12月 7日(金)〜いつもと違うのは〜 |
龍麻「………」 如月「どうした、龍麻? 僕の顔に何かついているかい」 龍麻「あ、う、ううん…っ。何でも……ま、待ったか?」 如月「いや。君は相変わらず時間に正確だ」(腕時計をちらと見て) 龍麻「今日は翡翠なんだ……」 如月「そうだよ」 龍麻「……ふ、ふーん……」 如月「何だい、龍麻?」 龍麻「あ、いや、うーん……。な、何でもないっ(慌)!!」 如月「? ……じゃあ、龍麻。今日1日、よろしく」 龍麻「あ…う、う、うん!」(どもりっ) 如月「………」 龍麻「な、何だよ…?」(何故か赤面の龍麻) 如月「……いや。しかし、さすがに今日あたりになってくると、龍麻もウンザリなのかな」 龍麻「え……?」 如月「みんなとのデートで疲れているんじゃないのかい」 龍麻「あ…うん、そりゃあ…。でも別に大丈夫だよ。だって翡翠は俺を変な所へ連れて行ったり、ヤな事言ったりしないだろ?」 如月「……さあ、どうかな」 龍麻「え?」 如月「……冗談だよ。じゃあ、龍麻。行こうか?」 龍麻「あ、うん。でも何処行くんだ?」 如月「家だよ」 龍麻「へ? あ、如月ン家……?」 ―移動後― 龍麻「お、お邪魔します……」 如月「何だい、龍麻。いつも普通に上がっているじゃないか。そんなに緊張する事もないだろう?」 龍麻「あ、う、うん、そうだよな。でも何か今日は変な感じだ」 如月「そうかい? まあ、適当に寛いでいてくれ。今お茶を持ってくる」 龍麻「あ、うん……」 ―龍麻のいる居間からは障子を開け放した状態で庭が見える。手入れされた植木に池、落ち着いた景観に心が和む― 龍麻「ふわあ……」(ごろんと横に寝っ転がる龍麻) ―静まり返る空間。龍麻は目をつむった― 龍麻(何か今日の翡翠、変だ。いや、俺が変なのかな? …何でアイツの顔見ただけでこんなドキドキするんだろう?) 如月「龍麻」 龍麻「わっ!!」(驚いて飛び起きる龍麻) 如月「……! そんなに慌てて起きなくてもいいさ。こっちこそ済まない。眠かったかい?」(盆にお茶と茶菓子を持って入ってきた如月) 龍麻「ううん! 全然! ごめん、何か思いっきりだらんとしてた!!」 如月「別に構わないさ。いつだってやってるだろう?」 龍麻「う、うん…。(やっぱり、おかしいのは俺の方だ…)」 如月「……ところで龍麻。ちょっと訊きたいんだが、みんなは君と何処へ行ったりするんだい?」(テーブルに盆を置いてから、龍麻の向かいに座る如月) 龍麻「え…それはまあ…何か色々…。(馬鹿か、俺! 答えになってないってーの!!)」←心の中で1人つっこみの龍麻 如月「こうやって自分の家に呼ぶなんて奴はいないかい? 僕ももっと気の利いた所へ君を連れて行った方が良かったのかな」 龍麻「え、そ、そんな…そんなことないよ…っ! 俺はこういうのもすごい嬉しいよ。翡翠の家、好きだし」 如月「でも何だか今日の君は変だよ」 龍麻「そ、そんな事ない…っ」(かーっと赤くなって俯く龍麻) 如月「……それならいいけど。じゃあ龍麻、良かったらこれ食べてみてくれないか。僕が作ったんだ」 龍麻「え……?」(ようやくテーブルに置かれたお茶と茶菓子に目をやる龍麻) 如月「月餅だよ。この間知り合いの骨董商がたまたま持ってきてくれたんだが。普段こういう物をあまり食べない僕でも割と美味いと思ったもんでね。自分でも作ってみたんだ」 龍麻「ひ、翡翠、お菓子なんか作るんだ?」 如月「いや、普段は時間も関心もないし、やらないよ。でも自炊している分、別に抵抗はなかったけどね。それにまあ…今日は特別かな」 龍麻「……特別?」 如月「龍麻が僕のところにいる日だからね」 龍麻「……ッ!(赤面) お、俺、いつもここにいるって言ったのは翡翠じゃないか」 如月「君が僕とだけいられる日だろ。いつもとは違うよ」 龍麻「や、やっぱり……」 如月「ん……?」 龍麻「やっぱり、今日普段と態度が違うのは翡翠の方だ! な、何かさ。いつもと感じが違うもん! お、俺、だから何か変な気持ちがしちゃってるんだ!」 如月「……? 何の話だい、龍麻」 龍麻「お前がそんな風に変だから、俺まで緊張しちゃうんだよ! な、何だよ、2人っきりでいるくらいのことさ…っ!」 如月「………何でもないことかな」 龍麻「な、何でもない……っ」 如月「そうかい? ……まあ、君がそう言うのならそうなのかな」 龍麻「むっ! 何だよそれ……」 如月「別に……」 龍麻「ひ、翡翠! そうやって何か含むような言い方やめろよな! 言いたい事あるならハッキリ言えって!」 如月「それは君の方だろう? 何だい、急につっかかって」 龍麻「つ、つっかかってなんかない…っ」 如月「怒ってるのかい」 龍麻「怒ってないっ!!」 如月「龍麻」 龍麻「!! ………ごめん」(如月に怒られたと思い、しゅんとなる龍麻) 如月「……いいよ。僕こそごめん。どうにも駄目だな、僕は。せめて今日くらい君と楽しく過ごしたいと思うのに」 龍麻「え……何だよ、今日くらいって……」 如月「……何でもないよ。龍麻。それ、食べてくれるかい?」 龍麻「あ…う、うん。……翡翠が作ったお菓子なんてすごく貴重だよな」 如月「そうかな? …だがまあ、そう言ってもらえるなら嬉しいよ。本当はね、龍麻。今日まで色々考えてはみたんだ。連れて行って君が喜びそうな所は何処だろうとか、君が欲しい物は何か、とかね」 龍麻「翡翠が? ……そんなの」 如月「らしくないだろう」 龍麻「そうじゃないよ。そんな風に考えなくても、翡翠はいつだって俺が望むことをしてくれてるよ。今日だって…さ。これ、すごく美味い」 如月「……そうか。良かったよ」 龍麻「本当だぞ! 俺、どんな所へ行くよりもここが好きだし、どんな高価な食い物よりも、翡翠がこうやって作ってくれた物が嬉しいよ。欲しい物だって―」 如月「………」 龍麻「……っ! とにかく、これは美味いの! お前のもくれよ!!」(ばくばくばくっ!!) 如月「フッ…。龍麻、あまり急いで食べると喉に詰まるよ」 龍麻「大丈……うぐっ!? う、うぐんぐんぐ…!!」(慌ててお茶を流し込む龍麻) 如月「全く……本当におかしな人だな、君は……」 龍麻「ぷはー!! あ〜び、びっくりしたー!!」 如月「ところで龍麻。今日は夕飯も御馳走したいと思っているんだけど」 龍麻「え、ホントか!? やったー! じゃあさ、俺あれが食いたい! 肉じゃがとイカと大根の煮物! あ、あと翡翠特性味噌汁!」 如月「君も安上がりな人だな。それじゃいつもと同じじゃないか」(苦笑) 龍麻「いいんだよっ。俺はそれがいいの! 大体…こういのが今日だけみたいな…そういう言い方、やめろよな! 俺、そんなのヤだから! 俺はいつだって―」 如月「……龍麻。今日は泊まっていけよ」 龍麻「え……。あ、う、うん…。…………泊まる」 如月「……それじゃあ、ここから先はシャットアウトだな」(如月、すっと立ち上がって障子を閉める。そしてその間際、これ見よがしに庭越しへ目線をやり、手にしていた小さい機械を握りつぶす) アンコ「あ!! 折角龍麻君に取り付けておいた盗聴器が! キーッ、亀さんめ、やるわねーッ!!」←庭園の木の陰から |