「雨」
〜本日の訪問客・天野絵莉〜


天野「フフフッ、龍麻君。どう、具合の方は?」

龍麻「ええ〜?」
天野「なっ、なあに? どうかした、龍麻君?」
龍麻「いや…。でもまさか天野さんまで来るとは…」
天野「アラ。そんなに意外だったかしら」
龍麻「意外ですよ。大のオトナがみんなに混じって何しようってんですか」
天野「まあ、ひどい言い様じゃない。でも…フフ、そうかもね。ホント、私ったらどうしちゃったのかしら?」
龍麻「………取材とか?」

天野「そう言うと思ったけど。でもほら、見てよ。私、今日は仕事道具一つも持ってきてないでしょ」
龍麻「その手にしているのは?」
天野「これ? これはスーパーの袋よ。すぐそこにあったから寄ってきたの」

龍麻「スーパー…」
天野「また何か言いたそうね。龍麻君、思った事はハッキリ口にしないと身体に悪いわよ?」
龍麻「天野さんにスーパーの袋は似合わない」(きっぱり)
天野「生意気な口きいて〜」(龍麻の頭を軽くこずく天野)

龍麻「や、やめて下さいよ、そうやって子供扱いするの…!」
天野「だって子供じゃない?」
龍麻「………まあ」
天野「何か面白くない事があっていじけてるんですって?」

龍麻「………そうですね」
天野「あら。反論しないの?」
龍麻「何だっていいですよ」
天野「………あ、台所借りるわね」
龍麻「何買ってきたんですか?」

天野「えー? 色々。でもとりあえずツナスパ作ろうと思って」
龍麻「天野さんが?」
天野「そうよ。龍麻君、パスタ嫌い?」
龍麻「いや…別に…」
天野「そう。なら良かった」

龍麻「……………」
天野「男の子の1人暮らしなのに、随分綺麗にしてるのね。それに台所用品も一通り揃ってるし。これ本当にちゃんと使っているの?」
龍麻「別の奴が」
天野「え? あらそう。やっぱり龍麻君、モテるんだ」
龍麻「女の子はあんまり来ないですよ。壬生とか…男連中が勝手に使って何か作ってくんです」
天野「うん、だからそういう意味でモテるのねって言ったんだけど」(龍麻に背を向けたまま食事の支度を始める天野)
龍麻「何だ、天野さんも『そういうの』推奨派だったの?」(何やら嫌そうな顔をする龍麻)
天野「私は事実を述べただけよ」
龍麻「……………」
天野「龍麻君はいつもみんなに囲まれているから。ガードが固くて私みたいな人間は特に近寄れないからね。フフ…ちょっとはヤキモチやいたりしちゃうのよ」
龍麻「……何で天野さんがそんなもん妬くんです」
天野「あら、私だって龍麻君と2人だけでゆっくりお話したいって思う気持ちは、みんなと同じよ」
龍麻「……………」
天野「たとえ私が大のオトナでもね」(ちらと振り返って笑みを見せる天野)
龍麻「……根に持つタイプですね」
天野「ジャーナリストは執念深くないとね」
龍麻「それとこれって何か違う気がするけど…」
天野「同じよ。まあ…そんな事はともかく。龍麻君、何か苦手なものある?」
龍麻「え?」
天野「食べ物で」
龍麻「……別に」
天野「嘘々。お肉が苦手だって聞いてるわよ」
龍麻「知ってるならわざわざ聞かないで下さいよ」(段々面倒臭いという顔になっていく龍麻)

天野「龍麻君がね、ちゃんと私と会話する気があるのか確かめたかっただけよ」

龍麻「………そんなの」
天野「ないでしょう?」
龍麻「……………」
天野「別に構わないけどね」
龍麻「……………」
天野「あら、手ごろなお鍋。これ借りるわね」
龍麻「………何で」
天野「え? 何?」
龍麻「適当でもいいんですか?」
天野「何が?」

龍麻「仕事でもないのにこうやって来て。何でかは知らないけど、天野さん俺と話に来たんでしょ。なのに俺がこんなんでもいいんですか」
天野「……………」

龍麻「本当はよくはないでしょ」
天野「そうね……」
龍麻「……じゃあ無理しないで下さいよ」
天野「でも龍麻君が無理しているから」
龍麻「……俺は、そうやって気を遣われるのが嫌いなんです」
天野「分かってるわよそんな事! まったくもう、キミって子は!」(くるりと振り返って龍麻と向き合う天野)
龍麻「天野さん…?」
天野「分かってたの。君がそうやって私なんかには絶対隙を見せないって事はね。…さっきは龍麻君のこと子供だなんて言ったけど…。子供っぽいのは私の方。本当はね、今日押しかけたのもちょっとだけ期待していたからなの。もし悩める龍麻君が弱気にでもなっていたら、隙に乗じて私のモノにできちゃうんじゃないかなってね」

龍麻「……それが子供っぽい天野さんの発想なわけ? ……女の人ってこれだから怖いよ」(苦笑)



以下、次号…







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