質問23「自由研究、何にする?」

レンタルビデオショップ「淦」にて。天気の良い昼下がり。


那智「寛兎君、もうすぐ夏休みだね。楽しみ?」
うさぎ「うん」(那智の出してくれたおやつをモリモリ食べるうさぎ)
那智「この間、創に自由研究の相談をしていたみたいだけど、何をする事にしたの?」
うさぎ「……ん」(携帯していたノートを那智に向かって差し出す)
那智「え? あ、研究用ノート? ……え、でもこれは…?」
うさぎ「夏休みからじゃなくて昨日から始めた」
那智「……え、えーと、寛兎君? こ、これはその、つまり…」
うさぎ「クラスの奴らは朝顔だのひまわりだの、つまらんものばかり研究対象にしててホントガキだ」
那智「……あ、あはは…。確かに寛兎君は他の小学生より考えが大人っぽいよね。で、でもね…」
うさぎ「うちの担任は涼一のようなエロオヤジなので、たぶん桐野は好みのタイプだ」
那智「え、ええ…っ?」
うさぎ「これで2学期の成績アップも間違いなし」
那智「………」
うさぎ「那智、読みたいか?」
那智「えっ!」
うさぎ「自由研究<桐野の観察日記>写真つき。那智には特別に見せてもいい」
那智「そそそそれは…っ。で、でも桐野さんのプププラプラプライバシーが…っ」
うさぎ「……那智、何をどもってる」
那智「そ、それにっ! そんな自由研究をしている事がもし剣さんにバレてしまったら、きっとまた凄く怒られてしまうよ? 剣さんは桐野さんの事すごく大切な大親友って思っているから…!」
うさぎ「あんなバカには負けない」
那智「え…?」
うさぎ「この夏、桐野をたくさん観察・研究して、あいつのあらゆる好みと生活パターンを把握する。あのバカより桐野のことに詳しくなる事が研究の趣旨」
那智「………」
うさぎ「この間、ちょっと桐野のビデオ録っただけでまたバカ涼一に殴られた。今度はもっと凄い研究をしてびっくりさせてやる」
那智「あ、あのね、寛兎君。あんまり剣さんを怒らせるのは…」
創「傍で見ている姉さんの胃がもたないって?」
那智「は、創…っ。あんた、寛兎君に何てとんでもない自由研究をさせようとしているのっ!? だ、大体、桐野さんの迷惑も少しは…!」
創「俺は何も知らないよ。寛兎がやりたいと言った事に『へえ、面白そうだ』と言っただけさ」
那智「じゅ、十分よ、その返事だけで!」
創「まあまあ。寛兎がこんなに一つの事に夢中になるなんて今までにない事だ。少しは鷹揚な気持ちで見守ってあげようよ」
那智「…創、あんたもしかして面白がってる?」
創「さあね。あ、ちなみに桐野君の許可は俺が取っておいたから」
那智「え、ええっ!? 桐野さん、OKしているの!?」
創「ああ。『夏休み中、寛兎がやたらと懐く事があると思うけど、愛情不足の哀れな子どもと思って大目に見てやってくれ』ってね」
那智「………」
うさぎ「7月1日。晴れ」
那智「……っ!!」(びくうっ)
うさぎ「朝8時。桐野、大学へ行く。朝食のメニューはご飯に味噌汁。玉子焼きにあさりの佃煮。昨夜の煮物の残り物、少々。味噌汁の中身は大根と豆腐と油揚げ」
那智「へ、へえ〜。桐野さんのおうちって朝から和食なんだ…」
創「……ふっ」
那智「!! な、何よ創!?」
うさぎ「今日は研究の初日なので学校をサボってこっそり桐野の後をつけ、大学へ行く」
那智「えっ! ひ、寛兎君、そんな、わざわざ後をつけたの!?」
うさぎ「電車内は比較的混んでいる。桐野、バカ涼一のようなエロサラリーマンから接近を受ける。見ると四方八方から同じようなエロオヤジが桐野を包囲。桐野、痴漢の餌食となる。前から後ろから触られ放題。桐野の顔は苦痛に歪むも、身動きが取れず」
那智「……っ!!」
創「そこは寛兎の創作だよ。学校を休んで後を尾ける事は俺が許してないから」
うさぎ「このお話はフィクションです」(しら〜)
那智「ひ…寛兎君っ!!」
うさぎ「午後3時。桐野、家に帰宅。これからアルバイトに行くと言う。昼食は学生食堂できつねうどんを食べた。飲み物はコンビニで買った緑茶」
那智「………」
うさぎ「アルバイトは夜遅くまで続くので、出掛けに軽くトーストを食べて行くと言っている。飲み物はアイスティー」
那智「あ、あの…この観察日記って…?」
創「普段から自炊している者とそうでない者との食事内容の違いを見るって研究さ。最初に寛兎が姉さんに言った『桐野君の生活パターンを調査する』というのは、コイツのただの願望」
うさぎ「本当はそれがやりたかった」
創「さすがにそれは駄目だ」
那智「え…じゃ、じゃあ自炊をしていない者というのは…?」
創「当然俺。その凄まじい差を見せつけられるのはちょっと怖いけどね」
那智「な、な〜んだ食事の研究…」
創「何か別のことでも期待した?」
那智「そそ、そんなわけないでしょ…っ」
うさぎ「午前0時。バイト明け、桐野の夜食リサーチ」
那智「わっ、びっくりした…! ひ、寛兎君、観察日記はもう分かったからいいよ…」
うさぎ「夜食調査で掛けた桐野の携帯に出たのは、バカだった」
那智「え?」
うさぎ「以下、そのままの台詞。『このバカうさぎっ! 雪の携帯に気軽に掛けてくんじゃねーっていつも言ってるだろ! 雪なら今風呂だ! もう掛けてくるな!』…汚い声でかなりむかつく」
那智「あ、あの…」
うさぎ「研究初日にして記録が絶えるのは嫌だったので、一度切った後また掛け直す。今度は桐野が出たが、『今は立て込んでいるので後で掛け直す』と言う。物凄く焦っている」
那智「………」
うさぎ「待てど暮らせど電話が来ない。仕方ないのでまた掛ける。またバカが出た」
創「お前もかなりしつこいな。そんな邪魔は良くないぞ」←でもかなり楽しそう
うさぎ「研究の邪魔をしたのはあいつだ」
創「ふっ、そうか。分かった、それで?」
那智「………」
うさぎ「桐野が出てくれないので仕方なくバカに桐野の夜食メニューを訊く。バカはうざったそうにとんでもない事を言った。故に観察日記は初日にして崩壊してしまった。研究対象を失ってしまったからだ」
那智「あの…寛兎君、桐野さんは一体?」
うさぎ「バカは『雪は俺に食われたから電話に出れないんだ』と言った」
那智「へ……?」
創「剣君には教育的指導が必要だな」
うさぎ「桐野がバカ涼一に食べられちゃったってどういう事だ?」
創「ふふ…さあ、どういう事だろうな? どう思う、姉さん」
那智「………」
創「さて、研究が破綻してしまったところで、また夏期休暇に向けて別の課題を考えなきゃな。何か新しい案はあるのか」
うさぎ「うん」
創「いい事だ。正直俺も自分の不健康な生活を暴かれるのはあまり良い気持ちではなかったからね。で、新しい研究ってのは何だい」

うさぎ「バカ涼一の捕食日記」

創「……それは本人の許可を取るのは難しいな。どうしてもそれがいいのか?」
うさぎ「うん」
創「そうか…まあ俺は止めないよ。探究心ってのはどんなものでも全くないよりは良いと思うからね」
うさぎ「ん」


那智「………」(黙って静かに失神状態)




【完】