「雨」
〜本日の訪問客・織部雛乃〜


雛乃「龍麻様。ご無沙汰しておりました」

龍麻「あ〜やっぱ今日は雛乃ちゃんかあ」
雛乃「まあ、龍麻様には私が来る事が分かってらっしゃったのですか?」(にっこりと笑んで)
龍麻「うん、まあね。だって昨日が雪乃だったから。それじゃあ後に続くのは雛乃ちゃんかなって」
雛乃「そうですか。それにしても龍麻様」(すすすと龍麻の傍に寄って座る雛乃)
龍麻「んー何?」(雪乃に電源切られたので、また最初から霊場潜り中の龍麻)
雛乃「私…前々から一度お伺いしたいと思っていた事があるのです」
龍麻「だから何?」

雛乃「何故龍麻様は姉様の事は呼び捨てですのに、私には『ちゃん』付けなんですの?」
龍麻「は?」
雛乃「私…何だかとても複雑な気持ちです…」
龍麻「ひ、雛乃ちゃん…?」(こういう時の雛乃にはいつも嫌な予感を感じる龍麻。やや警戒警報発令)
雛乃「私も龍麻様に呼び捨てされたいです…。『ちゃん』付けって、一見親しそうで馴れ馴れしい感じで相手が自分に好意を持っていてくれそうな気配がぷんぷん漂いますけれど、実は適当に流すのに都合が良い、単なるカムフラージュではないかとも思えてしまうのです」
龍麻「な、何言ってんだよ…! そ、そんな事―」

雛乃「龍麻様
龍麻「はいっ?」
雛乃「私…龍麻様の事、お慕いしております」
龍麻「ひ、雛乃ちゃ―

雛乃「これって告白です」(きっぱり)
龍麻「……………」(あんぐり)
雛乃「マジです」
龍麻「そ、それは……」
雛乃「その証拠に、愛満載の手作り弁当まで持参して参りました」

龍麻「それは…どうも……」
雛乃「食べて下さいますか?」(ずずずいっと迫る雛乃)
龍麻「うっ…。そ、それを食べると雛乃ちゃんの想いをOKした事になるのかな」
雛乃「まあ……そうですわね。そういう事になりますわね」
龍麻「……………」

雛乃「食べて下さいますか、龍麻様?」
龍麻「………ごめん」
雛乃「ああっ!」(よろりと項垂れて哀しみに打ちひしがれてっぽい雛乃)
龍麻「ひ、雛乃ちゃん…ッ! ご、ごめん、でも俺―」
雛乃「……………」(顔を上げない雛乃)
龍麻「ごめん…。俺、雛乃ちゃんの事嫌いじゃないんだ。本当だよ? 君のその何ていうのかな…おしとやかなところとか、でも時々大胆なところとか…。その二重人格なところが魅力的だって思うもん。けど…」
雛乃「……………」
龍麻「俺、駄目なんだ。今…どうしても、そういう事考えられないんだ」
雛乃「……………」
龍麻「勿論、ゲームがやりたいからとかってそんな理由じゃないよ? 悪いけど…東京がヤバイから、それが心配だから…っていうわけでもない。ただ…ただ、やっぱり何だかそんな気分になれないんだ」
雛乃「……………」
龍麻「ご、ごめんな、雛乃ちゃん。気を…悪くしたよな?」
雛乃「龍麻様」(ぐいんっといきなり体勢を元に戻す雛乃)
龍麻「わっ!?」(仰け反る龍麻)
雛乃「そういう不器用な事をなさっていると、ロクな人生歩めませんよ」
龍麻「え…?」
雛乃「龍麻様は損な性格をされていると申し上げているのです」
龍麻「雛乃ちゃん…」
雛乃「私、そういう人間を他にも知っています。生まれた時から身近にいたものですから、その人の不器用なところが愛しくもあり…また、苦々しくもありました。どうしてこの人はわざわざ自分を苦しめるような生き方しかできないのかと…」
龍麻「それって…雪乃の事?」
雛乃「さあ、どうでしょう?」(にっこりと笑ってごまかす雛乃)
龍麻「……雛乃ちゃんはどんな風に生きられているの?」
雛乃「思うがままに、ですわ」
龍麻「思うがまま…」

雛乃「ええ、そうです。ですから、龍麻様のようなお方には、この私のような人間が1番しっくりくるのですよ」
龍麻「そ、そうなんだ」
雛乃「ですからこの織部雛乃、こうやって控えめな女の身でありながら勇気を出して告白してさしあげたのに、龍麻様は無下に振ってしまわれて」
龍麻「は、はあ…(汗)。ホント、すいません」
雛乃「許してさしあげますわ」(ころり)
龍麻「……………」
雛乃「でも龍麻様。これだけは覚えておいて下さいませね。ご旅行する際の供の者は…少なくとも私以上にしたたかな人間をお選び下さいませ」
龍麻「え?」
雛乃「旅先では…色いろと大変な事もあると思いますから」
龍麻「う、うん…。やっぱり大変だろうなあ」
雛乃「……でも龍麻様ならきっと何処へ行っても大丈夫ですわ。何処へ行っても…きっと多くの方々にモテまくって惚れられまくって大切にしてもらえますもの」
龍麻「雛乃ちゃん…からかってるの?」(ちょっと嫌そうな龍麻)

雛乃「私、龍麻様と姉様には冗談は申しませんの」
龍麻「あ、そう…」
雛乃「言っても通じそうにないのですもの」
龍麻「は、はあ? そ、それってかなり侮辱だと思うんだけどー!」
雛乃「ふふ…そんな事はありませんわ。誉めているんですよ」
龍麻「そ、そうなのお? …まったく、雛乃ちゃんには、いつも敵わないなあ」
雛乃「………龍麻様。ところでゲームは一度休憩されて、私のお弁当…食べて下さいませ。お腹、空きましたでしょう?」
龍麻「あ、うん、そういえば…。へへ、じゃあ貰うな! 雛乃ちゃんの手作り弁当かー。中身は何なの?」

雛乃「ふふ…甘党の龍麻様のためにこしらえた、スペシャルスイートハニーなお弁当ですわ」
龍麻「……あ、あのさ。念のために訊くけど、ヘンなモノは入ってないよね(汗)?」



以下、次号…







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