バニラアイス
あの先輩の事は嫌いじゃありません。ただ、印象が薄いんです。
「 おう諸羽。悪ィな、待ったか」
「 京一先輩! いいえ、全然! 僕も今来たばかりですから!」
久しぶりに「尊敬する京一先輩」と2人で会う約束をしていた事から、その日の霧島は自分でも分かるくらいに浮かれていた。京一とは元々学校が違う為、こうやって前もって会う約束をしておかねばゆっくり話す事も、顔を見る事すら叶わない。それに霧島は普段「親友」さやかの仕事に付き添って遠出をする事が多いし、また京一は京一で―。
「 いやあ、待っただろ? それがここに来る前、ひーちゃんがさ…」
「 …緋勇先輩ですか?」
そう、京一は霧島以上にいつだって忙しい。
その原因である人物の名前が出た事で霧島の声は無意識のうちにくぐもった。
「 緋勇先輩、どうかしたんですか」
「 いや、本人は何でもないって言ってたんだけどよ。放課後、ちょっと具合悪そうでさ。保健室付き合ってた」
「 他の…美里さんたちは?」
「 ああ、あいつらも一緒にな。ったく、俺だけでいいって言ってんのに、小蒔も、暑苦しい醍醐の野郎までついてきちまってよ! ひーちゃんも、あれじゃあ休むに休めねえぜ」
「 そうですか…」
なら京一先輩こそ緋勇先輩の事は皆さんに任せて、僕との約束を優先してくれればいいのに…。
「 あっと…」
思わずそんな子どもじみた我がままが脳裏に浮かび、霧島は慌てて首を振った。
仕方がない。そう、仕方のない事なのだ。
こんな時、霧島はいつも自分にそう言い聞かせる。「京一先輩は本当に責任感の強い人だから、次々と襲い来る敵から緋勇先輩を護ってあげなくてはと思っている、だからいつでも彼優先になるのだ」…と。実際緋勇龍麻は後輩である霧島から見ても「何だか頼りない」存在だった。そう、下手をすれば女性陣の桜井小蒔や美里葵よりも。
「 おい諸羽? どした?」
「 あっ…。いえ、何でもないです!」
思わず考え込んでいた霧島に京一が不思議そうな顔をした。霧島は慌てて笑んでみせた。
「 それで緋勇先輩は本当に大丈夫だったんですか?」
「 まあ…。大丈夫だと思うぜ。いや俺、途中で追い出されちまったから」
「 え?」
霧島が怪訝な顔をすると京一は思い切り苦笑した。
「 ほら、今日お前と会う約束してたろ? それ、ひーちゃん知ってたからさ。『お前は後輩待たせてないで早く行け!』って怒られちまって」
「 え…それは…何だか却って気を遣わせてしまったみたいですみません」
「 は? ははは、ばーか。んな事お前が謝るなって! ま、ひーちゃんはさ、そういう奴なんだよ。律儀っつーか、周りの事ばっか優先っつーか」
「 はあ…」
曖昧に返事をしつつ、霧島は嬉しそうに破顔する京一の顔をまじまじと見やった。今に始まった事ではないが、京一は龍麻の話となると途端表情が変わる。周りに纏っている氣というか、空気がふんわりと優しいものになる気がするのだ。それは龍麻が京一の親友だからとか、ずっと辛い戦いを潜り抜けてきた仲間だからとか、そういうものとはまた別種のもののように思えた。
「 あー…、諸羽。わり」
「 え?」
その時、京一が肩に掛けた木刀を持ち直しながら呻くように言った。
「 何かひーちゃんの事話したらすげえ気になってきた。剣の相手、また今度でいいか? やっぱ俺、ひーちゃんの様子見に戻るわ」
「 い、今からですか?」
思わず驚いた声を発してしまうと、逆にそんな霧島に押されるように京一は早口になった。
「 ああ、さすがにガッコは出たと思うからさ。直接ひーちゃんち行くわ。今の時間ならまだ寝ちまったって事にはならねーと思うし」
「 あ、あの、でも…。京一先輩?」
「 まあ家までは無事だと思うんだ。どうせ頼みもしねーのに美里たちがアパートまで送ったと思うし。けどその後なんだよな、心配は」
「 心配?」
「 ああ!」
訳も分からず鸚鵡返しの霧島には構わず、京一は短く頷いた後はもう走り出していた。そう、これもいつもの事ではあるのだ。京一は龍麻の事となると次の行動が普段の数十倍は早くなる。
「 ちょっ…京一先輩!」
「 わりーな、諸羽!」
慌てて呼び止める霧島に京一は振り返りもせずそう叫んだ。それは夕闇の空にすうっと染み渡り、同時に霧島の耳にもいやにはっきりと響き渡った。
そして京一は更に言った。
「 あいつ…っ。どんなに具合悪くても、自分ちに人入れねーんだよ!」
「 え?」
「 だから余計に心配なんだよっ!」
誰に怒っているのだろう、最後には半ば苛立ったような声で京一はそう声を張り上げた。どんどん遠ざかって行くその背中は、当然の事ながらもう霧島の存在など気にしてはいない。ただひたすらに、大切な親友、相棒、或いはそれ以上の存在であろう人物の元へと向かっていた。
「 ………あ」
一方、見事な置いてきぼりをくらった霧島が自らの「ぽかん」とした状態から立ち直ったのは、それから数十秒後の事だった。折角久しぶりに京一に会えたというのにこれでさよならは悲し過ぎる。慌てて顔を上げ、霧島は京一が目指しているだろう龍麻のアパートへ向けて自らもだっと駆け出した。京一の姿はもう見えない。けれど龍麻の住むアパートへの行き方はよく知っていた。京一が霧島に何度となく話す事と言ったらそれはいつでも龍麻の事で、だから霧島は事によると彼の事ならば「尊敬する京一先輩」の事以上に詳しかったのだ。霧島は龍麻についての無駄知識を異様に持っていた。その事に気づいたのは、今この時が初めてだったのだけれど。
「 ……嘘だろ?」
玄関前に現れた京一と霧島の姿を認めた龍麻は、まず開口一番そう言った。
既に制服は脱いでトレーナーとスウェットパンツ姿になっている。休もうとしているところだったのかもしれない。
「 ひーちゃん大丈夫かよ? やっぱり気になっちまってさ」
京一が照れたようにそう言って笑った。そうして横に立つ霧島の背中をどんと叩き、「コイツも心配だって言うからさ!」などと取り繕うように付け足した。霧島はその手の強さに面食らいながらも、苦笑してぺこりと頭を下げた。
「 先輩、大丈夫ですか。あの、これ差し入れです」
「 え…」
霧島が龍麻に掲げて見せた物はここへ来る途中のコンビニで買った飲み物とアイスクリームだ。熱があるようなら冷たい物が欲しいだろうと思ったし、龍麻が昔ながらのバニラアイスを好きだという事は以前京一に聞いて知っていた。
ちなみに走って走ってようやく京一に追いついた時、「せっかくだから何か買っていった方がいい」と言った霧島に「是非そうしろ! 俺は持ち合わせがない!」ときっぱり言った京一は実に偉そうだった。そして嬉しそうだった。
「 京一。お前、何で来るんだよ」
けれど2人の見舞いは当の龍麻には歓迎できるものではなかったらしい。京一をひどく恨めしそうに見やった後、龍麻は心底恐縮したように霧島に頭を下げた。
「 霧島…。あの、ごめんな。迷惑かけて…」
「 え…僕は、そんな…」
何故自分にだけ謝るのだ。釈然としない想いを抱きながら、霧島はやはりこういうところが龍麻は京一と違うなと思った。初めて会った時もそのどこか遠慮がちな態度が京一と対照的だと感じていた。戦いの時も同じで、豪快で華々しい京一と比べると、龍麻はその陰に隠れて常に戦闘をサポートしているような、「印象の薄い人」というイメージが強かった。
だからかもしれない。霧島が龍麻の事をあまり気に留める事ができなかったのは。
霧島はいつでも「強くて偉い」京一ばかりが気になった。
「 とりあえずひーちゃん、積もる話は中でって事で」
考え込む霧島の横で京一が無理やり明るい口調で改めて口火を切った。
「 ほら、折角諸羽も来た事だしよ。見ろよ、コイツのひーちゃんの為に買ったもん。ひーちゃんの好きなアイス! へへ…ま、情報提供は俺だけどな!」
しかしそんな京一のおちゃらけた態度に龍麻は暫し無反応だった。
そして直後、ぴしりと辺りが凍ったような音と同時に―。
「 京一、お前…ッ! もしかしなくても後輩に金出させたのかぁ〜!?」
「 へ? ……いや、まあ、その…それはほら、あれだ。俺は今月ピンチで…」
「 京一っ!」
「 わあっ、やめろひーちゃん! 熱! 熱上がるぞ! 仕方ねーだろ、カネなかったんだからっ。大体、俺は何も言ってねーのに諸羽が勝手にっ!」
「 こんの、よくもそんな言い方…っ」
「 だから拳を振り上げるなって〜ッ!」
「 ………」
2人の仲が良いんだか悪いんだか(いや、良過ぎる)様子を眺めながら、霧島はふっと「そういえばこんなシーンも慣れっこのはずで、京一の傍にはいつでも龍麻がいたはずなのに、何故自分は今までこんなにも龍麻に注意がいかなかったのだろう」と思った。
いつでも目を引くのは「強い偉い」京一ばかり。
「 あ…霧島…っ」
その時、龍麻がはっとしたようになってまた慌てた声を出した。
「 あの、ごめん…っ。あのさ、俺は平気だから。わざわざ来てくれてありがとう」
「 あ…いえ、それを言うなら京一先輩に…」
また気を遣われてしまった。霧島は今度こそ困ったように首を振った。
自分はただ京一について来ただけだ。それどころか龍麻の具合が悪いと聞いたくせにそれを心配するでもなく、折角の京一との時間を台無しにされた事を残念だと思ったのだ。我ながら最低だ。
「 どうでもいいけどよ、感謝すんなら早く中入れてくれよ。アイスも溶けるぜ?」
多少の自己嫌悪に陥っている霧島には構わず、隣から京一の元気な声がした。
「 な、早くそこどけって」
「 ……いやだ」
しかし龍麻は数秒の沈黙の後、そう言った。
霧島がその台詞にただ驚き目を見開くと、龍麻はそんな後輩の視線が痛かったのか気まずそうな顔をして俯いた。
「 ……緋勇先輩」
何だろう。霧島の胸がこの時不意に高まった。
龍麻のひどく儚げな顔に引き寄せられた。
「 …ごめん」
その龍麻が言った。
「 今日は本当に駄目なんだ。具合悪い。京一も分かるだろ?」
「 ……だから俺を入れろって言ってんの」
すると今度は京一がいやに真剣な顔でそう言った。何だ、一体何があるというのか。2人の空気に霧島は妙な胸騒ぎを覚え、ひたすらに龍麻の顔を見つめた。京一ではなく、今にも崩れ落ちそうな龍麻ばかりに目がいった。
「 ひーちゃん。何でも抱えこもうとすんなよ、苦しいなら―」
「 だから、無理だって。これは俺の問題だから。とにかく入れられない。京一は特に嫌だ」
「 な…何だそりゃ! 何で俺は嫌なんだよっ。訳分かんねー!」
「 煩いっ。とにかく、京一は嫌だっ」
「 ひーちゃん!」
「 それなら!」
余計な事だとは分かっていた。
「 それなら…」
それなのに霧島は気づくとそう発し、ムキになったように声を荒げている2人に手を差し入れ間に入ってしまっていた。
「 何だ…? 諸羽…」
「 霧島…?」
「 ……あの!」
そして意表をつかれた2人が一斉にこちらを見るのを確認した後、霧島は言った。
「 それなら緋勇先輩。僕ならいいでしょう? 僕が先輩の看病をします」
京一のあんなに怒った顔を見たのは初めてだった。やっぱりまずかったかなと思いながら霧島が氷水の張った洗面器と冷やしタオルを寝室にまで運ぶと、既にベッドに入り込んでいた龍麻が開口一番「ごめん」と言った。
「 ……どうして謝るんですか」
「 だって…霧島まで京一に怒られちゃって。……ごめんな」
「 先輩。何だか謝ってばかりですね」
霧島が苦笑して言うと、龍麻は上体を起こした格好のまま項垂れた。
「 謝るよ…。大体霧島、絶対今日の事楽しみにしてたろ? 京一と会うのも久しぶりだっただろ」
「 そうですね」
「 なのに…俺、邪魔しちゃったよな…」
「 先輩…」
ションボリとしている龍麻が何だか小さな子どものようで、霧島は思わず頬を緩めた。自分よりもずっと年下の人に思える。元々さやかからも、「霧島君は人に頼るより頼られたいってタイプよね」などと言われていた。
だから「京一さんの方に懐いたのは意外」だったとも。
あの時は何故そんな風な言われ方をされたのか分からなかった。
「 先輩、気にするなら早く熱下げて下さいね」
ベッドの端に腰をおろして偉そうに言うと、龍麻はますますしゅんとして「うん」と言った。
凄く可愛い。そう思った。
「 それにしてもどうして京一先輩を入れるのは嫌なんですか? あ、でも京一先輩は、緋勇先輩は他の人もこの部屋に入れるのは嫌がるって」
「 うん、そうだよ」
霧島の質問に気まずそうな顔をしながらも龍麻は従順に答えた。その後、すっと顔を上げ火照った頬にタオルを求めて手を伸ばす。
霧島はそれをすかさず先に取って龍麻の額に当てた。
「 あ、ありがと…」
「 横になった方がいいですよ」
「 うん…ごめん」
また謝ったと思いながら黙認していると、龍麻はおとなしく霧島の手からタオルを受け取ってそのままベッドの上に横たわった。その際に触れた手はやはり熱を帯びていた。
「 あのな、俺」
龍麻は目を瞑りながら荒く息を吐いて言った。
「 時々こうなるんだよ。情けないけどさ…。力を抑制しようとして却って力んじゃったり…。セーブし続けて疲れちゃった時なんかに」
「 え…?」
力をセーブしている?
霧島が眉をひそめると龍麻は目を瞑っていてもその気配に気づいたのだろう、やや苦笑して口の端を上げた。
「 そんな無理して抑える必要もないんだろうけど。でも、そうしないとこの部屋にもしょっちゅうヘンなの来るし」
「 ヘンなの?」
「 うん。俺、憑かれるタイプだから」
「 ………」
龍麻が発した言葉の意味を霧島はじっと頭の中で反芻した。
龍麻が普段よりあまり目立たず強そうに見えなかったのは、意識して自分を抑えていたせいだというのだろうか。次々と来る敵を少しでもかわす為に、その体質を表出させないよう気を配っていた? 言われてみれば確かに龍麻は戦闘の時も片手でもう片方の手を抑えて拳を繰り出す事が多かった。もしあれが己の力を最大限に出させない為のものだったとしたら。
「 ずっと…前から、ですか?」
意図せず思いつめたような声を出してしまうと、そんな霧島に龍麻は途端慌てたように両手を振った。
「 あ、意味分からないだろ? 気にするなよ。ただちょっと霊感?っていうの? そういうのが強いってだけ。だから人より《疲れやすい》んだよ。はは、ジジイだな」
「 ………」
「 あ、あの…霧島?」
「 ………」
恐る恐るこちらの顔色を窺う龍麻に、霧島は何とも答えられなかった。どうして気づかなかったのだろうと思った。
自らの存在を消しながら戦うというのは一体どれほど難しい事だろうか。辺りに気を遣い、ひっそりと戦い続けるというのは、どれほどの忍耐力が要るのだろう。
しかし、だからこそだろう。霧島はいつも傍にいる京一や他の仲間たちが龍麻に寄り添う理由がこの時初めて分かった気がした。
龍麻は普段その力を抑圧している為に頼りな気な印象があり、繊細なのだ。
けれどだからこそ、いざその存在を意識してしまうとこんなにも惹き付けられる。
「 先輩…。大丈夫ですか」
思わず発した言葉は何の芸もない月並なものだった。それに心なしか赤面すると、龍麻はそんな霧島に向かって最初こそ驚いたような顔をしたものの、やがてくすくすと笑い出した。そして「あーあ」と呟いた。
「 何…ですか?」
霧島がその反応に分からないという風に首をかしげると、龍麻はぱちぱちと瞬きをした後、困ったように笑った。その笑顔に霧島があからさまに動揺した事になどまるで気づかず。
「 だって霧島、京一みたいな事言う。俺、そういうの嫌なんだ。俺は気を遣われるのは嫌いだよ。だから…ホントはこういうとこ、人に見せたくない」
「 ……だから入れたくない、ですか」
霧島がすぐに訊くと龍麻は「うん」と頷いた。
それからすぐにいたずらっぽい顔になると。
「 それに京一は異形よりも俺にヘンなことするしさ」
「 え?」
「 霧島はされてない?」
「 何をですか?」
本当に分からず霧島が聞き返すと、龍麻は意外そうに首をかしげた。
「 あいつ、触り魔だから。霧島は可愛いから、絶対セクハラされてると思ってたのにされてないの?」
「 は、はあ!? な、何を言ってるんですか!?」
「 霧島も京一の事好きかと思ってた」
「 す、好きですけど! そういうのとは全く違いますよ!」
「 そうなんだ」
「 そうです! 大体、可愛いって何ですか! 先輩こそそんな可愛い顔して!」
「 え?」
「 ……あ」
言った瞬間、霧島の中の時間は暫し止まった。
「 ………」
「 霧島?」
「 ………」
そして霧島は気づいてしまった。今この瞬間、「その」感情に。
「 先輩…」
「 ん…?」
「 あ…いえ…。その、アイス食べますか? さっき僕が買ってきたっ」
「 あ、バニラな! うん、食べたい。嬉しい」
「 ……っ」
「 あのオーソドックスな味がいいんだよな。最近は色々なのが出てるから影薄いけど」
にっこりと笑う龍麻に今度こそ霧島は赤面してしまった。
どうしよう、この人の笑顔が眩し過ぎる。
今まではあんなに目に入らなかった人だったのに、もうこの時は、そんな過去の自分が信じられない。どんな節穴なのかと思ってしまう。京一とは全く違う意味で、霧島はもう龍麻から目を離せなかった。
「 霧島、今度このお礼するから。俺、凄く美味しいアイスクリーム屋知ってるんだ。今度行かないか」
「 ……」
「 あ! 京一も一緒の方が良かったらあいつも…」
「 いえ!」
遠慮がちに言いかけた龍麻の声を霧島は慌ててバッサリと切り捨てた。
そして。
「 その時は絶対2人だけで行きましょう? 京一先輩は甘い物は嫌いだって言ってましたから」
冷凍庫へ入れたバニラを目指しているからだ。霧島は龍麻に背を向けたままそう心の中だけで言い訳した。今、自分が龍麻の顔を見られない理由。そう、それはバニラアイスを取りに行く為。
そして早く早く、自分もその冷たいアイスでクールダウンしたいと思った。
熱くて熱くて仕方がない。身体の底からふつふつと何かが激しく燃え上がり始めていた。
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