「毒草です」と答えた場合



 龍麻は素直に探していた毒草の方を指し示しました。

「まああ……」
 すると葵女神と名乗った女性は、はみるみる表情を曇らせ、ざぱあっと泉から駆け上がると、猛然と龍麻に駆けより、にじり寄って声を荒げました。
「何を言っているの、龍麻! そんな正直に答えなくっても良いのよッ! っていうか、どっちも選ばなくても良いの、この際!!」
「は、はあ…? い、いえ、でも僕は…」
「いいの、もう何も言わないでっ! でもそうね、こっちの薬草はあげるわ。精力のつく薬草だから! うふふ、あとで2人っきりの時、ね?」
 葵女神はそんなことをまくしたてると、有無を言わさずに龍麻が指さなかった方の薬草をぎゅうと渡してきました。それから毒草の方はぽいっと泉に投げ捨てて、またにっこりと穏やかな顔に戻ります。百面相みたいだなあと龍麻は少しだけ感心しました。
 そんな龍麻の気持ちとは裏腹に、話はどんどん進んでいきます。

「龍麻。今まであんな醜い者たちのところでよく耐え忍んだわね。でも、もう大丈夫よ。私が貴方を護ってあげる。もう誰も貴方を傷つかせはしないわ」
「え…? あ、あの、貴方は一体…?」
「言ったでしょう。私は女神。貴方を助ける者よ。でも、そうね。女神様なんてヨソヨソシイ言い方は私たちの間ではなしよ。私のことはちゃんと『葵』って呼んでね」
「え、え、あ、あの、僕…」
「かわいそう、こんなに脅えて。でももう怖がることはないのよ? これからは龍麻、貴方は私とずっと一緒に幸せに暮らすんですもの」
 葵女神様は猛然と龍麻に迫ってそう言うと、ふっと手のひらから透明の水晶を出しました。そして何やら怪しげな呪文を唱えると、その水晶から龍麻の館を映し出したのです。
「よく見ていてね、龍麻」
 葵女神はそう言って楽しそうに笑うと更に何事か呪文をつぶやき、まるでおもちゃのごとく龍麻たち家族が住む館を根こそぎ掘り出し、ぴゅーと遠くの方へと飛ばしてしまったのです!!
「い、家が!!」
 驚いて叫ぶ龍麻に、葵女神は満足そうに笑むと、やや強引に龍麻のことを引き寄せて耳元でそっと囁きました。
「安心して。あの家にいなかった三男も、さっき始末しておいてあげたから」
「…!! じゃ、じゃあ、あのカバンは…!!」
 龍麻がはっとして葵女神を見ると、女神様はこの上なく美しく微笑まれました。

「うふふ。私の美しさにまんまと騙されて、のこのこついてくるから、ホントカンタンだったわ♪」
「め、女神様…」
「いやよ龍麻。葵って呼んでv」
 そうして葵女神は、恐れおののく龍麻の様子には気づかずに、ぎゅうっと自らの愛しい人を抱きしめるのでした。


 こうして、龍麻は意地悪な家族からは開放されたものの…また新たな「主」の元で身も心も捧げなければならなくなってしまいました。実は毎日、くたくたです。

 でも、真剣に愛されているのは間違いないんだから、きっと幸せだよね、龍麻君♪



<完>





★後記★かなり良いラスト。それに美里主EDはこれだけなので、結構貴重です(笑)。


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