Beauty & Beast
わたあき 様 作



 ついに来てしまった――

 ごくりと唾を飲みこんで、佐久間は部屋へ一歩踏み出した。繋いでいた手をしっかり握り締めると、彼も覚悟を決めたように室内へ入る。後ろ手に閉めたドアに自動ロックがかかり、その音がひどく大きく響いた気がして落ち着かない。
 だがここで怯んでは男がすたる。
 顔では冷静さを装いながら、心は必死の思いでベッドへ近付いた。
 ベッドとサイドテーブルと。間接照明の柔らかな灯りの下にはほかに何もない。部屋を見まわしてもテレビくらいしかなく、続き間に小さな冷蔵庫とシンクが見える。
 生活の匂いのしない部屋。
 部屋の隅にある自動販売機が妙に似合っている。
「これ何かな?」
 佐久間の手を離れて、龍麻はそれに近寄った。
「なんだろ??」
 しばらく触りまわっていた龍麻が、突然動きを止める。真っ赤になって戻ってきたのは、それがいわゆる『オトナの玩具』などの自動販売機だとわかったからだ。
 佐久間はそうと知っていたが、止めることはできなかった。彼自身もこういった場所は初めてなのだ。
 沈黙が二人の間に下りるが、部屋に流れるクラシックの演奏で間が持つ。ポケットに手を突っこんで、ベッドの縁に腰かけた。
「こっち来いよ」
 さり気ない声を出せた。自分で自分を誉めながら、彼を見ればおずおずといった様子で近付いてくる。
 隣へ座った少年は、頬を赤らめてうつむいている。イマドキ、こんな反応を返す高校生なんていない。
 華奢な肩を見つめて、佐久間は幸福感に酔った。

 緋勇龍麻。
 高校最後の年になって転校してきた少年は、その容姿と温厚な気性でたちまちアイドルに祭り上げられた。目ざとい新聞部が特集を組めば他校からも注文がきたようで、職員室にもこっそり出まわっていたらしい。
 なんというか、とにかく彼は真神学園の、いや真神学園を中心とした地域一帯の有名人なのだ。
 そんな龍麻が選んだのは、なぜか佐久間。
 お世辞にも格好いいとはいえない外見に、性根もしっかり曲がっている。自分で認めるのだから間違いない、はっきり言って不似合いである。
 今でも自分は夢を見ているのではないか?と不安になる。だが確かに、彼は隣に座っている。
「た、龍麻」
 まだ呼び慣れない名前を呼ぶと、彼は上目遣いに見つめる。
「なに?」
「キスしてもいいか?」
 単刀直入に聞いてしまったことに、かぁ、と血が上る。けれど龍麻も佐久間と同じく、顔を真っ赤にして頷いた。
 肩を抱いて、口付ける。
 触れ合っただけの軽いキスから、思い切って舌を入れてみた。初めての行為に、内心これで突き放されたらどうしよう、とも思ったのだが、龍麻の口内を味わいたい欲求が理性を上まわった。
 そっと舌で口唇を舐める。段々と奥へエスカレートしていく愛撫に、龍麻は小さく喘ぎながら応える。
 唾液が伝わり目を開けると、うっとりとした龍麻の表情が間近にあった。
 気持ちよさそうなその顔に、佐久間の中で何かがプツンと切れた。
 そのまま龍麻を押し倒し、夢中でセーターを脱がす。いや、と龍麻が身をよじったような気もしたが、それさえも情欲を誘う仕種に思えた。
 荒く呼吸を乱し、龍麻のジーンズに手をかけると悲鳴のような哀願が耳に届いた。
「電気消して!」
 もどかしげに、ベッドの頭にある電気のスイッチを押した。頭上の灯りは消えたものの、代わりにベッドサイドの小さな灯りがついた。小さな灯りなのでわずかに手元が見える程度なのだが、龍麻にとってはそんなものさえ恥ずかしいらしい。龍麻が必死に手を伸ばしている間に、下着ごとジーンズを引きずり下ろすことに成功した。
 龍麻の裸に、ごくりと咽喉を鳴らして見入った。
 同じ造りの身体をしているはずなのに、龍麻の裸は自分のものとはまるで違う。悪く言えば『いやらしい身体』だった。
 むしゃぶりつくようにして、龍麻の足の間に顔を埋める。目当てのものはわずかな反応を示し、佐久間がためらうことなく口に含むと勃ち上がった。
「佐久間く……んっ」
 もがく龍麻の声は甘い。快楽を含んだ甘ったるい鼻にかかる息遣いが、佐久間の熱を煽った。
 これ以上、我慢できそうにない。
 龍麻のそれから離れると、後孔に自身のものをあてがった。
「入れるぞ」
 わざとぶっきらぼうに言ったのは、そうしないと平常心が保てそうになかったからだ。
 ぐっ、と龍麻のそこへ押し当て、挿入しようとした。
 だがしかし。
 興奮しすぎていたせいなのか、先端のほんのわずかな部分を埋めただけで射精してしまった。
 自分だけが先に達してしまった恥ずかしさと、射精後の脱力感で、佐久間は呆然とその場に座りこんでしまった。

 終わった……

 目の前が真っ暗になる。
 何を好きこのんで龍麻が自分を選んだのかわからない。でもこんなことを許してくれたのだ。生半可な気持ちではない、と思う。

 それなのにそれなのに!!

 がっくりうな垂れる佐久間に、龍麻が手を伸ばした。
「僕、よかったの?」
 何を聞かれているのかわからずに、荒んだ目で見やると、龍麻は困ったように目を伏せる。
「僕で気持ちよくなってもらえたのなら……すごく、嬉しいんだけど……」
 違うの?と問いかけた目に、首を大きく横に振る。
「すっげー、よかった。だから……」
「ん……一緒に、イきたい。だって僕のも、もうこんな……」
 龍麻の手が自分のものに触れる。
 ひくひくと震えるそれを包む龍麻の手は白く、まとわりつく様子はどんなAVより興奮を誘う。
「龍麻、続きヤって見せてくれ」
「え……?」
「自分でそのまま、ヤって」
 羞恥に肌全体を赤く染めながらも、龍麻は佐久間に言われたようにゆっくりと自分のものを扱いた。
 先端から溢れる体液を掬いとり、丹念に全体へ拡げる。それから徐々に指の動きを早めると、次第に呼吸も荒くなる。
 仰け反る咽喉の白さが、浮かぶ汗と交わっていやらしさを倍化させる。
「一人でいつもしてたのか?」
 佐久間も我慢できず、自分のものを扱きながら龍麻に問いただした。
「うん、いつも佐久間くんのこと考えてしてた」
「毎日?」
「毎日……こんな風に触ってもらいたい、て……あんっ!」
 もれ出たのは女の子のような嬌声だった。
 龍麻自身も恥ずかしかったのか、慌てて自分の口をふさぐが、その手には先走りの白い精液が付いている。口のまわりを白く汚した龍麻の顔に、佐久間は自分のものを龍麻のそれにこすりつけた。
 二つを一緒に扱き上げると、龍麻の咽喉から搾り出すような喘ぎがもれる。
「あっ、あぁんっ!!」
 一度出していた佐久間と違い、龍麻は堪えきれなかったらしく佐久間の手の中へ射精した。
 生暖かな龍麻の精液を自身のそれに塗りこめて、後孔へ突き立たてる。
 今度はちゃんと挿入に成功した。
「んっっ!!」
 ろくに慣らしもしていなかったが、龍麻の中へはすんなり入ることができた。ぐ、と押し入れると、龍麻の足が佐久間の腰に絡みつく。
「龍麻、大丈夫か?」
「へ……き。だって……いつもこうしてもらいたくて、その……自分で……してたの……」
 ごめん、と呟いた龍麻を抱きしめる。
 その途端、中がきゅう、と締まった気がした。
 じっくり龍麻の中にいたかったのに、気持ちよすぎて長くもちそうになかった。
 焦りながら、龍麻の中へ深く突きたてる。
 その度に龍麻の腰が揺らいで、ますます佐久間の我慢を限界へ追いやった。
 何度か強く腰を打ち据えて、ついに堪えきれず龍麻の腰を掴んだ。そしてそのまま、ひときわ奥へ突くと中へ吐精した。
 とろとろと、龍麻の中で自分の吐いた精が流れていく。そのなんともいえない気持ちよさに、佐久間は抜くのをためらった。けれど中で出してしまった以上、早く抜かないと後から龍麻に負担がかかる。
 名残惜しく引き抜けば、佐久間の精液まで未練たらしく糸を引くように伝ってあふれる。
 龍麻の後孔からしたたる精液に、やっと今までのことに実感がわいた。
「龍麻、風呂行って流さないと」
「ん……ん……」
 すっかりバテている龍麻の下半身を見れば、今さっき達したばかりのそこがまた引くついて精液を垂れ流していた。続けざまに射精したせいで、龍麻は動くのも億劫らしい。
 佐久間は肩をすくめて、龍麻を抱きかかえた。続に言う、『お姫様抱っこ』である。
「さ、さ、佐久間くん?!」
 慌てふためく龍麻に、そっぽを向いた佐久間が吐き捨てるように言った。
「風呂場まで連れてってやる。ちゃんと責任、とるからよ」
 照れ隠しの言葉に、龍麻はにっこり笑って首筋に腕をまわした。
「佐久間くん、大好き」
「俺も……」
 小さな返事は、龍麻の耳にしか届かなかった。



<完>

■管理人コメント■
…佐久間自身が言っています。「何故、龍麻は自分のような者を選んだのか?」。私にも分かりません(笑)。このひーちゃんが単に佐久間の顔が好みだったとしか言いようが…(ひどい)。い、いや!きっと佐久間には心の奥のふかーいふかーいところに、誰にも負けない何か…ダイヤの原石のような才能というか何というかを持っているに違いない(何だよ)。それをこのひーちゃんはたった1人見抜いていたと!あー…しかし最初ドキドキしちゃった。もし先っぽだけで終わってたら欲求不満だよ(爆)。ちゃんと奥までいってがしがし突けて良かったね、佐久間!……ある意味コメントがいつも以上に変態じみてますが、これが私の本心なので仕方ありません。だって佐久間に良い目を見せてあげたかったんだもん。しかもあんな可愛いひーちゃんだよ?すごいよ、全部佐久間の言いなりになってさ!「佐久間くん」だよ!嬌声も私の好きなバージョンだしさ!もうもう…うわーお!(壊れた)
こちら相互リンクでお馴染み、裏を書かせたら日本一な巨匠、わたぽん様に書いてもらった初の裏佐久間主。あるブツと交換条件で書いてもらったのですが、こんな素晴らしいものに対して私へのお題はすっごい簡単なもので申し訳ないな〜と恐縮しております。でも!興奮ラブラブ素晴らしい佐久間主を、わたぽん、どうもありがとうございました!あ…ちなみに…「これを読んで撃沈した方、佐久間の部分をご自身の好きなキャラに当てはめて変えて読んで下さい」とのわたぽん様からの伝言が。でも読み終わった後じゃあ、もうどうしたってイメージは佐久間だと思う(笑)。いいじゃん、佐久間でv