「嬉しいと思う」を選択した場合



 今まで太一兄さんには本当に恐ろしい思いをさせられてきたため、龍麻は思わず嬉しさで涙までこぼしてしまいました。

 それを見た壬生青年が龍麻に訳を聞くと、龍麻はたどたどしいながらも今までの生活のことをこの壬生青年に話しました。優しく接してくれる彼なら、自分の話を聞いてくれると思ったのです。
 しばらくすると、壬生青年はすっと立ち上がって恐ろしく澄んだ声でこう龍麻に言いました。
「龍麻…しばらくここで待っておいで。そして、君は何も心配することはないんだ。僕に任せておけばいい…」
「え…? ど、どこへ…?」
「仕事だよ」
 壬生青年はそれだけを言うと、すっと龍麻の前から消えてしまいました。


 その晩。
「おかしいな…。兄さんたち、いつもならとっくに帰ってきているはずなのに」
 夕飯の支度をすっかり済ませて、龍麻は食卓に集まらない兄弟のことを思って首をかしげました。
「それに、そういえば父さんもちっとも部屋から出て来ないな」
 さすがに心細くなった龍麻が(こんないじめられてても心細くなるのか、龍麻よ)椅子から立ち、2階へ上がろうとした時ー。
 トントントン。
 表から誰かが戸を叩く音がしました。
「はい?」
「龍麻。僕だよ」
 声の主は、昼間会った壬生青年でした。龍麻がドアを開けると、壬生青年はとても穏やかな表情をして、それから龍麻の手を優しく取ると言いました。
「待ったかい、龍麻。さあ、行こう」
「え? 行くって…どこに?」
「仕事は無事完了だ。これでもう君は自由の身だよ」
「え? え? 一体何を…」
 龍麻が混乱していると、そんな龍麻の手を取っている壬生青年の背後から、同じ制服を着た青年たちがどかどかと館の中に入ってきました。龍麻が困惑しているのをよそに、その青年たちは館の中をくまなく捜索し、そうして色々な物を持ち運んだり出したりと、忙しなく活動しはじめました。
「ちょ、ちょっと、あなたたちは何をー」
 龍麻が止めようとすると、壬生青年はさらに強く龍麻の手を握りしめました。
「龍麻は何も心配することはないよ。この、世にもおぞましい阿師谷一家は我が拳武が処理したから。君の兄さんの太一も、義に背いた罰として制裁を受けた。だから、君はもう自由なんだ」
「自由…?」
 龍麻は壬生青年の言う言葉が今ひとつ理解できなくて、ただその言葉を反芻しました。
 そんな混乱の表情を消せない龍麻に、壬生青年は優しくしてくれ、そうして龍麻を阿師谷の家から連れ出してくれたのでした。


 こうして龍麻はみにくい一家から開放され、壬生青年と共に拳武に入学。自分のように苦しい目にあっている人間を助けるべく、日夜活躍するのでした♪



<完>





★後記★こちらは、壬生主というよりは一緒に戦う相棒になったというところですか。でもきっと同じ学校に通うんだから、あんな事やこんな事があってもおかしくないですね。そういうわけで、無事ハッピーエンド♪


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