Bの選択をした場合





  短気な天童が珍しく相手の言葉を待っていると、その龍麻は突然ばたりと倒れこんでしまった。
「…!? お、おい、どうした?」
  龍麻の元へ駆け寄ると、当の黄龍はそのまますやすやと安らかな寝息をたてていた。どうやら酒が良い具合に入り、そのまま眠りの国に入ってしまったらしい。
「……ち。何だコイツ…」
  天童は一気に戦う気を削がれてその場に座りこむと、そのまま畳の上で寝入っている龍麻のことを見つめた。さらりとした髪をゆっくりと撫でてみる。自然、自分の中の気持ちが静かになっていくのを、天童は感じていた。
「緋勇龍麻……」
  呼んでから、はっとする。
 今、俺は何て声を出した? 自分の声とは思えなかった。

  まるでこの男のことを…。
「御屋形様」
  その時、部屋の外から雷角の呼ぶ声が聞こえた。天童が黙ってそちらへ視線をやると、向こうはそれに気がついたのだろう、頭を垂れたままの影がゆっくりと言葉を出してきた。
「隣の座敷に寝所を用意しておりますれば、ひーちゃん様はそちらに…」
「てめえ、覗いてやがったか」
「い、いえっ…! されど我等は今回のこの企画の主催者でありますれば…!」
「ああ、分かった分かった。だが、もう消えろ。いいな、俺たちの前に姿を現すな」
「は、ははー!!」
  雷角は怯えたように返事をすると、そのまま気配を消して何処かへ去って行ってしまった。
「ふん…」
  天童はややけだるそうに息を吐いた後、眠る龍麻を抱きかかえ隣の部屋へと歩いて行った。なるほど、ご丁寧に布団が一式。呆れたような顔をしつつも、そういえば以前は自分もこういうことを当たり前のようにしていたっけなと思い直して、そのまま龍麻のことをその場所へとそっと寝かせた。
「だがな…俺は寝込みを襲うほど、おちぶれちゃいねえぜ」
  布団の上に寝かせた龍麻にそう囁いてから、天童はもう一度龍麻の髪を撫でた。
  そうして、優しく頬にも触れた時。
「……?」
  龍麻が天童の首に両腕を回してきた。
  はっとして見つめると、相手の方はしっかりと目を見開いていた。
「お前…狸寝入りってやつか…」
「なあ…寝込みじゃなきゃ、俺のこと……どうする?」
  眠ったフリをしていたことにはちっとも悪びれずに、龍麻はそう言って天童のことを真っ直ぐに見つめてきた。そして、そう訊いているくせに答えは1つでなければ許さないというように、天童の首に回す腕には力を込める。
  それで天童は龍麻の行為に少しだけ口の端を上げた。
「そうだな…。まあ、お前の望み通りのことをしてやってもいいぜ?」
「言ってろよ…」
  龍麻は少しだけ罰の悪そうな顔をしたが、天童への拘束は緩めずに。
  天童が近づけてきた唇を、自ら求めるように受け入れたのだった。



                             
<完>





◆一言コメント…うーむ。まあこんな感じで(どんなだ)。悪い子ひーちゃんというよりかは、強気ひーちゃんでしたね。しかしそんなひーちゃんを書く事もあまりないので新鮮でした。


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