『 御強請り上手な彼 』 |
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浅生霞月 様 作★ |
「御強請りが上手いね、って言われた」 空になった湯呑みに、熱い茶を注ぎ直そうとして。 その手が、一瞬不自然な動きの後、静止する。 「・・・・・何だい、それは」 ひとまず急須を、卓袱台の上へと置いて。 やや低くなってしまう声のままに、問えば。 「昨日、紅葉に。良い感じのマフラーしていたから、何処で買ったんだろうって聞いてみたら、それ手編みだったんだよ、紅葉の ! で、・・・・・」 「すごいな、良いな・・・とでも言って、物欲しげに眺めていたんだろう、君は」 「・・・・・う」 成る程、そういうことか…と納得して。 如月は急須を再び手にすると、龍麻の湯呑みを引き寄せて、茶を注いでやる。 「で、彼は『君の分も編んであげようか』とでも言ったかい」 「・・・・・何で、翡翠が知ってるんだよ」 見なくても、聞かなくたって。 その様子は、容易に想像がつくから。 「・・・・・『如月さんと、お揃いが良いかな』とも言った」 「そこまでは、予想はつかなかったな」 唇を尖らせて、龍麻が呟くのに。 時折見せる、そういう子供っぽい仕草も可愛いな…などと、こっそり思いながら、如月は自分の湯呑みを手にし、残った茶を静かに飲み干した。 「まあでも。確かに、君は人に何かを強請るのは上手いかもしれないね」 「ッ、翡翠まで・・・」 明らかに機嫌を損ねた様子で、プイッと横を向きながら。 それでも、そろりと伸ばした龍麻の手は、盆に山盛りに用意された茶菓子を掴み、口元へと運ぶ。 「そう悪い意味ではなく、ね」 「・・・・・物欲しそう、って言った」 「ああ、ちょっと言い方が良く無かったかもしれないね」 拗ねた瞳が、チラリとこちらを見遣るのに。 そんな様も、どんなにか。 如月が、今は胸の奥底に潜めている、ものを。煽っているということに、おそらく彼は気付いてなどいないのだろう。 だから。 「無意識の、とでもいうのかな。君の瞳に、じっと見つめられてしまえば、僕だって・・・ね」 どうしたって。 「それが、御強請り上手だっていうのかよー」 「『御強請り』という言葉自体は、あまり良い表現のものとは言えないかもしれないけどね」 何だって、彼に。 「それに、昨夜だって君は僕に・・・・・」 「ッ、うわあぁぁぁ・・・・・ッ」 更に言いつのろうとした如月の口を、龍麻は卓袱台の上に身を乗り出すようにして、押さえて。 「な、何・・・言・・・・・ッ」 「・・・・・タラバが食べたい、って言っただろう」 「・・・・・は?」 頬を染めたまま、その瞳が。 呆気に取られたように、丸くなるのに。 「いや、『こんな寒い日は、カニ鍋だよねー。俺、生のタラバが好き。冷凍だと、身が塩辛くってさー』・・・だったかな」 「・・・・・よく覚えておいでで・・・」 薄らと微笑みを浮かべつつ、昨夜の自分のセリフをスラスラと述べる如月に、龍麻は脱力しつつ。 そう昨夜、如月宅で御馳走になった晩御飯は、カニ鍋。 龍麻の大好きな、活けのタラバだったことを思い出して。 「・・・・・美味しかった」 「そうだね。実に旨そうに平らげてくれていたからね」 雑炊まで、きっちりと。 その細い身体の何処に、収まったのかと思うくらいに。 「・・・・・翡翠」 「何だい」 「俺、・・・我が侭言ってる?」 「・・・・・そう思うのかい」 だって。 御強請り、だとかって。 そんな風に言われれば。 「それは違うよ、龍麻」 身を乗り出したままの、龍麻の。 その、まだ朱が残る頬を、そっと両手で包み込んで。 「そうしたいと、・・・君に与えたいと、そう思ってしまうのは僕、たち・・・なんだから」 きっと、壬生だって。 龍麻の為に、暖かいマフラーを編みたいという気持ちが。 言われるまでもなく、あったのだと。 思える、から。 「君が欲しいと思うものを、あげられて・・・そして、君が喜ぶ顔を見る事が出来て、それだけでも充分に、満たされているよ」 少なくとも僕はね、と。 囁きながら、そろりと顔を近付ければ。 自然、閉じる瞳。 これも、言ってしまえば。 キスを強請っているような、ものなのだけれど。 「だから、・・・・・君は、そのままでいい」 そのまま、が良い。 そのままの、君が。 「ん、・・・・・」 何度か、啄むように触れただけで唇が離れれば。 こっそりと盗み見た龍麻の表情は、何処かもどかしげに。 やがて、如月がじっと見ていたことに気付くと、途端。 上目遣いな瞳に浮かぶ、あからさまな。 不満の、色。 「・・・・・龍麻」 もう一度、掠めるように。 キスをしながら。 「この続きをしても・・・良いかな」 請うように。 誘い掛ければ。 その瞳が、ホッとしたように。 安堵に、緩んで。 「翡翠」 嬉しそうに、微笑む。 それが、見たいから。 「おいで、龍麻」 そして、分かって貰いたいと思う。 恋うて。 請うているのは、自分もそうなのだと。 卓袱台の上に乗り出した身を引いて、すぐさま。 数歩の距離を駆けて飛び込んでくる、しなやかな身体を。 しっかりと、受け止めて。 「さて、僕は君に何を強請ってみようかな」 「ッ、・・・・・」 ゆるりと口の端を吊り上げてみせれば。 驚いたような表情は、それでも次第に強張りを解いて。 甘く。 「・・・・・お望みのままに」 クスクスと笑いながら、重ねられる唇。 本当に、何を強請ってしまおうかと。 悪戯な企みが、如月の心を過ったけれども。 「まあ、・・・・・追々、ね」 焦る必要はない、こと。 取り敢えず、今のところは。 |
<完> |
■管理人コメント■ 如主王・浅生さんに頂いてしまったまさしく如主中の如主ですッ!! 何と当サイトの2周年記念のお祝いという事で…う、嬉しいよぉ〜(じたばた)。…何だかこのお話、というか2人の関係とでも言うのでしょうか。もの凄く「出来上がって」いますよね。如月は目に入れても痛くない(もう全っ然痛くない)可愛い龍麻をいつも余裕の優しい態度で迎え入れている(でも本心では余裕なし)。また龍麻は龍麻で、如月には我がままし放題甘え放題だけれど、それも心からの懐きっぷりから出る一種の愛情表現で。恥ずかしがるくせに如月にしてしてモードなんて…!! ひーちゃんはやっぱり良い子です!! だからそんな浅生さんとこの翡翠大好きひーちゃんが私も如月に負けず劣らず大好きです!! そんなひーちゃん、そして「おいで」おいでしちゃったりする憎い如月(この台詞がツボどころv)を攫えて本当に嬉しい限りです。浅生さん、素敵な贈り物をどうもありがとうございました! |