「 なかよし☆大作戦 」 |
わたあき 様 作 |
それはある日の旧校舎潜り前に起きた出来事だった。 みなそれぞれにレベルアップを果たし、旧校舎に対して以前ほどには身構えなくなっていた。慢心は怪我のもと、そう言ってメンバーの気を引き締めていた龍麻の袖を、小さな手が引っ張った。 「 マリィ、どうしたの?」 龍麻が優しく声をかけると、 少女は金色の髪を揺らして首を傾けた。 いつになく切羽詰まったマリィの態度に、龍麻は黙ってマリィの見ている先に視線を移した。その場にいた美里と小蒔も同じようにマリィの視線をたどった。 そこには旧校舎の壁にもたれかかって、 ひとり寡黙に腕を組む壬生がいた。 勘のいい壬生は四人の視線に気付いて、訝しそうに目を細める。 それが余計に怖かったのか、マリィは慌てて龍麻の背中へ隠れた。 「 あちゃー、忘れてた」 マリィは壬生が苦手だった。 こればっかりは努力でどうこうできる問題ではないので、なるべくマリィと壬生は合わせないようにしてきた。 今日はマリィが慕っている美里と小蒔に、 同じ四神から特にマリィを可愛がっているアランを呼んだりと、 気を遣ったつもりが大きな失敗をしてしまった。 「 困ったな……」 龍麻はぽりぽりと頭を掻いて、 意味がわからずに眉間に皺まで寄せだした壬生に笑顔を向けた。 「 壬生〜、マリィがお前の顔が怖いってさ」 美里は溜息をついて片手で顔を覆い、小蒔は嘆息して空を仰いだ。 「 ひーちゃん、もうちょっと他に言い方考えようよ」 「 そうね。どうしましょうか、龍麻」 美里と小蒔に促されてあたりを見渡してみれば、マリィは怯えて震えているし、ナイーブな暗殺者は傷ついたのか、どんより黒々オーラを背負っている。集まった仲間の全員が龍麻に苦笑いを向けている。 マリィと壬生の間に挟まれて、龍麻は乾いた笑い声を上げた。 今の彼の心境は「とりあえず、笑っとけ」しか思い浮かばなかったのである。 如月は自分を含めた11人分のお茶をいれて、主人である龍麻の前に座った。 行儀悪く胡座をかいている龍麻に対して、 如月はきっちり正座をする。 龍麻も座り直して如月を見つめた。 「 と、いうことなんだ」 「 それは君が悪い」 「 えっ! オレ?」 「 マリィが壬生を怖がっているのは承知のくせに、 旧校舎潜りの面子に混ぜてしまった君の不注意だ」 店先ではマリィのご機嫌うかがいのため、 美里や小蒔ら女性陣が華やかな笑い声をあげて賞品を物色している。 その一方で龍麻と如月のいる奥座敷では、男性陣が退屈そうに座りこんでいる。 壬生にいたっては、部屋の隅に向かい背中を丸めて座りいじけている。相変わらずどんより黒々オーラはまとったままだ。 龍麻は笑って誤魔化そうとしたが、如月は壬生に視線をやって溜息をついた。 「 どうするんだ、あれは」 「 う〜ん……おーい、壬生〜、機嫌直せって」 くるり、と壬生が首だけで振り返った。 なんだかすさんだ眼差しで、さすがの龍麻も一瞬引いてしまった。 「 龍麻、僕はそんなに怖い顔をしているのかい?」 「 うん、めっちゃ怖い」 きっぱりと断言した龍麻に、 壬生は再び壁に向かった。 小声で暗い歌まで口ずさんで、畳をほじくり返している。如月は溜息をついて首を左右に振った。 「 龍麻」 「 え、だって怖くない?」 「 君、事態を悪化させて楽しんでないか?」 そんな話をしている間にも、壬生の手によって畳はささくれ立ってゆく。 気のせいか、背負っているオーラがさらに重苦しくなっているようだ。 「 とにかく、マリィに慣れてもらうしかないだろう。ただし、壬生もそれなりに努力をすること。せめて笑顔くらい浮かべられないかい、壬生」 重いオーラを両肩に乗せて、壬生はちらりとだけ如月を見やり、自嘲気味な微笑を唇の端に乗せた。 「 僕は如月さんと違って、心にもない愛想笑いができるほど器用ではないんです。 こんな真っ直ぐな自分が憎い」 「 落ち着け、如月! ここはお前の店だぞっ」 本気で最終奥義を放とうとした如月を羽交い絞めにして、龍麻が叫んだ。まだ壁に懐いている壬生はともかく、控えていた男連中も慌てて逃げ出そうとしている。そんな薄情な仲間を見る龍麻の目には「逃げたら黄龍」の文字が見え隠れしている。 逃走を断念した男性陣、 アランと紫暮と村雨は、 恐る恐ると如月のいる卓に近づいた。 「 まあなんだ、壬生の旦那をどうこうするのは、無理だろ」 「 うむ、確かに。壬生は今のままでよかろう」 「 NO! それではスモールレディがカワウソーねっ!」 アランの言い間違いは黙殺して、 暑苦しい男三人が額を寄せた。 「三人寄れば文殊の知恵」どころか、 何も思いつかないあたりが彼ららしい。 すっかりこう着状態に陥り、ついに龍麻も諦めて乱暴に畳の上へ足を投げ出した。 そこへタイミングよく、小蒔が障子を開けて顔を覗かせた。 「 みんなー、ちょっといい?」 美里に連れられて、マリィがおずおずと現われた。 舞子と藤咲がそれぞれ、頑張れ、と小声で励ましている。可愛らしい仕草に思わず顔がほころぶ男性陣五人と、いまだ壁とお友達な暗殺者は一斉にマリィを見つめた。 「 あの……ゴメンね、ミブ」 首をちょこんと傾けたマリィに、 つい龍麻とアランも真似をして首を傾けた。 こんな風に言われて、許さない者などいないだろう。 実際、壬生はお友達の壁から離れてマリィのそばに行った。ただ、足音もたてず気配も消して、いきなり背後に忍び寄るのはマズかった。本人に悪気はなくとも、された方にとっては心臓に悪いことこの上なしだ。小蒔と美里も顔が青ざめている。 「 マリィ」 真剣な表情で、低く押し殺した声で囁く。 「 僕は」 それは例えるなら、今から殺るぞ、なんて言い出しかねない空気である。 重ねて壬生を弁護するが、彼に悪気はないのだ。 「 怖いーっ!!」 がっくりとうなだけて、壬生はすごすごと壁の前に戻った。 また膝を抱えて落ちこんでいる。 「 あー、壬生。うっとうしいからやめろ」 「 いいんだ、龍麻。どうせ僕には、眩しい光なんて似合わなかったのさ」 「 こらこら。畳むしるのはやめなさい。如月に畳代請求されるぞ」 しかし如月はすでに畳代の見積書を作成していた。村雨も苦笑まじりでそれを見ていたが、不意に顔を上げた。知った者の気配が近づいてくるのに気付き、立ち上がった。 「 失礼いたします」 芙蓉が物静かな口調で挨拶をして、如月に軽く会釈した。 「 村雨、お前を呼びにまいりました」 「 ご苦労さん。それじゃ先生、俺は抜けるぜ」 ふてぶてしく笑う村雨に、龍麻は唇をとがらせた。 「 芙蓉ちゃん、もうちょっとダメ?」 「 なにかありましたのでしょうか、ご主人様」 感情のない声と物言いである。 表情もさほど変わらないし、一見すると冷たい人間のように思われてしまうが、芙蓉は人間ではないからこれで精一杯なのだ。 龍麻もみんなもわかっているので、芙蓉に暖かく接している。もちろん、マリィもだ。 ふと、龍麻は壬生と芙蓉を見比べた。二人は似たような性格ではないだろうかと。 マリィを手招きして呼び寄せると、龍麻はしゃがんで視線を合わせた。 「 マリィ、芙蓉ちゃんのことは怖い?」 「 怖くないよ。フヨウは優しいもん」 「 ならどうして、壬生は怖いの?」 「 だってミブ、男の人なんだもん」 にやり。黄龍様は悪魔の微笑を広げた。 たらり。黄龍様の半身である陰龍は、彼の意図を察して冷や汗を垂らした。 「 そういうことだっ! 壬生、女装しろっ!」 「 嫌だっ!」 「 我がまま言うな、マリィのためだっ! オレはとっとと帰ってテレビが観たいんだ!」 本音をちょっぴり暴露しつつ、龍麻はきびきびと指示を下した。 こういうときの息の合い方は、多分戦闘以上にぴったりなのだ。 「 紫暮、ドッペルして壬生の脚を封じろ!」 「「 おうっ 」」 「 アラン、背中をとれっ!」 「 OKアミーゴ、スモールレディのためにも、頑張るね!」 「 村雨、腕だっ!」 「 任せな」 「 そして亜里沙はメイク、舞子は着せ替え、芙蓉ちゃんは髪だっ! 美里と小蒔はマリィを連れて待機っ!」 それぞれがてきぱきと指示に従う中、ひとり如月だけは傍観者だった。壬生が助けを求めようとしたが、それより先に龍麻が笑っていた。 「 如月、衣装協力しろ」 「 高見沢さんが衣装担当なら、もちろんアレだな」 「 そう、アレだ。そしてもちろん」 「 わかっている。エッチな白衣、だろ?」 ぐっ、と龍麻が親指を立てると、如月も親指を立てた。 真っ青になった壬生の叫び声が、如月骨董店に響いた。 「 せめて天之羽衣にしてくれっっ!!」 こうして、マリィはちょっぴり壬生への苦手意識をとり除いた。魂の抜けた壬生のナース姿はこの日集まった仲間だけの秘密となり、壬生もほんのちょっぴり救われた。 が、後日如月骨董店内では、 店主の幼なじみ織部姉妹の妹の「金髪恐怖症」について語られていた。 彼らの脳裏には、愛らしい朱雀の少女の金髪は平気で、なぜギタリストの金髪は怖いのかという疑問があったのだ。 そしてひとつの結論に達したあと、 彼らはにやりと笑った。 尊敬する忍者に呼び出されたギタリストの命運がどうなったのか、 それは誰も知らない。 壬生紅葉が嬉々として、 彼のサイズに合わせたドレスを仕立てていたとかいないとか。それもまた、謎である。 |
<完> |
■管理人コメント■ もうもう!たくさんの魔人キャラ一斉出演ってだけでも嬉しいのに、この!このほのぼの平和な風景がまたっ!(←そうか?)みんなでひーの指示にてきぱきと従い、壬生をいじっていく様はまるで壬生総受!(いやそれは…)でも壁に懐く壬生っちや畳むしる壬生っちがまあ何て愛しい(笑)。壬生好き〜〜vvと悶えてしまいます!如月もナイスだし!ギタリストの彼のことも気にならないではないですが(笑)、それはまたきっとどこかで書いて下さるに違いないとふんでいます。 わたぽん、素晴らしいギャグSS庵【陽】デビューおめでとう!そして奉げてもらっちゃってありがとうございました【喜】!! |