『光と空と月と』



 夕食を共にした後、壬生と龍麻は2人で外に出た。
 別段、特別外に用があるというわけでもなかったのだが、たまたま龍麻が飲みたいと言った飲み物がなく、壬生が1人で買いに行ってくるなどと言い出したものだから、結局2人で近くのコンビニまで出掛ける事になったのだ。
 けれど龍麻は、1人で部屋に残るのは勿論嫌だが、壬生と2人きりでいる事も、今日は何だか緊張してしまうと思った。
「な、なあ壬生。あとついでにビデオとかも借りて行かない?」
 だから思わず、特に望んでもいない事を口にしてしまった。壬生のマンションに戻った後、間がもたなかったりしたらどうしようと考えたせいだった。
 そんな龍麻の意図に気づいているのかいないのか、壬生は快くその提案に頷いてくれたわけだが。


「ねえねえ、見た!? もうすっごいカッコ良くない!?」
「見たよー!! めちゃくちゃ目の保養!!」


 そのレンタルビデオショップで丁度壬生と離れてアクション映画の棚の前にいた龍麻は、突然そう言って興奮したように囁き合う声を聞いて動きを止めた。
 龍麻よりも幾つか年上だろうか、友達同士の女性2人組が自分たちのいる棚の向こう側へ視線をちらちらとやりながら嬉しそうに話をしている。
「ちょっと、1人なのかな? それともどっかに彼女とかいるのかな?」
「え〜あんな美形がこんな日に1人のわけないじゃん! この店のどっかにいるでしょ!!」
「すごい見たい〜! どんな女か見たくない?」
「見たい! あんなカッコいい男の彼女なんだから、それ相応じゃないと何かヤだよね!!」
 努めて小声で話そうとしているのだろうが、すぐ傍にいる龍麻には容易に彼女たちの会話が聞こえるし、誰の事を噂しているのかも分かってしまう。龍麻は何だか自分の存在が恥ずかしくなり、身体を小さくして女性陣の傍を離れた。
(相手は『それ相応』どころか、女じゃないんだけど……)
 1人心の中でそんな事をつぶやきながら、龍麻は何のコーナーを見るともなしに、次々と奥の棚へと移動していった。今、壬生と顔を合わせるのはキツイと思った。彼女たちは壬生が一緒にこの店に来た相手を知りたがっているし、それが自分だと分かってしまうのは壬生に悪いような気がした。
「はあ……」
「龍麻」
「わっ!!」
 しかし。
 龍麻が肩を落として俯き、ため息をついた時、不意に背後からその当人、壬生が声をかけてきた。それに対して龍麻が驚いて大袈裟に飛び退ってしまうと、壬生の方は不思議そうな顔をしてから首をかしげた。
「どうかした、龍麻?」
「あ…う、ううんっ! 別にっ!!」
「借りたい物…決まった?」
「え、えーと……」
 龍麻が困ったようにオロオロすると、壬生は龍麻の背後に並ぶビデオ群を一瞥してから平然とした口調で言った。
「こういうのがいいの?」
「え…?」
 言われて初めて、龍麻は自分が何となく辿り着いたコーナーを見て愕然とした。
「ち、違うよっ! ここここれは…っ!!」
 それは親友の京一ならば喜んでずっと居座り続けて居そうなAVコーナーだった。実際、京一から強引に推し進められて借りた物もあるにはあったのだが、龍麻は自分自身でそういう物を借りた事はなかった。龍麻は急に自分の身体が熱くなるのを感じた。
 それとは対照的に、壬生はいやに冷静だったのだが。
「別にいいけど。龍麻が借りたいのなら」
「か、借りたくないよ! 俺、こんなの見ない!」
「そう? …じゃあどうする?」
「み、壬生の観たい物でいいよっ」
「龍麻はないの、観たい物」
「ない」
 言った後、龍麻ははっとして再び黙りこんでしまった。自分でここに来ようと言ったくせに、あっさり「ない」はないものだ。これでは何の為にわざわざ壬生を付き合わせたのか分からない。
 けれど龍麻はどうしたら良いのかただ混乱してしまい、俯いてしまった。
「それじゃあ…人気の新作でも借りて行く?」
 壬生がようやくそう言って助け舟を出してくれたので、龍麻は何となくほっとしてすぐに何度も頷いた。
 先ほど壬生を見て騒いでいた女性客たちは、連れが龍麻だと知って何事か囁いていたようだったが、龍麻は敢えて聞かないようにして、壬生よりも早く店を出た。


 外は大分冷え込んできていた。


「龍麻、寒くない?」
 すぐに映画を借りて店を出て来た壬生は、店の前で白い息を吐き出している龍麻に開口一番そう訊いてきた。
「ううん。大丈夫」
「………」
「……? 何?」
 何も言わずにいる壬生に龍麻は問い返した。何か言いたい事があってもなかなかすぐに言葉を出さないのは、壬生の悪いところだと思った。
「何だよ、壬生?」
「さっき……」
「ん?」
「………」
 けれどやはり壬生は言葉を出さなかった。その代わり気を取り直したようになって龍麻の顔を真っ直ぐに見やった。
「…・・いや。何でもないよ。帰ろうか」
「? うん…」
 壬生が何を言いたかったのか気になるところではあったが、龍麻は問い返す事ができなかった。
 自分の横を歩く壬生の横顔。
 辺りにはまだ人通りがある。恋人同士や会社帰りの人間など様々ではあったが、やはりいつもとはどこか違う風景に見える。多分自分が意識しすぎているせいだろうと思うのだが。
「今日…」
「え?」
 不意に壬生が話しかけてきた事で龍麻は我に返ったようになり、顔を上げた。壬生は龍麻の方は見ずに空を見上げていたが、白い息を吐き出しながら実に澄んだ声で言ってきた。
「空…青いね」
「え?」
 言われて龍麻は不審な顔をしながら壬生が見上げる夜空に視線をやった。
 もう夜も大分更けてきているというのに、空が青いとはどういう事だろう。
「今日は一日中晴れていたっけ…?」
「今日…? う、うん、ずっと良い天気だったと思うけど」
「そう…か」
「???」
 龍麻は訳が分からずに壬生をただ見つめた。その視線に気づいて壬生はようやく龍麻の方を見て苦笑した。
「変な事言ったかな」
「あ…いや、別にいいんだけど」
「でも…空は明るいだろ?」
「…………」
 再度言われて龍麻はもう一度夜の空を見上げた。
 なるほど、そう言われればそうかもしれない。
 夜の空には厚い雲のかけらが方々に散っていたが、その白色がくっきりと見て取れる。白が映えるその汚れのない空は、確かに「青い」と見えなくもなかった。龍麻は納得して頷いてから、その空を指差した。
「月も。明るい夜だな、言われてみると」
「………龍麻」
「んー?」
「……何でもない。早く帰ろう」
「う、うん……?」
 龍麻は訳も分からないまま、ただ頷くしかなかった。



 壬生のマンションに戻ってすぐに、龍麻は部屋の寒さに身体を震わせた。
「ちょっと留守しただけなのに、すごく冷える…」
「………」
 鍵をかけて、リビングに入ってからも黙ったまま荷物を置く壬生に、龍麻は戸惑いながらも一生懸命声を出した。
「暖房つけるよ? あ、さ、早速さ! 借りてきた映画観よう?」
「うん」
 壬生があっさり言ったので、龍麻はほっとした。
「俺、映画なんて普段あんまり観ないから楽しみ―」
 けれどビデオケースに手を触れながらそう言いかけた時、突然背後から壬生が龍麻を抱きしめてきた。
「み、壬生…ッ?」
 やっぱり今夜の壬生は変だ。龍麻が咄嗟にそう思い身体を堅くすると、壬生が初めて責めるような声を出してきた。
「龍麻…どうしてそんな風に身構えるんだ?」
「え…?」
 ぎくりとして、けれど余計に身体を震わせてしまうと、壬生はそれをたしなめるようにより強く龍麻を抱きしめてきた。
「何だか変だよ。僕を避けている感じだ」
「そ、そんな事―」
 変だと思ったのは自分の方なのに。けれど龍麻はそれを言う事ができなかった。
 壬生が先に言葉を切った。
「じゃあ―」
 そして壬生は龍麻の項に唇を寄せた。
「……ッ!」
 その所作に龍麻がもろに反応を返してしまうと、壬生はそれを更に煽るように何度となく同じ場所に唇を当ててきた。そして離す合間に再び言葉を継ぐ。
「さっきだって、僕から逃げるみたいに―」
「え……」
「何だかそわそわしてた」
「あ、あれは―ッ!」
「何?」
「………あれは………」
「龍麻…。君、気づいてた?」
 壬生は言いながら背後からキスを続け、片手で龍麻のセーターをたくしあげていった。同時に、もう片方の手はズボンのベルトに手をかける。
「あ…み、壬生……ッ」
「みんな君の事を見ていたよ」
「え?」
 龍麻が一瞬その言葉に反応を遅らせると、壬生の方は構わずに背後から龍麻の身体に愛撫を繰り返していった。ベルトを外し、ズボンのホックに手をかける。龍麻は慌てた。
「ちょ…ちょっと待ってよ、壬生…」
「どうして」
「ど、どうしてって…だって、映、画は?」
「観たくないね」
「!」
 きっぱり言われて龍麻は声を詰まらせた。同時に、壬生が自分の股間に手を当ててきたせいで、龍麻は思い切りそれに反応を返してしまった。
「ひぁ…ッ!」
「好きだよ、龍麻……」
「ん…!」
 がくんと身体から力が抜けて、龍麻は膝を折った。それでも後ろから覆い被さってくるように自分に向かってくる壬生の攻めに、龍麻は何もできなくなってしまう。何とか抵抗しようとして壬生の身体を押しのけようと腕だけは出したが、却ってそれを取られ捻られて、龍麻は振り返りざまフローリングの床に押し倒されてしまった。
「……ッ!」
「龍麻……」
 囁くように壬生は龍麻を呼び、戸惑う相手に構う事なく唇を寄せてきた。
「嫌…ッ」
 龍麻にはそのキスを避ける理由などないはずなのに、急な壬生の所作についていけなくて、思わず顔を背けてしまった。
「………嫌かい」
 壬生が表情を翳らせた。それで龍麻はやっとそんな壬生を見据えて抗議の言葉を出すことができた。
「だって…こんなの、いきなりじゃないか」
「………」
「俺だって壬生のことは好きだけど……」
「こういう事はしたくない?」
「………分からない」
「僕もだよ」
 壬生は言ってから、けれどそっと龍麻の唇に自分のものを重ねた。それは触れるくらいの軽いもので、龍麻は目を開いたまま、壬生を見つめたまま、今度はそれを大人しく受け入れてしまった。
「………」
「嫌かい」
「ううん…」
「良かった」
「でも……」
「龍麻。僕だって分からない。どうして君にこういう事がしたいと思うのか」
「壬生……」
「でも―」
 言いながら壬生は今度は龍麻の首筋に唇を寄せ、それから再び龍麻のズボンの中に自分の手を差し入れた。
「あ…ッ! 壬―」
「駄目なんだ、龍麻…。君を見ていると、どうしてもこうしたいと思ってしまう」
「壬生、でも……待って待っ―ひ…ッ!」
 けれど壬生は何か言葉を継ごうとする龍麻には構わず、頭を下げると膝半分まで下着ごと脱がしたズボンから露になった龍麻のものを自分の口に含んだ。
「や…ッ! み、壬生、そ、んな事―」
 ひどい刺激を受けて龍麻はびくびくと身体を震わせた。何とかもがいて壬生の頭を抑えようと腕を伸ばしたが、それは空しく宙を彷徨うだけで、与えられる快感から逃れる事はできなかった。
 壬生は龍麻の性器を丁寧に自らの舌で舐め、吸い上げて、ぎりぎりのところまで追い詰めて行こうとする。龍麻は壬生にされていると考えるだけで頭がおかしくなりそうになったが、それでも言い様のない高揚感で身体が熱くなった。
「はぁ…ッ、う…ん…壬、生……」
 名前を呼ぶと、壬生は余計に龍麻に刺激を与えてきた。恥ずかしくて居た堪れなくて仕方がないのに、龍麻はただ喘ぎ声をもらしてしまった。
「いいよ…龍麻」
「―あぁ…ッ」
 そして龍麻は壬生に促されるまま、1人で絶頂を迎えさせられてしまった。
 何だか涙が出た。

「ひ……ひどいよ、壬生……」
「ごめん」
「…う……」
 1人で射精してしまったことも、それで謝られてしまったことも、龍麻は全部が情けなくなり、一粒流れた後はどんどんと涙が溢れてきてしまった。小さく嗚咽を漏らすと壬生が龍麻の傍に寄ってきて、困ったような視線を向けてきた。
「やっぱり…嫌だった、龍麻…?」
 その悲しそうな声で、龍麻は目を開いた。それで視線が絡み合うと、壬生は龍麻の頬から伝った涙を唇で吸ってきた。
「………嫌じゃ、ないよ……」
 だから言わずにはおれなかった。壬生にそんな顔をしてほしくなくて。
「でも…でも、俺…急だったし……」
「うん」
 壬生が相槌を打って、優しく髪の毛を撫でてきてくれたので、龍麻は次の言葉を出しやすくなった。
「俺ばっかり…こんな…しちゃって…俺だって…ごめん……」
「龍麻……」
「………俺、でも…壬生、好き……」
 そしてしばらくお互いに見つめあうと、やがて壬生が心底苦しそうな顔をして龍麻に口付けをしてきた。そして、その翳った表情のまま龍麻に言った。
「ごめん、龍麻…。僕はもう我慢できそうにない……」
 そうして壬生は自分も下を脱ぐと、龍麻のズボンを全部脱がせて、もう一度口付けをしてきた。
「龍麻…君が欲しい…。僕は…君が……」
「………うん」
 龍麻は壬生の頬を片手で撫で、壬生の何度となく繰り返されるキスを受け入れてから促されるように身体を起こし、後ろを向いた。それから壬生の良いように四つん這いになると、ぎゅっと目をつむる。
「いいよ、壬生…。俺、壬生になら…平気だから……」
「龍麻……」
 壬生は龍麻のその声に導かれるように、龍麻の背中に圧し掛かると、龍麻の尻を割って指を入れてきた。
「ぁう…ッ」
 異物の入り込む感触に龍麻はうめき、つい緊張で力を入れてしまう。すると壬生が再び背後から龍麻のものを片手で握りこんできた。
「あッ!」
「力を抜いて…龍麻……」
「う、ん…ごめん……」
 龍麻は頷きながら謝り、壬生が自分の深奥に何度となく指を差し入れする作業に耐えた。
「龍麻…大丈夫?」
「うん…。壬生…いいから…き、て…」
 龍麻は言って、項垂れながら壬生を呼んだ。壬生はそれに応えるように、龍麻の尻を両手で掴むと、ゆっくりと自分の猛ったものをその場所に挿入してきた。
「あぅ…ッ、う、んぅ…ッ!」
「龍、麻…キツ…い?」
「はぁッ! ぃ…ン…ッ、平…気」
 それでも壬生のモノがどんどん深く奥を突いてくると、龍麻は思わず声をあげてしまっていた。
「いッ…ぁ、あ、あぁ―ッ!」
 背中が反り上がり、龍麻は悲鳴を上げた。中をどんどんと犯される感触に気が遠くなりそうになる。それでも徐々に動きを加え揺さぶられるにつれ、龍麻はいつの間にか自分がそんな壬生の熱に翻弄され、溺れていくのを感じた。
「壬生…ッ! あ、あ…あんッ…んッ!!」
「龍麻…ッ」
 そうして、やがて壬生が龍麻の名前を呼び、その熱を最大限放ってくると。
 龍麻はぐったりとしてしまい、その場に倒れ伏してしまった。



「龍麻。大丈夫?」
「うん」
 行為が終わった後、汚れてしまったリビングから撤退して寝室に移った龍麻はそのまま腰が立たなくなってしまい、ベッドに突っ伏すハメとなった……が、そんな状況に過ぎるほどの世話を焼いてくる壬生にはさすがに苦笑を禁じえなかった。
「平気だって…言ってるのに」
「でも」
「そんな心配そうな顔するなって」
「無理…させたから」
「いいの」
 龍麻は言って、壬生の首に両手を絡ませ抱きついた。壬生は戸惑ったようになりながらもそれを受け入れ、それから熱を確かめるように龍麻の額に手を当てた。
「大袈裟だなあ……」
「君は大事な人だから」
「そ…そう、なんだ……」
 あっさりとそんな台詞を言うなと心の中でつぶやきながら、それでも龍麻は自分が赤面していませんようにと祈った。
 その後再び部屋が静寂に包まれて、龍麻はその沈黙から逃れるようにカーテンの隙間から見える外の光に目を細めた。
「本当に今日は明るい空だね」
「月が良く見えるからね」
 壬生もそれで思い出したように外の景色に目をやった。立ち上がってより空が見えるようにカーテンを開く。
 そして龍麻に背を向けたまま言った。
「君に会うまで…今日がこんなに天気の良い日だったなんて知らなかった」
「え……?」
「だからさっきあんな事言ったんだ」
「ああ……」
「君は…僕にとっての光だから」
「み、壬生…?」
 突然の壬生の台詞に、龍麻はまた面食らった。それでも壬生は構う事なく振り返ると、そんな龍麻に微笑みかけた。
「だからずっと、君の傍にいたい」
「………俺だって」
 龍麻が言うと、壬生は少しだけ寂しそうな顔をした。
「でも君は…みんなにとっての光でもあるから」
「壬生……」
「今日ね…みんなが君を見ていて…すごく心配になったんだ。君が僕のところに来てくれたからこそ、心配になった」
「………」
 龍麻が黙っていると、壬生の方は真っ直ぐな視線を向けてきて実にはっきりと言った。
「だからすごく君を独り占めしたくなった」
「何…言ってんだよ、俺こそ―」

 あのビデオ店で。
 みんなが壬生を見ていて、自分こそ不安になっていたというのに。

 けれど龍麻は何故かその事を言うことができなかった。
 ただ、代わりに―。
「な、壬生」
「ん……」
「俺……今度から、お前のこと名前で呼びたい」
「龍麻……?」
 龍麻の突然の提案に、壬生は眉を寄せた。
「壬生は、俺の特別だから。だから壬生にも、俺は特別って思ってほしいから」
「そんなのは―」
「紅葉」
「………」
「紅葉。早く、こっち来てよ」
「………ああ」
 龍麻に呼ばれ、壬生はゆっくりと自分の名を呼ぶ相手に近づいた。
 そうして、差し出された手をそっと取った。
「………ずっと一緒だよ」
 壬生は言いたい事の半分も黙ってしまう奴だから、それはきっとこちらの事ばかり考えてしまうから、それなら自分が全部言ってしまおうと龍麻は思った。
「………」
「ね、紅葉」
 すると、壬生はそんな龍麻に初めて安堵したような笑みを向け、そして一言発してきた。

「……ありがとう、龍麻」

 夜空だというのに、2人を照らすそれは、一晩中とても明るい青の色を発していた。 




FIN







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