質問59「神様の思し召し?」

都内某所・某大型ブックセンターの一角にて。


沢海「えっ…友之!?」
友之「あ…拡」
沢海「何でこんな所にいるんだ? 家から随分遠いし。ここへは普段からよく来るのか?」
友之「ううん。あの、ここは初めて…」
沢海「じゃあ何で…? あ、俺はこの近くに親戚が住んでてさ。今日はちょっと親に頼まれ事して、その帰りなんだけど」
友之「そう…なんだ。拡…今日、帰る時ちょっと急いでたから…どうしたのかなって思ってた…」
沢海「えっ!?」
友之「……ッ!?」←あまりの大声にびっくりした
沢海「あっ…ご、ごめん」←きょろきょろと辺りを見回す。幸い周囲に人はいない
友之「拡…?」
沢海「ああ…いや、本当ごめん。何でもないんだ。た、ただ友之、俺の事気にしてくれてたんだって思って…」
友之「え…?」
沢海「あっ…。えっと、その…。最近は帰りも何だかんだで橋本がお前の周りうろついてたり、他校のくせに何故か数馬の奴がいたりして…。放課後は俺たち…そんな話せてなかっただろ」
友之「………」
沢海「べ、別に! それは友之のせいでも何でもないんだけどなっ? ただちょっと、俺が勝手に妬いてたってだけだから!」
友之「………」←困惑顔
沢海「あ、はは…ごめん。俺、一体何言ってんだろうな? ホント、気にするなよ? 何か急に友之が目の前に現れるからさ、混乱した」
友之「……拡」
沢海「え?」
友之「あの…この後、もう帰る…?」
沢海「あ、ああ、そりゃ…。もう用は済んだし。ここは気紛れでちょっと寄っただけだから」
友之「そ、そしたら…一緒に帰れる?」
沢海「!!」
友之「あ…まだ本探せてないから…。拡が急いでたら…先に…」
沢海「全然急いでない!!」
友之「……ッ!?」←今日二度目のびっくり
沢海「俺は全く構わないから! ゆっくり探せよ? そんで一緒に帰ろう? もう夕方だし! うん、そうだよ、俺ちゃんと家まで送るしさ、友之のこと!」
友之「え…? そんなの……」
沢海「俺が送りたいんだ! いいだろ、な? あ、じゃあついでにさ、この後どっか寄って夕飯とか食べてかないか? 俺奢るし!」(ずずいっと接近)
友之「ご、ご飯…?」(じりじりっと後退)
沢海「そう。何がいい? 友之の好きな物なら何でもいいよ。な、そうしよ。あ、向こう着いてからじゃ誰かに遭遇する可能性もあるから、出来ればこの近辺で食べて行くのがいいかな!」
友之「………」
沢海「そうと決まったら善は急げだ! それで友之は何の本探してるんだ? ここまで来るって事は地元の本屋にはなかったって事だろ?」
友之「う、うん。あの…写真集なんだけど」
沢海「そうなんだ。ああ、友之写真好きだもんな。家にも結構あるんだっけ?」
友之「そんなには…。でも修兄の撮ったのとか、あとはコウ兄が時々買ってきてくれる…。あとは、図書室にあるのとか」
沢海「それならやっぱり相当好きな部類に入るよ。しかも今回は自分で買いに来たいって思った程のものだろ? 何て人が出してるやつ? タイトルは?」
友之「あ、作家名は分からないんだ…。タイトルだけ」
沢海「そうか。うん、それだけでも大丈夫だよ。こういう所は自分で検索出来るようにパソコン…ほら、あそこにある。友之、おいで。俺が置いてある場所探してあげるから」(行って先に検索用パソコンへ向かうハイテンションな拡)
友之「……っ」←必死に後を追う
沢海「それで? タイトルは?」
友之「しゅちにくりん」
沢海「………は?」
友之「しゅちにくりん」
沢海「へ、へえ…? ……あのさ、友之っていつも風景写真とか見てない?」
友之「うん」
沢海「今言ったのもそういう系? その…何か、それはちょっと自然とかとは似つかわしくない題というか」
友之「そうなの?」
沢海「……因みに友之、これの意味知ってる?」
友之「ううん…よくは…」
沢海「だよな…。……って事は、あれか…」
友之「あれ?」
沢海「いや…どうせあいつが絡んでいるのだろうと…」
友之「あいつ…? あの、これ、賑やかなパーティーっていうような意味なんでしょ…? 橋本さんの友達が言ってた」
沢海「橋本の友達!? 数馬じゃないのか!?」
友之「……ッ!?」←本日三回目の…
沢海「どっちにしろ友之、橋本の友達って誰の事だ!? だ、大体、何で友之、そんな、あいつの友達なんかと話してるんだよ?」
友之「な、何でって…?」
沢海「いや…だって、そんな…お前、クラスでも俺と橋本以外とはあんまり話さないし…。ああいや、そんな事は今はどうでもいいんだけどっ。とにかく、どうしてそんな話したんだ? っていうか、その写真集はそいつがお前に買って来いって命令したのか?」
友之「あ…違…違うよ…? あの、話したわけでもない。教室で話しているのを聞いてたんだ…」
沢海「え……」
友之「この間…その人が橋本さんは『もうすぐ誕生日だ』って他の人に言ってて…」
沢海「誕生日?」
友之「うん。それで何かしてあげようって皆で集まってて。それで……俺も、何かプレゼントしたいなって思ったんだ…」
沢海「……橋本に?」←密かにメラリと嫉妬の炎
友之「いつも…優しくしてくれるし」
沢海「あいつは好きで友之に付きまとっているんだから、お前が気にする必要はないんだよ。っていうか、どっちかっていうとあいつはくっつき過ぎだろ! 俺は友之が迷惑してるんじゃないかって逆に心配してるくらいだ」
友之「そんな…そんな事、ないよ…?」
沢海「………」←さらにメラリ
友之「あの…拡…?」
沢海「……何でもない。それで? 何かあげたいって思って写真集?」
友之「う、うん。…女の子が欲しい物とか…よく分からいし迷ってたら、別の人が…橋本さんが今一番欲しがってるのは『しゅちにくりん』っていう写真集だって言ってるの聞いて」
沢海「………」
友之「最近出たばっかりみたいで、それ、話聞いてた人たちも皆知ってた。何か…たぶん楽しい写真なんだと思う、皆凄く楽しそうに笑ってたし」
沢海「……楽しい写真、ね」
友之「うん」
沢海「楽しい写真で『酒池肉林』…」
友之「うん…?」
沢海「……でも、そしたら友之? あいつらがそれを買って橋本にプレゼントしちゃったら被っちゃうだろ? お前は別の物にした方がいいじゃないか」
友之「あ、ううん…。皆、買ってあげたいけど買えないって言ってたから。違う物にしようって言ってた」←何気に女の子達のお喋りをずっと聞いてるトモ
沢海「……チッ」←超小さい舌打ち
友之「きっと凄く高いんだと思う…。だから僕…俺も、買えるかは分からない、けど…でも見てみて、今ある貯金で買えそうならあげたいって…。でも、どこにもなくて…」
沢海「ふうん…」(カチカチと虚ろな目で検索を始める拡さん)
友之「店員さんに訊こうとも思ったけど…。あの、それで見つけたら…その場で絶対買わなくちゃいけなくなる気がして、訊けなくて…」
沢海「ああ…本当に訊かなくて良かったよ。それに直接見当たらなかったのも、きっと神様がお前の目に触れないようにしたんだ。(どうせあいつらがはしゃいでるそんなもん…ロクでもない写真集に決まってるからな)」←ここだけ小声
友之「え?」
沢海「何でもない。とにかく、今日俺とここで会ったのも神様の思し召しなんだよ」
友之「……?」
沢海「あんまり信じてなかったけど…。ちょっと信じる気になったかもな」
友之「あの…何の話?」
沢海「神様の話」
友之「神様?」
沢海「ところで友之、今検索してみたけど、ここの本屋にもそれは在庫切れでないってさ。それでさ、良かったら俺が家帰ったらパソコンで実際幾らなのか、通販でも手に入るのか調べておくよ。だから友之は探すのやめろ。な?」
友之「え…でも…」
沢海「それで実際本当に高かったら買うの止めてさ。あ、っていうか、俺と一緒に金出しあって何かあげるって事にしようぜ。な、それがいい!!」
友之「拡も…?」
沢海「そうだよ。友之が個人的にあいつに物をあげるなんて許せな……いや、あいつも、友之が一人だけで高い物買ったなんて聞いたら逆に気遣っちゃうから。な、そうしよ? 決まり!」
友之「う、うん…?」
沢海「あ! それじゃさ、もしこの写真集が手に入らないってなったら、今度何か違う物探しに日曜日とか一緒にどっか出掛けないか? 俺、今度の休みは部活ないし! それで、それ終わったら二人で映画でも観に行こう?」(またまたずずいっと接近)
友之「……っ」(またまた気圧されて仰け反る)
沢海「よし、じゃあ今日はこれで終わり。あー気が抜けたら腹減ったなぁ。友之は大丈夫か? これから何食って帰ろうか? 友之の好きな物、何でも食べさせてやるから」
友之「あの…」
沢海「うーん、栄養ある物がいいよなあ、この近くだと何があるかな…。ま、ともかくは行こう、友之」(さり気なくぎゅっと手を握る)
友之「う、うん…っ」←逆らえない。引っ張られるまま
沢海「酒とアレは駄目だけど、それ以外の豪勢な食べ物だったら俺が今叶えるからな!」
友之「???」


二人が去った後……。
放置されたパソコンの画面には橋本真貴切望の某男性ヌード写真集の《在庫アリ》表示が煌々と映し出されているのであった。




*酒池肉林(一応自信なさげに補足…。結構その手の本で使われるタイトルのような気がしたので使用しました(実際にあったらどうしよう…汗)。これは中国古代の故事で、昔いた王様が酒の池と肉を木の枝にぶら下げた贅沢な酒宴を行って、更にその座興で多数の男女を裸ではべらせた事から、美酒・美食・美女に溢れた煌びやかな状況をさす時に使うのです…たぶん。…しかしこの場合美男は入らないんですかね?)


【完】