鬼哭村医院―院長室。
紅葉「失礼します。院長、霜葉先生が診療中に倒れました」
天戒「ん…やれやれ、またか…」
紅葉「本人は軽い貧血だと言ってます」
天戒「あいつがそう言うのなら、そういう事にしておいてやれ」(ため息)
紅葉「はあ…」
龍斗「でもこの間は手術中に倒れたぞ。あいつ思い悩むとすぐ生気失くなっちゃうから。あ、ところでこれは先月の諸経費」(書類を天戒に渡す秘書兼・看護士の龍斗)
天戒「う…胃が…っ」(キリキリ)
龍斗「さすが闇の世界と関わる病院だけあって金が入る時は一気に入るが、踏み倒される時はこれまた派手だな」
紅葉「龍斗さん、そんな呑気な事言ってないで。それで誰なんです、治療費を踏み倒した患者というのは」
龍斗「紅葉、暗殺しに行くか?」
紅葉「……今はその仕事してませんので」(ふいと不機嫌になってそっぽを向く紅葉)
霜葉「失礼する……」(ガチャリとドアを開けて霜葉、登場)
紅葉「あ、霜葉さん。具合はどうですか」
霜葉「もう大丈夫だ……」(しかし顔面蒼白)
龍斗「そう言って、この間も意識朦朧のまま患者の腹の中にメス忘れて縫合しようとしたろ〜。俺が取っておいてやったんだぞ〜」
霜葉「す、すまない、龍…。君に迷惑をかけた……」
龍斗「そうだそうだ、迷惑だー」
霜葉「…………」
天戒「こらこら龍。そうやってすぐ霜葉をからかうのはやめろ。また倒れるぞ」
龍斗「うん。へへへ〜。うっそだよ、霜葉っ。怒ってないよ♪」
霜葉「龍……ありがとう……」(心底ほっとする霜葉)←かわいそう
紅葉(それが天才外科医のする事だろうか…汗)
霜葉「ところで…院長。蓬莱寺が来ていますが」
龍斗「………!」
天戒「何、あいつが…っ。こ、今月は早いな(汗)。まあいい…通してくれ…」
京梧「もういるぜ」(霜葉の背後からひょこりと部屋に入ってくるスーツ姿の京梧)←サラリーマン!?
天戒「ほ、蓬莱寺…。この間の薬の代金の事なら、少し待って欲しいんだがな…」(電卓片手に冷や汗の院長)
京梧「あん?」
紅葉「僕たちも先々月から給料貰ってないほど苦しいんです」
霜葉「そういえば…最近この病院で札を目にしない…」←ひどい
天戒「うぐ…それを言われるとまた胸が痛むが…(汗)。そ、そういうわけで蓬莱寺、久しぶりに会って言うのも何だか、支払いは少し待ってくれないか」
京梧「ははは、んなこったろうと思ったぜ。最近は派手な銃撃戦とか大手術の依頼とか入ってなかったみたいだもんな!」
天戒「ん……?」
京梧「安心しろって。今日は別にその事で来たってわけじゃねえから」
霜葉「すると、お前は今日は何の用で…?」
紅葉「あ…分かった。また龍斗さんをからかいに来たんだ」
京梧「んーそれもあるが…。あれ、そういやそのひーちゃんはいないのか? 受付の所にもいなかったからてっきりここだと思ったんだけどよ」(きょろきょろ)
天戒「お前が来たもんだから逃げたんだろう。あいつはお前が苦手だからな」
京梧「へへ…ひでえなあ。まあ、いいか。それよりよ、今日は貧乏な名医・天戒先生においしい儲け話を持ってきてやったんだぜ?」
紅葉「儲け話…?」
天戒「……お前の話はロクな事がないからな」
霜葉「同感……」
京梧「おいおい、何だよー。ま、とにかくこれを見ろや」(一枚の写真をぴっと天戒のデスクの上に置く京梧)
一同「………これは?」
京梧「患者の名前は、緋勇龍麻」
一同「緋勇龍麻?」
京梧「おう! どうだ、絶世の美人だろ?」
龍斗「………惚れたの?」
紅葉「あ、いつの間に…」(突然京梧の背後から写真を眺めている龍斗に驚く紅葉)
京梧「お、ひーちゃん! よう、久しぶりだなー! 元気だったか?」
龍斗「お前の顔見て元気じゃなくなった」(ふい)
京梧「何だよ冷てェなあ。今日あたり、飯でも一緒しねえ? 奢るぜ?」
龍斗「この龍麻にも奢ってやったの?」
京梧「ん…へへへ…ひーちゃん、妬きもちやいてんのか? 可愛いなあ」
龍斗「………天戒。こいつ、むかつく」
天戒「まあまあ、龍。お前等の言い争いは後回しだ。この写真の…その龍麻という少年がどうしたんだ?」
京梧「おっと、そうだったな。そいつな、俺が新しく開拓した営業先の病院にいた患者なんだけどよ。そこの女院長ってのがこれまた野獣のような奴で、医者という立場を利用してこの龍麻に好き放題し放題の乱暴をだな…」
天戒「な、何…ッ!?」
霜葉「乱暴…? 病気の少年に…?」
京梧「そうなんだよ。そいつ、美少年好きの変態女医で近辺でも有名らしいんだ。ただその医術の腕は…天戒、お前ともタメ張るだろうな」
天戒「…………」
紅葉「それでこの患者をうちの病院に転院させたいって事なんですか?」
霜葉「病名は?」
京梧「それが何の病なのかは俺もよく分からねェんだ。普通の人間がかかる病気とは違うらしくてな。それで龍麻の奴も仕方なく桜ヶ丘病院…あ、その変態女医のいる病院の名前なんだが。そこに身を置いているらしいんだよ。でも俺がここの事を話したら是非自分を診てもらいたいってよ!」
天戒「ふむ…そうか……」
京梧「何でも毎日毎日意味不明の検査と称して素っ裸にされて触診とかされるらしいんだよな。聞いてるこっちがおぞましくなっちまったぜ」
天戒「ななな何…っ! こ、この少年を毎日すっ…!」
霜葉「全裸…触診……」
龍斗「あ〜リアルに想像してる〜」
京梧「…ちなみに、これが女医の近影」(懐から新たな写真を取り出しデスクに置く京梧)
一同「げげっ!!!!!」
紅葉「院長!! す、すぐに!! すぐにでも助けてあげましょう、この少年を!」
霜葉「俺も賛成だ…!」
龍斗「賛成、賛成〜」
京梧「お、ひーちゃんも賛成なんだな?」
龍斗「当たり前。それに、ここに呼んだらお前より先に俺がこの子の事取って食べてやる」
京梧「こらこら…(苦笑)。そうやって急に攻めキャラに変貌するのはよせって」
天戒「……よし、分かった。すぐに入院の手続きをしよう」
紅葉「京梧さん! 彼を迎えに行きましょう、すぐにでも! 僕も行きます!」
霜葉「待て…俺が行こう…」
紅葉「え…! い、いえ、こういう仕事は見習いの僕が…!」
霜葉「彼がここに入院してきたら彼の主治医になるのはこの俺だろう…。それなら早いところ面識を持っておいた方がいいと思う」
紅葉「しゅ、主治医…!」
霜葉「……当然俺だろう?」
龍斗「紅葉もやりたそうな顔してる〜」
紅葉「……霜葉さん。見習と言っても、僕もここの病院に来てもう随分長いです。僕にこの仕事をやらせてもらえないでしょうか!」
霜葉「それは駄目だ」
紅葉「な、何故です!」
霜葉「大事な患者を新米に診させるわけにはいかない。ましてや、彼は深い心の傷を負ってここに来るのだぞ…」
紅葉「だからこそ、僕が傍にいて彼のことを看てあげたいんです!」
龍斗「だめ〜。龍麻を甲斐甲斐しく世話するのはスーパー看護士の俺の仕事。身体拭いてあげたり〜爪も切ってあげるんだ♪」
紅葉「た、龍斗さん! いつもいつもそうやってふざけた物言いをするのはやめて下さい!」
龍斗「ふざけてないよーだ」
霜葉「……とにかく龍麻は俺が診る」
龍斗「駄目ー!」
紅葉「そんなの横暴です!」
京梧「おーい…(汗)。やれやれ…おい院長。こいつら完全に色気づいちまって、何とか言ってやれよ」
天戒「うむ…。いい加減にしないか、お前たち。仮にもこの龍麻君は我が鬼哭村医院の経営難を打破してくれるかもしれない貴重な患者なのだぞ。触診したいとか、全部色々見てみたいとか、そんな不埒な事を考えてはいかん」
京梧「お前が1番不埒じゃねーかッ!!!」(ドゴォッ【殴】!!!!!)
天戒「じょ…冗談…だ……」(吐血)
京梧「ったく…。そういう事を真面目な顔で言うんじゃねー。それで? 結論としては?」
天戒「……うむ、仕方ない。龍麻君はこの俺が直々に診よう」
一同「懲りてねーッ【怒】!!」
龍斗「うわーん、天戒がギャグキャラになるのなんて嫌だよー(泣)」
紅葉「……やっぱり陰の世界で生き続けるとどこか屈折してしまうものなんだな……」
霜葉「ラチがあかんな…。ここはやはり平等にクジ引きで主治医を決めるというのは……」
天戒「こ、こら待て。ここの責任者はこの俺だぞ!」
プルルルル…プルルルル……。
一同「???」
京梧「あ、わり。俺の携帯。はいはーい、さすらいの薬売り、蓬莱寺京梧だぜー。あ、龍麻か?」
一同「!!!」
京梧「あーうんうん、悪い、連絡遅れちまって。今話をつけてるとこ…え? 何だって…? は…? あー、うんうん…」
紅葉「…何なんでしょう」
霜葉「入院の手続きができたかどうかの確認電話だろう」
龍斗「ねーねー。そういえば儲け話って言ってたけど、龍麻の家は大富豪か何かなのか?」
天戒「ふむ…実は俺もさっきからその事が気にかかっていてな」
紅葉「この高貴な表情から言って間違いありません。きっといい所の出なんですよ」
龍斗「じゃあ俺もいいところ出ー?」
紅葉「龍斗さんは突然変異の例外生物」(きっぱり)
龍斗「ひどい紅葉。嫌がらせでキスしちゃうぞ」(ちゅう〜の真似)
紅葉「だ…! だからそういう事すぐするのやめて下さいって…(焦)! も、もう…!」(ひっついてくる龍斗を必死に避ける紅葉)
霜葉「………龍」(ため息)
天戒「まったく仕方のない奴だな」(苦笑)←人の事言えません
京梧「…………」(ぷつりと携帯を切り、急に黙りこむ京梧)
天戒「ん…。おい蓬莱寺。龍麻君は何と言ってきたんだ?」
霜葉「主治医の事なら心配はいらない。この天才外科医・壬生霜葉が…」
龍斗「天才看護士もいるぞ」
紅葉「て、天才見習医師もいます!」
京梧「あー…いやその……」
天戒「? 何だ? 何かあったのか?」
京梧「あのな…はは。実は今、龍麻の方から入院の件はキャンセルにしてくれって…」
紅葉「キャンセル!?」
龍斗「えー何でだよ。ぶーぶー」
天戒「一体、何故だ? 怪物医師がいる病院…彼もいたくないと言っていたんだろう?」
京梧「まあ……そのはずだったんだが」
一同「は?」
京梧「あっちはタダなんだってよ」
紅葉「タダ?」
霜葉「何がだ…?」
京梧「治療費」
天戒「タ、タダだと…!?」
龍斗「太っ腹〜。よくそれで病院やってけるね」
京梧「女医の好みに叶った美形のみ、特別待遇だそうだ」
紅葉「だ、だけど…! 彼は大富豪の息子か何かなのでしょう? そんなセクハラ女医の病院なんかにいるより…!」
京梧「いや大富豪っていうわけでも…。ただ保護者のオッサンは学園の理事か何かで金持ってるって聞いたが…」
霜葉「ならば、無料診療など彼には何の魅力にもならないはずだ」
天戒「そうだ。我が鬼哭村医院のまともな治療を受けた方が彼の病にもいいはずだぞ」←まとも?
京梧「ああ、それは俺も言ったんだがよ。けどな、あいつ律儀だから。自分の特異体質のせいで保護者のおっさんには色々金かけさせてるし。あんまり迷惑かけたくないんだと」
紅葉「そ、そんな…」
天戒「何という健気な少年だ。その為に自分の身体を敢えてケダモノに差し出すというのか…!」←岩山先生ボロクソ言われてます
霜葉「院長、何とかできないか。こうなったら治療費の事は置いておいて、俺は1人の医師として彼を救いたい」
紅葉「僕もです!」
龍斗「どうせ借金してるんだし。この上あと1人くらいに踏み倒されてもどうって事ないだろ」
天戒「そ、それは…お前ら…他人事だな…(苦悩)」
京梧「あーいや。あのな(汗)」
一同「ん…?」
京梧「これは…あんまり言いたくなかったんだが。実は、龍麻がこの病院を断ってきたのには、もう一つ理由があんだよ」
天戒「理由?」
紅葉「何ですか、それは」
京梧「………(汗)。あいつの長年の苦労がそういう拒否反応を起こさせたっていうかな…」
龍斗「はっきり言え。何なんだ」
京梧「……龍麻のやつ。男は駄目なんだってよ」
一同「は……?」
京梧「だからー。たとえ医者でも、男の医者に裸を見せるのは嫌だってよ」
天戒「な、何だそれは…?」
京梧「あいつなー仲間たちから、あ、男連中な。毎日毎晩のように犯されかける危機にあって、それで神経が参っちまったらしいんだ。それ以後、男には人一倍警戒心が働いちまうらしい」
霜葉「そ、それは……」
紅葉「そんな…(汗)」
龍斗「男恐怖症か」
京梧「後でここの事調べたら医師は全員男だって事が分かったからって。だから悪いけど、入院はキャンセルってさ。……まぁ、あいつのその勘もあながち間違ってはいなかったわけだが」
龍斗「みんなで狙いかけたもんね」
天戒「く…っ。これでまた新規患者の受け入れがパーに…!」
紅葉「龍麻…。会ってみたかった…(涙)」
霜葉「……具合が悪くなってきた。もう寝る」(ぶすーっ)
天戒「借金が……」
龍斗「ふわあ。眠い」
京梧「まー…。また何かおいしい話持ってくるからよ。そうガッカリすんなって(汗)」
こうして。
経営難を打開してくれるはずだった天使の登場は儚い夢と消えた。
その後、幻の美少年・龍麻君の病状は、神経性胃炎という事が判明したそうだ。彼も苦労しているらしい。
ほぼ同時期、鬼哭村医院の院長・天戒先生も同じ病で病院のベッドを占拠していたのだが…。
もし、貴方が何らかの病気にかかったら、鬼哭村医院を訪れてみてはどうでしょう。
高い治療費をふっかけられますが、涙を流して歓迎される事間違いなし!
ただし。
貴方が美形の場合は、その貞操にご注意を…。
一同「これじゃあ、ただの変態病院話じゃないかー!!!!!」
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