誕生日
青く晴れ渡った気持ちの良い、朝。
待ち構えていたかのような下級生たちに、次々と浴びせられる祝いの言葉。京一は思わず面食らった。
「 蓬莱寺先輩、お誕生日おめでとうございます!」
「 これ、プレゼントです! 受け取ってください!」
「 あの、これ私が作ったんです。良かったら・・・」
津波のように次々と現れる後輩たちの群れ。贈り物の嵐。
「 あ、ああ…。サ、サンキュな」
普段だったら泣いて喜びそうな展開である。何しろ、京一が大好きだと公言してはばからない女の子たちの集団が、揃いも揃ってその当の京一に好意の視線を注いできてくれるのだから。
それでも京一は、始め、彼女たちが何を言っているのか今イチよく分からなかった。
「 ああ、そうか。誕生日だったか」
その程度だった。
今まで激しい闘いが続いていたし、そもそも自分のそういった祝い事には関心が薄い方だった。
好きな人間の誕生日なら絶対に忘れないが、自分の誕生日などどうでもいい。そう思っているところがある。
( そういえばアイツの誕生日の頃は…まだこんな気持ちじゃなかったからなあ)
京一はぼんやりと今現在自分が夢中になっている相手のことを考えた。確かあいつの誕生日はは7月の初旬だったから、大して祝ってなどやらなかったような気がする。美里は何かしたのだろうが、まだあの頃の自分は、あいつのことはただの友人くらいにしか思っていなかったから。
「 もし今が誕生日だったら、めちゃくちゃ祝ってやるんだけどな」
貰ったプレゼントを抱えつつ、京一はそんなことをつぶやきながら、教室へと向かっていた。
すると、背後からいつもの明るい声が京一に向かって飛んできた。
「 なーに、ぶつぶつ言ってんだよ!」
「 わっ、こ、小蒔か。てめえ、不意に声かけんじゃねえよ!」
「 キミがぼけっとしてるからだろー?」
小蒔はそう言って京一の横に並んでから、珍しいものでも見るかのようにじろじろと視線を向けてきた。
「 へえ。たっくさん、貰ったねえ」
「 へへへ、まあな」
得意気な笑顔を見せた京一に、小蒔は厭味な目を向けて大げさにため息をついてみせた。
「 まったく下級生なだけに京一の本性を知らないからねえ。彼女たちもかわいそうだよ、こんな奴に夢見ちゃって」
「 うるせぇなあ。お前は何かねぇのかよ、この真神一カッコイイ京一様の誕生日によ?」
「 ったく、調子に乗るな!」
小蒔は軽く京一をこずいてから、一人でさっさと教室へと向かって行く。後ろから文句を言おうと口を開いた京一は、しかし急に振り返った小蒔に、ひょいと小さな包みを突き出された。
「 あん? 何だよ?」
「 ばーか。プレゼントだよっ! …誕生日、おめでと」
「 へ…?」
「 あ、そ! いらないの〜? なら別にいいけど?」
「 わ、待て待て! 貰うって! へへへ…悪ぃな」
京一が素直にそう礼を言うと、小蒔も満足そうに笑った。
教室に入ると、美里も待っていたかのように京一に近づき、自分が焼いたという手作りのお菓子を寄越してきた。醍醐も「帰りにラーメンでも奢るか」などと嬉しいことを言ってくれる。
「 そういえばねえ、この間霧島君に会ったんだけど、『京一先輩に喜ばれる物って何がありますか?』ってすっごく真剣に訊かれちゃった。絶対今日何かくれるよ〜」
「 良い後輩を持ったもんだな、京一」
「 へへへ、まあな」
次々と寄せられる嬉しい言葉。
朝から多くの贈り物と祝いの科白に囲まれて、柄にもなく照れてしまってばかりだ。
けれど。
どうにも、物足りない。つい、探してしまう。
自分が一番祝ってほしい人間の姿を。
「 よお、ところでひーちゃんはまだかよ?」
だから思わず名前を出してしまった。別に不自然ではないだろう。
いつも一緒の仲間であり、一番の親友だ。教室にいなければこうやって不審の声をあげても誰も何も思わないはずである。
「 龍麻は今日はお休みよ」
「 へっ?」
美里の返答に、京一は思わず耳を疑った。
「 あれ、知らなかったの? 何か親戚の法事なんだって」
「 前から言っていただろう」
「 そ、そうだっけか?」
思わず呆けてしまった。そういえばそんな事を言っていたような気もしないではないが…一気に力が抜けていくのを感じる。
元々自分の誕生日などどうでもいいと思っていたが、いざとなると、こんな日に自分にとって一番の人間がいないというのは、どうにもやりきれない。
そんな京一に見透かしたような美里の声が降りかかってきた。
「 うふふ。京一君、何だか寂しそう」
「 なっ…!」
「 あ〜ホントだ〜! 京一、ひーちゃんに自分の誕生日祝ってもらえないから、落ち込んでんだ〜」
「 ばっ、馬鹿やろう! んなことあるかよっ!」
「 隠すな隠すな。ボクたち、知ってんだからねっ!」
ねっ、葵! と、小蒔がいかにも意味あり気に笑って言う。
何を知っていると言うんだ…? 少しだけ焦ったようになり、京一は心の中で密かに様々な思いを巡らせた。
自分のこの気持ちは龍麻本人にはもちろん、誰にも何も言っていない。野郎同士で恋だ愛だなんてことは、自分の性格上、絶対に口が裂けても言えはしない。
だからといってこの気持ちが色褪せることはないのだが…。
やはり、龍麻に拒絶された時のことを考えると、どうにも思い切りをつけないでいるところがある。
「 それにさあ、こう言っちゃ何だけど、ひーちゃんは京一の誕生日のことを知らないんじゃないの?」
「 あ…?」
不意に現実に引き戻されて、京一は顔を上げた。
「 だってひーちゃんは転校生だし、京一も特に自分の誕生日なんて教えたことないでしょ? ボクたちだって、京一の誕生日なんてひーちゃんに教えてないもんね?」
「 教えるわけないわよね」
美里がさらりと答えてやんわりと笑む。
醍醐だけが三人のペースについていけないで怪訝な顔をしている。
「 べ、別にどうでもいいぜ…。俺は何とも思っちゃいねぇよ!」
「 どうだか〜」
「 お前ら! 俺の誕生日を祝う気があるのかー!?」
「 からかってるだけ〜」
これだから勝手知ったる女は厄介だ、と京一は舌打ちした。
そして、放課後―。
どうにも学校にいたくなくて、京一はそそくさと校舎を出た。
醍醐がラーメンはどうすると声をかけてきてくれたが、何だかそんな気がしなくて、また今度頼むとせっかくの誘いも断った。
いつもだったら喜んでついて行くのに。
龍麻がいないだけで。
こんなにもつまらないのか。こんなにも物足りないのかと、京一は愕然とする。
朝はそれなりに嬉しかった。顔も知らない下級生でも、自分の誕生日を知っていて、祝ってくれた。クラスの仲間も笑顔で嬉しい言葉をかけてくれた。
それでも。
「 ちっ…。何なんだ、俺は」
どうにも、苛立たしい。
会いたい。
そう、思ってしまう。
だから、京一は真っ直ぐに龍麻の住むアパートへ向かった。
いないと分かっていても、とにかく行こうと思った。明日は来ると言っていたそうだし、法事か何か知らないが、日帰りには違いないだろう。うまくいけば夜には会えるはずだ。
別に会ったからといって何を言うでもないのだが。
そんなことをつらつらと考えながら、遂に家の近くまで来た時だった。
「 京一」
声が。
「 ひーちゃん!」
龍麻が、今日ずっと会いたいと思っていた緋勇龍麻が、本当に急に現れたかのように、京一の目の前に立っていた。思い切りラフな格好をしている龍麻は、スーパーにでも行っていたのか、買い物袋を下げて、とても親戚の法事に行っていたような形跡は見られない。
「 ど、うしたんだよ…?」
そしてそんな自分の姿を見られて、明らかに動揺しているような顔がそこにはあった。
京一もそれで言葉を出すのが遅れてしまい、口をぽかんと開いたまま、しばらくそんな龍麻の顔を見つめた。
「 今日…休むの、知ってたよな?」
龍麻が居心地悪そうに言った。それで京一も我に返り、戸惑いながらもやっとの思いで声を出した。
「 お、おお。親戚の法事とか何とか、だろ?」
「 ………」
「 とてもそういう風には見えねぇんだけどよ。もう帰ってきてたのか?」
「 いや…」
言いにくそうに龍麻は言葉を濁したが、やがて半ば開き直ったような顔になると、「あがってけよ」とアパートの部屋を顎で指し示した。
京一は素直にそれに従った。
相変わらず綺麗に整頓された部屋に通されて、京一は台所でコーヒーを淹れる龍麻のことをちらちらと盗み見た。
相変わらず、美形だ。整いすぎていて厭味だと思うことすらある。
性格も、誰にでも好かれる柔軟さを持っているし、優しいし、そして強い。
時々、そんな完璧すぎる龍麻に違和感を感じることはあるけれど、それでもその存在にどうしようもなく惹かれる自分がいる。
「 京一、今日学校で何かあった?」
「 あ?」
ぼうっと龍麻に見惚れているところを話しかけられて京一は間の抜けた返事をした。龍麻は大して気分を害した様子もなく、もう一度繰り返した。
「 何かあったのかなって。風邪だって言うならともかく、家の事情で休むって言ってあったんだから、フツーは家に来たりしないだろ。明日は行くってことも言ってあったんだし」
「 …何だよ、俺が来て迷惑だったか」
そうとしか聞こえないような物言いに、京一の顔は曇った。
龍麻の方はそんな京一を見ずに、薄く笑ってから首を振った。
「 そんな事ないよ…。ただ、いきなりいるからびっくりしただけだよ。それに、さっきも言ったけど、何かあったのかなって」
「 別に何もねぇよ。ただ…」
会いたかっただけだ。
その言葉は、心の中だけで発せられた。
「 京一?」
「 あ? あ、ああ。何だよ」
「 何、そのカバン。やけに膨れ上がってるな」
「 あ、ああ…」
貰ったプレゼントで不自然に膨らんでいるのだった。普段から教科書などは持ち歩かないから、中身は全部プレゼントなのだが、それでも中はいっぱいになっていた。
「 別に何でもねぇよ」
もし今、自分が誕生日であることなどを告げたら、まるで何かを催促しているみたいではないか。これは絶対に言えないと京一は口を堅く結んだ。
「 …それ、プレゼントが入ってんのか?」
なのに、龍麻が平然と言った。
「 は?」
「 いや、今日京一、誕生日だろ。だから」
「 …お前、知ってたのかよ」
多少の驚きを伴いながらそう聞き返すと、龍麻はあっさりと頷いた。
「 霧島がお前の欲しい物は何かって随分前に電話してきてたからさ。ああ、誕生日なのかって思ってた。…その時は」
「 その時は…?」
京一が聞き返すと、龍麻は決まりが悪そうに苦笑した。
「 ごめん。その時はちゃんと覚えていたんだけど、今そのカバン見るまで忘れていたんだ。今、ふっと思い出して」
「 あ、ああ、そういうことか」
「 ごめん。何も用意してない」
「 …別に構わねぇよ。野郎同士で、プレゼント交換もねぇもんだろ」
「 ………」
京一の真意を読み取ろうとしてくるかのように龍麻がこちらを覗きこんでくるので、京一はわざと視線を逸らせた。別に、本当に大した事はない。男同士の友達関係なんてこんなものだ。高校生にもなって、贈ったり贈られたりなんて、マメにやる方がどうかしている。
なのに、何だろう。この胸のモヤモヤは。
「 京一」
その時、龍麻が声をかけてきた。
「 あのさ。お前何で訊かないんだ? 俺が今日、休んだ理由」
「 あ? …ああ」
そういえばそうだったが、自分のことで精一杯だったのでつい訊きそびれていた。それで京一はようやく何か言いたそうな龍麻の顔をまともに見つめた。
「 法事なんて嘘なんだよ。そんな親戚いないしさ」
「 …じゃあ何で」
「 時々」
龍麻は一旦区切ってから、ふっとため息をついて俯いた。
「 こうやって、誰にも会いたくないって時があるんだ。誰にも関わらないでいたいって思う時が」
「 ………」
「 以前熱出したから休むって言った時はみんなが心配して見舞いに来てくれただろ。何だか申し訳なかったし…。だから今回は始めから今日休もうと決めて、理由も法事ってことにしたんだ」
「 ……何でそんな風に思う時があるんだ」
突然の龍麻の告白に、京一はさっきまでのモヤモヤが全部吹き飛び、怪訝な顔で目の前の相棒を見つめた。
そういえば、今日の龍麻にはいつものような精彩さが感じられない。どことなく、疲れているようでもある。
「 何でだろ…? 何でかな。俺もよく分からないけど…」
「 ………」
「 京一はそういう事はないの?」
「 俺か?」
逆に訊かれて、京一は面食らった。
「 別にねぇな…。俺はひーちゃんやあいつらと…いつも馬鹿やってんのが好きだしよ」
「 そっか…」
「 ひーちゃんは…そういう風に思わないのかよ」
「 みんなといるのは楽しいよ」
でも、と言って、龍麻は京一を見つめてから、泣き出しそうな顔をした。
「 時々怖くなるんだ。俺、自分のことあんまり好きじゃないから、自信ないから、京一や美里や醍醐や桜井…みんなを見ていると、何だか…。ごめん、こんな事を言ったら京一は怒るだろうけど、こんな情けない奴に自分の背中預けてきたのかって思うだろうけど、俺は、今の生活が時々怖くなる…」
龍麻の言葉に、京一はただ混乱した。
「 …何言ってんだよ? 言っている意味が分からねぇよ」
「 うん…」
「 うん、じゃねえよ。ひーちゃん、どうしたんだよ? 何でそんな顔してんだよ」
「 うん…」
俯く龍麻に、京一はずきんと胸が痛んだ。
こんな表情を見たのは、初めてだった。
だからこそ、声が荒く大きくなった。
「 おい、ちゃんとこっち向けって! 何が怖いんだよ? 何が不安なんだ? 俺らがひーちゃんを何か不安にさせるようなこと、しちまったのか?」
「 違うよ、そういうことじゃない」
慌ててかぶりを振る龍麻に、京一はざわざわと胸が騒ぐのを感じた。抱きしめたい。そんな衝動に駆られた。
「 じゃあ何だってんだよ! 何だってそんな風に苦しんでんだよ? 言えって! お前のそんな顔見たくねぇよ!」
「 ごめん、京一…」
「 謝るなって!」
思わず京一は立ち上がって、龍麻の側に歩み寄った。かがみこんで、龍麻の両肩を掴む。
「 いつからそんな風に塞ぎこんでたんだよ? 何で俺に言わなかったんだよ?」
「 ……俺自身の問題だから」
龍麻のその科白に、京一はかっとなった。
「 馬鹿か! お前の問題だろうが何だろうが、そんな風に苦しんでる顔見せられて、俺が放っとけると思ってんのかよ!? お前、俺のこと何だと思ってたんだよ!」
「 ……親友」
その言葉に京一は頭を思い切り殴られたような気がしたが、表情には出さなかった。
「 だったら、何でその親友に今まで黙ってたんだよ! 情けねぇだろうが! 俺が、俺自身が情けなくなるだろ! お前をこんな風に放っておいちまって…!」
「 そんな、そんな事は思わないでいいから」
「 そうはいかねえよ!」
京一は強く言い、龍麻を半ば睨みつけるようにして見据えた。
それで龍麻も静かになって、京一のことを見つめてきた。
しばらく、そうして二人は視線を交し合った。
いつもと違う時間のような気が、少なくとも京一の方にはしていた。京一はいつもと明らかに違う視線を龍麻に向けていたし、それを受け止める龍麻の方も、戸惑いながらもその京一の視線を逸らさずにずっと見つめ返してくる。
だから。
京一は、掴んでいた龍麻の肩をより強く掴み。
そっと顔を近づけると、龍麻の唇に自分の唇を近づけた。
「 京…京一…?」
「 ………」
応えなかった。何か。何か言ったら、喋ったら。
今の時間が壊れるような気がしたから。
だから応えずに、唇を重ねた。
「 ……っ!」
龍麻の驚きと身体の震えが肩に触れている両手を通じて伝わってきた。
それでも、離したくないと思った。
角度を変えて龍麻の唇を再び奪う。何度か重ねて、自分の想い全てを伝えるように、激しい口付けを繰り返した。
熱くなる身体。龍麻が欲しいと初めて率直に思う。
けれどそんな自分を何とか抑えて、京一は龍麻から離れると、そっと相手の反応を伺った。
龍麻は半ば放心したような表情を京一に見せていたが、やがて京一の目を見つめ、掠れるような声を出した。
「 何…?」
予想はしていたが、その言葉には正直胸が痛んだ。すぐには言葉を出せなかった。
だから。好きと言う一言が、どうしても出なかった。
「 京一…俺…」
龍麻は何も言わない京一に更に戸惑ったようになりながら、それでも距離を取ることはせずにただ俯いた。
そうして、続けてつぶやくような声を出した。
「 京一は…俺のこと…?」
それでようやく、京一は声を出せた。
「 好きだ…」
「 ………」
「 お前のこと…ずっと好きだった」
「 京一…」
「 誕生日だからとか意識しているつもりは全くなかったけどよ。お前が今日いない事に、すげぇイラついてた」
「 ………」
一度声を出せば後は簡単だった。
「 だから、ここに来たんだよ。別に祝ってほしいとかじゃねえ。ただ、顔が見たかっただけだ。こんな風に自分の気持ちを言うつもりもなかった。…けど、お前はいつものお前じゃねぇし」
「 あ……」
「 そんな…苦しんでたのに、俺は気づいてやれなくてよ…」
「 違うよ、京一は悪くないから」
「 そういう問題じゃねえよ。俺はお前が好きなんだよ。お前のこと護ってやりたいって思ってんだよ。ずっとそう思ってたんだよ。だから、そんな顔はさせたくねぇ。お前を、俺は…」
言いかけて、けれど京一ははっとして黙りこんだ。龍麻が自分の胸にもたれかかってきたから。
「 龍麻…」
「 そんな事言ってもらえるなんて、思わなかったよ」
龍麻の言葉に、声に、京一はぞくりと奮えた。勢いのままぎゅっと抱きしめて、言葉を強めた。
「 俺じゃ駄目か? お前のこと、護ってやれねぇか?」
「 ううん…」
龍麻が応えた。
「 ありがとう、京一。…嬉しい」
「 ………」
「 本当だよ。誰に言われるより、一番嬉しい。京一にそう言ってもらえて、嬉しい。俺も…京一のこと、好きだよ」
「 …本当かよ?」
正直、それは嘘だと思った。龍麻の自分に対する想いは、決して自分と同じものではない。そう感じた。
けれど、そんな京一の気持ちに気づいたのだろう、龍麻は寂しそうに笑って言った。
「 こんな俺を見せたくなかった…。京一にだけは見せたくないって思ってた。でも一方で、京一にだけは…こんな俺を認めてほしいって…どこかで思ってた」
だから…と龍麻は言って、顔をあげた。
「 だから、京一がいた時、俺、嬉しかったよ。本当だよ。だから、話した。ずっと隠してた気持ちを」
「 ………」
「 …ごめん。京一の誕生日なのに、何か俺の人生相談みたいになっちゃった」
「 馬鹿」
京一は言ってから、龍麻の髪の毛をくしゃりとやった。
そうして、ようやくいつもの不敵な笑みを閃かし、龍麻のことを力強く見つめた。そんな自分が、龍麻の望む蓬莱寺京一だと思ったから。
「 どうだっていいって言ったろ。それに、今二人っきりじゃねぇかよ。今までで最高の誕生日だよ」
そして京一はもう一度龍麻に口付けをした。
龍麻はそれを素直に受け止める。
「 なあ、ひーちゃん」
だから、今度はためらいなく言えた。
「 これからはさ。一緒にいようぜ」
悩む暇なんかなくなるくらいに。
京一のその言葉で、龍麻もようやくいつもの柔らかな微笑を取り戻した。
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