君の視界に僕はいない



  緋勇龍麻が如月翡翠と付き合っている。

  そんな話を聞いたのは、壬生が彼らの仲間になってから割とすぐのことだった。
「 それって・・・どういう意味だい?」
  旧校舎に潜って腕を磨くようになってから龍麻たち真神のメンバー以外とも親しくなっていた壬生は、ある日の帰り道、一緒になった高見沢の突然の「爆弾発言」に思わずそう問い返していた。
「 え〜? そのまんまの意味だよ〜。ダーリンと〜、如月君はお互いラブラブなんだよ〜。見ていたら分かると思うけど〜」
「 …そ、そうなのかい?」
「 そうなんだよ〜。ダーリンが如月君のことばっかり1番なのは寂しいけど〜。でも、えへっ! 何だか、如月君と仲良くなってからのダーリンはとっても幸せそう。だから〜舞子も嬉しいよッ」
「 ………」
  無邪気に笑ってそう言う高見沢を見つめつつ、壬生は自分の中で何か暗い影が胸に落ちてくるのを感じた。
  初めて龍麻と出会った時、お互いは敵同士だった。
  彼の親友である蓬莱寺京一を自分は仕事とはいえ殺そうとしたし、彼の仲間も同様に倒そうとした。彼にどんな目を向けられても、それは甘んじて受けなければならない類のものだと壬生は知っていた。
  けれど、彼が暗殺者の自分に向けてきた瞳は、ひどく怒ったものではあったけれど、決して憎しみのそれではなかった。同じ人間として、同じ《力》を持つ者としての激しい想い。そして、優しさだと壬生には感じとれた。
  そんな人間には、会ったことがなくて。
  だから、仲間になってからも自然目で追ってしまって。

  ひーちゃん。
  ダーリンッ。
  アニキ〜!
  龍麻。

  みんなが彼を、緋勇龍麻を慕って集まっていることには、すぐに納得した。そしてそんな彼に、龍麻が平等に自らの優しさを与えていることにも。
  気づいて、納得していた…つもりだった。
  けれど。
「 壬生君? どうしたの〜?」
  はっと我に返ると、高見沢が不思議そうに壬生のことを見つめていた。慌てて取り繕おうと言葉を出そうとしたのだが、うまくいかなかった。
「 あっ、そうか〜。壬生君もダーリンのことが好きなんだ? 如月君に取られちゃってショック?」
「 な、何を、僕は―」
「 えへっ。隠さなくてもいいと思うよ〜? だってみんな同じだもん! みんな、最初はショックだよ〜。それに〜、まだまだ諦めていない人もいーっぱいいるからっ。ねっ? 元気出して!」
  何だか分からない慰めの仕方ではあったが、壬生はただ高見沢に指摘されたことに動転してしまい、何も言えずにいた。

  僕は…龍麻を好き…なのだろうか。

  翌日、再び壬生は旧校舎へ赴くことになった。突然龍麻から「潜らない?」という誘いの電話が入ったからであったが、特別仕事もない日に、彼からの誘いを断る理由は壬生にはなかった。
  なかなかの人数が集まっており、いつもの真神のメンバーが珍しく部活に顔を出すとかで姿が見えなかった分、昨日はいなかった紫暮、織部姉妹、それに―…。
  如月翡翠もその中にいた。
  如月は仲間たちの武器アイテムの供給者であると同時に、龍麻の良き助言者でもあると聞いていた。
  ただの助言者だと…聞いていたのに。
「 壬生」
「 え」
  その如月が不意に壬生の所に近づいてくると、無表情のまま声をかけてきた。
「 僕に何か言いたいことがあるのかい」
「 な…何故ですか」
  自然と敬語になってしまった。同級生の彼だというのに。それでも自分の内から命令してくる「何か」が、壬生をそうさせていた。
「 僕は別に―」
「 ……ずっと見ていただろう」
  不審な顔をして言う如月に、壬生は極力平静を装いながら、何でもないという風に首を横に振った。それで納得したようには到底思えなかったが、如月の方はそれ以上壬生に詮索はして来なかった。
  仲間たちの腕は日に日に上がり、休まず一気に地下へ下りられるようになっている者がほとんどだった。それでもリーダーである龍麻は全員の戦いに気を配り、的確な指示を出しては皆の体調にも神経をつかっていた。
「 龍麻…君こそ、大丈夫かい」
  思い余って近くに龍麻が来た時にそっと訊ねると、龍麻はそんな心配をしてきた壬生に驚いたような顔を見せ、けれどすぐにいつもの柔らかい笑顔になると「平気だよ」と返してきた。
「 何だよ、壬生? 俺、こんな元気じゃん? 怪我もしてないしさ。そんな顔しなくたって」
「 いや…君が気を遣っているんじゃないかと思って…」
  何気なく出した言葉だったが、龍麻は少しだけ戸惑ったようになって「ばっかだなあ、壬生は」と苦笑した。
「 そういうお前の方が気ぃ遣うじゃん。怪我しても、したって言わないんだからな」
「 僕は…」
「 期待してるぜ、兄弟!」
  龍麻がそう言って壬生の背中を叩いた。途端、ズキリと胸が痛んだ。
  兄弟。
  確かに陰陽の違いがあるとはいえ、一時は同じ師の下で武道を習った身である。兄弟子関係ではあるかもしれなかった。
  でも、そんな関係で終わりたくはない。初めて強くそう思った。
  結局その日は大分深くまで潜ったこともあり、皆一様にそれ相応の傷を負ってしまったのだが…やはり、仲間をかばって前線で戦った龍麻の傷が一番ひどかった。
「 龍麻…病院に―」
  壬生が近づいて言いかけた時、他の仲間たちもどっとそんな龍麻に近づいてきた。
「 おい緋勇、派手に血が出てるじゃねえかよ! すぐに病院だ、病院!」
「 本当ですわ。まず応急手当だけでも致しましょう」
「 龍麻。俺がおぶっていくか? こういう時に遠慮は無用だぞ」
「 アニキ〜」
  どっと周りを囲まれて、龍麻は困ったようにただ笑んだ。
「 もう何だよ〜、みんな大げさなんだからな〜」
  それでもぎゃいのぎゃいのと龍麻に何事か声をかける仲間たちに完全に押し負かされて、壬生はそんな彼らの一歩後ろで龍麻のことを見つめた。そして、はたと気づいて辺りを見回す。
  如月翡翠。
  自分よりも更に離れた所で、如月は依然顔色一つ変えずにその光景を眺めていた。
  そういえば彼は戦いの時はどこにいたのだろう。常に龍麻のことばかり目で追っていた自分が、如月の動向にはまるで気づかなかった。見たところ大して傷ついてもいないし、それなりに敵をかわして倒していたのだろうが。
  それにしても、何故龍麻に言葉をかけないのだろう。
「 壬生」
「 え」
  その時、その如月が壬生に声をかけてきた。
「 悪いが、僕は先に失礼する。皆にそう伝えておいてくれないか」
「 き・・・」
「 この様子じゃ、声をかけたところで気づきはしないだろ」
「 龍麻は…」
  けれど如月は壬生の言葉が聞こえなかったのか、すぐに踵を返すと校門から出て行ってしまった。壬生は一瞬躊躇ったものの、すぐにそんな如月の後を追った。
「 ちょ、ちょっと待ちなよ…」
「 ………」
  後を追ってきた壬生に、如月は怪訝な顔をして振り返った。
  冷たい眼だった。いつだったか、蓬莱寺が「あいつ、学校で『氷の男』って呼ばれているらしいぜ。分かるよな」と言っていた言葉を思い出した。
「 何か用かい」
「 龍麻のことが…貴方は、心配じゃないのか」
「 ………」
「 皆、彼にああやって言葉をかけているのに、君は黙って帰るという。君はそれでも…」
「 何だい」
「 …龍麻と、付き合っているって…」
「 何だって?」
  如月はますます不機嫌そうな顔をして、壬生のことを見据えてきた。それからその鋭い目線のまま壬生に言った。
「 誰がそんな事を言っているのか知らないけど、そんな与太、いい迷惑だよ。僕にも、もちろん龍麻にもね」
「 ……違うんですか」
「 本当だと思ったのかい、君は」
「 ………」
  壬生の心根を読み取るように如月はしばらく黙った後、ふうとため息をついてから再び言葉を出した。
「 確かに僕にとって龍麻は大切な存在だよ。彼が黄龍だからとか自分が玄武だからとか、そんな事とは無関係にね。でも、だからといって、僕はみんなと同じように彼と接するつもりはない」
「 ……?」
「 おーい!」
  壬生がどういうことかと問いただそうとした時、不意に背後から声がして、龍麻が小走りにやってきた。軽く息をついてから、少しだけ笑みを見せて如月のことを見る。その姿に、壬生はずきんと胸が痛むのを感じた。
「 何、黙って帰ろうとしてんだよ。相変わらず、冷たい奴」
  龍麻はそう言ってから、壬生の方を向いて「壬生も〜! 黙って帰ろうとすることないじゃん!」と冗談ぽく責め口調で言った。
「 いや、僕は―」
  言いかけたところを、如月に先に言葉を出される。
「 龍麻。今日の戦い方は一体何だ」
  ひどく冷たい言い方だった。壬生が口をつぐんで龍麻の方を見ると、龍麻の方も如月の言い様にむっとしたような顔を見せていた。
「 何だって…何だよ」
「 あんな無茶な動き方があるか」
「 どこが」
「 分からないというのなら、分かるまでよく考えた方がいい。分かっていてああしているのなら、僕は君をリーダーとは認めない」
「 ……翡翠、怒ってんのかよ」
  龍麻がぽつりと言うと、如月の方は眉をつりあげて龍麻のことを黙って見据えた。突然しゅんとなってしまった龍麻に、傍で見ていた壬生の方が慌ててしまった。
「 ごめん。今度からは気をつけるから…」
「 じゃあ、分かっていたんだな」
  詰問するように如月は言ってから益々怒ったようになり、何か言いたそうな顔を一瞬だけ閃かせたのだが。はたと壬生の顔を見て思いとどまったのか、そのまま2人を置き去りにするようにして、去って行ってしまった。
「 何だよ、偉そうにさ…」
  愚痴るように龍麻はつぶやいたが、その様子を黙って見ていた壬生には焦ったようになり、はははとごまかすように笑った。
「 ごめん、壬生。何か…ヘンなとこ見せちゃった」
「 いや…」
「 俺と翡翠、いっつもこんな感じなんだ。仲、悪いから…。あんま気にしないでいいよ」
「 え…?」
  壬生が怪訝な顔をすると、龍麻は壬生の顔は見ないで「なあ、壬生。病院まで付き合ってくれる? 俺、あそこの先生苦手なんだあ」と申し訳なさそうに言った。





  桜ヶ丘病院の女医師は見かけや言動とは違って的確な処置を龍麻に施してくれたように、壬生には受け取れた。
  額に白いガーゼを当てた龍麻の顔は痛々しいものがあったが、当のけが人の方は飄々としていて、「腹減ったなあ」などと何でもないような顔をしていた。
「 でもさ、壬生が俺たちの仲間になってくれたからっ。戦いもすごく楽になったと思うんだ」
「 そう…なのかい?」
「 そうだよっ。へへっ…包囲陣の数も増えたし。俺、嬉しいもん」
  壬生がいてくれて。
  そう言う龍麻に、壬生はまた自分の胸が騒ぐのを感じた。
  だから、どうしても訊きたくなってしまった。
「 あの、龍麻…」
「 んー?」
「 龍麻は…他のみんなともすごく仲良くやれているじゃないか。なのに、どうして…如月さんとは、仲が悪いなんて言うんだい?」
「 ええ?」
  如月の名前を出されたことで龍麻は明らかに動揺したようだった。急に壬生の顔をまじまじと見やってから、ごまかすように笑って見せる。
「 何だよ急に。やっぱりさっきのこと気にしてるの? あいつはいつもああなんだよ。俺のやることなすこと、いっつも文句つけてさ」
「 ………今日の戦い方のことだけど」
「 わっ! まさか壬生までいちゃもんつける気じゃないだろうな」
「 いや…」
  壬生は如月が指摘してから今日の龍麻の戦い、仲間への指示などを何度も反芻してみたのだが、別段非難されるようなことを龍麻がしたとは思えなかった。むしろ、いつも危険なところへは龍麻自らが赴き、仲間たち―特に女性陣に対しては後方の援護に徹しさせるなど、集団のリーダーとしては模範的なものだと思える行いをしていたのだ。これが個人での戦いなら、あまりに自分を犠牲にしすぎるその方法に無茶も感じるが、あの場では仲間を想うに余りある龍麻らしい戦いが見られたと思う。
  ――が、そこまで思って、壬生は突然はっとした。
  その勢いのまま視線を向けると、龍麻は何かに気づいたような壬生の顔を見て、決まりが悪そうにははっと笑った。
「 あいつねぇ…。俺が一人で前線とかに行くとすっごく怒るんだ。いや、表だっては怒らないんだけど、今日みたいに冷ややかな眼をしてさ。責めるんだよね。リーダーは他の仲間が死んだとしても、絶対に自分は死んじゃいけないんだって。死んだり怪我したりするのは自己満足なだけで、周りには迷惑なだけだって」
「 龍麻…」
「 分かってるんだよね、そんなこと。分かってるんだけどさ」
  でもたとえばさ、と龍麻は真面目な顔をしてから壬生の方に向き直った。
「 壬生に大切な人がいるとするでしょ? で、その人が誰かからに命を狙われていたとするよね。その時壬生は自分の命を投げうってでもその人を助ける? 自分を犠牲にしてさ」
  訊かれて壬生は、不意に自分の母親のことが頭に浮かんだ。
「 …ああ。そうするよ。僕は」
「 だろ? そうしちゃうよな? 俺もそう。みんなが死ぬくらいならさ、俺は自分が死んだ方がいいのっ。でもあいつは……」
  それ以上を言わずに、龍麻は黙りこくった。
  壬生がそんな龍麻を見つめていると、急に聞きたくも無い科白が聞こえてきた。
「 俺…ね。あいつのこと、好きなんだ」
「 ………」
  何も言わない壬生に、龍麻は焦ったようになって両手を振った。
「 あ、あのさ…。こんな事、ヘンだって思うだろ? ははは…ごめん、おかしな事言っちゃった」
「 別に…構わないよ」
  自然声が低くなってしまう。平静を装うことなんて慣れているはずなのに。それでも龍麻には通用したらしい。ほっと安堵したような表情が戻ってくる。
「 良かった。壬生ってそういうの、苦手そうじゃん。だからもしこのこと言ったら軽蔑とかされるかなってちょっと心配してたんだ。でもさ、何か仲間内じゃ結構知れ渡ってるみたいだから、壬生には俺から言っておきたいなって」
「 みんな…知っていることなんだ」
  高見沢から聞いたことは内緒にして聞き返すと、龍麻は少しだけ怒ったように言った。
「 もうさ、美里が言っちゃうんだもん。『うふふ』とか言ってさ〜。案外、こういう時は京一の方が口かたいんだ。あいつは黙っててくれたもん。最初は疑ってぶん殴ったけど」
  わははと龍麻はふざけたように笑ってから、すぐにそれを引っ込めた。
「 彼は…如月さんは、知っているのかい」
「 ああ…知ってるんじゃないの。こんなに広まってれば。俺からは言ってないけどね」
「 そう…なのかな」
  先刻の如月の不快な表情を思い出しながら、壬生は曖昧な声を出した。それには構わずに龍麻が不機嫌そうに声を出す。
「 知らないってなら、ホント鈍感だしさ。知っててあの態度だってんならそれはそれでひどいじゃん。あいつの口から出る言葉って言ったら、ホント戦いのこととか、リーダーはそんなことをしたらいけないんだって。そんなんばっかだよ」
  リーダーとしての、黄龍としての俺にしか興味ないんだよと、龍麻は半ば自暴自棄にそう言った。
  その龍麻の言葉で、壬生は先刻の如月の怒ったような顔がふっと思い返された。だから、よせばいいのに口が出てしまった。
「 違うと…思うよ」
「 え?」
  龍麻が不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。壬生は止めることができなかった。
「 如月さんは龍麻のことが大切だから龍麻に厳しくしているんだよ。龍麻に死んでほしくないから、生きていてほしいから…あんな風に怒るんじゃないかな」
「 何だよ、壬生。翡翠の肩もつんだ」
  つまらなそうに言う龍麻に、壬生はそれでようやくはっと我に返って黙りこくった。
  余計なことを言ってしまった。わざわざ如月のことを弁護するようなことを口にした。
  案の定というかで、壬生にそう言われた龍麻は考えこむようにただ遠くを見つめていた。恐らく、今は目の前にいない彼のことを見ているのだろうと思った。近くにいるのに、決して自分のことを見ていない龍麻。
  ひどく胸が痛んだ。
  けれど彼の考えがまるで自分のことのように理解できたから。思わず言葉を出していたのだ。それもまた仕方のないことだった。
「 僕も…そう思ったから」
  付け加えのようにそう言うと、龍麻は不思議そうな顔をしてから嬉しそうに笑って、壬生の方へどんと体当たりして身体を密着させてきた。
「 へへへー! 壬生ってやっぱすっごいいい奴! 俺、壬生のこと好きだ」
「 ……!」
  そのセリフにぎょっとして、壬生はけれど瞬時に重い気持ちになりながらも、努めてそれを出さないようにして声を出した。
「 僕も…龍麻のことが好きだよ」
「 うん! さんきゅ!」
  龍麻はそう言って笑った。





  翌日、壬生が『如月骨董品店』に赴くと、表には「閉店」の札が下がっていた。らしくもなく苛立ちを感じて、壬生は乱暴にがんがんと表戸を叩いた。
  すると、やがて奥から音がして店主の如月が不機嫌そうな顔と共に現れた。
「 君はこの文字が読めないのかい」
  今日は学校にも行っていなかったのだろうか。現代の高校生には似つかわしくない和装姿の彼は、しかしそれを隙なく着こなした、いかにも店主といった様相を呈していた。
「 ………」
「 何か入用かい」
「 ………」
  なかなか口を開かない壬生に、如月は呆れたような顔をしてからため息をついた。それから戸は開けたままだが、壬生に背を向け、店の奥へ消えようとする。
  壬生はようやくその背中に、声をかけた。
「 如月さん」
「 ………」
  そして如月が振り返ったと同時に、言っていた。
「 僕は龍麻のことが好きです」
「 ………」
「 彼のことが…大切です」
「 ……そうか」
  如月の表情に変化はなかった。感情のないような、「無」の眼だった。自分はいつもそうありたいと思って失敗しているというのに。だから自然、らしくもなくムキになった。
「 僕は貴方とは違う。好きだから、大切だから、龍麻に優しい言葉もかけます。好きだから、彼のことを責めたりもしない。あなたとは方法が違うかもしれないが、彼が無茶なことをする分は、僕が龍麻のことを護ります」
「 ………」
「 伝えましたから」
「 ……分かった」
  如月は頷くと、再び壬生に背中を見せ、店の奥へと去って行ってしまった。
  壬生は黙ってその後ろ姿を見送った後、 自らも踵を返して早々に店を出た。

  自分の想いは彼に負けないはずだった。だから、これからも龍麻と共にいたいと思った。
  何かを欲しいと思ったのは、これが初めてだった。



<完>





■後記・・・京一をひどい目に遭わせることには慣れている私(爆)も、壬生をかわいそうにするっていうのにはちょっと参りました。辛かったです。しかしこのSSはどう考えても壬生主のような気がするので…当初は如主の部屋に置いていましたがこちらに置き換えました(だってやっぱりこれ壬生主だよ)。