「ラブレター」 |
わたあき様 |
たとえばノートの切れ端。 たとえば真っ白な便箋。 たまに凝った便箋だったり。 でも、書かれている言葉はいつも同じ。 一行だけ。 『好きだ』 どんな言葉よりも熱烈な、愛の告白。 「 毎日なんだよね」 龍麻はくすくすと笑って、今日の分のラブレターを丁寧に広げてファイルに綴じ た。もう随分たまったファイルは厚みがでて、持ち歩くのも大変そうだ。だが龍麻は それを後生大事に鞄へしまった。 「 ふぅん……なかなかにロマンチックな話ね。記事にしちゃっていいかしら?」 「 ダーメ。そんなことしたらもう口きかないからね」 「 あらら。じゃあパス」 新聞部の部室で、導入されたばかりの真新しいパソコンに向かっていたアン子 はけらけらと笑って、龍麻を振り返った。 「 龍麻君に嫌われたんじゃ、うちの部の存続に関わっちゃうもんね。いつも手伝っ てくれてありがとう」 「 いいよ。アン子ちゃんにはいっぱいお世話になってるし、僕、部活してないし」 アン子の書いた記事がプリントアウトできたので、龍麻はそれに目を通した。新 聞を作る作業には慣れていないが、こうして誤字脱字のチェックなどの手伝いはで きる。他の面子がそれぞれの部活をしている間、龍麻はアン子を手伝うことにして いた。 パソコンを入れたとはいえ、インクの匂いが染み付いている新聞部の部室は資 料やなにやらで散らかっている。雑然としているのに何故か落ち着くのは、それが かえって人間臭いからだった。仮住まいのつもりであまり物を置いていない自宅よ り、龍麻にとってはずっとここの方が落ち着くのだ。 「 で、その熱烈ラブレターの主、わかってるの?」 「 う〜ん。まぁね」 「 可愛い子?」 「 可愛いよ」 「 芸能人だと誰似?」 「 誰にも似てな〜い」 「 見当つかないわね……案外、京一だったら笑うんだけど」 「 京ちゃんの字はこんなにキレイじゃないって」 「 確かに」 笑った龍麻にアン子も笑い、パソコンの電源を落とした。 「 今日はここまで!」 「 早仕舞いだね」 「 たまにはね。私だって今をトキメク女子高生よ。青春しなくちゃ」 てきぱきと部室を片付けるアン子を手伝い、龍麻も机の上を片付けた。 ふと目についた写真をとった。ありふれた集合写真と、バラバラのピンナップ。龍 麻一人の写真は全く無く、常に誰かしらが隣に並ぶ。京一と醍醐と肩を組んだ写 真、小蒔と美里に挟まれた写真、裏密と二人のものにマリアとのもの、アン子との ものは京一が邪魔をしたせいでぶれている。それら一枚一枚を見て、一枚を抜き 出した。 「 アン子ちゃん、これちょうだい」 「 ん? 卒業アルバム用に集めてるんだけど……どれどれ」 写真は龍麻一人の珍しいものだった。ただ、太陽の位置が悪くて全体に暗くな り、あまりいい写りのものではなかった。背景もおざなりで、見切れて生徒が入っ ている。 「 あぁ、これ。龍麻一人のってないから、一応いれといたんだけど……やっぱ写り イマイチね。撮り直したいわ」 自分の取った写真に辛口なコメントを差し挟みつつ、アン子はその写真を龍麻 に渡した。 「 はい、どうぞ」 「 ありがと」 「 自分用に欲しいんだったら、撮り直すわよ。ま、もっとも京一なんかがお邪魔虫す るだろうけど」 喋っている間にもすっかり部室を片付け終えたアン子は、龍麻を促して廊下へで た。何も盗まれるものはないとはいえ、一応鍵をかける。それを見ていた龍麻は、 廊下の端を歩いている人物に気がついて大きく手を振った。 「 佐久間くーんっ!」 龍麻が呼んだ名前に、ギョッとしてアン子が顔を上げた。できればあまりお近づ きになりたくない生徒の筆頭で、素行は極めて悪い。実際アン子も取材時には何 度も危ない目に遭わされているのだ。 慌てて龍麻を後ろ手にかばうアン子に向かって、佐久間はのそのそと歩み寄っ た。 「 のけよ」 ぶっきらぼうに言った佐久間を、キッと睨みつける。転校初日に何があったのか くらい、早耳のアン子が知らないはずもなかった。 「 嫌よ」 「 てめェに用はねェんだよ。とっととどけ」 「 誰がどくもんですか! 龍麻に酷いことしたら、私が許さないわよ!」 「 別にてめェに許してもらう義理なんざねェ」 「 アン子ちゃん」 険悪な二人の雰囲気にも動じずに、龍麻がアン子の制服の袖を引いた。 「 僕が呼んだんだよ?」 「 こんなヤツに何の用なの? まさかまた難癖つけられてるとか?!」 「 うううん。あのね、これ渡そうと思って」 にっこり笑った龍麻は、ついさっき部室でもらった写真を取り出した。龍麻一人 の……少し見切れて佐久間が写りこんだ写真を。 「 はい」 「 なんだ?」 「 写真だよ。僕も佐久間くんもあんまり写真撮らないし。二人のって、ないでしょ? だから」 にこにことしている龍麻に、佐久間は不機嫌そうな顔でその写真を押し返した。 「 お前持ってろ」 「 なんで?」 「 これしかねェんだったら、お前が持ってろ」 誰が見ても機嫌が悪そうな佐久間の、けれどそれはどこか照れたような顔つき にアン子は吹き出した。 もしかして。 くっくっ、と笑いを堪えるアン子をじろりとひと睨みするも、いつもの迫力はない。 アン子は必死に笑いを噛み殺しながら、閉めたばかりの部室を開けた。 「 ちょ、ちょっと待っててね」 二人を足止めしたアン子は、部室からカメラを持ち出して構えた。 「 はい! こっち見て!!」 声につられて顔を上げた佐久間と龍麻は、二人仲良く並んでフレームに収まっ た。 「 はいはい、これ後で焼き増ししてあげるからね。だからこの写真は私にちょうだ い」 二人の間で宙ぶらりんになっていた写真を取り上げると、アン子はひらひらと手 を振って背中を向けた。 「 今日は一緒に帰ったら〜? 京一は私が足止めしといてあげるからさ」 「 なんで俺が!!」 「 いいじゃない、たまには。文字じゃなくて、声でも聞きたいもんじゃない? ねぇ、 龍麻君」 「 うん」 嬉しそうに言った龍麻に、佐久間はギョッとして振り返る。笑顔の龍麻は佐久間 の手を取って、はにかみながら呟いた。 「 一緒に、帰ろ?」 佐久間は一瞬途惑って、そして手を取った。 「 あの手紙……あれ……」 廊下を渡って、遠目でその様子を見ながらアン子は写真を眺めた。 「 あ〜ぁ、失恋しちゃった」 可愛いとは、アレのどこを見て言ったのか。龍麻らしいとは思いつつ、アン子は 苦笑いをした。 「 アン子ちゃ〜ん〜、カッコいい〜」 どこから湧いてでたのか、もういい加減に裏密の神出鬼没さに慣れたアン子もさ すがに驚いて飛び上がった。 「 ミ、ミサちゃん?!」 「 うふふ〜♪ そんなアン子ちゃん〜に、ミサちゃんちょっと感動〜」 「 あ、ありがと」 「 だから〜、協力しちゃう〜」 「 へ?」 裏密の指差した方を見れば、京一が剣道着のまま走っている。足止めするとは 言ったものの、あの勢いの京一を止めるのは至難の技だ。 「 うふふ〜♪ ミサちゃんにお任せ〜」 「 任せちゃう。あ、くれぐれも半生にしといてね」 「 半生〜。半分だけ生〜、半分だけ意識ある方が楽しい〜」 にぱっ、と笑った裏密にアン子は心の中で祈った。 ( ごめん、京一。安らかに眠れ) その後、真神学園に世にも奇妙な美女(?)と野獣カップルが誕生した裏で、アン子の生徒手帳に秘密の写真がしまわれていたり、魔女が暗躍したのはナイショ の話。 |
<完> |
■管理人コメント■ 佐久間主。佐久間主ですよ、皆さん!何度でも言いましょう、佐久間と龍麻!野獣と美女!うぎゃー!萌えるー! ……おかしいですか、私(汗)。でも佐久間ってホント、神経質な字書きそうだよな〜。そんで案外うまいんだ(笑)。毎日毎日ひーにどんな便箋で愛の言霊送ろっかな〜って考えて1人でテレているに違いないです。奴は不細工な上に性格悪いし、足も臭そうです(ひどい)。でも…でもきっとあんな可愛らしいひーに笑顔を向けられたら、絶対改心するに違いないんす。いや、あの手のタイプは絶対好きな奴には優しいはず!…って私、何佐久間について熱く語ってるんですか(汗)。いやでも…この佐久間、マジで私のツボです!勿論、かーいらしいひーちゃんも。でもカップルになっちゃったら、この可愛いひーちゃんが佐久間にあんな事やこんな事されちゃうの?それは嫌だな(どっちなんだ、お前は)。 こちら、当サイト1周年記念にと、お正月の頃からあっためて書き上げて下さったというわたあき様渾身の力作でございます。わたぽん、粋なプレゼントを本当にありがとう!ふふ…この調子ならいつか佐久間主の裏を貰える日も近いな(さっき嫌って言っておいて…笑)。 |