質問65「無敵な人が負ける時?」

レンタルビデオショップ「淦」にて。

雪也「創。今度の火曜日、誕生日なんだって? 那智さんから聞いたんだけど」
創「あぁ…そういえばそうかもね。すっかり忘れてた」
雪也「はは…やっぱりな。創はそういうの、何か無頓着って感じする」
創「…そんな事はないよ。それに、そんな話を振られたからには、桐野君に是が非でも祝ってもらいたい」
雪也「あ、勿論いいよ!何か欲しい物とかある? 食べたい物とか」
創「桐野君の手料理っていうのもかなり捨て難いけど、俺が頼みたいのは別のこと」
雪也「何?」
創「うん。ここでさ、桐野君、剣君と対戦してよ」
雪也「た、対戦!?
創「そう、チェスの」
雪也「あ…何だチェスか」
創「何を想像してたんだよ?」
雪也「べ、別に…」
創「いつも俺たちのゲームを観戦してたし、ルールは分かるよね?」
雪也「まぁ…分かるけど。でも、完全な素人だよ? 創だって勝てないのに、俺が涼一とやっても…」
創「いーや、是非二人の試合が観たい。しかも、桐野君から剣君に相手して欲しいって頼むんだ。くれぐれも俺が君にそう言ったなんて事は彼に知られないように」
雪也「何で…?」
創「その時の剣君の反応も、俺へのプレゼントに入ってるからさ」
雪也「はぁ…?」
創「そうと決まれば、当日まで少しくらいは鍛えるか。さ、桐野君座って」
雪也「ええ!? 今からやるの?」←ただ借りていたビデオ返しにきただけなのに


そして、創の誕生日当日。今日は店の奥にあるリビングで。


雪也「創、誕生日おめでとう」
創「お、桐野君。剣君も来てくれたんだ? ありがとう、わざわざ」
涼一「お前が呼んだんだろっ! ったく、何でお前の誕生日ごときで、俺と雪の貴重なデートが潰されなきゃなんないんだよっ」←不満たらたら
雪也「涼一っ。今日はそういう文句言わないって、来る前に約束してただろ」(キッと怖い顔をしてみる)
涼一「分かったよ。そんなにむくれるなよ〜雪〜」(でもその顔も全然迫力がなく、「怒る雪も可愛い」とにやける涼一)
那智「さっ、さあさあ、桐野さんも剣さんも、ご馳走たくさん作ったので食べて下さい! ケーキもありますよ……って、ああっ!?
寛兎「ガツガツバクバク」(一人でホール独り占め)
那智「ひ、寛兎君、そんなっ。試作の時もあれだけ食べたのに、そんなに食べたらお腹が〜!」
涼一「相変わらずブラックホールだな、このクソガキの胃は…」
雪也「あ、それで創。これ、プレゼント。俺と涼一から」
創「え? 悪いね、そんな。別に、来てくれるだけで良かったのに」
涼一「おい、言っておくけどな、それは雪からだけじゃないぞ! 俺も入ってんだ俺も! 間違っても雪が単独でお前に何かやったとかじゃないんだからな!」
創「はいはい」
涼一「何だその返事は!? 因みに、中身を選んだのも金を多く払ってんのも俺だ! 雪の比重は高くないんだからなっ!!
雪也「ご、ごめん。俺は割り勘がいいって言ったんだけど、涼一がどうしても…」
創「いや、いいんだけどさ。しかし何だか、今の剣君の必死な発言って、俺の事が凄く好きで、桐野君より自分の方が尽くしてるんだぜってアピールに聞こえないか?」
涼一「何でそうなるッ【怒】!!
雪也「…そう言われれば」
涼一「ゆ、雪っ!? お前まで何言い出すんだよっ、俺はお前だけが創に何かしてやるのとかが嫌だったから――」
創「まあまあ。とにかく、2人が俺を祝いたいって気持ちはよく分かったからさ。とりあえず座りなよ。それと、折角来てくれたんだし、飯食べながらでもいいから一戦やろう」(と、言いながらもういつものチェス盤を取り出す創)
涼一「うっわ、出た。ここに来ると決まってそれだからな。だから嫌なんだ、めんどくせぇ!」←創との対局にはほとほと飽きている
創「俺の誕生日なんだから。相手してくれたっていいだろ?」
涼一「嫌だ。めんどい!」
創「……桐野君」
雪也「涼一っ、ちょっとくらいいいだろ? ね? お願いだから」
涼一「…おい創。何お前は雪におねだりの仕方なんか教えてんだよ…」←とか言いつつアッサリ盤の前に座る人
創「ありがたい。誕生日だからって手なんか抜かなくていいよ」
涼一「ったり前だ、誰がお前に容赦なんかするか! 大体俺が雪の前で負けるとこなんか見せるわけないだろうが!」
雪也「りょ、涼一は、本当に強いよね?」(ちらりと創を見てから、事前準備されていたセリフ読みを開始)
涼一「そうか!?」←そうとも知らず、嬉しさでキラキララ〜
雪也「お、俺、涼一がチェスやってるとこ見るの、かっ、カッコイイし凄く……す、す、好き、だよ?(何だこのセリフ! 恥ずかしいよ創〜・汗!)」
創「……」←ニヤ〜
涼一「…ッ!」←ガーン
雪也「や、本当。そう、思っていたから、さ。そ、それに…俺も、一度涼一と試合…してみたいなって…」
涼一「え?」
雪也「あ! 俺なんか凄い下手だろうし! 涼一みたいなプロ級の奴からしたら、かったるくて仕方ないだろうから、嫌だったらいいんだけど!」
涼一「ゆ、雪、俺とチェスしたいのか…!?」
雪也「え!? あ、う、うん…。出来れば、で、いいんだけど…。(何で涼一、こんな前のめりに訊いてくるんだ・汗!?)」←引き気味
涼一「やるっ! 絶対やる! 絶対やりたい雪!!」(もう創を押しのけて席を空けさせる涼一)
創「おいおい剣君、何だよ」←文句言いながらニヤニヤしてる
涼一「うるせっ! 後で幾らでも相手してやるから、今はどけ! すぐどけ!」
雪也「りょ、涼一??」(ぽかーん)
涼一「やろうやろう雪っ。是非やろう、すぐやろう!」
雪也「い、いいの?」
涼一「いいに決まってんだろうがっ!? く〜ッ! 嬉しいっ!」(感極まったように地面に向けて歓喜する涼一)
雪也「へ……?」
涼一「俺、雪からゲームしたいなんて誘われたの、初めてだ!!」
雪也「そ……そう、だった、かな……」
創「やー、そうなんだ。剣君、良かったなあ。そりゃあ嬉しいね」(ニヤニヤ)
雪也「な、何か俺、凄く酷い奴だね…(汗)」

そして、数十分後。

雪也「あ、あのさ、涼一……」
涼一「何!?」
雪也「ちょっと、さすがに……あの、ちょっとは、本気出して欲しいんだけど…」
涼一「え〜何がだよ。俺はいつだって本気だって!」(にこにこ)
雪也「だ、だって、さっきから俺が勝ってばっかりって言うか…」
涼一「え〜、それは雪が強いからだって! 雪凄いぜ、才能ある! 俺なんか全然敵わない!」
創「いつも『俺に勝てる奴なんてこの世に1人もいない』とか豪語していたくせに」
涼一「あ!? 煩ェよ! 雪は特別なの! 雪は才能あるからな〜」
創「なるほど。……しかし、こうまで変わるとは驚きだよ。人間の脳って本当に不思議だな」
雪也「え?」
涼一「何ぶつぶつ言ってんだ? は〜、しかし雪が真剣になってる姿も可愛いな〜堪能〜」
雪也「もう涼一っ! 本当、少しは真面目にやってくれよ!」←さすがに自分が情けなくなっている
涼一「だから、俺は本気だって。あ〜でも怒る雪は、やっぱり可愛い〜」
雪也「………」←げっそり
創「でも、そうだよ、桐野君。剣君は間違いなく本気だよ?」
雪也「は、創まで、何言ってるんだよ!?」
創「いや、剣君だってさっき言っていただろう。君には才能がある。間違いないよ、お陰で俺は剣君がこうも清々しく負ける姿が見られて嬉しい。いつも叩きのめされているから爽快だ。感謝だね」
涼一「♪♪♪」←ご機嫌過ぎて2人の会話を聞いてない
雪也「……全く、創の考えている事は分からないよ。こんな、涼一がわざと負けているところを見て楽しいなんて」
創「だから、わざとじゃないって。これが彼の実力。君の才能が彼のチェスの腕を上回っているんだよ」
雪也「俺に才能なんてないよ」
創「あるよ。【彼を骨抜きにする才能】がね」
雪「は?」
涼一「あ〜、何か嬉しいなぁ。幸せだ〜!」


黒うさぎ「ケッ、確かにありゃ、ふにゃふにゃだ」
那智「へ??」




【完】


相変わらずくだらないネタです。