質問22「友達からの紹介を穏便に断る方法って?」

大学構内。図書館棟脇のベンチ。雪也の特等席にて。


逢坂「桐野!」
雪也「あ、逢坂」
逢坂「またここで本読んでたのか?」
雪也「うん。ここの方が風とか気持ちいいし」
逢坂「………」
雪也「……? 何?」
逢坂「あっ、いや! な、何でもない! きょ、今日良い天気だもんな!」
雪也「うん。あ…座れば?」
逢坂「い、いいのか?」
雪也「いいよ。当たり前だろ」
逢坂「へへ…涼一は今講義中なんだよな。桐野が取ってない」
雪也「うん」
逢坂「へへ…計算通り」
雪也「え?」
逢坂「い、いやっ! こっちの話! ところでさ、俺桐野に相談があるんだよ」
雪也「俺に?」
逢坂「うん。実はさ、涼一が今日ヘンな飲み会やるの知ってるか? 桐野はバイトで来られないと思うんだけど…」
雪也「ああうん、知ってるよ。逢坂とA子さんを結ばせる為の飲み会だよな」
逢坂「な…っ」
雪也「涼一、すごく張り切ってたよ。2人ともシャイで晩熟(オクテ)だから自分が手伝ってあげないとくっつかないんだって。だから今日は奉仕の精神で場を盛り上げるって。何だかそんな事言ってる涼一が一番楽しそうだって思ったけど」
逢坂「全くその通りだぜ…あいつ…浮かれやがって」
雪也「浮かれ…って?」
逢坂「桐野、誤解なんだよ! 俺はA子の事なんかこれっぽっちも好きじゃないんだ!」
雪也「そ、そう、なの?」
逢坂「それなのに周りで勝手に盛り上がってよー。大体、確かにあいつとは高校からの馴染みで他の女連中より仲は良いよ。けど、あいつにはまだ彼氏もちゃんといるし、大体…っ!」
雪也「……何?」
逢坂「お、俺…ちょっと今気になってる子がいるって言うか…」
雪也「え……」
逢坂「だから今は誰とも付き合う気なんかないし。なのにどんどん訳分かんねーうちに話進んでってさ。ま、まあそれも…NOと言えない日本人的な俺の性格に拠るところも大きいが…」
雪也「それ、涼一にちゃんと言えば?」
逢坂「そ、それは言いたいのは山々だが、そうすると何か…恐ろしい事が起きる気がするし…」
雪也「恐ろしい事っ…て?」
逢坂「断るからにはあいつに俺が気になってる子のこと…い、言わないといけないだろ?」
雪也「……逢坂が言いたくないなら、涼一だってきっと無理には聞こうとしないよ」
逢坂「いや、それは違う。あいつは鬼のような奴だから。桐野以外の人間にはホント容赦ねーんだぜ」
雪也「そ、そんな事ないと思うんだけど…」
逢坂「だ、だからさ…。俺、どうやって穏便に断ろうか悩んでんだよ。どうしたらいいと思う?」
雪也「う、うーん…」
逢坂「あっ! ご、ごめんな、こんな事桐野に愚痴ってさ! そ、そりゃいきなりこんな話振られても困るよな!」
雪也「あ、そんな事ないよ。俺こそごめん。こういう話って難しくてさ」
逢坂「……桐野は本当擦れてないなあ」
雪也「え?」
逢坂「それに比べてあの悪魔は…」
雪也「……っ。あ、あのさ。そういえばA子さんに彼氏がいるって本当?」
逢坂「! ああ、そうだよ。まだいるんだよ、男はさ! 何かすっげーうまくいってないらしいけど。全くはた迷惑な話だぜ。元はといえばあいつが彼氏とうまくいってないからこんな事に…」
雪也「A子さんは今の彼氏と別れて逢坂と付き合いたいって思ってるの?」
逢坂「さあ…実はそこらへんは謎だな。まるで他人任せの見合いのように互いの事は一切知らされていないからさ」
雪也「それも…何だかおかしな話だね」(苦笑)
逢坂「だろっ! ったく、あのクソ涼一の奴は自分勝手でホント無茶苦茶な奴なんだよ!!」
雪也「………」
逢坂「あっ…いやその…」
雪也「……俺から涼一に言ってみようか?」
逢坂「えっ!?」
雪也「逢坂が気が進まないって思ってるって。理由言えばちゃんと分かってくれると思うし」
逢坂「で、でも、それって…いいのか?」
雪也「うん。それに、さ。そういうの抜きにしたら皆との飲み会はきっと楽しいだろ? 逢坂はヘンに意識しないで普通に飲みたいって言ってるって言っておくよ」
逢坂「き、桐野…」
雪也「でも珍しいよ。涼一がそんな風に人の世話焼くのって」
逢坂「へ?」
雪也「涼一、本当に逢坂のこと親友って思ってるんだなってさ。そう思ったから」
逢坂「いや〜それはかなり違うというか…」
雪也「だから逢坂、その想ってる子とうまくいくといいな」
逢坂「………」
雪也「皆だって納得だよ。好きな人がいるならちゃんと分かってくれるから大丈夫だよ」
逢坂「……はあ」
雪也「? あ、それじゃあ俺、そろそろ行くよ」
逢坂「あ、桐野…!」
雪也「え?」
逢坂「あ、あのさ。今度…さ。2人で飲みに行かないか?」
雪也「2人で?」
逢坂「そ、そうっ。ほら、いつも大人数だとあんま喋れないしっ。た、たまには男同士2人で語るのもいいんじゃねー?」
雪也「………」
逢坂「だ、駄目か…な?」
雪也「あ、ううん、そうじゃないよ。あ、あの…涼一も一緒じゃ駄目かな? 3人とか」
逢坂「………」
雪也「逢坂?」

藤堂「おーい、お前らそんな所で何してんだー? おい、康久。ところで今日の飲みよー俺も行っていいかー? ひでえよ、何で俺仲間外れなんだよー」

雪也「あ…藤堂。藤堂も行かない?」
藤堂「へ? 何が?」
雪也「俺は今日はバイトで行けないから…。今度、逢坂が飲もうって」
藤堂「えー飲む飲むー! いいなそれー! じゃあたまには野郎オンリーでいくか!? 涼一もどうせくるんだろ? あ、じゃああいつん家で酒盛りしようぜ! 4人でさ!」
雪也「うん。楽しそう」
藤堂「うおーホントいいなあ。よく考えたらその面子で一回も飲んだ事なかったよな!? あ、じゃあ桐野の手料理も一緒にー」
雪也「はは、うん。分かった。いいよ」
藤堂「やったラッキー!!」
逢坂「……」
雪也「あ、それじゃ俺ホント行くから。また」
藤堂「おー! あ、涼一に会ったら今夜は俺も行くって言っておいてー!」
逢坂「………」
藤堂「ん? どした康久。お前、何かブルーじゃねー? 何だよどうしたよ? 今日はお前の為の宴会だってのにさー。何か悩みがあるなら相談に乗るぞ?」
逢坂「………」
藤堂「? もしもーし? 康久? 康久君? 康久さーん?」
逢坂「うるせー!!」(蹴ッ)
藤堂「いてえっ!!」
逢坂「くそ…っ。厄日だ…っ!!」


藤堂「な、ななな何なんだよ〜!! 俺何かしたか〜??」


……あくまでも間の悪い男、藤堂。


【完】