質問64「恋人と映画を観ていて寝るのは…失礼?」

光一郎の、珍しく大学もバイトもない、休みの日。

光一郎(コイツが観たいって言うから借りてきたのにな…)
友之「くー…ZZZzzz…」
光一郎(……まあ。あんまり面白くないしな。何だよ『子パンダ物語』って)
友之「くー…ZZZzzz…」
光一郎(犬みてえ……)←友之の鼻先をつんと突付く
友之「ん…」←でも起きない
光一郎(はあ…。とりあえず最後まで流しとくか…)

―それから2時間―

友之「コウ……」(ごしりと目を擦りながら)
光一郎「ん…。おはよう」
友之「……映画、終わっちゃった?」
光一郎「とっくにな。つまんなかったか」
友之「ご…ごめん。パンダが……」
光一郎「ん?」
友之「思ったより……可愛くなかった……」
光一郎「………。(そこなのか、ポイントは…)」←何だか友之の知らない面を見た気分
友之「…もう1回再生していい?」
光一郎「は? 観るのか? 何で?」
友之「今度はちゃんと観る」
光一郎「だから、何でだよ。つまらなかったんだろ?」
友之「………」
光一郎「…まあ別に観たいって言うなら止めないけど」
友之「…勉強の邪魔?」
光一郎「ん? ああ、これは別に。勉強って言うより宿題な。明日までに提出しなくちゃならないから。大して考えて書いてないし、テレビがついてたって別に気にならない」
友之「ご……ごめんなさい」
光一郎「……何で?」
友之「あの…映画、観たいって言ったのに。寝たし。……」
光一郎「あとは?」
友之「寝たくせに……また観るって、言った…し。気、散らせるし」
光一郎「だから?」
友之「わ…我がまま…」
光一郎「………」←ちょっと笑ってる
友之「……?」←そんな光一郎を見て怪訝そうな顔
光一郎「お前って…」
友之「え……」
光一郎「いや、何でもない。別にいいんだけどな。けど、何で本当にもう1回観たいんだよ? また寝るんじゃないのか?」
友之「寝ない。今度はちゃんと観る」
光一郎「無理しなくていいんだぞ? ……どうせ、あれだろ。“折角借りてきてくれたのに悪い”、とか思ってるんだろ」
友之「えっ」
光一郎「違う?」
友之「ち……違うっ」
光一郎「そうか? なら何で?」
友之「………。分からない」
光一郎「……そうか」
友之「……?」
光一郎「何だかな…。前だったら、お前がよく言ってたその台詞。“分からない”っての。なら、俺だって絶対分からないだろって思ってたけど」
友之「え…」
光一郎「あんまり嫌じゃないな、今は。分からない事には変わりないけど」
友之「前は…嫌だった?」
光一郎「相当」
友之「………」
光一郎「はは…。だから、前はって言ってるだろ? 泣きそうになるなって言うの、お前もいい加減慣れろよな。これ、厭味とかじゃないんだから」
友之「……別に、泣いてない」
光一郎「けど、いじけたろ」
友之「いじけてない」
光一郎「分かった分かった。ほら、もう1回観るんだろ? リモコン」
友之「……うん」(握ったまま、しかし暫し固まる)
光一郎「……?」
友之「………」
光一郎「…今度は何だ?」
友之「コウも、もう1回観る?」
光一郎「え? いや、さすがに2回はきついだろ…」
友之「………」
光一郎「何だよ、お前は観ればいいだろ? 別に俺もここにいるんだし、観て欲しいなら時々はちら見するって」
友之「別に…観たくないなら観なくていいけど」
光一郎「は、何? もしかしてお前、1人で観たいのか? 俺にここから出てけって?」
友之「ちっ、違うっ!!!」
光一郎「……っ。な……んな、でかい声出すなって……」←ちょっとびっくり
友之「違うよ…っ。コウ、コウには、コウ、ここに、いて欲しい…」
光一郎「…だから、いるって…」
友之「せ、折角……今日、家に、いるから…」
光一郎「うん…?」
友之「ゆっくり……休んで……?」
光一郎「まあ…。(お前の世話も結構疲れるんだが…)」←何気に酷い
友之「……もう1回観る」←気づかず、ぽちりとリモコンを操作。

―その1時間―

友之「くー…ZZzzz…」
光一郎「…またしても爆睡、か【呆】」
友之「うー…ん」
光一郎「……? (いや、むしろ苦悶? この映画、却って動物好きの子どもに問題あるんじゃないか…汗?)」
友之「コウ…っ」
光一郎「は…?」
友之「う……。………。くー…ZZzzz……」
光一郎「寝た…。(やっぱり犬だな)」←さっきと同じく鼻先をつん

―更に1時間後―

友之「………コウ」(むっくりと起き上がってどこか御機嫌ナナメ)
光一郎「ん…あぁ、おはよう。よく寝たなぁ、お前今夜ちゃんと眠れるか?」
友之「駄目だ……気づいたら、寝てた」
光一郎「気にするなって、そういう映画もあるさ。逆にもし眠れない日なんかがあったら、これ観ればいいんだ。いい睡眠薬見つかって良かったな」
友之「コウは……あんまり寝ないね」
光一郎「ん…そうかな」
友之「あんまり、寝てるところ、見た事がないから」
光一郎「寝てるよ。夜はフツーに寝てるだろ」
友之「でも……折角、休みなのに」
光一郎「……?」
友之「いつもちゃんとしてるし…。映画だって、つまんないのでもちゃんと観るし。ちゃんと…起きてるし」
光一郎「……今のはさすがに観てなかったぞ」
友之「………」
光一郎「それに別にちゃんとなんかしてないし。お前、そういう事よく言うけど」
友之「………」
光一郎「俺はちゃんとなんかしてないし。だらだら生きてるよ。休みとか、そうじゃないとか関係なしに」
友之「…そんな事ない」
光一郎「何かよく分からないな。トモは俺に寝て欲しかったのか?」
友之「コウは…動物ものの映画なんて、興味ないでしょ…?」
光一郎「別にそんな事ないさ。『フランダースの犬』とか見た事あるぞ」
友之「え」
光一郎「お前、ないだろ」
友之「ない…」
光一郎「だよな。お前らってテレビあまり見なかったし」
友之「………」
光一郎「あー…悪い。別にこんな話するつもりなかったのに」
友之「……違う。あの、さ」
光一郎「ん?」
友之「うん…。ううん、何でもない。あの、もう1回観ていい?」
光一郎「え……そ、それはさすがに……(汗)」
友之「駄目?」
光一郎「……じゃあ交換条件な。何でそんなにこれにこだわるのか教えろ」
友之「別に…」
光一郎「理由くらいあるだろ?」
友之「……コウが、寝たら」
光一郎「うん?」
友之「今度は、僕が……布団かけるよ」
光一郎「……は? ………??」
友之「折角の休みなんだもん。ゆっくりして欲しいよ…」
光一郎「だから、ゆっくりしてるって。(気を遣う割に、あの映画3回流されるきつさは分からないんだな、こいつは…)」
友之「……今度こそ全部観て、感想言うね」
光一郎「あ…ああ…。……? 別に、いいんだけどな…」
友之「今度は、寝ない……」(ぽちりとリモコンのボタンを押す友之。決意のこもった顔)
光一郎「……トモ」
友之「ん…?」
光一郎「お前のそういう訳分からないところを見てると、飽きないからな。俺は全然眠れないよ」
友之「……?」
光一郎「けど、俺はそれが嬉しいんだ」



【完】


オチというオチがない…。