「 なー劉」
「 んー? 何や」
「 これってさあ、変なのかなあ」
「 これって何や?」
「 これ」
  そう言って、龍麻は劉と握っている方の手を挙げた。



  劉と龍麻が何となく2人でいることが多くなったのは、知り合ってから割とすぐの事だった。
  初めて会った時から、どことなく波長の合う奴だなと龍麻は思っていたのだが、どうやらそれは劉も同じだったようで。だから自然と一緒にいる時間が多くなった。
  龍麻が劉に会いたいなと思う時は、大抵劉は龍麻の所へ来てくれたし、それがない時でも龍麻が「来い」と言えば、劉は素直に言うことを聞いた。別に一緒にいて何をするというわけでもなく、他愛も無い話をして食事したりテレビ見たり…。それだけなのだが、それがどうやら居心地が良くて楽しかったりした。
  それで今夜も、2人は龍麻の家で夕食を摂ってテレビでやっているサスペンス映画を何となく観ていたのだが。
  何やら、いつの間にか2人は手を握り合ったりなどしていて。
  そこで先ほどの冒頭の台詞。

「 これって変なのかなあ」

  どちらからそうしてきたのか、お互い分かっていなかった。
  龍麻に訊かれた劉は、んーと考えるような顔をしてから、割と素っ気無く応えた。
「 ああ、何や変かもしれへんなあ」
「 えっ…。 やっぱりそう?」
「 よお分からんけどな。 フツーはこういう事せんのと違う?」
「 うん、俺もさっきからそう思ってた。これが恋愛映画でなくて良かったけど、それにしたって野郎2人で映画観ていて、途中で手つないじゃうなんて、やっぱおかしいよな」
「 じゃ、離そか?」
  そしてまたしても劉はあっさりと言った。そう言いつつも、劉は先に龍麻の手を取ったのは自分のような気がするなあとぼんやりと思った。
  そんな劉に対して龍麻は龍麻で。
「 うう〜」
「 な、何唸ってるん?」
「 う? いや、うーん、何だろう」
「 何だろうって…。わっ、痛ッ! 痛いでアニキ〜! 何するん〜!」
  劉はそう言って思わず情けない声をあげた。 龍麻がつないでいる劉の手を、目一杯力を込めて握ってきたからだった。
「 こ、これじゃ、手ェつないでるっていうより、締められてるのと同じやで!」
「 だって劉がさ、何かあっさりしてるからさあ」
  龍麻は恨めしそうに言ってから、ここでようやくぱっと手を離した。
  ずっと握っていた手の感触がお互い取れて、すっと手のひらを涼しい空気が通り抜けたような感じがした。
  それが何だか気持ち良いのに、空虚で。
「 ………俺さ、見てこれ」
「 ん……?」
  龍麻が劉と握っていた手のひらを見せた。 劉が怪訝な顔をすると龍麻は憮然として言った。
「 すっごい汗かいてんの。俺ね、緊張してたみたい」
「 へ? そ、そうなんか?」
「 うん。 俺、 いっつもお前といてそんな気持ちになることないのに。 何かさ、手、つないでたら変な気持ちになった」
「 ………」
  劉が黙ってそう言った龍麻を見やると、年上の「アニキ」は何やら困ったように視線をあちこちへやって言った。
「 何でだろ。これって変だよな、劉」
「 ……なあ、アニキ」
「 え?」
「 も一回、手、つなごか?」
「 ………な、んで」
「 ええから、つなご」
  劉は途惑う龍麻にはそれ以上言わせないで、今度ははっきりと自分から龍麻の手を取った。しっかりと握って、それから自分の膝にその手を置く。
  テレビの画面ではまたぞろ仰々しい殺人場面が繰り広げられていて、何やら今の雰囲気には不釣合いなことこの上なかったのだが、 劉はそちらへ視線をやってから言った。
「 な、アニキ」
「 ん……」
「 わいもな、何やドキドキしてきたわ」
  そう言って、へへっと笑った。
「 ……遅いよ、俺なんかさっきからなのにさ」
  龍麻が非難がましく言ったが、それでも握られた手は離れることはなかった。
「 ごめんな。わい、そういうの鈍い男やさかい」
「 まあ、いいよ」
  龍麻は応えてから、やっと落ち着いたようになって映画を観始めた。劉はそんな龍麻をちらりと見やってから、また一人微かに笑んだ。
  そして、そっと熱を帯びた手を握り直した。



<完>





■後記…書き終わって読み返した後、思わず「ぎゃっ」と言ってしまったほど、我ながら赤面。初々しいですよね(わはは)。どうやらすっかり乙女ちっく龍麻にハマッてしまった模様。そんなこんなのわたあき様へ奉げる劉主シリーズ第4弾でした。