質問35「結婚許可を得る上で最大の敵は…?」

北川家にて。夕食時に突如として現れた数馬を囲んで―。


数馬「ねー、光一郎さん」
光一郎「ん、何だよ」
数馬「今度ですね、トモ君を僕ン家に連れてってもいいですか?」
友之「数馬の家…?」
数馬「君は黙ってて。ボクは光一郎さんと話してるんだから」
友之「………」
光一郎「何で当人を黙らせて俺に訊くんだよ(笑)」
数馬「だってトモ君は行くって言うに決まってるから。あとはお兄さんである光一郎さんの許可を得るだけなんです」
光一郎「何だかな…。それで俺が駄目だと言ったらお前はどうするんだ?」
数馬「んー…どうだろ。とりあえず皆に言いふらす、かな? 『光一郎さんがトモ君を独りで囲いまくって束縛しまくってめちゃくちゃ横暴な事してる!』って」
友之「か、数馬そんな…。コウは…」
数馬「だからお前は煩いっての。今こっちとの話で大変なんだから静かにしてろ」
光一郎「…お前って本当トモにキツイのな」
数馬「誉めてくれます?」
光一郎「嫌だね(笑)」
数馬「………」←密かにむっとしてる
友之「あ、あの、コウ…」
光一郎「ん?」
友之「数馬の家、行っても…?」
光一郎「だから何でお前まで俺にいちいち訊くんだよ。駄目なわけないだろ? 行きたかったら行けばいい。…けどお前、数馬の親御さんに会ったら挨拶くらいはちゃんとしろよ」
友之「う、うん…」
数馬「へー、それって何か結婚の挨拶に行くみたいだね!」
友之「え…」
光一郎「バカ…」
数馬「だってそうじゃないですかー。イマドキ友達ン家行って、そこの親にわざわざ挨拶する高校生なんていないよ。みんなね、知らんフリしてそいつの部屋行って騒いでお終い。そういうもんなんですよ」
光一郎「今時だろうが何だろうが、俺はトモにそういう礼儀知らずになって欲しくない」
友之「……っ」
数馬「はーあ。だって。分かった、トモ君? ちゃ〜んとご挨拶、できる?」
友之「で、できるよ…!」←あからさまにむっとした
数馬「でもさ、光一郎さんて何でそんないつもちゃんとしてんですか? この夕飯のメニューにしろきちんと片付いてる部屋にしろ何にしろ。大体、家にいる時くらいもっとこう…だら〜っとした格好とかすればいいじゃないですか。そんなんでよく疲れませんね? いつ息抜くんですか」
光一郎「ほっとけよ」
数馬「外でだってストレス溜めてるでしょう? 家帰ったら帰ったでまたコイツのウジウジ攻撃。それで疲れないわけがない!」
友之「………」
光一郎「お前は心にもない事言って友之を動揺させるなって」
数馬「……半分は本心だけど」
光一郎「これ言ったら嫌がるだろうけどな。お前のそういうとこ、修司に似てる」
数馬「……ちょっと〜」←物凄く嫌そう
光一郎「ふっ…。けど、そうでなきゃ俺はお前みたいな奴の相手できないよ。…ほらトモ、何呆けてんだ? 早く食えよ、冷めるだろ?」
友之「あ、う、うん…っ」
数馬「あーあ、ほらまた。そうやってお母さんやっちゃう〜。ボクはねー、人前では決して見せない、トモ君の前でだけだらけたりしてるみっともない光一郎さんを見たいのー!」
光一郎「駄々をこねるな。しかし…それでお前は予告もなく人ン家に押しかけてくるわけか」
数馬「不意打ち結構好きだから」
光一郎「お前に1番似合わない言葉だな」
数馬「………」
友之「あ、あの…」
光一郎「ん? どうした?」
友之「今日、食器洗う…」
光一郎「ん…」
数馬「……ボクがバカにしたから意地張ってんでしょ。そうだよ、たまにはそんくらいの事しろって」
友之「するよっ」
光一郎「………」←ムキになる友之が珍しいらしい。
数馬「じゃーあとさ、お皿洗う前にお茶淹れてお茶! ボクはねー渋めが好きなの。そんなに熱くない温度で頼むね」
光一郎「……数馬、お前我がままな奴だな」
数馬「自分の好みを言ってるだけですよ」
友之「お、お茶の葉、何処…?」
光一郎「ん? あ、ああ、そっちの棚」
友之「……っ」(急いで台所へ行く友之)
数馬「ねーねー光一郎さん。賭けしよう賭け。友之が10分以内にお茶を運んでこられるか否か。ボクは勿論、駄目な方に賭けます」
光一郎「賭けね…別にいいけどな」
数馬「賭けるものはねー。トモ君、外泊許可権ゲット! ボクん家泊めていいですか?」
光一郎「またそういうネタかよ…。ところで俺が勝ったら何くれるんだ」
数馬「んー。数馬クン家はお金持ちだから現金とかでもいいですよ」
光一郎「お前な……」
数馬「だって北川家が貧乏だって知ってるよ。光一郎さんって自分の学費とかお父さんからお金貰ってないんでしょう? 友之が言ってた。ボクにはそういうの全然分からないけど」
光一郎「何で」
数馬「向こうは親でしょ。貰っておけばいいんですよ、子どもは弱い立場なんだから」
光一郎「お前がそういう事言うとまるっきり説得力ないのな(笑)」
数馬「まー光一郎さんのことだから? 将来はたくさん稼いでお金持ちになるの目に見えてるけどさー。でも今大変な事に変わりないんだから。あ、いい事考えた! トモ君をボクん家にお嫁に出すとか!」
光一郎「お前、そろそろ帰るか?」
数馬「まだお茶飲んでません。トモ君ってさ、お婿って感じじゃないんだよね。うん、お嫁!」
光一郎「…俺が勝ったらお前の今日の発言すべてを正人に教えるってのはどうだ?」
数馬「は? 何言ってんの?」
光一郎「賭けるものの話だよ」
数馬「……別にいいけど。光一郎さんて…」
光一郎「トモ、急須あったか?」
友之「あっ…。え、えっと何処にあるか…」
数馬「教えちゃ駄目だからね!」
友之「あと、湯のみ、いつものコウのがない…」(オロオロ)
光一郎「……駄目だな、これは(苦笑)」
数馬「お泊り権、ゲット〜」

30分後―。

友之「い、淹れた…」
数馬「もう別に飲みたくなくなった」
友之「え……」
光一郎「意地悪言うな」
数馬「それより〜。トモ君、さっき2人で話し合った結果ねー。今度の週末、君、ボクン家にお泊りする事になったから」
友之「えっ…」
数馬「光一郎さんの許可は貰ったから。となれば君もOKでしょ」
友之「………」
光一郎「嫌だったら行かなくてもいいぞ?」
数馬「あ、ずるい! 何それ〜!」
友之「あ、あの、今週…?」
数馬「そうだよ。どうせ暇でしょ、キミって人はさ。それとも何か用でもあるの?」
友之「だって…」(ちらちらと光一郎を見やる友之)
光一郎「……あ」
数馬「? 何? 本当に用あるの?」
光一郎「……(笑)。おい数馬。その日を選んだのはお前だからな」
数馬「だからそれが何なんですか?」
友之「正兄が…」
数馬「は? …おい…またそのパターンかよ…」
光一郎「そうみたいだな」
友之「野球観に連れて行ってくれるんだ…。その後でもいい…?」
数馬「『野球の後、数馬クンの家にお泊まりするんだ♪』って言うわけ。あの鬼に」
友之「えっ…お…鬼…?」
光一郎「お前って何気に正人を1番嫌がってるよな」
数馬「だってあの人めんどくさいんだもん! そう…たとえて言うなら、お母さんは光一郎さん。お父さんは中原先輩」
光一郎「お前…嫌な喩えするな」
数馬「ドラマとかがそうじゃないですか! 娘の結婚って母親より父親落とす方が骨折れるの!」
友之「……コウ、数馬何の話してるの?」
光一郎「ん…。お前は分からなくていいよ」



【完】