静かな夜 自分が傷つきやすい人間だということを認めたくなくて、いつもいつも強がっていた。 眠れない夜が続いていても、疲れていると言いたくなかった。 だから。 「 何だよ」 ようやくうとうとしかけたと思っていたのに、ふっと被さってきた黒い影。だから龍麻はわざと迷惑そうな顔をしてみせて、ぶっきらぼうな声を出した。 言われた方はそんな龍麻のことなどちっとも構わないというような態度で相手の身体を拘束したまま、軽いキスを降らせてくる。 「 ちょ…っと、やめろよ!」 唇に触れられた瞬間、龍麻は戸惑ったようになって乱暴に腕を振り、相手の行為を思い切り非難して睨みつけた。 「 翡翠……いきなり何するんだよ」 「 キス」 やはり向こうは平然とした顔で、そう答えてから笑った。 いつもいつも余裕のある態度を見せるこの同級生に、龍麻は本当に時々腹が立った。さらに強い力で相手のことをぐいと引き離すと、その勢いのまま上体を起こして、ふうと大げさにため息をついた。 「 キス、じゃないよ。勝手にするな。していいって…俺が言ったかよ」 「 言ってたよ」 「 ……っ!」 こんなに冷たく言っているのに、相変わらず向こうは涼しい顔でそんな風に返してきた。それに、また龍麻の方だけが熱くなる。 「 ………」 だから龍麻は次に出す反論の言葉がもう見つからなかった。ただ唇をかんで下を向いてしまう。するといよいよ向こうは楽しそうに笑って龍麻のことを引き寄せてきた。 その所作に、また龍麻の方だけがどくんと胸を鳴らしてしまう。 「 翡、翠…っ!」 「 僕のところへ来ただろう、君は」 「 え?」 「 だから」 翡翠はそれだけを言うと、華奢な身体の割にはひどく強い力で龍麻を抱きしめ、戸惑う相手の額に再びキスをした。 それで、龍麻は本当にもう何も言えなくなってしまう。 「 龍麻」 それで翡翠が出してくれる言葉をただ黙って聞く。 その瞬間が心地良いと知っていたから。 「 愛しているよ。僕はいつでも、ここにいるから」 だから、君は安心して。 いつもいつもそう言ってくれる。ここはそんな場所だから。 自分はここでだけ、夢を見ないで眠ることができる。 |
<完> |
■後記…何となく書き出した如主・・。寝ている龍麻に如月がちょっかいを出すという、ただそれだけのシーンが書きたかった・・・。でもSSって自分が書きたい1シーンのためだけに書くもののような気がするんですが、どうでせう? |