酔 学校がつまらないとか、身体がだるいとか。 血なまぐさい臭いが落ちないとか、全てにイラついているとか。 ぽつぽつと寝言のようにつぶやいても、如月はいつも黙って聞いてくれた。だから龍麻は如月のこの静かな家で、突っ伏して眠るのが好きだといつも思う。 「 龍麻…龍麻」 「 んー……」 「 布団を敷いたよ。隣で寝たらいい」 「 嫌だよ、だってお前まだ全然飲んでないじゃん…」 「 僕は飲んでも変わらないんだ」 「 嘘だ、俺にだけこんな飲ませて……」 本当は意識もはっきりしているし、別段眠たくもない。 それでも龍麻は酒に乗じて如月に対して我がままになる事、わざと空ろな目をして如月に寄りかかって甘える事が好きだった。 だから特別に好きとも言えない酒をねだっては、酔っ払ったフリをした。 「 翡翠」 「 何だ」 「 うー……」 「 龍麻」 わざと酔っては、こうして如月の身体を捕まえて、龍麻はその身を相手に委ねる。 その身体に鼻面を押し当てて顔をうずめると、決まってやってくるのは両腕で支えてくる如月の温もり。 ああ、こいつは俺を抱きしめている。 それを実感すると龍麻は何とも言えない夢心地な気分になって、後はもう何もかもがどうでもよくなってしまうのだった。 「 龍麻。眠るなら着替えて横になれ」 「 嫌だ……」 「 仕方ないな……」 「 ………」 そう言いつつ、お前が俺を放さない事を、俺は知っているんだよ? 「 翡翠ぃ…」 心の中でそんな事をつぶやいてくすくすと笑うと、いよいよ如月は大きく嘆息してズルズルと引きずるように龍麻を隣の寝室へ運んで行った。 「 はあ…っ」 ばたりと勢いよく既に引かれていた布団に横になると、視界に如月の顔がぼんやりと映った。電気をつけていないせいでその顔ははっきりと映らない。龍麻はそれがひどく不満で、両手を差し出し「早く」と意味もなく急かして子供のようにぐずった声を出した。 「 お前は」 自分だけ冷静で。 「 俺ばっかり」 こんなにお前が好きなんだ。 「 翡翠…」 声にならない声で、けれど目ではしっかりと訴えて、龍麻は尚も両腕をばたばたと宙で動かした。 「 ………まったく」 すると「どうしよもないな」というように。 「 あ……」 「 龍麻。君が呼んだんだ」 如月は両腕を差し出す龍麻の上に覆いかぶさるようにして。 「 は…」 キスを1つ、龍麻の唇の上に落とした。 「 ……何だい、その目は」 目だけぱちくりと動かして後はただ石のようになっている龍麻に、如月は可笑しそうに目を細めた。 途端、龍麻は自身の身体中の血が頭に上り、同時に胸の内がどくどくと激しく波打ち始めるのを感じた。 「 だ…だって……」 「 君は酔っているんだろう? ……忘れたきゃ、目をつむればいい」 「 ………」 「 どうした?」 「 ……そんなの、嫌だ」 からかうようにそう言う如月に龍麻はむっとして挑むようにそう言い返した。 「 ふ……」 すると、如月はいよいよ奇異の目をして自分の下で真っ赤になっている龍麻の顔をまじまじと見やった。 「 そうか…」 そうして如月は口元に薄っすらと笑みを浮かべたまま、今度は誘われる前に自らの身体を龍麻の元へそっと沈めた。 「 あ…」 龍麻は一瞬消え入りそうな声を出したが、その音は再び如月の唇によって塞がれた。 「 ん…」 好きだな…。 ぼんやりとそう思うと、龍麻は何かに押されるように、如月の首筋に両腕を回した。 |
<完> |
■後記…既にラブラブ。主は甘えん坊、従者は何でもお見通しのエロ攻め亀って事でお願いします。 |