Aの選択をした場合
「おい、龍麻…」 「あ〜? 何だよ」 いい感じに酔っ払っているような龍麻は、ぼんやりとした眼で、自分のことを呼んできた天童のことを見やった。 荒っぽい性格とはいえ、やはりコイツは綺麗な顔をしてやがる。 天童はそんな事を考えながら、いきなり立ち上がると目の前の龍麻の傍にまで歩み寄り、完全に無防備だった相手の身体をぐいと強引に引き寄せた。 「……っ! お、お前…何…っ!?」 そうして抗議しようとしている龍麻には何の反応も示さずに、相手の身体を拘束しまま、鋭い眼差しだけを向けた。 「以前からお前の身体には興味があってな」 「はあっ?」 ぎょっとする龍麻には構わずに天童はそんな相手の首筋に唇を当てると、それをきっかけにしたかのように激しいキスを降らせ始めた。 「わっ、馬鹿馬鹿! 何するんだ、俺には…」 龍麻はそう言ったかと思うと、突然強大な《力》を発動させ、その勢いのままに天童のことを跳ね飛ばした。 「……っ! てめえ…いきなり加減なしかよ」 「アホか! いきなりなのはお前の方だ、この酔っ払いオヤジ!! 俺にはそういう趣味はないんだよっ!!」 「んなこた、分かってる。俺にだってねえ。だから…ヤってみようって言ってるんじゃねえか」 「言ってねえよ! お、お前、いきなりだっただろうが!!」 「じゃあ、いきなりじゃなきゃいいのか?」 「い、いいわけないだろっ! 俺は帰るぞっ!!」 「…おい、顔赤いぞ」 「う、煩いっ! 帰ると言ったら帰る!!」 龍麻は天童もぽかんとするほど赤面したかと思うと、すっくと立ち上がって部屋を出て行こうとした。 「お待ちください、ひーちゃん様」 すると、目の前に鬼道衆たちがずらりと龍麻の前を塞ぎ、そうして両手を広げて「とうせんぼ」をし始めた。 「おい、何のマネだよ」 「まだ、ゲームは続行中でございます、ひーちゃん様」 「ゲームはやめだ。俺は帰る!!」 「それはいけません」 雷角はそう言ってから、「ルール説明」と書かれた紙をぴらりと龍麻に広げて見せた。 「このゲームは御屋形様がひーちゃん様のお気に召さない行動をして、ひーちゃん様がお泣きになった時点で終了なのでございます」 「こんな事でいちいち泣いていられるか。けど、これは俺のお気に召さない状況になったんだ。俺は帰る」 「え〜? そうですか〜?」 鬼道衆たちがにやにやと笑いながら龍麻のことを見やった。 「な、何だよ…」 「まだひーちゃん様は、御屋形様のご行為に気分を害されたって感じではないですね〜。テレ隠しで帰るって言っちゃっているような気がするな〜」 誰だ、コイツ。風角である。 「……!!」 ますますかーっと顔を赤らめる龍麻に、他の鬼道衆たちも調子に乗り始めた。 「ですから、まだお帰りになることはかないません。ひーちゃん様ももう少し素直になられて、ささ、お隣にお布団も一式用意してございますから」 「……け…るな」 「は?」 「おい、天童!!」 「……あ?」 最早すっかり龍麻と配下の会話を酒の肴にしていた天童は、急に龍麻に呼ばれて、間の抜けた声を出してしまった。 「お前の家来! ほんっとむかつくな! やっちゃっていいか!?」 「…まあ、お前がやりたきゃ勝手にしろよ」 「へっ? お、御屋形様…?」 「だとさ。お前ら…人の事バカにして、覚悟しろ…!」 「わ、お、お待ちください、ひーちゃん様っ!!」 「その呼び方も癇に障る! 黄龍―――――!!!」 「ギャ――――!!!」 こうして。 せっかく天童の誕生日を祝おうとした鬼道衆たちであったが、あまりにも出すぎたその行動に、すっかり悪い子ひーちゃんの怒りを買ってしまった。 そして、見事夜の桜の花びらと共に、その身を散らしてしまうのだった。 ちなみに、その後ひーちゃんと天童は部屋で飲み直して………でしたとさ♪ |
<完> |
◆一言コメント…この頃のひーちゃんって鬼道衆から「ひーちゃん様」って呼ばれる事に抵抗を感じていたらしい(笑)。今はすっかり馴らされているのか。新鮮〜。