12月15日(土)〜今日は一緒に〜


龍麻「う〜ん!! 今日はデート休み…かあ」(思い切り伸びをする龍麻)

アンコ「そうなのよ」

龍麻「わっ。と、遠野! 急に登場するなよ」

アンコ「とりあえず、毎日この企画に付き合ってくれてる龍麻君に休養日をプレゼントよv あんまり立て続けなのも疲れるでしょ」

龍麻「うん。まあ、そうだね」

アンコ「(にや)あら、どうしたの? 元気ない言い方しちゃって。誰かとデートしている方が良かった?」


龍麻「ん…。そういうわけじゃないけど…。日程がぎりぎりのせいで、辞退した人いるんだろ」


アンコ「いるわよ。辞退っていうか、参加したくてもできなかった人とかいるんだから。道心先生とか龍山先生。敵だと唐須とか凶津とか武蔵山とか」

龍麻「…………壬生は?」


アンコ「壬生君? ああ〜彼はね、別にいいって。龍麻君、毎日で大変そうだからって」

龍麻「で、でもさ。最初は参加しようとしてたんだろ? それなのにそんな遠慮しなくたっていいじゃんか」

アンコ「そ〜んな事アタシに言われたってねえ…。ま、とにかく今日は龍麻君の自由にしていい日なわけよ。だから龍麻君が気になるなら、壬生君とこ行けばいいじゃない」

龍麻「!! あ、そっか。そうだよな! 何かうっかりしてた! そうかそうか…俺が自分から行けばいいんだ?」(ぽんと手を叩いて)

アンコ「………。(龍麻君、いっつも迫られてばっかりだから、逆パターンには頭が回らないのね…)」

龍麻「じゃ、俺行ってくる…って、あれ…アイツ、何処いるかな? 仕事とかかな…」(不安そうにする龍麻)

アンコ「あ〜はいはい、壬生君は自宅にいます! もう調査済み! さあ行った行った!」(もう何て可愛いのかしら、龍麻君ってば!)←心の中で悶えるアンコ


龍麻「あ、サンキュー! じゃあ、行ってくるな!!」(だだだと駆けて行く龍麻)



―移動後―


龍麻「壬生、何してるかな?」(ピンポーン!と壬生宅のインターホンを鳴らす龍麻)

壬生「はい……?」

龍麻「あ、壬生! オッス!!」(笑顔全開)

壬生「……………龍麻?」


龍麻「へへへ、遊びに来たんだけど!」

壬生「………」(茫然)

龍麻「……? ……遊びに来たんだけど、さ……」

壬生「…………ああ。そうなのかい」(どことなくよそよそしい壬生)

龍麻「……えーっと、その。何かしてたか? 迷惑だったかな?」

壬生「……いや、そんな事はないよ。でもいいのかい? 今日は誰かと予定ないの?」

龍麻「うん、ないよ。俺、今日は完全休養日!!」


壬生「そうなの。……あ、あがるかい?」


龍麻「う、うん…。(やっぱり迷惑だったのかな?)」


―壬生の部屋にて―


龍麻「あ、本。本読んでたのか?」(テーブルの上にある読みかけの文庫本を見つけて)

壬生「……ああ、まあ。今日は仕事も入っていなくて、特にする事もなかったから」(龍麻にお茶を淹れてきた壬生)

龍麻「お母さんのお見舞いとかは行かなくてもいいのか?」

壬生「………そうだね」

龍麻「………? 壬生……?」


壬生「え?」


龍麻「あ、いや……何でも………」


壬生「………」

龍麻(ど、どうしたんだろ、壬生…)

壬生「………龍麻」


龍麻「えっ…?」(急に声をかけられてびくっとなる龍麻)

壬生「あとどれくらい……」

龍麻「うん?」

壬生「………。いや、ごめん。何でもないよ」


龍麻「……。なあ、壬生っ! これからさ、どっか遊びに行かないか?」(無理やり明るくしようとする龍麻)


壬生「これから……?」

龍麻「うん! 何処でもいいけどさっ。壬生の行きたい所! 折角の休みじゃん。出かけないと損だろ?」

壬生「でも龍麻こそせっかくの休みだろ。今日くらい休んでいた方がいいんじゃないの」(どことなく落ち着かない様子の壬生)

龍麻「別に俺は毎日誰かと遊んでるだけだし、疲れてないよ。そりゃさ、たまには変な奴も出てくるけど」(ちょっと冗談めかしながら苦笑する龍麻)

壬生「…………」(ふっと表情が翳る壬生)

龍麻「……壬生?」

壬生「…………ん」


龍麻「なあ壬生っ(焦)! 何でそんな黙ってるんだよっ! 俺来たの、迷惑だったのかよ? それに…それにさ、お前は俺と会いたくなかったわけ?」

壬生「え……?」

龍麻「だって昨日、ホントは壬生の日だったって紫暮が言ってたぞ。自分はいいって言ったって。何で?」

壬生「…………」

龍麻「俺が大変そうだからって言ったのか? 遠野がそう言ってた」

壬生「別に……」

龍麻「え……?」

壬生「別にそんなんじゃないよ。そうは言ったけどね…。気が変わったんだ」

龍麻「な、何で…?」

壬生「何で? ……そんなのは僕の勝手だろ」

龍麻「むっ! そ、そりゃそうだけどさ…っ!」

壬生「龍麻。何で来たんだ?」

龍麻「え…何でって……」

壬生「そうやってみんなにいい顔してないと不安かい? 誰か1人でも自分の事を向いていないというのは不快かな」

龍麻「壬、生……?」

壬生「……別に僕は最初から君と特別話したい事も行きたい所もあったわけじゃないんだ。だから紫暮さんに譲ったんだ。それだけだよ」

龍麻「………嘘だ」

壬生「……嘘じゃないよ」

龍麻「………嘘だよ」(じっと壬生を見つめる龍麻。少し悲しそうだ)

壬生「僕自身が嘘じゃないって―」(そんな龍麻から目を逸らす壬生)

龍麻「うるさい! いいから立てよ、壬生! 出かけようって言っただろ! 行こう!!」(がばりと立ち上がり、驚く壬生の腕をひっつかむ龍麻)

壬生「何を―」

龍麻「行こうったら行こう! なあ、じゃあ俺が行きたい所! 壬生が行きたい所が特にないなら、俺が決めていいだろ?」

壬生「……龍麻」

龍麻「な、行こう?」(ちょっとだけ笑って見せる龍麻)


―移動後―


壬生「龍麻、本当にここが君の行きたかった所なのかい?」

龍麻「そうだよ」

壬生「……君が海月に興味があるなんて知らなかったよ」

龍麻「別に海月だけじゃないけど…。エイもピラニアもタツノオトシゴもイルカも見られるじゃん!」

壬生「………」

龍麻「壬生、水族館なんて普段来ないだろ? 俺も来ないけど…でもさ、こうやって―」(長細い海月の水槽の前に来て、手すりに寄りかかる龍麻)

壬生「龍麻?」

龍麻「ぼーっとさ。水槽の向こう眺めているだけでも、妙に落ち着いたりするんだよなあ」(目が穏やかになる。視線は漂う海月を追っている)

壬生「………」

龍麻「普段さっ! ほら、結構無理して話したりしなきゃいけないこともあるし」

壬生「気も遣うし?」

龍麻「そうだよっ」(くるりと振り返って壬生に微笑みかける龍麻)

壬生「……僕にも?」(一瞬辛そうな表情を見せる壬生)

龍麻「馬鹿、壬生は違うよっ! だったら休みの日にわざわざ会いに来るかってーの!」

壬生「………」

龍麻「それにさっ、ほら、ここって静かだろ? 俺あんまり騒がしい所好きじゃないから」

壬生「そうだね…」

龍麻「そうだろ、壬生もそうだと思った! へへ、特に壬生はさ、あんまり街中歩いていると女の子たちがキャーキャー言うから大変だよな」

壬生「それは龍麻の方だろ」

龍麻「んな事ないよ! ここに来るまでだってさ、みんな壬生の事見てんだもん。モテる男は辛いよな」

壬生「それも龍麻のことだろ」

龍麻「………壬生、また怒り出した」

壬生「………ごめん」

龍麻「あれ、今度は謝るんだ?」

壬生「……龍麻。何だかどうしていいか分からないんだ。僕は……僕は、今までこういう気持ちになった事がないから…どうしていいか分からないんだ」

龍麻「何でそんな顔するんだよ、壬生…」

壬生「みんなといる君がすごく嫌なんだ。すごく……我慢ならない。だから君に腹が立つし、そんな事を考えている自分にも居た堪れなくて。今日、君を見た時、僕は自分の頭がおかしくなるかと思った…っ!」

龍麻「………馬鹿」

壬生「毎日君は誰と会ってどんな話をしているんだろうって考えると…自分に与えられた1日もどうでも良くなった。そうでもしなきゃ君と話せないって分かっているのに、イライラしたんだ。馬鹿馬鹿しくなったんだ」

龍麻「うん」

壬生「でも……」

龍麻「うん」

壬生「でも龍麻。本当は……君が来てくれて、とても嬉しかった」

龍麻「うん。知ってる」

壬生「………ごめん。やっぱり僕はこういう時どうしていいのか、君に何て言えばいいのか分からないよ。みっともない」

龍麻「そんな事ない」

壬生「……龍麻。今さらこんな事言うなんてすごく勝手だけど……」

龍麻「ん?」

壬生「これから……僕とデートしてくれる?」(そっと龍麻の手を握る壬生)

龍麻「壬生……」

壬生「君と…いたいんだ。今日だけでも、一緒にいたいんだ」

龍麻「………」

壬生「勝手だけど」

龍麻「もう…何言ってんだよ。今こうやってデートしてるじゃん。でもま…そうだな、壬生がその気になったんならさ。ここの水族館の特性グッズ買ってよ! 手乗りくじらのぬいぐるみが欲しい。触るとがーって鳴くやつあるんだ」

壬生「龍麻が欲しいのなら、何でも」(安堵したようになり、微笑する壬生)

龍麻「うん! じゃ、行こう!」(龍麻もみるみる大きな笑顔になった)



アンコ「…………うーむ。龍麻君って時々誘い受けよね……」(ナマズの水槽の陰から)



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