《26》 |
鬼道衆たちに容赦なく思いっきりジハードをくらわせた美里様は。 しかし彼らを遠くの彼方へ飛ばしてしまった後、ふうっとため息をついた。 美里「まったく…突然何て事をしてくれるの……」 自らがその身を収めている異空間の中、美里様は不服そうに唇を歪めながらちらとその背後に視線をやった。 この絶対無敵の菩薩眼である自分に気配を感じさせず近づくとはナマイキな。 おまけに人の玩具を勝手に持ち出してこちらに叩きつけてくるなど、失礼にも程がある。 …もっとも、簡単に捕まって利用されているこの玩具も愚かだが。 美里様はちらとそんな事を思ってから、ようやく自分の忠実な下僕に向かって口を開いた。 美里「ウゴー。いつまで張り付いているの。早くどきなさい」 ウゴー「きゅうぅ……」 美里「まったくもう…お前が背中にくっついていると重くて仕方ないのよ」(ばりっ!) ウゴー「ギャ」(べしゃり!) 美里様は自らの背中に突然飛び掛ってきた…否、投げられて張り付いてきたウゴーを乱暴な所作で掴むとそのまま何の躊躇もなく異空間の外である地上に投げ捨てた。 ウゴーは投げられて捨てられてすっかり目を回してしまっている。 しかし美里様はそんな下僕には一切構わず、こちらに近づいてくる人影に冷たい視線を送った。 美里「私の開けた空間に入ってくるなんて、誰の許可を得てのこと?」 しかしゆっくりとした足取りで近づいてきたその影は、ふんと鼻を鳴らしてから唇の端を上げて笑った。 ???「知るか。テメエの指図は受けねェ」 美里「まあ…相変わらず粗野な人ね………九角君」 天童「どっちが」 すっかり美里様の前にその姿を現した人物…我らが天童様は、ふっと不敵な笑みを送った。 それから自分の下僕たち…鬼道衆が飛んで行った方向を眺めやる。 天童「そいつを使った事をごちゃごちゃ言われる筋合いはねえな。お前も人のモンを使って色々楽しもうとしただろ」 美里「あら、あの者たちは勝手にこの私を慕って私の命に従うと言ってきたのよ。無理やり誘拐された私の可愛いウゴーとあの愉快な下僕たちを同列に扱わないでくれる」 ウゴー「ウゴ………」(「ちょっとは誉められてる?」と意識朦朧の中思うウゴー) 天童「黙れ。俺があン時この化け物をお前に投げつけなかったら…お前、本気のジハードをあいつらにかましてただろうが」 美里「うふふ…あら、何の事かしら。手加減はするつもりだったわよ」 天童「どうだかな」(ため息) 美里「本当よ。……でも…うふふ。お優しい主がいて、あの者たちも幸せね……」 美里様はそう言ってから余裕の笑みを浮かべ、天童様と同じく鬼道衆たちが飛ばされたであろう方を見やった。 そう。 完全にお星さまになってしまったと思われた彼ら鬼道衆は、寸でのところでその命を救われていた。 後を追ってきていた天童様が、美里様がジハードをかますその瞬間、咄嗟に手にしていたウゴーを美里様の背中に投げつけたのだ! その為、一瞬そちらに意識を削がれてしまった美里様は、フルパワーでジハードを放つ事ができなかったのである。 美里「でも彼ら…死んではいないだろうけれど、きっと今頃ボロボロの身を寄せ合って泣いているでしょうね」 天童「………楽しそうに言ってンじゃねえよ」 美里「心配?」 天童「……………」 美里「バカな部下ほど可愛いって言うものね」 天童「ホンット、嫌な奴だなお前はよ」(もの凄く嫌そうな顔) 美里「うふふふふ……。ねえ、でも助けに行く前にちょっと覗いてみましょうか」 天童「あん?」 美里「リサーチ開始!」 美里様は訳が分からないという顔をしている天童様には構わずに、不意に楽しそうな顔をすると不思議な《力》を放出した。 すると異空間の中に巨大なスクリーンが浮かび上がり、そこに鬼道衆たちの姿が浮かび上がったのである。 予想通り、ボロボロになって遠くの山中に飛ばされた5人は身を寄せ合って泣いていた。 水角「よよよよ……痛いぞよ痛いぞよ……」 風角「ううう……傷口が開いたよーせっかく治りかけていたのに〜……」 雷角「ぐううぅ…耐えろ、耐えるのだ…! 我ら鬼道衆、このようなところで朽ちるわけにはいかぬ…!」 岩角「うおおんうおおん、腹減ったどー」 炎角「さすがの俺もトーンダウンッ! シャウッ!」←結構元気 水角「それにしても……ここはどこだえ〜?」 雷角「分からん…何処かの山の中のようだが…スタート地点の山かのう?」 岩角「本当がっ!? それなら泰山がいるのかな〜!? うおおーたいざーん(叫)!!」 水角「鬼哭村の近くなら雹ちゃんに助けを求める事ができるかもしれないよっ」 雷角「そ、そうじゃな! 村には危険な奴もいるが…おお、そうだ! 御屋形様のご先祖様に助けを求めようぞ!!」 炎角「おうッ! 御屋形様のご先祖様! お会いしたいぜっイエ!」 水角「!!! わらわも! わらわもすごくお会いしたいぞよっ。御屋形様のご先祖様は天戒様と言うんだよねっ」 風角「そうだそうだ! 俺もあとちょっとで会えるとこだったのによー。話によれば天戒様は本当にすっごい人格者なんだってよ!」 雷角「うむ、それはわしも御神槌から聞いた! 天戒様は村人たち1人1人に大層お心を砕いて下さって、優しく強く、とにかく素晴らしいお方だとか…!」 水角「わらわも雹ちゃんからたくさん聞いたよ! すっごく優しい目をしていて美形なんだって! 色々と大変な事がおありなのに尖った感じが全然なくって、すごく柔らかい物腰のお方だとか…!」 炎角「強い大人の余裕って感じかな〜イエ!」 風角「寛容なお方なんだろーなー。村人たち皆に慕われてさっ。はーお会いしてー」 岩角「……?? おでたちの御屋形様のご先祖様は怒ったりしないのが〜?」 風角「あん? しないしない、すぐに手が出たりしない」 炎角「すぐキレたりしない〜イエ!」 水角「結構何しても許されそう〜♪」 雷角「九主布教しても許されそうだの!」←それはどうかな 岩角「そ、そうなのが〜? 何だか違う人の話を聞いてるようだど〜」 風角「まあ、とにかく! とりあえずお会いして助けてもらおうぜ!」 雷角「ついでに元の時代に帰る方法も聞けたら良いな!」 水角「ついでにひーちゃん様のご先祖様との萌え場面も見られたらいいな!」 炎角「ついでに俺たちの同人本も配りたいなイエ〜」 岩角「おで、ご飯貰いたいどー!」 一同「よっしゃ、そうと決まれば鬼哭村へGO!」 るんたったるんたったるんたった………。(ステップしながら彼らは山の中を歩き始めた) 天童「………おい美里」 美里「なあに」 天童「あいつらすぐに元の時代へ戻せるか」 美里「うふふ……勿論できるわよ」 天童「お前に頼み事なんざしたくねえが……」 美里「先祖に恥を見せたくないものね」 天童「……いいからさっさとやれ」 美里「ひどい言い方…。まあいいわ……うふふ。貴方からのお仕置きを受けるあの子たちを見るの、すごく楽しみだから」 ウゴー「ウゴ……?」(ようやく意識がはっきりして身を起こしたウゴー) 美里「九角君、貴方は先に帰る?」 天童「ああ、屋敷に戻る。あいつら、真っ直ぐ寄越してくれ」 美里「了解……」 天童「おい美里」 美里「なあに」 天童「………荒っぽいやり方でいいからな」 美里「うふふふふ………」 ウゴー「………グオォ……(汗)」 鬼道衆「らんらんらん♪ さあさ、急げや急げや急げ〜♪ 鬼哭村へレッツゴーゴーゴー!」 この上もなく楽しそうに歌う彼ら5人衆。 そんな鬼道衆たちが、歌い踊っている途中で不意に猛烈な嵐に巻き込まれ……それに飲み込まれもみくちゃにされ。 ズタボロになりながらふと気がついた時。 天童「よう。遅かったな、お前ら」 目の前が九角のお屋敷で。 ただし、現代の自分たちが仕える九角天童様のお屋敷で。 自分たちの主がまさに悪鬼のような笑みと共に彼らを出迎えたのは、このすぐ後の事である―。 ウゴー「グオーゴーゴゴ……」(「ご愁傷様……」) 「それゆけ鬼道衆!」完。 |