12月13日(木)〜冬の花見酒〜


龍麻「あれ、誰もいない」(きょろきょろ)

御門「いますよ」(いつの間にか背後に立っていた)

龍麻「わ、御門! び、びっくりしたー。御門なんだ、今日は」

御門「ええ。がっかりですか」

龍麻「え? そ、そんな事ないよっ。そんな素っ気無く言うなよ」

御門「普通に言っているつもりですがね」


龍麻「う〜ん、でも何か御門の言い方ってどっか怒ってるっぽいし。あ、もしかして待ったか?」


御門「いいえ」

龍麻「そ、そっか。それなら良かったけど……。(相変わらず言葉少ない奴だな・汗)」


御門「…………」(じーっと龍麻を見据える)

龍麻「ど、どうかしたか?」

御門「………いえ。しかし龍麻さん。随分お疲れのようですね」

龍麻「え? …そ、そうかな、そう見えるか? 俺は別に大丈夫だけど……」

御門「……しかし昨日の方がかけた呪術にも気がついていないようだ」

龍麻「え…? 呪術…って…?」


御門「なるほど、今日の貴方のお相手が私と知って、少々悪ふざけをしたようです」(すっと龍麻の顔面に手の平を差し出す御門)


龍麻「わ、悪ふざけ…って…? み、御門……?」(御門の手を避けようとして顔を逸らそうとする龍麻)


御門「静かに……」(しかし御門はそんな龍麻の肩口を片手で抑え、差し出した片方の掌をぐっと握りこみ―)

龍麻「あ……?」(御門の掌に一瞬、何か火花のような物が光ったのを見て驚く龍麻)

御門「……なかなかやりますね、裏密さん」(バチバチッ!と、何か電気のようなものが御門の握られた掌の中で弾けている)

龍麻「御門…? そ、それは何……?」

御門「大した事はありません。悪い虫がつかないようにとの、彼女のおまじないです」(完全にその「何か」を握りつぶして、軽く手の平を振る御門)


龍麻「悪い虫……」

御門「確かに他のロクでもない連中がそれで龍麻さんに触れられないのは良いですけれど、私までその対象となると取り除かないわけにはいきませんからね」

龍麻「そ、それで御門…その手、平気か?」

御門「ええ。問題ありません」

龍麻「そ、そうか…? 何か痛そうだけど…。で、でもまあ、それで、今日は何処へ行く?」

御門「そうですね…。思ったより龍麻さんもお疲れのようですし。今日はゆっくりして頂きましょうか」

龍麻「ゆっくりさせてくれんの?」


御門「ええ。それではどうぞ、龍麻さん」(すっと龍麻に手を差し出す)


龍麻「へ? ……何?」(何かに誘われるように御門の手の平に自分の手を乗せる龍麻)

御門「…すぐに着きます」

龍麻「へ…? あ―」(御門の声を聞きながら、ふっと意識が途切れる龍麻)


―移動後―


御門「着きましたよ、龍麻さん」

龍麻「あ……ここは……?」(見慣れた景色ながらも、きょろきょろと辺りを見渡す)

御門「今日は龍麻さんの為だけにこの空間を開けました」

龍麻「ここって御門が作った異空間だよね」


御門「はい」


龍麻「浜離宮庭園…懐かしいな」


御門「龍麻さん。こちらに食事の用意をさせておきました。どうぞ」(御門の指す方向には、豪華な宴会用の席が設けられていた)

龍麻「うわー! すごい御馳走だ! これ全部食べていいのか!?」(キラキラキラと目を耀かせる龍麻)

御門「勿論です。他にも欲しい物があったらどうぞ。何なりと用意させましょう」


龍麻「うううう〜うまそう〜! どれもこれも美味そうだよー! 嬉しいーー!!」←そんなに飢えていたのか龍麻

御門「フッ…。そんなに慌てなくても誰も取りはしませんよ」

龍麻「うんっ! ありがとな、御門! すっごい、夢みたい! こんな贅沢!!」(ズラリと並べられた御馳走に目をくるくる動かす龍麻)

御門「………」


龍麻「ばくばくばくばくばく…っ!」(欠食児童のようになる龍麻)


御門「……まったく」

龍麻「んん…? ばんがびっばが、びばぼ?」(「何か言ったか、御門?」と訊く龍麻)

御門「……いいえ。気にせず、好きなだけ食べるといいですよ」

龍麻「ぶんっ!!」(「うん!!」と嬉しそうにする龍麻)

御門「フッ…。ああそうそう、龍麻さん。これも一緒にどうですか」(どん!と一升瓶を目の前に置く御門)


龍麻「…んが?」

御門「どうせならとことん行きましょう、今日は」

龍麻「……んぐんぐっ……ごくん。…御門、それって酒?」

御門「そうですよ」

龍麻「そうですよって…。い、いいのか? お前もやるのか?」

御門「ええ」

龍麻「で、でもそれ何かすごく強そうだしさ…。大丈夫かな?」

御門「貴方が倒れても、私がちゃんと介抱してさしあげますよ」

龍麻「い、いや、でも………」

御門「飲みたくないですか」

龍麻「あ、いや、そんなことはないけどっ。(何だ御門!? いつになく強引だな)」

御門「たまには良いじゃないですか」

龍麻「………たまには?」

御門「ええ。たまには」(言いながら、御門は龍麻に杯を渡した。そのまま、有無を言わせずに酒を注ぐ)

龍麻「……じゃあ、貰っちゃおうかな」

御門「はい」(ここで初めてにっこりと笑う御門)

龍麻「……………ふう。美味い」(貰った酒を一気に煽り、改めて周囲の風景に目をやる龍麻。本当に静かである)

御門「龍麻さん」

龍麻「あ…え?」(はっと我に返る龍麻)

御門「何はなくとも…貴方と2人、こうして酒を酌み交わせるというのは喜ばしいことです」

龍麻「え……?」

御門「私はね、龍麻さん…今日の日を、今か今かと、とても楽しみにしていたんですよ」

龍麻「……ッ! え、えっと…(焦)」

御門「ですから―」(すっと目を閉じ、何かを呟く御門。すると―)

龍麻「あー!!」

御門「美味い酒と食べ物には―やはりこれですよね」

龍麻「桜―…!!」(ふと気づくと、周囲の桜の木が満開に咲き乱れている。どこからか吹く風に桃色の小さな花びらが宙に舞う)

御門「冬に見る桜も―なかなか良いでしょう?」

龍麻「すごいっ! めちゃくちゃ綺麗だよ! 御門、ありがとう!!」(感動しきりの龍麻)

御門「………」(静かに微笑する御門)

龍麻「本当に…すごく綺麗だよ。何だか……」

御門「龍麻さん。今日は徹底的に飲みましょう」

龍麻「………うんッ! 俺、とことん行くぞ! 御門こそ、覚悟しておけよ!!」

御門「フフ…私はそう簡単に潰れはしませんよ」

龍麻「よーっし、じゃあ勝負な! 負けた方は勝った方の言う事を1個聞く!」

御門「良いのですか、そんな約束をしてしまって」

龍麻「おう! だって俺負けないもん! へへ、俺が勝ったらどうしよっかな…。超高級料亭とか連れてってもらおうかな!」(ご機嫌)

御門「お安い御用です。私が勝っても、それくらいいつでも叶えてさしあげますよ」

龍麻「へ? あ、そ、そう? じゃあ…うーん、たまった宿題とかやってもらおっかな」

御門「それもやって差し上げます」

龍麻「ええ!? えっと、えっとそれじゃあ…。それじゃあ…」(悩み中)

御門「………」(面白そうに龍麻を眺める御門)


龍麻「まあ、いっか! とにかく勝負な! いっぱい飲もうぜ!!」

御門「はい。それで龍麻さん」

龍麻「ん、何?」

御門「もし私が勝ったら…龍麻さんには、私の言う事を一つ聞いてもらいますよ」(にっこり)



アンコ「……あ〜おいしそう。お金持ちっていいわね(ほう)。私にも一口〜(悶)」(桜の木の陰から)



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