メディシスの恋(+α…)



  クリスは水の宮でリシュリューから貰った指輪を手に取り、それを月の光にかざしていた。夜の闇でも美しく輝く上等のそれは、素人目にも自分のような身分の人間がつける代物ではない事が容易に分かる。
「はぁ…」
  小さく溜息をついてから、クリスはそれを更に様々な角度から眺め、改めて指に嵌め直そうとして―…ぴたりとその動きを止めた。
  リシュリューからこの指輪を渡されたのは3日ほど前の事だ。
  最初は何を言われているのかさっぱり分からなかった。理解した後もこれは性質の悪い冗談か何かかと思った。リシュリューや屋敷の者たちを疑うなど勿論したくはないのだけれど、それくらいクリスにとってリシュリューの求婚は信じ難いものだったのだ。
「はぁ…」
  もう一体何度目か分からない溜息が漏れる。傍にいた小竜が不思議そうな顔をし、微かに喉を鳴らした。リシュリューの子飼の竜はいつでも気の良い優しさをくれるが、今はクリスが一体何に対してそんなに物憂げなのかと、心底訝しんでいる様子だ。
「ごめんね…」
  申し訳ない気持ちがしてクリスは小竜に謝った。屋敷中は―…、否、聞くところによるとこの屋敷を出た先の向こう―城下町や王宮でさえ、リシュリューの婚儀に対して今や大変なお祭り騒ぎなのだという。今まで気づかなかったけれど、周りは今回のこの話をとうに見知って喜んでおり、祝賀ムード一色。一体いつ正式な発表がなされるのかと毎日固唾を呑んでいるのだそうだ。
  けれどそれが、そのリシュリューの相手となる人間が、よりにもよって自分だという事は……、クリスはちらとも想像もしていなかった。最近のリシュリューの態度がいつもと違っていて、何やら宝石商のエドモンや花屋のマーサ、それに衣装屋だの王宮の官吏だのが屋敷を何度も出入りしていたから、「何か」があるのだろうとはさすがに分かっていた。求婚される3日前はジオットがわざわざ屋敷を訪れて「遂に記念日が――」うんぬんと話していたから、これはリシュリューの婚儀が近づいてきた証なのだろうと確信もした。
  それでも。
「それが自分の事だなんて……思うわけない」
  クリスは指輪を手のひらの上で遊ばせたまま、ぽつりと呟き溜息をついた。
  嫌ではないと言った。その言葉に嘘偽りはない。クリスは元々、それこそリシュリューが自分という存在を認識している前からリシュリューの事を知っており、とても尊敬していた。家が潰れるかもしれないという危機に陥った時、ジオットが現れてここへ行くように提案してきた時も、訳の分からない男娼館へ卸されるのではなく、一国を支える有能なあの文官騎士リシュリュー・メディシスの慰み者として売られるのなら、破格の扱いではないか、幸運な事だと何度も言い聞かせて来たものだ。
  そう、クリスはリシュリューの事は以前から知っていたのだ。国の有名人なのだから当然と言えばそうなのだろうけれど、リシュリューはその事を知らない。思えばリシュリューに己の身の上をきちんと話した事はない。それは訊かれなかったから、というただ単純なそれなのだけれど、一体そんな何がしかも語らない落ちぶれ貴族の子息などを、何故リシュリューは貰い受けたいなどという気持ちになったのか……分からない。
  未だに全く信じられない。
「はぁ…」
  また溜息をついてしまった。小竜しかいないとはいえ、こんな風に落ち込むのはもうやめようと、家族と別れを告げた時に決心したというのに。
  どうしてもこの現実を受け入れる事が出来ない。不安で堪らない。
「クリス」
「!」
  ハッとして顔を上げると、いつの間にそこにいたのかリシュリューが立っていて、茨の道を抜け、宮の中へと入ってきた。クリスはそれに慌てて立ち上がろうとしたが、素早く片手で制されそのままでいるよう命じられたので、仕方なく元の場所で正座した。
「楽にしていろ」
  それすら窘められてクリスはすっかり困ってしまった。リシュリューを前に楽にするなど出来た試しがない。リシュリューはクリスにとっていわば雲の上のような存在なのだ。普通に一生を終えていれば、きっと一度とて擦れ違う事のなかったまるで世界の違う人間なのに。
「何処にいるのかと探した」
「あ…! も、申し訳、ありませんっ」
  緊張した面持ちでいるとリシュリューにそう言われてクリスはまた慌てて謝った。もう夜も遅い時間だったからリシュリューに呼ばれる事もないだろうと部屋を抜け出し、ここへ来てしまった。それでもきっと、今はもうリシュリューの「婚約者」という立場なのだから、勝手にこうして庭に出るなど軽率な行動だったのだろう。クリスは項垂れた。
「……別に謝らなくてもいい。責めてるわけじゃない」
  するとリシュリューの方は憮然としてそう言った。クリスがそろりと顔を上げると、リシュリューはやはりどこか不機嫌な顔をしていた。ドキリとしてまた俯こうとしたが、それは暗に諌められて、クリスはリシュリューからがつりと手首を掴まれた。
「あっ…」
「きちんと嵌めておけ」
  何をするのかと思いきや、リシュリューはクリスがあちこちの角度から観察していたプラチナリングを奪い取ると、律儀にクリスの薬指に嵌めたのだった。
「リシュ……」
「……嫌だと言っても、聞きはしないぞ」
「え」
「お前がこの指輪を嵌めていたくなくとも、それを許す事はしないと言っているんだ。……言っただろう、もう傍に置いておく事に決めたと」
「……っ」
  はっとして息を呑むと、リシュリューはますます苦虫を噛み潰したような顔をして、ふいとそっぽを向いた。…が、すぐに思い直したようになるとクリスに向き合い、不意に強引な口づけを仕掛けてきた。
「んっ…」
  いきなりまた手首を取られ、もう片方の手で強引に顔を上向けにされた事でクリスはあっという間にリシュリューに捕まった。有無を言わせぬその口づけは一度乱暴に重ねられた後、勢いを増して二度、三度と性急に続けられた。
  途端クリスの身体は熱を帯び、先日の行為の記憶とも相俟ってびくんと肩先が揺れた。
「ふ…んぅ…」
「クリス…」
  自分と同じように熱を含んだ声が聞こえて、クリスはパッと目を開いた。リシュリューの端整な顔がすぐ近くにあり、こちらを伺うようなじっとした視線を当てられる。クリスは自分でも分かる程に赤面し、どうして良いか分からず、ふるりと唇を戦慄かせた。
「クリスっ」
「んっ」
  するとまた堪らないという風に唇が下りてきて、驚きで口を開いたままのクリスは中へと侵入してきたリシュリューの舌に自らのものを絡め取られた。
  リシュリューからのキスなのだから、従順に受け留めなければ―…そう思い、クリスは必死に肩の力を抜こうとした。
  けれど途惑いを隠せず、どうしても目元は潤んでしまった。
  リシュリューを尊敬している。雲の上の人だと単純に憧れていただけだから、今のこれはまるで絵空事のようで現実味が出ない。
「クリス…。泣くな…」
「あ…」
  リシュリューもクリスの涙に気づいていたようだ。瞼にキスを落とされ、目じりにも舌を寄せられ舐められて、クリスはまたカッと顔を赤くした。恐る恐る視線を向けるとリシュリューのそれとも絡み合い、余計どうして良いか分からなくなる。クリスはドキドキとしながらリシュリューの手にそっと触れてみた。と、瞬間、リシュリューから強く抱きしめられて、その懐へ招き入れられた。
  クリスはその胸の中でそっと息を吐いた。顔を見られない、この体勢なら少しは安心出来た。
「俺が嫌いか…? クリス…」
「そ…そんなわけ、ありません…っ」
  そう思われても仕方のない態度を自分はしている。クリスはぐっと唇を噛んで、けれどそれは違うのだという風にリシュリューの腕に縋りついた。
  するとリシュリューの方もクリスへの抱擁をますます強いものにした。
「なら何故俺をきちんと見ない? 何故そんなに不安そうな顔をするんだ」
「……リシュリュー様」
「俺が求婚してから3日。お前はずっと浮かない顔だ。きちんと返事もしてくれない。俺を受け入れてくれるのかくれないのか、いい加減はっきりしてくれないか」
「ぼ、僕は…っ」
  とっくに受け入れている。
  この宮で、あの時リシュリューを受け入れた時から、否、それ以前から、クリスはリシュリューの言う事、してくる事なら全て受け入れようと決めていた。それはジオットから家の事を盾に取られて命じられたからではなく、自分の心からの意思として決めた事、だ。
  リシュリューの事は……憧れているのだ。
「でも僕なんか……」
「その台詞は聞き飽きた」
「でも、そうなんです!」
  初めて強い口調で叫び顔を上げたクリスに、リシュリューも驚いたように目を見開いた。
「ぐるるるる……」
  すると傍にいてその一部始終を眺めていた小竜が、クリスの危機なのかと殺気立った眼をしてリシュリューに向かって唸り声を上げた。
「小竜、黙れ」
  けれどリシュリューはそんな愛竜には慣れた目で、そして心底鬱陶しそうな顔で一蹴すると、「行け」と短く命令した。
「ぶううううう」
  小竜はとても不満そうだったが、リシュリューには根本的なところで逆らう気がないのだろう、一瞬だけクリスに甘えた声を出した後は、さっと飛び退ってその場からいなくなってしまった。
「やれやれ……」
「……ごめんなさい」
  リシュリューの溜息にクリスはまたがっくりとなって謝った。全てはこの煮え切らない態度の自分が悪いのだ。リシュリューは何も悪くない。クリスはリシュリューに抱かれた格好でいる事が居た堪れなくなり、何とかそこから脱出しようと遠慮がちに身体を揺らした。
「駄目だ」
「え」
  けれどリシュリューは素早くクリスのその意思を感じ取ったようだ。ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めると厳しい口調で言い放った。
「勝手に離れる事は許さない。いつ俺が離れていいと言った?」
「……っ」
  最近ではあまり見られなかったきつい口調のリシュリューにクリスは息を呑んだ。怖い、単純にそう思った。あの初めて会った時もそうだったけれど、リシュリューの普段他人に見せる眼はこんな感じだ。遠目から憧れている分には気づかなかったけれど、リシュリューは基本的に人があまり好きではないらしい。いつもどこか冷めた目をして、そうして誰にも関心がないという風に空ばかり眺めている。
  けれど、その内面をよく知ってからというもの、クリスは以前よりももっとリシュリューという人間を凄いと思うようになっていた。
「クリス」
  ぼうとしてリシュリューを見つめていると、その当人が突然声のトーンを緩めて言った。
「……怒っているわけじゃない。俺は元々不器用な男なんだ」
「……? はい…」
  そんな事は分かっている。そこがまたリシュリューの魅力でもあるとクリスは思っている。恐れ多くて直接そう告げた事は勿論ないが。
「そんなに怯えなくてもいいだろう…。悪かった…。つい、ムキになった」
「え…あ、そんな…っ」
  リシュリューに謝られてクリスは焦った。怖いと思ったのは本当だけれど、そんなのは全然何でもない事だ。はっきりしない自分が悪かったのだと思ったが、それはうまく言えなかった。
  するとリシュリューの方がますます困ったように視線を泳がせ、それから堪らずまたクリスにちゅっと戯れのようなキスをしてきた。
「あっ…」
  意表をつかれた事でクリスはもろにそれを受け取ってしまったが、あまりに突然で、そして優しいキスだったので、思い切り恥ずかしくなり、クリスは頬を赤らめた。
「好きだ、クリス」
  おまけにリシュリューはまたそう言った。あの求婚から惜しむ事なく何度も紡がれるその台詞。それを言われれば言われるほどに、クリスはどうして良いか分からなくなるのに。
「好きだ。俺を受け入れられないというのなら、幾らでも待つ。その指輪が気に入らないのであれば、また新しい物を買ってやろう。だから……、だから、勝手にいなくなったり俺から逃げるのだけは許さない」
「そ……」
「その指輪、やっぱり駄目だろう? 俺も安っぽ過ぎると思ったんだ。マーサの奴がどうしてもと言うし、エドモンにしなかったら俺の昔の事をクリスに話すとか脅しやがったから……仕方なくあいつにしてやったのに。全く、これだからあいつの知り合いは――」
「昔の事?」
  何となく聞き返すと、リシュリューは途端決まり悪そうに顔をしかめた。
「他愛ない、ガキの頃の失敗だ。あいつとは昔馴染みだからな…。まぁ、そんな事はどうでもいい。それより指輪を――」
「ぼ、僕…っ。この指輪が気に入らないなんて! そんな事ありません! 絶対に!」
「そう…なのか? ……ではやっぱり俺に求婚されたのが迷惑でそれをつけていたくなかったとか…?」
「ち、違います…っ。こんな高価な物、僕には勿体ないと思って、それで…!」
「……俺からの求婚が迷惑ではないんだな?」
「迷惑なんかじゃありません、ただ…っ」
「ただ、何だ?」
  ぐいと顔を寄せられてクリスはうっと言葉に詰まった。自分でもよく分からない。正確な理由を述べよと言われても混乱しているのだ。
  ただ、やっぱり頭に思い浮かべるのはただ一つ。
「僕なんかでは…リシュリュー様につりあわないと思って……」
「だから何度も言わせるな。俺はお前でなければ駄目なんだ」
「………」
「あ。いやっ。何度も言ってもいいんだけどな?」
  クリスが黙りこんだのを見てリシュリューが慌てたように何度も咳き込んだ。それからクリスの頭をしきりに撫で、額や頬にも軽いキスをし続けると、あわあわとしながら先を続けた。
「俺はお前が…。俺に断れるような立場ではないから、本当は嫌なのに拒絶出来ないのじゃないかと…そう、思って」
「僕…そんなこと…。リシュリュー様の事はとても尊敬しています。とても」
「尊敬……」
  それはリシュリューが望むような言葉ではないに違いない。複雑そうな顔をする「主」に、しかし今のクリスはそうとしか言えず、項垂れてしまった。
「僕……リシュリュー様のこと、王宮で開かれた剣技会の時に拝見した事があるんです。勿論、リシュリュー様はご存知ない事だと思いますけど」
「そうなのか? いつのだ」
「3年くらい前です。学院で、王都の見学に行った時に。リシュリュー様、他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝されて、国王様から勲章も頂いていました」
「よく覚えていない」
  何せリシュリューは剣には興味があっても、その他の事には全く関心のいかない人物なのだ。強い相手がいる大会ならばともかく、敵なしの国内大会では記憶に残らないのも致し方ないと言えた。
「凄く素敵で……リシュリュー様のような騎士になれたらいいなあって。とても憧れたんです。僕だけじゃなくて、学院のみんな、そうでしたけど」
「そう…なのか?」
  満更でもないのだろう、リシュリューが憮然としていた表情を緩めて照れたような顔を見せた。クリスはそうとは気づかなかったけれど、昔を思い出すように頷いて、やっと自然な笑みを出せた。
  そう、あの頃はただ純粋に毎日を生きて、そして――あの家を早く出ようと、そればかり考えていたような気がする。
「リシュリュー様は何でもとてもお出来になって、この国の英雄ですから。僕にとっては神様みたいな人です。勿論ジオットさまにも感謝していますけど、リシュリュー様がいなければ僕はどうなっていたかも分かりませんし」
「……それで?」
「それで……だから……やっぱり、思ってしまうんです。リシュリュー様が仰って下さったこと……とても自分の身の上に起きた事と思えないって」
「思えなくてもそれが事実だ」
  途端にリシュリューがむっとしてクリスの頬をさらりと撫でた。自分は目の前にいる、これは現実だと言わんばかりに。
  クリスは不意にまた泣きたくなって、それでも精一杯笑ってみせた。
「でも…でも、やっぱり、どうしていいか分からないんです。呆れて下さって構わないんです。それならそうかと捨てて下さっても構わない。僕は……リシュリュー様のお傍にいるのが怖くて堪らない」
「……迷惑な憧れだな」
  はあとリシュリューは溜息をついた後、それでもクリスを離す気はないのか再度吸い付くようなキスを施した後、フンと鼻を鳴らした。
「分かった。要するにお前はまだ心の準備が出来ていないと言いたいんだろう?」
「リシュリュー様……」
「違うか?」
「……はい」
「なら、それはそれで待つ事にするさ。ただこの間も言った通り、ここにいる事だけは決定事項だ。俺の伴侶となる事もな」
「リシュリュー様」
「なあに、一緒になってから考えればいいじゃないか。俺は構わん。お前はもう俺のものだ。幸い、お前も俺のことは嫌いではないらしい。そうだろう? 剣の強い男は好きか、クリス?」
「は…? …はい。それは…」
「分かった」
  リシュリューはニヤリとここで初めて不敵な笑みを浮かべ、そうしてまたしつこくクリスにキスをした後、堂々と言った。
「ならば俺はこの先、剣では誰にも負けないと誓う事にしよう。俺が1番強い。そうすればお前が他の人間を好く事もないだろう?」
「リ、リシュリュー様…」
「話は終わりだ。寝室へ行こう、クリス」
「え」
  誘っておきながらリシュリューは問答無用でクリスを抱え上げ、そしてずんずんと歩き出した。首筋がどことなく赤い事に気づいたのはその時で、クリスがそっとそこに触れると、リシュリューは少しだけ驚いたような顔をした後、やがてふっと笑った。
「お前を抱きたくて堪らない」
「リ…」
「だから探していた。ジオットに指摘された通りになるのは癪に障るが―…事実だから認めるとしよう。クリス、俺はお前が欲しいんだ」
「リシュリュー様…」
「いいか?」
  了承を求めている割に、リシュリューの足取りは迷いもなく己の寝室へと向かっている。クリスは優しく抱きかかえられたままの格好で途惑いながらも、その自信と不安半々に彩られた美しい顔を前に「待って欲しい」などとは口が裂けても言えないと思った。
「……僕、嫌じゃないです」
  だから正直に告げた。
「リシュリュー様……僕、嫌じゃないです」
「……よし。では、一晩覚悟しておけ。途中で泣いても止められないからな」
「はい…」
  カッと赤面したが、リシュリューの顔もどこか赤くなっていた。
  クリスはそんな風に自分と同じような反応を示す天上人の姿を不思議そうに見上げながら、きゅっとリシュリューの胸元に縋りついた。
「嬉しいです、リシュリュー様……」
  自分を求めてくれて。
  だからそっと今言える精一杯を言の葉にのせた。
「う……お、俺もだ…っ」
  するとリシュリューは何故か苦しそうに呻いたかと思うと遂にはだっと走り出し、通り過ぎる使用人たちのぎょっとした姿も構わずに己の寝室へと突き進んだ。
  だからクリスはそんなリシュリューに振り落とされまいと必死になったが、しっかと捕まり離れずにいて、その後―…ベッドの中では絶対逃がしてもらえないほど愛されたので、いつの間にか意識を遠くへ飛ばしてしまった。

  そのせいで、リシュリューとの事を一生懸命考えなければと思っていた時間はあっという間になくなってしまった。