| 「雨」 〜本日の訪問客・鳴瀧冬吾〜 |
鳴瀧「龍麻」 龍麻「鳴瀧さん…！ どうして鳴瀧さんまで」 鳴瀧「どうしてという事はないだろう。私が君の心配をしてはいけないか」 龍麻「………別に」 鳴瀧「……ひどい有り様だな」（散らかった部屋を見回して） 龍麻「部屋が汚くたって死にはしないよ」 鳴瀧「子供のような言い訳をするのはやめなさい。…紅葉はどうした」 龍麻「え、壬生？ 壬生が何なの…」 鳴瀧「ここには来ていないのか」 龍麻「……来てないよ。あいつとなんか…もう全然会ってない……」 鳴瀧「……………」 龍麻「俺に呆れてるんじゃないの」 鳴瀧「何故そう思う」 龍麻「何故って…。分かんないよ。何かそんな気がするだけ」 鳴瀧「……あれがここを見たら、きっと呆れもするのだろうがね」 龍麻「うん…。でも、しょーがないなって言いながら掃除とかしてくれそうだ」（壬生の事を思い出し、自然と顔がほころぶ龍麻） 鳴瀧「……………」 龍麻「ねえ…壬生、どうしてる？」 鳴瀧「気になるのか」 龍麻「え、そりゃあ……」 鳴瀧「何故だ。龍麻、君は仲間の事などもうどうでも良いと…そう思っているのではないのかね」 龍麻「なっ…別に俺はそんな事！」 鳴瀧「だが、全てに対して鬱陶しくなっているのだろう。己の宿星にも、その宿星に集ってきた者たちにも」 龍麻「………そんな事はない」 鳴瀧「そうなのか？ だが君は周囲を拒絶し、己の殻に閉じこもろうとしている。黄龍の器という己の立場を憎んでいるのだろう」 龍麻「別に」 鳴瀧「龍麻」 龍麻「鳴瀧さん、俺を説教しようったって駄目だからね。弦麻さんの話をするのもナシだよ。大体、俺は別に両親から貰った命を粗末にするような事はしていないし、自分の使命だってきちんと果たしている」 鳴瀧「……使命」 龍麻「義務って言うと鳴瀧さんは怒るでしょ」 鳴瀧「同じ事だ。龍麻、君は―」 龍麻「うるさいな！」 鳴瀧「龍麻」 龍麻「言っただろ、お説教なんか聞きたくないんだよ！ 確かにあんたは俺の師匠で…俺のこと面倒見てくれてる親みたいな人だけど…。もう放っておいてくれよ！ 過分に干渉するのはやめてくれ！」 鳴瀧「………そうか」 龍麻「いいよ、軽蔑したって。失望したって」 鳴瀧「……………」 龍麻「俺はその方が楽だから」 鳴瀧「……………」 龍麻「……………」 鳴瀧「紅葉の事だが」 龍麻「！」 鳴瀧「今はずっと仕事を休ませている。君のところへ行きたがるだろうと思ったからな。だがまだ来ていないのなら…もし君が望むなら、ここへ来るよう言っておくが」 龍麻「べ、別にいいよ…っ」 鳴瀧「……………」 龍麻「あいつは来れるのに来ないんでしょ。だったら来たくないって事じゃないか。無理やり…来させる必要なんかない」 鳴瀧「いいのか」 龍麻「そんなのは、あいつの自由だから」 鳴瀧「……あれに自由などない」 龍麻「え……」 鳴瀧「……………」 龍麻「それってどういう意味だよ…？」 鳴瀧「私はこれで失礼するよ。邪魔をしたね」 龍麻「ちょっと待ってよ！ どういう意味だって訊いてるんだろ！ 何で壬生には自由がないんだよ！ それって…それってあんたの組織が一生あいつを手離さないからって事？ それともああいう事に一回足を踏み入れた以上、罪の意識からは逃れられないからとか、そういう事…ッ？」 鳴瀧「…確かに紅葉は一生苦しむのだろうな。己の為してきた所業に」 龍麻「……？ まだ何かあるのかよ…！」 鳴瀧「……………」 龍麻「答えろよ！」 鳴瀧「あれは私と同様、陰の世界を生きる者」 龍麻「……！？」 鳴瀧「常に陽に付き従い、陽の傍らで生きる。陽が死ねば、陰も死ぬ。そういうものだ」 龍麻「……言っている意味が…分からない」 鳴瀧「だから私の時間も止まったままだ。君の父…弦麻が死んでからな」 龍麻「………何だよ」 鳴瀧「龍麻。君には迷惑な話だろうが、君の存在は君だけのものではない」 龍麻「何だよ…何だよ、それって！！」 鳴瀧「君がそういう事全てを含めて苦しんでいる事は分かる。だが、これは変えようのない事実なのだ。あれは龍麻、君の傍らでしか生きられぬ者だ。君が動かねばあれも動けぬ」 龍麻「だから俺はそういうのが嫌なんだって言っているだろ！ 鳴瀧さんは分かっているなんて言って、全然分かってないじゃないか！ 俺は俺、壬生は壬生だ！ 何でそんな風に…！」 鳴瀧「……………」 龍麻「何でそんな風に…無理やり俺を動かそうとするんだよ…。俺ばっかりに押し付けるんだよ…」 鳴瀧「それは君が黄龍の器だからだ」 龍麻「ひどいよ鳴瀧さん……」 鳴瀧「私のことは憎んで構わない。だが龍麻…この街を救えるのは、やはり君だけだ」 龍麻「はっ……。この街を苦しめているのも俺自身なのに……」（自嘲気味に笑う龍麻） 以下、次号… |