《25》
突然だが、場面は鬼道衆たちの現在の心を現すべく、真っ暗闇に変わる。


雷角「あ、あわわわわ…ッ!」
風角「み、美里様〜!」
水角「我らが菩薩眼様〜!」
炎角「俺らのアイドル〜!」
岩角「うおおおん! おでとっても怖いどー!!」
美里「うふふふふ…あらどうしたの、貴方たち…そんな風に後ずさりなんかして…」


にっこりとした笑みを絶やさず、我らが美里様は暗い異空間から相変わらず上体だけを覗かせたまま、怯えて距離を取ろうとする鬼道衆たちに静かな視線を向けていた。
それからちらりと彼らの背後に立つ蓬莱寺京梧を見やる。
ちっ。
やっぱりまだぴんぴんしているじゃないの。
美里様は誰にも聞こえない声でまずそれだけつぶやいた。


雷角「みみみ美里様…ッ! これには深〜いワケがッ【慌】!!」
水風「そ、そうなんですよう! わらわ達は貴女様のお言いつけどおり、こいつを瞬時に消し去ろうとしたんですけどね、どうにも逃げ足の速い奴で…!」
風角「そ、そうそう! そんでコイツ俺らの追跡をかわして逃げようとして…!」
美里「あら。追跡をかわされちゃったの?」
風角「びくっ!!」
岩角「ち、違うどー。でもちゃんとここに釘付けにしてるんだどー」
炎角「イエ! 岩角、お前、うまい事言うな、イエ!」
美里「そう…。釘付けにして、それでこれから5人で彼をどうするつもりなのかしら?」
一同「ぎくうぅっ!!」


美里様の悠然とした笑顔から発せられる言葉に、5人は再び硬直した。
蓬莱寺京梧に襲いかかっても地獄を見るだろう事は確実。
でも美里様の命令を果たせなくても地獄行き勿論確実。
……いや、美里様に限っては地獄行きなんて生温いものじゃ済まないかもしれない。
だったらやはり玉砕しても蓬莱寺京梧に戦いを挑んだ方がマシだろうか…!
うん、そうだ! そっちのが絶対マシだ! じゃあやっぱ奴をやるか!?
……しかし5人が心の中のコンピューターをカチャカチャと動かしてそんな事を考えていた、その時である。


京梧「なあ、そこのあんた」


京梧が、突然口を開いた。
それから驚く鬼道衆たちには目もくれず、京梧はすっと前方へと足を進めると、彼らの姿を隠すようにして美里様の前へ自らの身体を晒した。彼の癖なのか、手にした剣をぽんぽんと肩先で叩きながら。


京梧「よくは分からないけどよ。こいつら、あんたの手下か何かかい」
美里「うふふ…いいえ、違うわ。ただの奴隷よ」
一同「…………(汗)」
京梧「はっ、そうか。まァ何にしろ、あんたの為によく働こうって忠義の厚い奴らなんだろう? こいつらにどんな物騒な事をやらせるつもりだったのかは知らねェが、ひとつ勘弁してやったらどうだ? こんな怯えちまって、余計なお世話だと分かっちゃいるが、こっちまで憐れみを感じちまうぜ」
雷角「な……!?」
水角「わ、わらわ達をかばってる…?」
風角「お、おおお……!」
岩角「もしかしていい人だどー」
炎角「イエッ! ナイス! ナイスキョーゴイエッ!!」
美里「……………」
一同「びくうっ!!」(黙りこくる美里様に石化、再び)
京梧「それよりあんた、俺と何処かで会った事あるかい? どうにも他人って気がしないんだがね」
美里「………そうね。私たちは…私たちの血は、いつの世でも出会う運命にあるの」
京梧「あ……?」
美里「良きライバル…宿命の恋敵としてね……」
京梧「ん〜??」
美里「…………まあいいわ。この者たちに貴方の相手ができるとは思っていなかったもの。敵であるはずの貴方にそんな風に言われては私もけしかける気分が萎えたというもの」
雷角「で、では……!?」
美里「貴方たちに課した使命はなかった事にしてあげるわ」
一同「ほ、本当ですかッ!!」
美里「ええ、本当よ…。この私が嘘をついた事があって…?」
雷角「あ、ありがとうございます、ありがとうございますっ!!」
水角「よ、良かったねえ、わらわ達、殺す事からも殺される事からも逃れられたよ!!」
風角「ホント、良かったぜ!! あ、ありがとうな、京梧!!」(がしいっと固く手を握りしめてくる風角)
京梧「あ…? あ、ああ、まあいいって事よ…(汗)」
岩角「おでもおでも〜!!」(がしいっ)
水角「わらわも〜!!」(がしいっ)
雷角「ではわしも一つ…!!」(がしいっ)
京梧「お、おいお前ら、ちょっと離せよ(汗)!」
炎角「喜びの舞〜♪ ダンス、ダンス!」(すったかすったか!)
京梧「ふう…。まあ、何にしろご主人からの許しが貰えて良かったな。これからはあんま道の往来で怪しげな行動は取るなよ?」
一同「ラジャー!!」
京梧「ははっ…ホント、ヘンな奴ら…。じゃあ、俺はもう行くぜ。それじゃあな、あんたも元気でな」
美里「ええ…。何だか騒がしくしてごめんなさいね…蓬莱寺さん」(微笑〜)


こうして。
京梧は美里様と愉快な奴隷たち…じゃなかった、鬼道衆たちの前から本当に去って行ってしまった。
蓬莱寺京梧を抹殺しようという、彼らの壮大な計画は…いや、この企画は一体何だったのだろうか。
こんな結末で許されるのだろうか。


そう。


許されるわけがないのだ………。


美里「ところでお前たち」
雷角「は? な、何でございましょう、美里様!」
美里「蓬莱寺さんにはうまく丸めこまれてしまったようだけど、後の人たちとは何か接触を持ったりしたの?」
風角「あ、はーいはい! 俺、ひーちゃん様のご先祖様とお会いしました〜!!」
美里「……龍斗と?」
水角「わらわは〜! 自分のご先祖と会って、御屋形様の村で九主布教本作ってました〜!」
雷角「わ、わし…じゃなかった、私は…村人たちの心の安寧と妄想を育てるため、毎日礼拝堂で愛の九主伝導を行っておりました!」(きりりっ)
炎角「俺は〜イエ! 残念ながら何もしてないけど〜イエ! ダンスを江戸の(一部の)世に広めたぜ〜!」
岩角「おでは〜江戸の食べ物の暮らしを研究してたんだど〜!」
美里「そう……」
一同「とりあえず土産話は満載〜♪ 御屋形様にも話したい事いっぱい〜♪」
美里「そう。つまり私は貴方たちの『思いっきり!バケーションin外法な世界』のお手伝いをしてあげたってことね?」


ぴきっ。←何かがひび割れた音


雷角「!!!!!」
水角「そ、そそそそれは……(汗)!!」
風角「あ、あわわわ、そんな滅相も……ッ(慌)!!」
炎角「うおう、まずったぜ、かなりまずったまずった発言!」
岩角「………………」←恐怖で声が出ない


美里「うふふふふ……良かったわね。楽しかったわね」
一同「………………」
美里「蓬莱寺の抹殺どころか、奴に傷一つつけられない。ましてや情けまでかけられ、おまけに村で龍斗と会った? 九主布教をしていたですって? 美里主布教も少しはしてくれたのかしら?」
一同「………………」
美里「うふふふふ……本当に……貴方達って……面白いわね……」
一同「………………」
美里「命令を取り消しにはしてあげたけど…それとこれとは話が別よね…?」
一同「………………」
美里「…………ね?」


一同「に、逃げ―――――ッ!!」



その瞬間、キラッと何かが光った。






こ、怖い…避難しなきゃ…!