まだ距離はあれど



「あ! ごめん、おやつ!」
  どこか遠慮がちながら尾の先で足先をつんつん突つかれ、クリスは思わずと言った風に本から顔を上げた。
《クルオォ………》
  横には甘えたような眼と声でクリスに擦り寄る小さな竜。無論、小さいと言ってもそれは成獣した一般の竜と比べればということであり、実際の大きさはクリスの数倍はあるし、体重も馬や牛の比ではない。小竜は元々野生の竜ではなく、リシュリュー―クリスの婚約者である人物だが―彼が捕えた蒼竜の子どもとして、リシュリューの屋敷で生まれた。強く凛々しい父の蒼竜とは違い、小竜は生まれた時から片翼に障害があって高く飛べないし、身体もいつまでも大きくならない。だから最初につけた名前がいつの間にか“小さな竜”というあだ名にうって変わって、今ではリシュリューでさえ元の名前を呼ぼうとしない。
  けれどクリスは蒼竜だけでなく、屋敷にいる他のどの竜よりも小竜のことが好きだった。初めて会った時から落ち込む自分を慰めてくれたり、その後も何かと一緒にいてくれたからというのがその最大の理由だが、発育が悪いという共通の悩みを抱えている点で互いに通じ合うところもあったのかもしれない。
  とはいえ、リシュリューの屋敷に来てから1年と少し。最近クリスは「背が伸びた」と言われることがとても増えた。これ以上伸びはしないだろうと思っていたのに、良い生活をさせてもらえているせいなのか、元より成長が遅い類だったのか、それは定かではないが、少なくともそう言われるようになったのはリシュリューと寝所を共にするようになってからだろうか。
  婚約者であるリシュリューにも「何だか急に大人っぽくなったな」と戸惑うように言われた。――それはこの湖水の屋敷に移る少し前のことだ。
「ごめん、小竜。つい読書に夢中になっちゃって。今、おやつあげるね」
《クルオオォ……》
  小竜が嬉しそうに目を細め、尾の先を犬のようにゆらゆらと揺らした。クリスは手にしていた本をそのままに立ち上がると、ぐんと伸びをして、目の前の静かな湖に目をやった。
  風がさらりとそよぐ以外、何の音もない。
「静かだな…」
  夕刻になると鳥たちが寝床へ帰ろうとするので多少の喧騒は見られるが、それでもここには人の気配と言うものがない。周囲を散策した折、野生の馬や鹿なら目にした。小舟を出せばこの湖で泳いでいる魚を見ることも出来る。しかしなるほど、人間嫌いのリシュリューの母御が“秘密の隠れ家”と称しているだけの事はあって、恐らくこの森一帯は全て私有地にしていて、めったなことでは誰も立ち入れぬようにしているのだろうとクリスは思った。
  数人の使用人たちだけを伴い、クリスがここへ移ってきたのは半月ほど前のことだ。
  最初はリシュリューの叔父であるジオットが紹介してくれた、高い塔のある豪勢な離宮へ連れて行かれて、「ここで暫く養生してくれ」と言われた。養生も何も自分はどこも悪くないと言い張ったクリスだが、ジオットは全く聞く耳を持たず、「ならリシュリューの病が治るまでと言い直す」と言って一歩も譲らなかった。
  つい先だって、リシュリューとクリスは周囲の祝福も受けて何の障害もなく婚約したが、婚儀の日取りは今もって未定のままだ。
  ジオットはそれを「リシュリューがクリスのことを考えないで暴走するから」と言い、またリシュリューのいない所では「君の気持ちも定まっていないし」と囁いた。
  二の句が継げられず甘んじてその離宮に留まること数日、烈火の如く怒り狂い取り乱したリシュリューがクリスを迎えにやって来たが、小竜をはじめジオットやリシュリューの母らと気持ちを同じくする者たちが、今度はこの湖の屋敷に半ば拉致の体でクリスを運んだ、というわけである。……などと言うと、一見2人の気持ちを無視した周囲の勝手で、クリスたちは互いの仲を引き裂かれたかのようにも見えるのだが、実際はそれが双方を思いやった故の行為だとは、クリスも、そして恐らくはリシュリューにもよくよく分かっていることなのである。

  君の気持ちが定まっていない。

  ジオットにそう指摘された時、どうして「違う」とすぐに言えなかったのか。クリスは自問自答し、けれどその明確な答えを未だ見出せずにいる。
  リシュリューから「勝手に傍を離れるな」と言われた時、嬉しかった。だから自分は必ずやその命を守ろうと固く誓ったはずだった……それなのに。
  やはり今回の事は自分のヒトとしての根幹に何か問題があるのだろうとクリスは思わずにいられない。
「……おいしい? 小竜」
《グオッ、グオッ!》
  使用人たちが既に用意してくれていた果物を前に小竜はがっつくようにそれを頬張り、傍にいるクリスにも嬉しそうに応えてみせる。それを穏やかな気持ちで見つめながら、けれどクリスは一方でリシュリューのことが頭から離れず、貰った指輪を目にしてため息を漏らした。
《グオォ……》
「ん? ああ、これ?」
  いつの間にか食事を終えた小竜が、違うものに興味を示したように低く鳴いた。それは木陰の傍に置いたままにしていた本だ。クリスが先刻まで読んでいたもので、あまりに手放さずそればかり見ていたから小竜も不思議に思ったのだろう。ふんふんと鼻を近づけ、ゆらりと翼を広げたり閉じたりしながら何をか探索しようと身を屈めている。
「これはグレキアで有名な小説だよ。国民の大半が子どもでも読み聞かせてもらって知っている古典文学。今の政情には向かないからって、俗物扱いされる向きもあるみたいだけどね」
《グウゥ?》
  小竜は分からないという風に首をかしげた。クリスはそれに小さく微笑んでから本の表紙をさらりと撫でた。
「僕はまだ勉強不足だから、向こうの原書を読むのは大変なんだ。だからこういう易しい文章のものなら入りやすいだろうってジオット様が。……でもね、これ、国王様と名もない村の少女との恋っていう……要は恋愛物語なんだ。正直、僕はこういう類の話はよく分からなくて……というか、苦手な方で。良い話だな、とは思うんだけど。……そんな僕だから、ジオット様は敢えてこれを選んで下さったのかもしれないけどね。僕に考えてもらいたくて」
「考えるって、何をだ」
「えっ…」
  不意に小竜ではない、凛とした男の声が響いてクリスは弾かれたように顔を上げた。
「リシュリュー様…!?」
「………」
  驚きで思わずその場に固まるクリスに、リシュリューはただ立ち尽くしたままそれきり何も言おうとしない。それは驚きと戸惑いで声を失ったクリスとは違う理由で、単純に息を切らせているからだった。激しく肩を揺らし、たった今ここに着いたのだろうというのが分かる。
「リシュリュー様、汗が……」
  はっとしたクリスは慌てて駆け寄ると、どっと憔悴しているようなリシュリューの額を手にした布で拭った。
  まさか走ってきたわけでもなかろうに、こんな風にして自分の前に立つリシュリューはあの王城から花束を抱えて帰ってきた日とよく似ていた。けれど確実に違うのは自分の心だとクリスは思う。あの時はまさかリシュリューが自分に求婚するつもりだなどとは思いもしないから平然とした態度でいられたが、今はとてもそんな風ではいられない。
  じっとこちらを向く視線にどう応じたら良いか、ただただ戸惑ってしまう。
「クリス」
「はっ、はい……んっ……」
  徐々に近づくリシュリューを見つめながらクリスは迫り来るその唇を従順に受け止めた。既に手を取られ腰を抱かれて身動きが取れなかったからというのもあるが、はなからクリスはリシュリューに逆らう気などないのだ。そんなことは考えたこともない。リシュリューはこの国の要人で、自分はただジオットに彼の慰み者として連れてこられたに過ぎない、落ちぶれ貴族の息子に過ぎないから。
  そうだ。
  勿論、リシュリューを嫌いではないから、尊敬しているからということもあるが、一番はそれなのだ。
「ん、ふっ…んぅ…」
  そういう真意が伝わったのだろうか。不意にリシュリューの内に怒気が漲ったように口づけが荒くなった。背後でそれを見ていた小竜が低く抗議するような声を出したが、クリスがそちらを気にする余裕はない。リシュリューもそれは同じなようで、これまで随分と可愛がってきたはずの子飼いを無視し、リシュリューは更にクリスの唇を乱暴に貪ると、しまいにはその場に押し倒してクリスの衣服を剥ぎ取りに掛かった。
「リ、リシュリュー様っ…!?」
  さすがにぎょっとしてクリスは声を上げた。幾ら人気のない湖水の畔と言っても、屋敷には随行してくれた使用人たちがいるし、何よりまだ日が出ている。こんな視界の開けたところで自分の痴態を認めるのはさすがに抵抗があった。
  それでもリシュリューにやめて欲しいとはっきり言えなくて、クリスは困惑しながらただ己が主の名を呼んだ。
「リシュリュー様っ」
「何だ」
「あの……あの、お部屋で――」
「煩い。今すぐお前を抱きたい」
「……っ」
「クリス。……お前が欲しい」
  はっきりと言われてクリスは身体を硬くした。婚約してからのリシュリューは日を置かずにクリスの身体を欲するようになった。それが今回のことで暫し互いの体温を感じることなく過ごしていたのだから、それはリシュリューにとって酷く耐え難い事だったのだろう。
「んっ…」
 けれど想いの差こそあれ、それはクリスも同じだった。リシュリューからの熱を受け取れない事を、自身でも何か欠けたもののように感じていた。それはリシュリューへの思慕だったのかもしれないし、単なる習慣だったのかもしれない。けれどそれが何なのかということを考える間もなくこうして身体を重ねあわせると、クリスの頭の中はただひたすら白くなり、どんな思いも言葉も頭には浮かばなくなるのだった。
「やっ…あぁッ!」
  しつこ過ぎる口づけの後、露わにされた胸の粒に唇を寄せられてクリスは思わず声を上げた。弄るように舌で取られたそこにびりとした刺激が走って身体が震える。この環境のせいもあるだろう。自分の肌を見るのは嫌だった。自分の裸を貪るリシュリューを直視することも辛い。クリスは自分の顔も身体も大嫌いだ。貧相だし、何の魅力も感じられない。何も持たない。全てにおいて整っているリシュリューとこうして肌を重ねるなど、何と大それた事かと思うのだ。

(そうだ……僕は……自分のことが、好きじゃない……。他の誰でもない、僕自身のことが一番――……)

  衣ずれの音がして腰から足にかけてのラインを撫でられる。もうそこもすっかり露わにされてリシュリューに触れられる。また身体が跳ねるように震えた。リシュリューは自分の性だけを満足させることは決してしない。必ずクリスを悦ばせてから、その後で自分を満足させるのが常だ。そんな事しなくとも良いのにとクリスはいつも思う。むしろ早くリシュリューに満足してもらいたい。リシュリューだけが欲を吐いてくれればそれで良い。
  それなのにこのいつまでも慣れることのない行為は、いつもクリスの為にも存在している。だからこそ、なかなか終わりが来ない。
「クリス様? ――きゃあ!」
  その時、クリスの遮られた視界の向こう側で聞き慣れた若いメイドの悲鳴が聞こえた。小竜のおやつだけを取りに来て自分のものは後でと言い置いていたから、きっとお茶の用意が出来たと呼びに来たのだろう。
「リシュリュー様ッ!?」
  メイドはリシュリューが来たことを知らなかったらしい。今は自分の仕えるべき相手―クリス―に圧し掛かり蹂躙しようとしている相手が本来の主だと知って仰天し、固まっている。姿が見えずともクリスにはその様子がありありと頭に浮かんだ。
「――向こうへ行っていろ」
  リシュリューは振り返りもせず、ただクリスを見据えてそう言った。明らかにこの場に現れたメイドに対し、不快な気持ちになっている。けれどそんな彼女を直視して叱るのも面倒だという風に、リシュリューの眼光はただクリスに注がれていた。
「で……でも……」
  しかしメイドの方もすぐには下がらなかった。ジオットやリシュリューの母・ジェシカから言い含められてここにいるからという、それだけではなく、彼女は何故クリスがここへ来たのか、その理由を正確に把握していた。だから、確かにリシュリューは自分の一番の主であるけれど、だからと言ってこのどう見ても「合意とは思えない」状況に、そのまま「はいそうですか」と立ち去っても良いものか。彼女にはすぐの判断がつきかねたようだった。
  けれど震えながらも何事かを口ごもる彼女に、遂にリシュリューはすっと上体を上げ、心底苛立し気に一喝した。
「聞こえなかったのか!? 消えろと言っている!」
「はっ! …はい!」
  半ば涙混じりの返答だった。クリスは憐れなメイドを思って一瞬相貌を崩したが、今の自分には何も出来ない。どうしようもなかった。
「リシュリュー様……」
  それに気のせいか、いや、きっと間違いない。
  立ち去ったメイドよりも誰よりも、今自分の目の前にいる主こそが、何だかとても脆く泣き出しそうに見えたから。
  だから、その事こそが辛かった。
「リシュリュー様…」
  腕を伸ばし、クリスは再度呼びかけながらそっとリシュリューの頬に片手を添えた。
「クリス…」
  それでリシュリューもいくらか冷静になったようだ。同じようにクリスの頬を撫で、それから今度こそ優しい、労わるような口づけを落とす。
  クリスがそれを黙って受け取ると、リシュリューは一つ大きく深い息を吐いた。
「……すまない」
「え…?」
「こんな真似をする気はなかった。今度こそきちんとお前と向き合おうと決めてここへ来たんだ。……だが、お前の姿を見たら一気に全て吹き飛んだ。ただ早くお前が俺のものだと確かめたかった……」
「そんな……僕はもうとっくに……リシュリュー様のものです」
「いや、違う。そうじゃない」
  乱れきった衣服を整えてやってからリシュリューはクリスを引き起こし、そのまま自らの懐に抱き込んだ。窮屈なその空間にクリスは一瞬胸が詰まったが、恐る恐ると顔を上げると、そこにはそれ以上に怯えた風なリシュリューの視線があった。
「クリス」
  そのリシュリューが随分と頼りない声で言った。
「そういう意味じゃない。お前は俺の所有物ではない…。そうではなくて……ああ、だが、それでもいい、そんなものでもいいからお前をこの胸に抱きたいと思っているのも本当で……俺は……自分でも訳が分からないんだ」
「リシュリュー様…」
  どう返して良いか分からずにクリスはリシュリューに抱かれたままただ名前を呼んだ。すると再び居た堪れないようなキスが落ちてきて、クリスはそっと目を瞑った。
「死にかけていた身体が蘇るようだ」
  リシュリューはようやく少しだけ笑んでそう言い、そっとクリスの前髪をかき上げ、額を撫でた。
「お前と離れていることが耐えられなくてずっと探していた。ジオットの奴……母上と共謀してお前を隠しただろう? あの人はいつも呆れるほど自分の隠れ家を持っては、すぐにまたそれを捨てて別の場所へ移ってしまう。だからここもなかなか探し出せなかった」
「そう、なのですか…」
「偏屈な人だから」
「とてもお優しい方です、僕なんかにも良くして下さって…。僕、何だかリシュリュー様によく似ていらっしゃるなって。…あ、こういう場合は逆に言うものですよね?」
「よしてくれ、あんな人と似ているなどと言われてもまるで嬉しくない。大体……俺たち親子をそんな風に評するのは、お前だけだ」
  今度は深くため息をついてリシュリューは苦味を伴ったような顔ながらも微かに笑んだ。
  そうしてクリスに顔を近づけ、不意に真剣な表情をして見せる。
「クリス。だが、これだけははっきりと分かっている。これだけは言えるんだ。俺はもう、お前と離れていたくはない」
「……はい」
「耐えられないんだ。俺と共に帰ってくれるか? お前の嫌がることはしないと誓うから。……無論、お前の気持ちが定まるまで、無理に婚儀を進めようとも思わん」
「リシュリュー様、僕、そんな嫌だなんて――」
「ああ、分かっている。だが、ジオットの言う事が全てでたらめだとも思わない。それは俺にも分かっているつもりだ。俺はただ焦らないと言っているだけだよ。どのみちお前を手放す気はないのだから」
  強い眼差しでそう言われてクリスは視線を逸らせずにただリシュリューを見つめた。こんな風に誰かに求められたことなど一度もない。いつも空気のように、目立たず騒がずひっそりと生きることに慣れていた。それが自分の生きる術だと心得ていたし、それが楽だったのだ。誰かを愛そうとするのはとても辛いことだ。ただでさえ痛みを伴う日常がもっと酷くなる。それが幼い頃から何となくクリスが抱いていた、クリスの中の真実だった。
  そしてそれは少し前のリシュリューもそうなのだと思っていた。傲慢なそれだと承知はしていたが、この人は自分と似ているところがあると感じていた。人には決して心を許さず、常に一定の距離を取って相手を寄せ付けない。けれど、言葉を介さずとも済む竜や馬にはとても優しい。人と関わるのは煩わしい、面倒臭いとこの人は言った。そこが自分と似ていると。

(でもリシュリュー様はやっぱり凄い……。こうと決めたら迷わずに進むことが出来るんだ。きっととてもお強い方だからだ。剣だけじゃなくて……人として……)

「クリス?」
「あっ…はい」
「何が『はい』なんだ?」
  ぼうっとしているクリスにリシュリューが眉をひそめてすかさず訊いてきた。クリスは思わず赤面し、「あの」と口ごもった後、何とか先を続けた。
「僕、リシュリュー様と一緒に帰りたいです。リシュリュー様が僕を必要として下さる限りはずっとお傍にいるって……約束もさせて頂きました。僕はその約束がとても嬉しかったんです」
「……そういう言い方が既に……まあ、いい」
「え?」
「何でもない。いや、そんな心配そうな顔をするなっ、大丈夫だから! お前が帰ると言ってくれるならば、俺はそれでいいんだ!」
「は、はい…」
  リシュリューの表情を見るに、多分自分は「ダメな言い方」をしたらしい。それでもリシュリューに先手を取られて「もういい」と言われたので、クリスは戸惑いながらも勢いで頷き、それからまたリシュリューに強く抱きしめられて結局それ以上の事は何も言えなかった。


  その後、決死の思いで「暴走リシュリュー」を止めに入ろうとでも思ったのだろうか、勢いこんでやってきた使用人《全員》を前に、リシュリューはどこかバツの悪い顔を見せつつ、「今日一晩泊まって朝一番で帰るから、さっさと支度をしろ」と命令した。
  そしてクリスには蕩けるように甘い顔をして笑った。
「クリスも帰る支度をしろ。本が読みたいのならまたあちらでも一通り揃えてやるから。全部運ぶのは大変だろう? あぁだが、小竜に背負わせればいいか?」
《ブウウウウ》
  小竜は言われた事が分かったのだろう、不満そうに呻いたものの、クリスが今読んでいる本は運ばねばと思ったのか、ぱくりと口に咥えて尻尾を振った。クリスはその微笑ましい姿に思わず笑んだのだが、リシュリューがそれにまた「俺以外の奴にそんな風に笑いかけるな」などと言うから、慌てて「すみませんっ」と謝ってしまった。


  何の成長もなく共に帰還する2人を見てジオットが渋い顔をするのは、この数日後の事である。




.....Fin.....