「黙って見送る」場合 鋭い雰囲気の如月青年に目を奪われつつも、龍麻は声を出すことができませんでした。そうして、傷を負って動けない麗司兄さんを背負い、龍麻は家へと戻ったのです。 その晩。 龍麻は父・導摩の言いつけを守れなかったことで、寒空の下、家から追い出されて震えていました。 はーと吐き出す息は白く、龍麻はぶるりと震えて、ただ夜が明けるのを待ちます。 けれど、その時。不意に背後から人が近寄る音がして、龍麻はびくりと身体を揺らしました。 「だ、誰…!?」 「 僕だ」 不安になり声を出した龍麻の前に現れたのは、昼間出会った如月という青年でした。 「あ、貴方は…」 「如月翡翠だよ。昼間は、きちんと名乗らなかったよね」 「あ…僕は……」 龍麻は自分の名前を言おうとしましたが、うまく声を出せませんでした。それもそのはず、龍麻は今だかつて家族以外の人間とまともに話をしたことがなかったのです。 けれども如月青年の方はそんな龍麻に昼間とはうってかわって優しい微笑を向けると、そっとそばに来て言いました。 「龍麻、だろ。君の名前は」 「え…?」 「昼間、君の兄さんが言っていたじゃないか」 「あ…。そう…でしたよね…」 「………」 口ごもるように言葉をゆっくりと出す龍麻を見つめながら、如月青年は龍麻のすぐ横に座ると静かに口を開きました。 「君は、この家の子供なのかい? …随分、似ていないんだね」 「………」 龍麻は急に自分が「みにくい」のだということを思い出して、慌てて如月青年から視線を逸らせました。この人はとても綺麗で、何だか気高い人。そう感じたからこそ、龍麻は隣にいる自分が無性に恥ずかしくなってしまったのです。 「…? どうかしたかい?」 「な、何でもないです…」 「…だったら、こっちを向いてくれないかな」 それなのに、如月青年は龍麻が今一番したくないことを要求してきました。龍麻が哀しそうな顔で俯くのを、如月青年はしばらく黙って見ていましたが、やがて視線を逸らすとそっと言ったのです。 「あの時、君は僕に何も言ってくれなかったね」 「え…?」 「去り際さ。まあ、君の兄さんをひどい目に遭わせた人間に、何を言うこともないだろうけど」 でも、と如月青年は一つ区切ってから龍麻のことを見つめてきました。思わずそんな如月青年に顔を向けていた龍麻は、それで互いの視線が交錯してしまったことに、ただ慌てました。 けれども如月青年はそんな龍麻の肩をそっと抱いて。 「どうしたんだろうな、僕は。初めて君を見た時から…何故だか、君に惹かれてしまってね」 「………え?」 龍麻が問い返すと、如月青年は苦笑してから答えました。 「君みたいに綺麗な瞳をした人には出会ったことがないよ。だから…かな。僕がここに来てしまったのは」 「ぼ、僕が…?」 「そうだよ。君は綺麗だ。…僕は君を…もっと知りたいと思っているんだけど」 「………」 「駄目かな」 「ぼ、僕は…」 みにくいし、と言おうとしたけれど、龍麻は瞬時如月青年に抱きとめられて、声を失ってしまいました。こんな風に誰かに優しく触れられた経験のない龍麻は、ただ困惑してしまい…。けれども一方で、それはとても温かく、心が落ち着くものだと感じていました。 「如月…さん」 「ん…?」 「あ、りがとう…」 やっとの思いでそれだけを言うと、龍麻は瞬時涙をこぼしてしまいました。けれどもそれも如月青年が優しくすくいとってくれます。 「あ……」 「龍麻…僕の所へ来ないかい。不自由な思いはさせない。君を僕のそばにおいておきたいんだ」 「如月さん…」 次々とに浴びせられる優しいその言葉に、龍麻は初めて「幸せ」という言葉の意味を知りました。 こうして龍麻は阿師谷の家を出て、如月青年と末永く幸せに暮らしましたって。めでたしめでたし♪ |
<完> |
★後記★ベストエンディングその@。ホントにどうでもいい話ですが…でも意外と大変なんすよ、これ作るの(笑)。良かったら如月さんのEDもう一つありますので探してみてくださいね(すぐ見つかるけど)。