黒髪龍麻と赤毛の京一



  漆黒の美しい髪をした龍麻と、ちょっとくせっ毛の赤い髪をした京一。
  2人の元気な男の子が、東京のとある街に住んでいました。


  毎朝、2人は寝床から跳ね起きて、朝の光の中へ飛び出して行きました。そうして一日中、一緒に仲良くつるんでいました。

「 京一。朝の軽い運動。手合わせしない?」
  と、龍麻が言いました。
「 えー? ひーちゃんは朝っぱらから元気だなあ。ま、いいか。手加減はしねェぜ?」
  京一がそう言って笑うと、龍麻もにっこり笑って、辺りにその音が響き渡るくらいの威力を持った拳を繰り出しました。
「 やるな、龍麻!」
  すると京一も手にしていた木刀を固く握りこみ、龍麻の技を間一髪避けると、自らも鋭い剣先を突き出します。2人の修行はいつも真剣勝負の中行われます。

「 …………」 
  しかししばらくして、京一は突然剣を出す手を止めました。

  そして、とても悲しそうな顔をしました。
「 どうかしたの?」
  龍麻が訊きました。
「 ああ…。ちょっとな…。考え事してたんだ」
  京一は龍麻にそう答えました。


  それから2人は学校をサボって綺麗な花の咲いている公園で散歩をしました。ぶらぶら歩く事に飽きると、道に落ちているどんぐりを探しながら歩きました。
  しかししばらくすると、京一は突然立ち止まって、またとても悲しそうな顔をしました。
「 どうしたの?」
  龍麻が訊きました。
「 ああ…ちょっと…。考え事をな…」
  京一は龍麻にそう答えました。


  それから2人は公園のベンチに一緒に座って、先ほど自販機で買った冷たい缶コーヒーを飲みました。たくさん歩いて喉が渇いていたのです。特に龍麻は京一が渡してくれたそれがとても美味しかったせいか、もう夢中になってごくごくと勢いよく飲みました。
  すると京一はそんな龍麻の横で、また急にとても悲しそうな顔をしました。
「 どうしたの?」
  龍麻が訊きました。
「 ん…うん……まあ…な……」
  京一は龍麻にそう言うだけでした。


  その後、2人はまた散歩を再開し、街へ出てちょっとだけ買い物もしました。そこでは家にいる時に使おうと、お揃いのカップも買いました。
「 なあ、腹減ったな」
  それから龍麻がそう言ったので、2人は買い物を終えてからいつものラーメン屋さんへ入りました。2人はそこで注文した味噌ラーメンを美味しく頂きました。
  けれどしばらくすると、京一は食べるのをやめ、また悲しそうな顔でじっと龍麻を見つめて黙り込んでしまいました。
「 ……どうしたんだよ、京一」
  それに気づいた龍麻も動かしていた箸を止めて訊きました。
「 考え事を…な……」
  京一は応えました。
「 さっきから何をそんなに考えているんだ?」
  龍麻が訊きました。
「 俺、願い事をしてるんだよ」
  京一が言いました。
「 願い事って?」
  龍麻が訊きました。

「 いつも……いつもいつもいつまでも、お前と…ひーちゃんと一緒にいられますように…ってさ」

  京一は言いました。

「 ………!」
  その言葉を聞いて、龍麻は目を丸くしてじっとそう言った京一の事を見つめ返しました。
  そしてしばらく何事か考えこんで。
「 ……なあ。そのこと、もっと一生懸命願ってみたら?」
  そう、言いました。

「 え……」
  すると京一も龍麻のその言葉に目を丸くして、しかしやがて目をつむると熱っぽい声で言いました。心を込めて言いました。
「 俺は…これから先、いつもひーちゃんと一緒にいたい!」


「 ほんとにそう思う?」
  龍麻が訊きました。
「 ほんとにそう思う」
  京一は答えました。
「 じゃあ」
  すると龍麻はにこりと笑って言いました。
「 それじゃあ、俺、これから先、いつもお前と一緒にいる」
「 ひーちゃ……ホントか?」
「 うん」
「 いつもいつも、いつまでも、だぜ?」
  京一が訊きました。
「 うん! いつもいつも、いつまでもいる!」
  龍麻が答えました。
  そうして龍麻は自らの白い手を、目の前に座る京一に向かってすっと差し伸べました。
  京一はその手をそっと握りました。


  それから2人は店を出て、自分たちが初めて出会った場所である真神学園へ行きました。
  辺りはもうすっかり暗くなっていました。
  校門をくぐり母校の校舎を見渡した後、2人はしんとした月明かりだけが照らすその場所で、互いの唇をそっと重ね合わせました。


  やがて。
  一体どこから察知したものか、2人のこの幸せそうな様子を見に、真神の仲間たちが大勢やってきました。
「 おめでとう、京一、ひーちゃん!」
「 やったじゃない! 大スクープね!」
「 京一。龍麻を不幸にしたら許さんぞ」
  そうしてみんなは京一と龍麻を囲んで輪になると、皆がそれぞれの思いで祝福の言葉を2人に送りました。

  同じ街に住む他の仲間たちも、この噂を聞きつけすぐさまお祝いの品を持って真神学園に集まってきました。そこからは、その場で飲めや歌えの大宴会です。
  明るい月の光の中で、2人を囲んだ野外パーティは一晩中続きました。


  こうして、2人の元気な男の子、黒髪龍麻と赤毛の京一は結婚しました。
  2人は大都会・東京の中で一緒に仲良くラーメンを食べたり、いちゃついたり時には喧嘩したり、そしてゆったりと公園を散歩したりしました。


  それからというもの、京一はもう決して、悲しそうな顔はしませんでしたって。



【完】

(元ネタ:G・ウイリアムズ「しろいうさぎとくろいうさぎ」より)