「悲しいと思う」を選択した場合
三人の兄弟の中では、一番龍麻に対して寛容だった太一兄さんを思うと、龍麻は何だかとても寂しい気持ちになりました。
「ぼ、僕…病院に行かないと…!」
龍麻がそう言うと、壬生青年はすぐに龍麻をその病院に連れて行ってくれました。
太一兄さんは病院のご飯がまずいと言って暴れていましたが、龍麻が来ると嬉しそうにして、飢えた衝動そのままに龍麻のことを食べようとしました。…が、側にいた壬生青年によって再び夢の世界へと送られてしまい、入院は四ヶ月に伸びてしまいました。それでも、元気そうな太一兄さんを見て、龍麻はほっと安心しました(いいのかそれで)。
見舞いが一通り済むと、龍麻は壬生青年に病院まで連れてきてくれたことと、食べられそうになったところを助けてくれたお礼を述べました。
すると、壬生青年は何故だか困ったような顔になり、それから龍麻の方を見て言ったのです。
「龍麻…と言ったよね。君は優しいんだな。こう言っては何だけど、君の兄さんは危険な人だよ。君はいつもあんな風に…その、襲われかけたりするのかい」
「うん…」
龍麻が頷くと、壬生青年はますますいたたまれないような顔をしてから、何か言いたそうな顔をしました。龍麻はそれに気づきません。
「…でも、僕みたいなみにくい弟をああやって相手してくれるのって、太一兄さんだけだから」
そして龍麻がそんなことを言うと、壬生青年はいよいよ戸惑ったようになって、激しく龍麻の両肩をつかんできました。
「何を言っているんだ? 君みたいに綺麗な人が、何を…っ!」
「え…? 綺麗って…ぼ、僕が…?」
相手よりも驚いた目をして、龍麻は目の前の壬生青年のことを見つめ返しました。
すると壬生青年は真摯な目になり、静かに言ったのです。
「僕は…君のような綺麗な人には会ったことがないよ。…本当に」
「あ、ありがとう…」
半ば信じられない思いをしながらも、龍麻は礼を述べました。けれども、壬生青年の方は未だに龍麻のことを離しません。そうして。
「龍麻…僕は、君をあんな兄さんたちのいる所に置いておきたくないんだ。だから…僕のところに、来てはくれないかい?」
「貴方のところへ…? でも僕…」
「僕じゃ、駄目かな」
「そ、そんなこと…! でもー」
けれど、龍麻はそれ以上のことを言うことはできませんでした。壬生青年はいきなり龍麻に自らの唇を重ね…口付けを施してきたのです。
「やっ…。な、何…」
初めてのことに龍麻はただ混乱しまくってしまいます。けれども、壬生青年はふっと笑んでから言いました。
「これから一緒にいるっていう証だよ。強引だと、自分でも思うけど」
でも、君が欲しいんだ……。
壬生青年は熱のこもった声でそう言いました。
龍麻はあまりにも情熱的な壬生青年に、ただぼーっと見とれてしまいました。
それから龍麻はこっそりと家を出て、もう二度と阿師谷の家に帰ることはありませんでした。時々太一兄さんだけが壬生青年の家に押しかけては、龍麻を奪回しようと試みたのですが、そのたびに血をどろどろと流して逃げ帰るのみでした。壬生青年はとてつもなく強く、いつも龍麻を護ってくれたのです。
そんな壬生青年と一緒に、龍麻は末永く幸せに暮らしましたとさ♪
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