質問67「こんな三十路でいいのか?」 |
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本日はちょっと遠くに出張、中原野球チーム。 そのグラウンド管理事務所兼、コミュニティセンター内にて。 椎名「おい、お前何やってんだよ。正人が茶はまだかって――」 蕗島「シッ! シーッ! 静かにしたまえっ!」 椎名「もがっ!?」 蕗島「くそっ! ここで目撃者が現れるとはツイていない…! しかし監視役には使えるか…? 幸いこの男は一番の適役…」(ぶつぶつ) 椎名「もがっ! もががーっ!」←見た目に反して蕗島は怪力らしい。拘束を振りほどけない 蕗島「いいですか椎名…。今から手を離してあげますが、決して騒がないで下さい。この事をあの粗野で凶暴な中原氏に知られては大変なんですから」 椎名「もがっ! もががーっ!」 蕗島「騒がないと誓えますね?」 椎名「もがーっ!」←「やなこった!」と目が文句言ってる 蕗島「ちっ…。いいですか? これは君にとってもおいしい話なんですよ。――友之君の事だと言えば静まりますか?」 椎名「!」 蕗島「私は先ほど彼に関する重大な発見をしてしまったのです。本当は私だけの秘密にしておきたかったのですが…致し方ありません。あなたにも教えて差し上げます」 椎名「……っ」 蕗島「では手を離しますよ…?」 椎名「ぷ、ぷはあ〜っ。殺す気か、てめえ! このバカ力! そんなひょろひょろした身体してるくせに!」 蕗島「ふん。精神同様、肉体鍛錬を怠っていては、この美しく完璧な姿を維持する事はできませんからね」 椎名「キモ! ヤバ! お前みたいなナルシー人間は漫画の世界だけにいろ! この世に存在すんじゃねえっ!」 蕗島「男の嫉妬は醜いですよ。そんな事だからいつまでも独り身なんです」 椎名「おまっ! お前だって独身だろ!?」 蕗島「私の場合は結婚できないのではなく、しないだけです。私のような人間が誰か一人だけのものになるというのは世界の損失ですから」 椎名「……もうお前と話したくねぇ。とっととその友之君に関する発見とやらを教えろ」 椎名「我々が土日どちらかで行う練習は大抵午前中ですよね」 椎名「ああ、それが?」 蕗島「その後はミーティングも込みという事で、殆どの者がアラキで昼食を取ります」 椎名「まぁ、それがいつものパターンだな。今日みたく遠出して別のグラウンドで試合するなんていう時以外は」 蕗島「ええ。そしてそういう時の昼食は、グラウンド管理事務所に併設されているこういう公民館で食べますよね。外食したくとも周りは国道に挟まれたグラウンドと、しょぼいコンビニがあるだけですし」 椎名「しょぼい飯食ってて悪かったな! どうせお前はわざわざデリバリーさせた中華だよ! これだからボンボンは…!」 蕗島「それも殆どあなた方無遠慮なチームメイトに食い散らされましたよ。まぁ友之君も喜んでくれましたから、その点は僥倖でしたがね」 椎名「何だよ、じゃあ発見って、友之君が中華好きって事か? 友之君は特別中華が好きとかじゃなくて、ああいう高級なメニューに耐性ないから感激してたってだけだぜ。普段、あんま良いもの食べさせてもらえないみたいだし」←チーム内にも北川家貧乏説が…… 蕗島「違います。発見というのは、これです」 椎名「…は? 何だそれ」 蕗島「見たら分かるでしょう、歯ブラシセットですよ。私もそうですが、うちの会社の女性スタッフも必ず携行している物です」 椎名「俺だって昼飯後に得意先へ出向く時なんかは磨いて行くから持ってるさ。けど、それが何だよ? 大体お前、こんな休みの時にもそんな物持ち歩いて磨いてんのか? 周りにいんのはどうせ近所のオッサンばっかだぞ? んなもん……はっ!? ま、まさか友之君はオヤジの口臭に耐性がないとか!?」(覆った両手にハーハーと息を吐いてみる椎名。←自身にオヤジ意識があるらしい) 蕗島「バカとは長く話せません! この状況で何故察しない! …この歯ブラシセットは友之君の物です」 椎名「………は?」 蕗島「友之君の歯ブラシセットなんですよ、これは! 正真正銘!」 椎名「なっ……むが!?」 蕗島「だから、大声を出すなと言ったでしょう!」(再び椎名の口を抑えたものの、しかし今度は割とすぐに離す) 椎名「ぷはっ。な、何でお前なんかがそんな物を…って、まさか友之君のバッグを漁っイテッ!」 蕗島「阿呆! 私がそんな愚劣な真似をするわけがないでしょう、お前じゃあるまいし!」 椎名「あぁっ!?」 蕗島「これは友之君の忘れ物です。先ほど水飲み場の所で磨いていて…多分荷物をたくさん置いていた上、急に中原氏が彼を呼びつけたものだから焦ってうっかり…というところでしょう。まったくあの人ときたら、常に友之君を自分の傍に置いておかないと気が済まないんですから」 椎名「その上俺らが近付こうとするのは絶対許さないしな。まるで害虫扱いだ……って今はそんな事どうでも良いとしてっ。そ、それでその忘れ物、どうする気だ?」 蕗島「無論彼にお返ししますよ。初めてまともに会話出来るチャンスですからね、ここは話しかける場所とタイミングに十分考慮しなければ――…って、椎名? 何ですか、その脂ぎったうざったい視線は…」 椎名「ちょ、ちょっとそれ、俺にも触らせてくれ…」 蕗島「は? …仕方ないですね、少しだけですよ?」 椎名「おぉ〜…。こ、これが友之君の歯ブラシかぁ。これ使ってさっきまで歯磨きしてたのかよ…!」 蕗島「ふふ…あなた方が向こうでバカ話に花を咲かせている間にね。私はしっかり見ましたよ。一生懸命磨いている姿が本当に愛らしくって」 椎名「くぅ〜! てんめぇ、一人だけ堪能しやがって! 俺にも教えろよなぁ、そういうオイシイ場面は!」(地団駄)←こんな大人は嫌過ぎる 蕗島「あれはきっと親御さんの躾が良かったのでしょうね。実にゆっくりと丁寧に磨いていて…。はぁ、全く友之君は荒廃した現代に舞い降りた天使です! 歯を磨く姿にすらあのピュアさが滲み出て見えるのですから」(うっとり) 椎名「分かる! 友之君って本当に真面目でよい子だからさぁ、きっと小さい頃お母さんから、『食事の後はすぐに歯磨きしなきゃダメよ』なんつって言われて、律儀にそれずーっと守ってるんだろうな! はぁ〜可愛いマジで。今日日の粗雑なガキどもとは大違い!」 蕗島「珍しく意見が合いますね。まったく、本来なら十代はみんな友之君のような純粋性を備えていて然るべきですよ! それがいつの時代からか、あの香坂数馬のような可憐さの欠けらもない学生が幅を利かせて!」 椎名「本当本当! ちょーっとエリート校に通える頭持ってるからって、ありゃ調子に乗り過ぎだろ! …なのに何故か友之君にも懐かれてよぉ……くそぉ〜むかつく!」 蕗島「全く世界の七不思議です…。友之君には私のような品のある人間が似つかわしいと言うのに。この泥臭い草野球チームに加入して早2年……未だ彼とまともな会話すら出来ないとはっ」 椎名「なぁそれでどうやって渡す気だ? 正人の前で返したら貴重な触れ合いは一瞬で終わりだろ」 蕗島「ええ。ですから椎名、ちょっと中原氏の注意を引いてきてもらえませんか。この礼は後でいくらでもしますから」 椎名「は!? 冗談じゃねぇ、何で俺がお前と友之君を二人きりにするお膳立てをしなきゃならないんだ!?」 蕗島「いいじゃないですかそれくらい。今それに触らせてあげたでしょう」 椎名「かっ! どうりであっさり持たせてくれたと思ったぜ! そんな位じゃダメだね!」 蕗島「お前はしょっちゅう友之君と話しているのだから偶には私に譲ってもいいでしょう! 第一、これを見つけたのは私なんですよ!」 椎名「…ふん。ならな――……せてくれたら、見張り、やってやってもいい」 蕗島「は? 何ですか?」 椎名「これ使わせてくれ。一回だけ」 蕗島「はあっ!? むがっ!?」(今度は蕗島が口を塞がれた) 椎名「静にしろっ! ちょっと試すだけだろうが、んな大げさな反応すんなっつーの!」(焦った風にきょろきょろ辺りを窺う。完全な不審人物) 蕗島「とんでもありません、そんな事!」 椎名「何!? じゃあお前はこれ、この友之君の歯ブラシを使ってみたくないのかよ!?」 蕗島「使いたいに決まっているでしょう!! 返しなさい、お前に汚される前に私が使います!!」 椎名「はぁ!? ふざけんな! 使うのは俺だ!」 蕗島「お前などが使ったら友之君が汚れますよ! 私が!」 椎名「俺だ!!」 蕗島「……ッ!!」(ギンッ) 椎名「……ッ!!」(ピリピリ)←暫し睨み合う変態30代2名 蕗島「……分かりました。では、正々堂々力で決めますか」 椎名「ようし、いいだろう。こうなりゃ実力行使だ!」 蕗島「フン、先ほどの私の力を見たでしょう。お前などに勝ち目はありませんよ」 椎名「俺は本番に強いタイプだ。テメエなんぞに友之君の歯ブラシを渡してたまるか」 蕗島「それはこっちの台詞です! では、恨みっこなしという事で…!」 椎名「おう…!」(無駄なファイティングポーズを取る椎名) 中原「いいだろう。もし俺に勝てたら不問にしてやるよ、お前らの犯罪」 蕗島「は……?」 椎名「へ……?」 中原「随分と面白い話をしていたじゃねえかよ」 両者「…………」←石化 中原「全く楽しいよ、お前ら。楽し過ぎて、おら見ろよ、俺の顔。はぁ、面白過ぎると却って笑えねーもんなんだな。不思議だなぁ?……とりあえず、笑かしてもらったこの礼はたっぷりさせてもらうわ」 椎名「……死んだ(汗)」 蕗島「悪魔が見えます(涙)」 この「三十路男どもがトモの歯ブラシ使おうとしたよ事件」は、3人のやり取りを偶然(?)目撃した数馬により、実に面白おかしく皆に伝えられた――。 その後、椎名&蕗島の姿を目撃した者はいない(え)。 友之は正人から「ちゃんと持ってろ!」と怒られながら、忘れ物の歯ブラシセットを投げて返されという……。 |
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【ハッピーエンド?】 |