「御門と戦えない」を選択した場合



「ぼ、僕には…できません」

「………」
 恐る恐る言う龍麻に、御門さんはただ黙っていました。
「僕には…貴方と戦うだけの力はないし、それに…理由もないから…」
「戦う理由がないと仰るのですか」
「はい」
「何故。貴方は阿師谷の人間でしょう」
「で、でも…! 僕には憎んでもいない人と戦うなんて…できないから…!」
 龍麻が必死になってそう言うと、御門さんはしばらくは無表情でしたが、やがて龍麻に近づくと呆れたように言いました。
「貴方にそう言われても私は困りますよ。少なくとも私の方には貴方と戦う理由がある。…貴方が阿師谷の人間だと言うのなら」
「僕を…殺しますか?」
「龍麻…さん、と仰いましたか?」
「…? は、はい…」
 龍麻が怪訝な顔をして頷くと、御門さんはそんな龍麻の顎に自らの指をかけ、唇を近づけながら言ったのです。
「それならば龍麻さん。貴方、阿師谷を捨てなさい。ただの龍麻になりなさい。そうすれば…私たちは戦わずともすむのですよ」
「え…?」
 龍麻が呆然としていると、御門さんはそんな龍麻に唇をそっとかすめる程度のキスをして言いました。
「私は美しいものが好きです。龍麻さん、貴方のような人が、ね」
「ぼ、僕が…?」
 とんでもない、というように顔を真っ赤にする龍麻に、御門さんは目を細めるとすっと姿勢をただし、側にいる女性に厳かに言いました。
「芙蓉。この方に部屋を。それから、最高級のもてなしをして御門家で迎えるよう、全使用人に通達なさい」
「かしこまりました」
 芙蓉と呼ばれた女性は深く頭を垂れると、すっと消えてなくなりました。
 事の状況についていけない龍麻は、けれども自分の腰をすっと抱き寄せてくる御門さんから甘く囁かれるのです。
「何も心配することはありませんよ。貴方が私の庭に来た時から…こうなることは決まっていたのですから」


 こうして、龍麻は家族が気づかぬうちに、宿敵御門家に引き取られ、末永く贅沢三昧幸せ三昧の生活を送りましたって。めでたしめでたし♪



<完>





★後記★初めての御門×主。「美しいものが好き」と堂々と言い放つ御門さんが私の中にある御門像です。


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