質問32「人が饒舌になる時って?」


ぽかぽかとした晴天。日曜日の河川敷にて。


椎名「あ! そ、そこにいるいのはトモじゃないかっ!?」
友之「……!」(びくっ)
椎名「どうしたこんな所で!? 1人か!? もしかして1人なのか!? い、いつも練習終わった後は大抵正人とアラキに行くのにっ。どうかしたのか!?」
友之「……っ」(黙って首を横に振る友之)
椎名「え、何でもないのか!? ホントか!? そ、そうか…。じゃあ…ただの日向ぼっこってやつか? あー、確かにここ気持ちいいもんなー」
友之「………」
椎名「なっ、お、俺もここに座っていいか? って言いながらもう隣に座っちゃうんだけどなっ! ははははは〜!」
友之「………」
椎名「は…はは…」
友之「………」
椎名「……(汗)。え、えーと。もしかして、迷惑、とか?」
友之「あ…っ」(慌てて首を横に振る友之)
椎名「あ、そ、そうかっ。良かった! 良かった〜! は〜焦った〜」
友之「………」(珍しいものを見るように椎名を見つめる友之)
椎名(うっ…か、可愛い…!)「そ、それにしてもトモ、本当どうしたんだ? さっきも言ったけど、アラキには行かないのか? いつも真っ先に行ってるじゃないか?」
友之「………」
椎名「俺もな、皆も行ってるはずだし行こうとしてたところなんだよ。どうにも練習の後はあそこで缶ビール1本飲んで帰らないと気が済まないんだよなー。あのお人よしマスター、すーぐオマケしてくれるしさ」
友之「………」
椎名「……(汗)。はっ、そ、そうだ! もしかしてトモは何か悩みでもあんのか!? それで1人たそがれてたとか!? そりゃガラスの十代だもんな! 悩みの1つや2つはあるよなあ」
友之「……って」
椎名「!! え!? 何だ、どうした!?」
友之「ガラスの十代って…?」
椎名「へ…。あ、ああそんな事か…。ほら、昔そんな歌歌ってたアイドルがいたろ。それを…って、もしかしてトモの世代ってあのアイドル知らない?」
友之「………」(こっくりと頷く友之)
椎名「そ、そうかー。ちょっと古かったかなー。そうかもなー。うー…しかしそれはショックだな。これぞジェネレーションギャップってやつか…。そういやあ、トモと俺って10以上離れてるんだもんな、年」
友之「10…以上…?」
椎名「ん? ああ、そうだよ。俺ももうすぐ30突入だしさー。はーまったく嫌になるよなー」
友之「………」
椎名「トモから見たら俺なんか完全オジサンだよな…」←何気に自分で自分の言葉に傷つく椎名
友之「あ……」(違うという風に慌ててかぶりを振る友之)
椎名「はは…トモは優しーなー。で、でもさ…えーと、トモはやっぱりあんまり年離れてるのは許容範囲外?」
友之「……?」
椎名「あ、え、えーと、つまりだな…っ。トモの理想の相手ってどんなの!? その、まず年! 年上、同年代、年下! どれがいい!?」
友之「え……」
椎名「今思った事でいいから! こ、ここ恋人にするならさっ。どんくらいの年の奴がいい!?」
友之「あの……」
椎名「うんうん!」
友之「……年上」
椎名「!!!」
友之「あ……」(言った途端真っ赤になる友之)
椎名「……はは。そ、そうか。トモは年上が好みなんだ? はは…ははははは…!」
友之「……?」
椎名「そ、そんじゃ…。えーと、性格は!? どんなのがいい? あるだろ、ほら。優しいとか明るいとか、そういうの! トモの理想のタイプ、すげー興味あるなあ!」←段々あからさま
友之「……あの、優しくて」
椎名「うんうん! 俺は優しいーぞー」
友之「え…?」
椎名「ああ、いやいや! 気にするなっ。他には他にはっ!?」
友之「……いつも…分かってくれてて…。いつも、心配してくれる…」
椎名「ん…? ふ、ふうん…? えーと、つまりは守ってくれるような大人なタイプがいいわけだよな…」
友之「勉強も教えてくれるし、料理もすごく上手いんだ…。読んだ本の話とかも、すごく面白い…」
椎名「……は、はあ…?」
友之「怒るとちょっと怖いけど…。でも、ちゃんと謝ると、すぐ笑ってくれるから…」
椎名「………」
友之「ほっとする…から…」
椎名「……え。え〜と…?」
光一郎「友之」
友之「! コウ兄!」(すぐさま立ち上がってダッシュする友之)
光一郎「悪い、待ったか?」
友之「ううん…っ。あの…ね…」(振り返って椎名を見る友之)
椎名「………」(ボー然)
光一郎「椎名さん。こんにちは」
椎名「あ…っ。よ、ようコウ…! 何だ、トモはコウを待ってたんだ?」
光一郎「すいません、こいつの相手させちゃったみたいで」
椎名「あ、いや、別に、俺は。はは…」
友之「……椎名さん、さよなら」
椎名「あ、ああ。じゃな、トモ…」
光一郎「失礼します」
椎名「ああ…また…。……。」

ぽっつーん。

椎名「……あれ? 俺の質問ってどんなだったっけ?」



【完】