質問63「彼が泣くのはどんな時?」

映画を観終わった帰り道。


俊史「……お前、あの映画のどういうところが泣けたんだ(呆)?」
歩遊「え…っ。あ、俊ちゃん、つまらなかった…?」
俊史「バカ、無理に目、擦るな。余計赤くなるだろ!」(無理に歩遊の手を掴んで止める)
歩遊「う、うん。ごめん」
俊史「…寒くないか?」←さり気なく手を繋いで放さない人
歩遊「うん。大丈夫」
俊史「面白かったか、映画」
歩遊「うんっ。凄く面白かった! あのさ、あの黒兎の師匠が自棄になった子パンダをキッて怒って、後ろからタックルしてさっ。その後ちょっと見捨てかけたのに、ちゃんと戻ってきてくれたでしょ!?」
俊史「……」←黙って頷く。饒舌な歩遊が珍しいらしい
歩遊「優しいよね! あの黒兎の師匠、凄くカッコ良い! 強いし!」
俊史「格好良いって言うか…あの展開、ツッコミどころ満載だろ」
歩遊「え、どこが? あとさ、あの悪役のライオンも憎めない感じだったよね。最後友達っぽいっていうか、ライバルっぽくなって良かった!!」
俊史「あの終わり方ずるくないか? 2への伏線張りまくりだろ。王杯って訳分からんアイテムの説明も全くないし」
歩遊「あ、あれ、僕も意味分からなかった! あれ飲んだらいきなりパワーアップしてたもんね。それにライオンを悪くしてた水の事も説明してなかったし。2、ちゃんとやってくれるかな!?」
俊史「お前みたいな奴がたくさんいればな」
歩遊「絶対ヒットするよ! 面白いもん! そ、そしたらさ……あの、俊ちゃん、また一緒に観に行ってくれる…?」(下から上目遣い目線)←無自覚な媚び×2モード
俊史「!」
歩遊「あ…しゅ、俊ちゃんがつまらなかったら別に…!」
俊史「別にンな事言ってねーだろ! ……行きたいなら付き合ってやるよ。仕方ねーから」
歩遊「! う、うんっ。ありがとう! ありがとう俊ちゃん!」
俊史「う、煩い…っ。そんな顔してでかい声出すな…」(僅か赤面)
歩遊「時間最後だったから、売店早く閉まっちゃって残念だったな。ちょっと迷ったんだ、あのストラップ。可愛かったよね」
俊史「は? 知らねえ、見てねえよ…。お前パンフだけ欲しいって言ったから俺は―」
歩遊「あ、い、いいんだよっ。俊ちゃんにはこれ、パンフ買ってもらって嬉しかった! あ、ありがとう! そ、その、ストラップは待ってる間に見てて」
俊史「何? 子パンダのがあったのか?」
歩遊「う、うん。あのね、子パンダのと黒兎とライオンと…あとハイエナとワニで5種類あった! どうせならキリンとはりねずみも加えて欲しかったな。そしたら大体主要キャラ網羅だったのに」
俊史「全部買う気かよ」
歩遊「俊ちゃんはどのキャラが1番良かった!?」←聞いちゃいない
俊史「俺? んなもん…」←実はあまり熱心に観てない
歩遊「僕は黒兎!」
俊史「さっき聞いた」
歩遊「あっ…ごめん。あ、あの…」
俊史「〜っ。んな顔するな! 別にいいよ。……好きなキャラな」
歩遊「う、うん」
俊史「……強いて言うなら白兎かな」
歩遊「え…? 俊ちゃんはあの白兎が良かったの?」
俊史「悪いかよ。(別に大して好きでもねーけど)」
歩遊「わ、悪くないよっ。でも、あんまり出てこなかったし。というか、回想オンリーの思い出キャラだったじゃない。やっぱり俊ちゃんは注目する所が人と違うんだね」
俊史「そうなのか? けど、あの黒兎があんだけ強くなったのは白兎がいたからだろ」
歩遊「あ、そうだね。うん、そうかもね」
俊史「ホント何つーか、色んなもんパクりまくってて大丈夫かあれ。黒兎が子パンダに『お前は何の為に戦うんだ!?』みたいに言ったろ。んで、子パンダが『護りたい者があるから!』とか何とか…。どこかで見たぞあの台詞…」
歩遊「そうなの? 僕、そこが一番感動した!」
俊史「お前は感動しやすい性質でいいな」
歩遊「俊ちゃんは感動しなかった?」
俊史「するわけないだろ」
歩遊「………」
俊史「べ、別につまらなかったとは言ってないからなっ」
歩遊「うん…。あ、じゃあさ。俊ちゃんが感動した映画って何?」
俊史「え」
歩遊「映画じゃなくてもいいよ。本とか漫画とか、音楽でも…! 泣いちゃったりしたやつとか」
俊史「ねえよ、そんなもん」
歩遊「えっ…」
俊史「映画観て泣いた事なんかねえ。本も。どうせ作り事じゃねえか」
歩遊「……でも。ノンフィクションだってあるし」
俊史「それでも泣いた事はない」
歩遊「そう……なんだ」
俊史「………」
歩遊「………」
俊史「何だよ」
歩遊「えっ」
俊史「何か言いたい事あるならハッキリ言えよ。俺は冷血漢とでも言いたいのか」
歩遊「そ、そんな事っ」
俊史「けど今、明らかにお前引いただろ」
歩遊「ひ、引いてないよっ」
俊史「引いた」
歩遊「引いてないってば! そ、そういうのは人それぞれだと思うから!」
俊史「ホントかよ…。どうせ俺は感動しにくい性質だよ。お前と違って」
歩遊「………」
俊史「お前はホント何でもビービー泣くからな。子どもの頃なんか『ド○えもん』観て泣いたろ」
歩遊「ド○えもんの映画は誰でも泣けるよ!」
俊史「俺は泣けない」
歩遊「うっ…。で、でも…俊ちゃんだって、泣いた事ある」
俊史「は?」
歩遊「小さい頃は泣いたトキあったじゃん…」
俊史「いつだよ…?」←覚えがないらしい
歩遊「え、えー…色々」
俊史「知らねーよ! はっきり何歳の、いつ、何処で泣いたか言えっての!」
歩遊「そ、そんな怖い顔されたら言えないよ…っ」
俊史「……! 怒らないから言ってみろ」
歩遊「絶対怒らない?」
俊史「早く言え!」
歩遊「ひっ!」
俊史「あっ…。 お……怒らないからさっさと言えって…」
歩遊「……じゃあ…例えば、うちの家族と俊ちゃんの家族でキャンプ行った時」
俊史「は?」
歩遊「森の方入って行って迷子になってさ…。そしたら雨が凄くて、近くで雷まで落ちて。怖くていっぱい泣いたじゃん」
俊史「……お前」
歩遊「僕は森の中危ないからやめようって言ったのに、俊ちゃん無理矢理入って行くんだもん。それで文句言ったらまた凄い怒るし」
俊史「そういう事は確かにあったが…」
歩遊「ね! その時戻ってお母さん達に会うまで泣いてた事あったじゃん!」
俊史「俺は泣いてない」
歩遊「え?」
俊史「俺は泣いてない。泣いてたのはお前だけ」
歩遊「そ、そんなわけないよ。俊ちゃんだって泣いてたもん!」
俊史「泣いてねえよ。んな暇あるかよ。雷雨は酷いわ暗いわで火焚かなきゃならなかったし。横からお前が文句言うわ泣き喚くわで……確かにそれでスゲーイラついてめちゃくちゃキレたけど」
歩遊「え−…、う、嘘だよ。俊ちゃんだって怖くて泣いたよー」
俊史「………」(ジロッ)
歩遊「びくっ」
俊史「そうやって過去捻じ曲げて変な思い出にするの止めろ」
歩遊「だって…(俊ちゃんも泣いてたと思うんだけどなあ…)」
俊史「それにな。そういう思い出ならお前より俺の方が100倍くらい持ってるんだからな」
歩遊「うっ」
俊史「蒸し返されたくなかったら余計な事言うなよ」
歩遊「……言わなくても俊ちゃんは時々持ち出すくせに」(ぼそ)
俊史「何か言ったか」
歩遊「! 言ってないよ!」
俊史「ったく…」
歩遊「じゃ…じゃあさ」
俊史「何だよ」
歩遊「俊ちゃんが泣く時ってどんな時かな?」
俊史「はぁ…?」
歩遊「どういう時に泣くのかなあ…。卒業式とか泣かないよね」
俊史「泣くわけないだろ、あんなもん」
歩遊「うん…。でも、僕は泣くな。だって俊ちゃんと別々になっちゃうし」
俊史「! 何だそれ?」
歩遊「え? だって、高校は自動的に上がったから同じ学校だったけど、大学は別々だよね、やっぱり。僕頭悪いから、俊ちゃんと同じ大学行けるわけないし」
俊史「………」
歩遊「それに俊ちゃんは理系でしょ? 僕は文系だもん」
俊史「……お前、進路ってもう決めてんのか」
歩遊「ううん、分からない。でも、数学嫌いだから、何となく文系かなって」
俊史「……じゃあまだ分からないだろ」
歩遊「え? 何が?」
俊史「………」
歩遊「……俊ちゃん?」
俊史「煩ェな! 別々になるって話だよ! まだ分かってもいねえ先の事でんな事言ってんじゃねーよ!」
歩遊「! ご、ごめんっ!」←意味も分からず謝る
俊史「……っ。あっさり……そういう事、言うな……!」
歩遊「ご、ごめん、ごめんね。僕…」
俊史「フラフラすんな! 行くぞ!」
歩遊「…俊ちゃん、不機嫌…?」
俊史「じゃ、ねーよ! ったく! …むかつく事想像させんな…!」(むぎゅっと強く手を握り直す)
歩遊「……っ。ごめん…」
俊史「………」
歩遊(俊ちゃん、泣きそう……?)



【完】