでしょ?」
「 不本意だ」
  鳴瀧は仏頂面で呟いて、くすくすと笑う龍麻を予告なしで突き上げた。突然のことで何の身構えもしていなかった龍麻は、思わず悲鳴をあげた。
  自分でも驚くような声に、手で口許を覆おうとしたのだが、鳴瀧はそれを許さなかった。両手で龍麻の手首を捕らえて、声を上げさせた。
「 ヤダっ! 聴こえるって!!」
「 その方が、燃えるだろ?」
  鳴瀧の台詞に、龍麻は目を潤ませた。
  頭の片隅で「あと何分」と、一緒にいられる時間を考えながら、肌を合わせる。あまりに短い時間が惜しくて、今だけは溺れてもいいと思った。
  最後に深く突かれて、鳴瀧の精を体内に受けた。温かな感触に身体が震える。
「 龍麻、大丈夫かい?」
「 うん……平気」
  途切れがちに返事をして、手離すのをためらう鳴瀧の腕から身を離した。身体をシートの脇へずらして、服を着る前に鳴瀧の身づくろいを手伝った。
「 時間、なくなっちゃうから」
「 ……近いうちに、必ず暇を作る」
「 できない約束はしないでよね。それより、怪我なんかしちゃイヤだよ。また……逢いたいんだから」
「 わかった」
  情事の名残など微塵も感じさせないほどに完璧な身支度を整えて、鳴瀧はリムジンが停まるのを待った。
  ほどなくして静かにリムジンが停まり、周囲にざわめきが広がる。龍麻も急いで服を着こみ、シートの隅へ身体を隠した。鳴瀧を迎えに出る物々しい雰囲気がドア越しに伝わって、寂しくなる。
「 待っていて、くれるね?」
  ドアを開ける前に、鳴瀧が振り向かずに言った。
「 うん。待ってる」
  龍麻が逡巡もなく答えると、鳴瀧は安堵の息をもらして開け放たれたドアをくぐって行った。

  ドアが閉まって、スモークガラス越しに鳴瀧を見送った。立ち去る背中は拳武館の名誉を負い、なのにちっとも悲壮さはなかった。
「 車、マンションへお願いします」
  鳴瀧がホテルの中へ消えるまで見送ってから、龍麻はカーテンの向こうへ声をかけた。
  ゆっくりとリムジンが走る。 次に逢えるのはいつだろうかと考えて、 龍麻はうとうとと浅い眠りへ落ちこんだ。
  せめて夢の中では、長くいられますようにと願いながら。



<完>

■管理人コメント■
…愛人。まさに愛人です、ひー…。館長め、何てお人なんでしょうか。自分は忙しくてちょっとの時間しか会えないのに、その時間を使って自らの欲求を満たすとは…!ううう、ナイス、ナイスですだ館長(笑)。…でも「あの」館長がこういう事をしてしまうのは、それだけひーのことを愛しているから…。そしてひーもそんな館長に応えようと必死に!健気に!自らを差し出すのね〜。ひゃっほー!何て燃えるんだ〜!こちら、わたあき様のサイト「ナマケモノ苑」でキリ番を踏んだ際に頂いた第一希望の鳴主です!実は第2希望まで図々しく出したらそっちも書いてもらっちゃいまして!そちらは京主ですよ、皆さん!是非にわたぽんのサイトで見て下さいね!裏を要求した私に望み通りの、もう何も口を挟めない完璧な裏を書いてくれたわたぽん、ありがとう!また書いてね♪