「何も言えない」を選んだ場合 家族以外の人とろくに話したことのない龍麻は目の前の男の人が何だか無性に怖くて、そして何と答えて良いのか分からなくて、ただ俯いて黙ってしまいました。それに龍麻には「自分がみにくいのだ」という引け目もあります。人の顔をまともに見ることはできません。 「おい、兄さん。黙ってちゃ分からないぜ? 何か言ったらどうだい?」 「……っ!」 どうしよう。この人は何も言えない自分にきっと呆れている。そう思うと、ますます何も言えなくなる龍麻でした。 すると、目の前の男の人は困ったように頭をまたかいてから、苦笑して言いました。 「まったく…どうしたもんかな。おい、じゃあ俺から名乗るからよく聞けよ? 俺の名は村雨祇孔。ここいらじゃあ、ちっとは知れた名だぜ?」 「村雨…さん」 「へっ。そういう呼び方されると、何だかむずがゆい気分だな。で? アンタの名は?」 「…龍麻」 龍麻がやっとそれだけ言う、村雨さんは満足したように頷いて、龍麻の頭をぽんぽんと叩きました。 「龍麻か。良い名前じゃねえか。じゃあよろしくな、龍麻」 「え…?」 「どうせ行くところないんだろうが? お前を拾ったのは俺だからな。お前一人の面倒くらい…俺がちゃーんと見てやるよ」 「え? え? で、でも…」 「何だー?」 不審な顔をして村雨さんは龍麻の顔を覗き込みました。 「俺と一緒に行くのは嫌かい? 俺は自分で言うのも何だが、ツイてる男だぜ。一緒にいて損はねえと思うがな」 「………」 「ま、仮に龍麻。お前が嫌だと言ったとしても、だ」 村雨さんはそう言って、いきなり龍麻のことを抱き上げました。その軽々とした動作に龍麻はただ驚いてしまいます。身体ごと村雨さんの肩に物のように乗っけられて、龍麻は何だかどこか遠い所へさらわれてしまうような気持ちになりました。 けれども、そんな自分を抱く村雨さんの表情が。空気がとても優しくて。 「さあ、何処へ行きたい? あんたの行きたい所へ連れて行ってやるぜ…先生?」 村雨さんがそう言ってくれたので。 龍麻は何だかとても安心した気分になり、そうしてそのまま家に戻ることは二度となかったのですって♪めでたしめでたし♪ |
<完> |
★後記★カッコ良い村雨好きです。というか、余裕の村雨というか…龍麻が天から降ってきてもあんまり動じていない人。