「雨」 〜本日の訪問客・壬生紅葉〜 |
龍麻「……………」(玄関先で固まる龍麻) 壬生「……上がってもいいかな」 龍麻「あ…ああ、別に…いいけど……」 壬生「じゃあ、お邪魔するよ」 龍麻「……………」 壬生「随分汚れているね」 龍麻「あ…うん……」 壬生「館長の言っていた通りだ」 龍麻「……! まさか鳴瀧さんに言われたから来たのかよ…?」 壬生「……………」 龍麻「そうなんだろ…っ。鳴瀧さんから聞いた。お前、ここのところずっと仕事休ませてもらってるって。本当は来ようと思えばここにだってすぐに来れたのに…!」 壬生「……龍麻」 龍麻「……来れた…のに……」 壬生「……………」 龍麻「本当は来たくなんかなかったんだろ…。鳴瀧さんに命令されて仕方なく来たんだろ…。この汚い部屋の掃除でもしてやれって? それともいつもみたいに飯でも作っていってやれって? 言われて嫌々来たんだろ?」 壬生「……………」 龍麻「そうなんだろっ。でも俺はそんなのいいって言ったんだぜっ。お前が来たくないものを無理やり来させなくたっていいって! あの人にはそう言ったんだ!」 壬生「……………」 龍麻「〜〜〜! な、何黙ってんだよ! 何か言う事ないのかよ…ッ」 壬生「……言うこと……?」 龍麻「そうだよっ。俺にばっかり喋らせるなよ! 何しに来たんだよって訊いてるんだろ!」 壬生「何故来たか……」 龍麻「そうだよ!」 壬生「君に…会いに……」 龍麻「……っ。だ、だから鳴瀧さんに言われて来たんだろ…ッ」 壬生「……………」 龍麻「そ…うなんだろ…ッ!」 壬生「……龍麻」(静かに龍麻に歩み寄る壬生) 龍麻「な……っ!?」 壬生「何をそんなに怯えているの…?」(ぎゅっと強く龍麻を抱きしめる壬生) 龍麻「壬……ッ!」 壬生「どうして…そんな顔をしているんだい…?」 龍麻「そ…そんなっ…て…?」 壬生「すごく不安そうな顔をしているよ」 龍麻「………!」 壬生「僕を見た時の君…。何だかすごく怯えていた」 龍麻「だって…」 壬生「僕が龍麻に何かするとでも思ったの?」 龍麻「……怒ってないのかよ……?」 壬生「怒る…? どうして…?」(すっと龍麻を解放して、不思議そうに見つめてくる壬生) 龍麻「俺、こんなだらしない事になってて…。お前、きっと呆れてるだろうなって思ってたから」 壬生「何を馬鹿な事…」 龍麻「そ、それにっ! いつもだったら俺が病気だって知ったら、壬生はいつもすぐ来てくれたのに、今回は全然来てくれなかったから。絶対俺の事ムカついてんだって思ったんだ。お前はいつもちゃんと独りで頑張れているのに、俺はこんなだから…だから…」 壬生「龍麻」 龍麻「な、何だよ…」 壬生「僕は…怖かったんだ」 龍麻「え……」 壬生「もしいつものように君の所へ行って、君に拒絶されたらどうしようと…。僕なんかが行って迷惑なんじゃないかと思うと、怖くて来られなかったんだ」 龍麻「な…何で、何でそんな…そんな事あるわけないじゃないか!」 壬生「……………」 龍麻「何で壬生がそんな事思う必要があるんだよ? 壬生は俺にとって大切な…存在だし、俺がお前の事迷惑に思うわけないだろ?」 壬生「それでも僕は…」 龍麻「壬生?」 壬生「僕は怖いよ」 龍麻「壬生………」 壬生「もしかすると龍麻…君もそうなのかもしれないけど」 龍麻「あ………」 壬生「どうしてかな? 今回の事を知った時、僕は何故かすぐに君の考えている事が分かった。君の考えている事、君の苦しんでいる事が…まるで自分のもののようだった。でもだからこそ…僕は怖かった」 龍麻「何が……」 壬生「君の傍に行く事」 龍麻「壬生……」 壬生「でもやっぱり…来てしまった」 龍麻「俺…壬生に会いたかったよ…?」 壬生「僕もだ…。君のいない世界なんて僕には考えられない」 龍麻「……………」 壬生「龍麻。他人であるはずの君を…何故僕はこんなにも近くに感じてしまうんだろう?」 龍麻「……………」 壬生「君を怒るだって…? そんな事できるわけないだろう? ただ僕はこんな自分が居た堪れなかっただけだよ」 龍麻「……………」 壬生「龍麻…?」 龍麻「……馬鹿」 壬生「龍麻……」 龍麻「当たり前だ…。だって俺たち、同じなんだから」 壬生「え……」 龍麻「俺たちは同じなんだから」 壬生「でも違う人間だよ」 龍麻「でも同じなんだ、俺と壬生は。だから…一緒にいると安心するんだ」 壬生「僕が来て迷惑じゃなかった…?」 龍麻「馬鹿……何でもっと早く来ないんだよ…っ。いっぱい愚痴だって言えたのに…っ」 壬生「……ごめん」 龍麻「ごめんですむかよっ。しかもやっと来たと思ったら何考えてんだか分からない無表情で黙りこくって! ……泣きそうになっただろ…ッ」 壬生「ごめん、龍麻…。でも…お詫びに今日はずっと一緒にいるから…」 以下、次号… |