理想の展開
「 ひーちゃん。俺さ、彼女ができたんだよ」
もうすぐ高校生活も終わりになろうとしているある日の放課後、京一は龍麻をこっそりと校舎裏に呼び出して、照れたようにその話を切り出した。
「 え……?」
「 へへへ…。相手は那雲摩紀ちゃんって言ってさ。ほら、俺が拳武のごたごたの時に世話になった」
「 あ、う、うん……」
龍麻の戸窓いをよそに、京一は続けた。
「 柳生との闘いも終わって一段落ついたし、何と言ってもひーちゃんは俺の親友だし。そろそろ言っておいてもいいかなって思ってよ!」
「 そうなんだ……」
「 何だよー、ひーちゃん! もっと祝福してくれよ! 親友にやーっとあったかい春が来たってのによ〜。あ、分かった、ひーちゃん、あれだろ! 自分にだけ彼女ができないもんでいじけてんだろ!」
「 そ、そんな事ないよ」
「 そうかあ? けど醍醐と小蒔の奴も予想通りにくっついたし。あとはまあ、学校内じゃー、高嶺の花とは言っても、俺らの憧れ・マリアセンセも犬神の野郎とくっついちまったしなあ」
「 …………」
「 あ、そういえばよ。知ってたか? あの如月の奴にも彼女ができたらしいぜ! 何でも同じ学校の橘とか何とか言ってたかな?」
「 あ、うん…。昨日聞いた」
「 あ、なーんだ。ひーちゃんもやっぱ聞いてたか。あいつがひーちゃんに先に報告しないわけないもんな! ま、何だ。みんな戦いが終わってようやくそっちの方にも意識向けられるようになったって事かな」
「 そうだね」
「 おっと、それじゃ、俺そろそろ行くわ! へへ、実はこれからデートなんだよな! じゃあな、ひーちゃん!」
「 あ、うん」
戸惑いを隠せない龍麻をよそに、京一は跳ねるようにその場からいなくなってしまった。
「 彼女、かあ」
龍麻はつぶやいてから、ふっとため息をついた。それから何ともなしに、もう行く事もなくなった旧校舎を眺める。
つい先だってまではあそこによく潜り、皆と一緒に腕を磨き、励ましあって頑張ってきた。自惚れるつもりはないけれど、龍麻は常にその仲間たちの中心にあって、皆に気を配りながら精一杯のことをしてきたと思う。
けれど、何だか最近とても寂しいと思ってしまう。
闘いが終わってからの仲間たちのカップル成立率は、実に異常な高さを示していた。苦しみを分かち合ってきたからこそ、また縛られた宿命から解放されたからこそ、今彼らは大いに高校生らしい恋愛を楽しんでいるのだと思う。皆が嬉しそうにしているので、一方ではそれはとても喜ばしい事だとは思うのだが。
それでも龍麻は、やはり寂しいと思ってしまう。
自分は不器用だから、闘いの時はそのことだけ一生懸命で、誰か特定の人とだけ仲良くしたり、ましてや恋愛感情を抱くことなどできなかった。それ自体は別に間違っていなかったと思う。
けれどその使命をやっと終えてふと我に返った時、周囲にいたはずの仲間たちは皆が皆それぞれと恋に落ち、龍麻の周りには誰1人として近しい人間がいなくなってしまったのだ。
何だか置いていかれた気がする。
「 本当は京一のことだってちゃんとお祝いしてあげたいのにな…」
龍麻はぽつりとつぶやいてから、1人寂しく校舎を出た。この頃はみんなと一緒に帰ることもなくなっていた。
「 あ、龍麻さん!」
「 あ…比良坂さん。それに……」
「 やあ、龍麻」
「 壬生……」
駅近くで偶然声をかけられ龍麻が振り返ると、そこには仲良く肩を並べた比良坂と壬生の姿があった。
「 2人でデート…?」
この2人も最近付き合い始めたのを知っていた龍麻は、薄っすらと微笑してそう訊いた。比良坂はその質問にぱっと顔を赤らめて、困ったように俯いたが、そんな彼女に愛しそうな視線を向ける壬生が代わりに龍麻に応えた。
「 今日は久しぶりに僕も仕事がなかったから。二人で映画でも観ようって事になったんだ」
「 へえ…いいね」
「 龍麻さん、皆さんはお元気ですか?」
「 え? ああ、あいつら? うん、元気だよ」
「 平和な世界になって、本当に良かったですよね!」
「 うん」
幸せそうな2人は平穏の訪れた東京の街で2人だけの世界を満喫しているようだ。龍麻もつられたように笑顔を見せてから、これ以上邪魔をしてはいけないだろうと早々に立ち去った。
しかし、偶然というのは続けば続くものである。龍麻はその後も仲睦まじく歩いていてる仲間たちに立て続けに会うことになった。
「 アニキー!!」
「 龍麻様、ご機嫌如何ですか?」
「 うん、元気だよ。劉も雛乃ちゃんも元気そうだよね」
「 な、な、聞いてアニキ! これからわいらな、めっさ美味いて評判の中華料理屋に行くんやー!」
「 うふふ…もう、劉様、ずっとこの調子で子供みたいにはしゃいでらっしゃるんですよ」
「 そらそうやー!! 何せ雛はんと2人っきりでそんな所行けるんやから! わい、昨日はほんまよお眠れんかったんやで!」
「 はは…まあ、あんまり食べ過ぎないようにな」
龍麻は楽しそうな劉たちに自分も笑顔を向けてから、2人の傍を離れた。
「 おお、師匠!! 元気かー!?」
「 龍麻君、久しぶり!! 元気だった?」
「 ああ…紅井も桃香ちゃんも元気そうだね。黒崎も元気?」
「 あ、聞いてくれよ師匠! あいつな、学園の超アイドルといきなり付き合い始めたんだぜー!! くっそお、いつの間にって感じで、俺っちちょっとムカついてんだ!」
「 ちょーっと、猛。それは一体どういう意味かしら?」
紅井の発言に、彼の彼女になったばかりの本郷ことコスモピンクは、きっと眉を吊り上げると厳しい口調で問い詰めた。
「 う…っ! え、えーとそれはだなっ!!」
「 あーんた、実はあの子に興味あったんじゃないでしょーねー!!」
「 イ、イテテテ! 耳引っ張るなっての!!」
「 ははは…まあ2人とも、仲良くやれよ」
龍麻は2人に苦笑してから、その場を離れた。
「 龍麻先輩! お久しぶりです!!」
「 龍麻さん、こんな所でお会いできるなんて、さやか嬉しいです!!」
「 ああ、さやかちゃんは今日は仕事オフなの?」
「 はいっ! それで霧島君とデートしてるんですっ!!」
「 さ、さやかちゃん…! はは…そんなはっきり言われると照れちゃうよ」
にこにこと全開の笑みに、照れたように頬を染める霧島。龍麻はそんな2人を交互に見てから、納得したように言葉を出した。
「 ま、2人は元々付き合ってるみたいなもんだったもんな。これからも仲良くやれよ」
「 はいっ!!」
「 ありがとうございます、先輩!!」
2人の傍にいると、何だか眩しすぎる。
龍麻は急いでその場を離れた。
その後も龍麻はカップルになった仲間たちに会い続けた。まるで皆が龍麻に自分たちの幸せを見てもらいたいが為にわざわざ目の前に現れているようだ。
村雨と芙蓉はいつの間にか良い感じになっていた。
御門の方は薫と正式に付き合い出したらしい。
それから最初は何やら喧嘩ばかりしていたような雨紋は、雪乃と良い雰囲気に。
そして何を思ったか、藤咲は「究極の男らしさに惚れた」と今までは接触の全くなかった紫暮に猛烈アタックをかけて見事両想いになっていた。
舞子は先日看護学校の仲間たちと合コンをした結果、将来有望な医学生と知り合い、仲良くなったらしい。
その他アランは毎日女の子をナンパ、相変わらず恋多き日々を送っているらしいし、マリィも学校に仲の良い男の子ができたらしい。
「 そういえば、天野さんも同じ記者仲間の人と結婚するって言ってたような……」
龍麻はそんな事を独りごちてから電車に乗り、結ばれた多くの仲間たちの事を思い浮かべながら自分の住むアパートへとのろのろと向かった。こんなに早くに家に帰ってもする事なんかないんだよななどと思いながら。
「 あ…れ? 鍵が…?」
しかし、龍麻は自分の部屋の鍵を開けようとして、ドアが開いている事に気がつき、手を止めた。
おかしい。出掛ける時、鍵をかけ忘れてしまったのだろうか。
そんな事を考えながら、龍麻はゆっくりとドアのノブに手を回した。
すると中にはー。
「 お帰りなさい、龍麻」
「 あ……」
そこには、制服姿ながらも清潔感溢れる真っ白なエプロンをつけ、天使の微笑みにも似た表情を浮かべている同級生の姿があった。
「 美里……」
「 うふふ。龍麻、早かったのね。でももう夕飯の支度はできているのよ。あ、でも外は寒かったと思うから、まずはお風呂を先にする?」
「 あ…え、えーと」
玄関越しで戸惑ったような龍麻に、美里は不思議そうに首をかしげ、
「どうかした、龍麻?」とおっとりと訊いてきた。
「 あのさ…えーと、美里は何で中に?」
「 あら、龍麻。私に合鍵渡してくれてたの、忘れたの?」
「 え? そ、そうだったっけ?」
「 そうよ」
きっぱりと、そしてにっこりと笑って応える美里に、龍麻はそうだっただろうかと思いながらも、彼女がそう言うのなら確かにそうなのかもしれないと、妙な納得をして頷いた。
「 うふふ。今日は本当に冷えるわよね。だからお鍋にしようと思って。それからパジャマも、今までの物よりうんと暖かいのを買ってきておいたの」
「 え…あ、ありがとう……」
「 うふふ、いいの。龍麻が喜んでくれるなら、それが私の喜びなんだもの」
「 美里……」
「 早く上がって、龍麻」
美里は未だにやや茫然として玄関に佇む龍麻の傍に寄り、コートを脱がすのを手伝った。
「 あ、ありがと……」
「 うふふ、いいのよ」
美里は実に優しい口調でそう言うと、龍麻のコートを大切そうに腕に抱え、伏し目がちになりながらそっと言った。
「 ねえ龍麻…知っていた? 貴方の傍にはいつも私がいるって……」
「 え……?」
龍麻が戸惑って自分にそう言ってきた美里の方を見ると、彼女はみるみるうちに赤面していき。
それでも、きっぱりと言ってきた。
「 龍麻。貴方には私がいるわ…。誰が何処へ行ってしまおうと…誰と一緒にいることを選ぼうと……私だけは、龍麻。貴方の傍にずっといるわ」
「 美里……」
龍麻は絶句し、何もかも分かっていると言わんばかりの目でこちらを見つめてくる美里の事を自分も黙って見つめ返した。
そして急激に自らの胸が熱くなるのを感じた。
「 ………」
そうか。こうやってずっと傍にい続けててくれたんだ、美里は。
それに今更気がついて、龍麻は急に心が昂ぶり温かい気持ちになった。
「 美里……」
「 龍麻……」
「 俺、お前がいてくれて本当に嬉しい…。これからもずっと俺の傍にいてくれる?」
「 勿論よ」
美里はそう言って再びふわっとした笑みを送り、目の前の愛しい人の胸にそっと寄り添った。
×××××
「 うふふ。どうアンコちゃん、ミサちゃん。私のこの作戦は」
「 ……………」
「 ……う〜ふ〜ふ。さすがのミサちゃんも困っちゃう〜」
「 あ、あのね美里ちゃん……」
「 名づけて! 『ライバルは全消し!!』作戦!! さすがの龍麻も、今まで自分のことを好き好き言ってた連中が知らない間に全員その中でカップルになってしまってうまいこと収まってしまっていたら、寂しくなって悲しくなって孤独を感じてしまうと思うのよ。そんな時! そんな心の傷を私がさっと現れてそっとうめてあげるのっ! どう、完璧でしょう!?」
「 ………いや、でもね………」
「 う〜ふ〜ふ。どうせならミサちゃんにも相手作ったお話作って〜」
ここは裏密が所属するオカルト研究会部室である。
部室内は相変わらず四方を暗幕で仕切られており、そこにいるのは美里と部屋の主・裏密、そしてその裏密と同じクラスの遠野アンコだけである。
遠野は心密かにため息をついた。
美里が親友の小蒔にも内緒の話というから、一体どんなスクープを聞かせてもらえるのかと思いきや。単に皆のアイドル緋勇龍麻を、美里がどのように手に入れるかという「妄想」話を聞かされただけだった。
しかし相手は怒らせるとそれは恐ろしい菩薩眼様である。遠野はすうと大きく息を吐いてから言葉を選んで話し始めた。
「 でもね、あの…美里ちゃん? その作戦を成功させるには、大前提としてみんながカップルにならなきゃいけないわけよね? 龍麻君にゾッコンのみんなを、どうやったらそんな都合良く互いにくっつける事ができるわけ?」
「 うふふ。そこを2人に相談したいと思って♪」
「 ………あのね」
額に手を当ててため息をつく遠野に、裏密がバトンタッチで応えた。
「 うふふ〜。でも醍醐君と小蒔ちゃんあたりなら〜うまくいってしまいそうな気配〜」
しかし美里はひどく残念そうに首を横に振った。
「 それが駄目なのよ。くっつきそうで意外にくっつかないのがあの2人でね…。どっちも龍麻にフラれたらお互いにくっつこうかしらねって感じの打算な臭いがして仕方ないの」
「 美里ちゃん、そんなボロクソな…」
仮にも小蒔は親友だと言うのに、龍麻が絡むと全ての人間が敵に見えてしまう美里である。その中で自分たちだけが例外で選ばれた事は、喜ばしい事なのか悔しがるべきなのか。
そんな事に頭を悩ませる遠野には構わずに、美里は続けた。
「 でもね、何だかんだで一番の難敵はやはりあの3人ね」
「 ん…? 3人というとやはり…?」
「 勿論、京一君、如月君、壬生君の3人よ。うふふ、この3人がさっき言っていた子たちとさくっとくっつけば問題ないんだけど」
「 あ〜駄目駄目。特に比良坂さん絡めるのは駄目でしょ! 比良坂さんの龍麻君へのストーカーっぷりは並じゃない! このアタシですら負ける」
「 あらアンコちゃん。龍麻をストーカーしてたの?」
「 うっ! い、いや〜それは取材としてねっ」
「 壬生君もひーちゃんにゾッコン〜だよ〜」
助け舟なのか、それともただ単に面白がっているのか、裏密が横に入って言葉を投げてきた。美里がそちらに意識を向けたので、遠野はひとまずほっとした。
「 壬生君…やっぱり龍麻のこと狙っていると思う、ミサちゃん?」
「 私の〜占いによると〜ひーちゃんを狙ってない〜男は〜いない〜」
「 げっ…ミサちゃん、それ本当?」
「 うふふふふふ…何て腐った連中なのかしら……」
「 た、確かに……」
裏密の占いに全幅の信頼を置いている遠野は、さすがに
「 全員の男共が龍麻を狙っている 」という結果に唖然とした。これでは、美里がイラつく気持ちも分からないではない。
美里はいつの間にやったのだろうか、裏密の背後の壁に貼り付けた「憎きライバルたち」の写真を一つ一つ見やりながらため息をついた。しかしその憂いの中でも美里の目はどこか爛々と光っており、遠野の背筋を寒くさせた。
ちなみに、要注意人物の京一・如月・壬生の三人の写真には、丁度彼らの目玉のあたりに太く大きな釘が強く深く突き刺さっている。
その恐ろしい光景に遠野がもう一度身体を震わせたその時――。
コンコンコン……。
部室のドアを丁寧にノックする音が響いた。
「 あ……」
「 誰かしら?」
遠野と美里が声を漏らす。すっかり3人だけの空間に慣れていたため、外からの音に2人は何だか違和感を抱いた。
「 どうぞ〜開いているよ〜」
1人相変わらずのマイペースを保っていた裏密がしかしあっさりとその外からの訪問者に声をかけると、その扉はすぐに開いた。そしてドアをノックしていた人物がひょいと顔を出す。
「 龍麻!」
それは美里たちの会話の主役、緋勇龍麻その人だった。
「 あ、良かった、美里。ここにいたんだ。何処にもいないからさ、探していたんだ」
「 私を…?」
現れた龍麻に急にしおらしくなる美里を見て、遠野は思わず渋面を作った。まったくもって恋する乙女というものは手に負えない。
「 うん。ほら、期末の勉強一緒にしようって言ってただろ? 美里、分からないところ教えてほしいって言ってたし」
「 え、美里ちゃんに分からない問題なんかあるわけな―」
「 ありがとう、龍麻!! 私、嬉しいわ!!」
遠野の声を自らの声でかき消した美里は、ころっとした笑顔で龍麻を見やり、にこにことしてその愛しい人の傍に寄った。
「 それじゃ行きましょう。私の家? それとも龍麻の―」
「 あ、ううん。みんなもいるから、図書館がいいかな」
龍麻のあっさりとした返答に美里の肩がぴくんと揺れるのを遠野は見逃さなかった。
「 えっとさ。翡翠と壬生も来るって言ってるんだけどいいよね? あいつらも期末近いんだって。それにほら、あいつらいた方が俺も分からないところ教えてもらえるし」
「 ………そう」
「 あ、あとね。御門がその後家に遊びに来ないかって。御馳走してくれるらしいんだ! だから、勉強は早く終わらせような!」
「 うふふ……そうなの」
「 うん! あ、そうだ。もしかしたら他のみんなも来るかも。何だかんだですぐ集まるよな! みんな仲良しだよな!」
「 うふふ…そうね」
「 み、美里ちゃん?」
遠野の位置からは美里の表情を見ることはできないが、きっと恐ろしい顔をしているに違いない。遠野はごくりと生唾を飲み込んだ。
そして、更にその直後。
「 あれ? このさー、みんなの写真、これって何?」
龍麻が部屋の中に貼られているターゲット…もとい、仲間たちの写真を見つけてさっと部室の中へと入ってきた。
「 みんなの写真じゃん。 うわ、でも何で京一とか翡翠、壬生には…これ、釘? …が、刺さってんの…?」
「 あああ、あの、これはねっ!!」
「 あら、そういえば何かしらね?」
焦るアンコに、美里は白々しくしらばっくれている。
そこでまたしてもいつもの態度で応えてきたのは裏密だ。
「 あのね〜ひーちゃん〜。私たち〜恋占い〜してたの〜。仲間うちで〜相性の良いのは〜誰と誰かって〜」
「 へえ、恋占い!」
龍麻は物珍しそうに言って、さっと京一を指し示した。
「 じゃ、釘刺し終わった人から診断終わってるの? それじゃ京一は誰と一番相性良かった?」
「 龍麻君は〜誰だと思う〜?」
「 うーん、そうだなあ。あ、京一本人に訊いてみよっか! おーい、京一!」
「 何だよひーちゃん、美里いたのか?」
すると今度は部室の外にいたのだろう、京一がさっと入ってきて、胡散臭げに部室を見渡し、何やら尋常ではない空気を感じ取って眉をひそめた。
「 相変わらず暗い部屋だよな〜。何してンだ? 美里いたなら、早く行こうぜ」
「 あのな、みんなで相性占いしてたんだって!」
「 はあ?」
面白そうに言う龍麻に対し、 京一は全く興味がないのだろう。ますます不快な顔をして、裏密の方を恨めしそうに見やった。
「 へっ。俺はそういうのが嫌いなんだよな。信じてもねえしよ!」
そんな京一に、裏密はにいっと笑って一言言った。
「 京一君と〜ひーちゃんの〜相性は〜超最悪〜」
「 な、なな何ィ!!」
「 ……アンタ、信じないんでしょ」
どうせこんなリアクションだと思ったわよ、と遠野は心の中で毒づき、京一を冷めた目で見やった。
「 う…うう…。そ、そうだけどよ……」
「 なあなあ、じゃあ裏密さん! 俺と相性のいい人って誰〜?」
そんな京一の態度には構う風もなく、今度は当の龍麻が身を乗り出して訊いてきた。
「 俺、そういうの結構好きだよ。俺のも占ってよ」
「 さっき〜壬生君〜やったら〜。ひーちゃんと最高って〜出てたよ〜」
「 う、嘘つけえ!!!」
「 きょ、京一!?」
突然大声を出した京一に龍麻がぎょっとしていると、嘘の占いを言った裏密の方は、にししと実に嬉しそうな顔をしてから、さり気なく手にしていたカードを手にした。
「 それから〜如月君も〜最高の相性だったよ〜」
「 へえ、そうなんだ! うん、確かに俺、あいつらとは合うって気がする」
「 ここここの……」
「 京一?」
「 フ、フン!! く、くだらねェ!! う、占いなんか」
「 俺は結構好きだけど」
「 ひ、ひーちゃん!! じゃあ付き合うなら奴らがいいのかよ!」
「 は? ……な、何言ってんだよ、お前……」
「 俺とは最悪の相性って出てんだぞ! ひーちゃん、そんなの信じるのかよ!」
「 ばっかだなあ…俺は良いのを信じて悪いのは信じないタイプなの。だから、京一の方は信じてないよ」
「 ホ、ホントかひーちゃん!?」
「 うん」
龍麻が全く何の害もない顔でパニックになりかけた京一に笑みを向けた時、その背後からゆらーりと美里の陰がたゆたった。
「 龍麻…京一君……」
「 ん? あ、美里。それじゃ行こうか?」
「 ううん…私…まだこの2人に用があるから、先に行っていてくれていいわ」
「 え、そう? うん、じゃあ後でな!」
「 ええ……」
龍麻は美里の陰鬱な気配に気づかないのか、普段通りの態度で美里に手を振ると、必要以上に自分に構ってくる京一と一緒に部室を出て行った。
再び部室の中は3人だけの空間となり、しばらく闇の中に静寂が戻った。
その沈黙に我慢ならなくなったのは、やはり遠野だった。恐る恐る美里を見やる。
「 あ、あの…美…里ちゃん?」
「 うふふふふ………」
「 ひいっ! み、美里ちゃん、落ち着いてねっ。あの、龍麻君ってすごく鈍感っていうか…何ていうか…別に壬生君たちと相性良いって事も純粋に友達として喜んだだけだと思うし」
「 ええ…それは私も分かっているわ……」
「 う〜ふ〜ふ〜。美里ちゃんが〜気にして〜いるのは〜京一君の〜ことだよね〜」
「 えっ……」
「 そうよ、ミサちゃん。うふふ…さっきの彼のあの動揺ぶり…どう思った?」
「 京一君は〜ひーちゃんにラブラブ〜」
「 あ…ま、まあ…それはまず間違いなく…」
そんな事は当に分かっていたはずではあるが、しかしあそこまであからさまだと、いい加減龍麻にも気づかれていいようなものだがと遠野などは思う。
「 でもあれじゃ、京一君が彼女作るなんて絶対ありえないよ、美里ちゃん」
「 そうね……」
美里は遠野の言葉に上の空で応えてから、何事か考えるような素振りを見せ、それから思い立ったようになって顔を上げた。
「 やっぱり彼はまず一番最初に消し去ってしまわねばならない存在のようね」
「 へ?」
「 ミサちゃん、アンコちゃん。作戦変更よ!」
「 え…だ、だから何を……」
「 龍麻は京一君の気持ちに何も気づいてないようだけど。だからこそ、京一君のことだから、いつ思い余って龍麻を押し倒しにかかるか分かったものではないわ」
「 そ、それでどうする気…?」
とてつもなく嫌な予感を抱えながら遠野が問い質すと、美里はきっぱりと言い放った。その姿勢正しい毅然とした姿は、どこからどう見ても闘いに向け決意を固めた戦乙女そのものであった。
「 ミサちゃん、強力な呪いのおまじないを教えて! 京一君を静かにさり気なく抹殺するには、やはり呪術が良いと思うの」
「 み、美里ちゃん、ちょっと落ち着いて!!」
やっぱりそんな事だったかとは思ったものの、美里の決意に満ちた顔を見ると、遠野は異様に不安な気持ちになってしまう。
「 ミ、ミサちゃん、何とか美里ちゃんを止めてよ! このままじゃ、京一君どころか、そのうちみんな狙われちゃうわよ!」
「 面白いから〜止めない〜」
「 そ、そんな…」
「 うふふふふ…。龍麻、待っていてね。今に不毛な男共から貴方を解放してあげるから…。まずは京一君をー」
「 う〜ふ〜京一君に〜どれだけの耐性があるのか〜楽しみ〜」
「 ……はあ。こんなことならアイツらもフツーに彼女見つけた方が安全かもね」
遠野が自らの力の及ぶ範囲外になったと諦めて肩を落とす傍で、2人の怪しげな乙女たちは異様な笑い声を部室内に響かせていた。
「 うふふふふふ」
「 う〜ふ〜ふ〜」
まだまだ続く龍麻争奪戦…!
|