質問37「似たもの兄弟?」

どっかの道端にて。


和樹「……? あの、どうかした?」
友之「……っ!」(びくっ)
和樹「!? あ、ご、ごめんね、突然声掛けてびっくりしたかな…。地図見ているようだから何処か探しているのかと思って」
友之「あ……」
和樹「良かったらそれ見せてくれる? 俺この辺りに住んでいるから、もしかしたら知っている場所かもしれない」
友之「お……」
和樹「? お?」
友之「……お…願い、し、ます…」
和樹「……。あっ! う、うん、じゃあ…(焦)」(地図を受け取る)
友之「………」←どことなく不安そう
和樹「……え、えーと…これは…(汗)」
友之「……っ」
和樹「え?」
友之「友達の、家なんです…」
和樹「あ、ああ…そうなんだ。それにしても随分と不親切な地図だね。駅から殆ど傍線一本しか書いてないし、それで『この辺りで一番立派で大きな家』って…(苦笑)」
友之「…分からなかったら…誰かに訊けって…」
和樹「その友達が? ふうん…」
友之「………」
和樹「駅からほぼ一直線で大きな家、か…」
友之「………」
和樹(でもまさか…な。あいつにこんなおとなしそうな友達いるわけないし…高校も知らない制服だし)
友之「……あ」
和樹「え?」
友之「あ、あと、庭に温室があって、たくさん花が咲いているって…」
和樹「………」
友之「あと、門の所にお兄さんが飼ってる凶暴な番犬がいるって」
和樹「……あいつ」
友之「え……」
和樹「……いや。あいつは凶暴なんかじゃないよ。とても利口で優しい奴だから。……俺以外の家族には馴れないんだけどね」
友之「……え」
和樹「はは。数馬の友達、なんだろう?」
友之「………」
和樹「俺、香坂数馬の兄貴なんだ。一応、ね」
友之「あ……」
和樹「あいつは俺のこと兄貴だなんて思ってないみたいだけど」
友之「あの…ご、ごめ…なさい…っ」
和樹「え? 何で謝るの?」
友之「あの……犬……」
和樹「別に構わないよ。言ったのはあいつなんだし。でも…何だか驚いたな。あいつに君みたいな友達がいたなんて」
友之「……数馬は、友達じゃないって言い、ます…」
和樹「え?」
友之「………」
和樹「うーん、何だかよく分からないけど。とりあえず行こう? うちに行く所だったんだよね」
友之「あ、はい…っ」
和樹「……君、名前は?」
友之「あ、あの、北川、友之…」
和樹「友之君? 俺は香坂和樹。よろしく」
友之「………」(黙って頭を下げる友之)
和樹「……数馬とは何処で知り合ったの」
友之「あの…野球チームで…」
和樹「え? ああ…あいつがやってる遊びか……」
友之「………」
和樹「あいつね、昔は野球なんて全然興味なかったんだよ。基本的に何でもつまみ食いしてはやめていたから。今回は凄く長く続いているからどうしたんだろうと思っていたんだ」
友之「長く…」
和樹「うん。あいつは飽き性だから。何でもすぐ出来るようになっちゃうからつまらないんだろうね。我が弟ながらあいつの底は計り知れない…」
友之「………」
和樹「……友之君は、兄弟は?」
友之「あ、います…」
和樹「そう? 俺、当ててあげようか。上にいるでしょう。お兄さんかお姉さん」
友之「………」(びっくりして目を丸くする)
和樹「はは、当たり? まんまだな。そういうのって結構分かるよね」
友之「……ど…して?」
和樹「うーん、どうしてだろう? その人の雰囲気とか話し方とか。そういうので何となく分かるよ。数馬なんかも見てて分からない? どっからどう見ても自分勝手な次男坊でしょ」
友之「………」
和樹「あっ! だからって君が自分勝手な人に見えるっていうわけじゃなくて! えーと、何て言ったらいいのかな、同じ下に見えるのでも色々種類があるというか…(焦)」
友之「種類…?」
和樹「そう。まあ、あんまり深く考えなくていいよ。感覚的なものだから」
友之「………」
和樹「ちなみにね、俺は周りからいつも長男でしょうって言われるんだ」
友之「あ……」
和樹「何となく、分かる?」
友之「はい」
和樹「そっか。友之君のお兄さ…お姉さんかな…は、どんな人?」
友之「あの…似て、ます」
和樹「え? 俺と? へえ…どういうところが?」
友之「あの…親切なところ、とか」
和樹「親切? ははは…それは…どうなんだろうなあ…」
友之「?」
和樹「いや…。まあ、上はいちいち面倒だよ。愚痴っても始まらないけどね」
友之「………」
和樹「あっ、ごめん…。友之君にこんな話しても仕方ないよね。どうかしてるな…何だか友之君、話しやすくて」
友之「あの……」
和樹「ん?」
友之「お兄さんの立場…大変ですか…?」
和樹「え? あ、あはは、忘れてくれていいよ。今ついぽろっと出ちゃったけど。それは俺の場合」
友之「………」
和樹「……参ったな。そういう目で見られると弱いんだけど」
友之「あの…僕の、兄さん…」
和樹「え? あ、うん」
友之「いっつも迷惑かけてるし…。我がままばっかりだけど、全然愚痴らない…」
和樹「……そう」
友之「本当は……嫌な事もいっぱいあると思うのに」
和樹「……いいな」
友之「え?」
和樹「ああ…いや。友之君のお兄さんはいいなーって話。同じ弟でもこんなに違うのか…はは、何だか笑える」
友之「……?」
和樹「友之君みたいな弟なら、お兄さんは幾ら迷惑かけられても平気だよ。可愛い弟の為ならってなるよ、きっと」
友之「……っ」
和樹「うちとは根本的に違うね…。俺はあいつにも他の家族にも迷惑掛けられたくないな」
友之「………」
和樹「だから俺も余計な面倒は掛けないつもり。これ、うちの家族のモットー…って、勝手に思ってるんだけど。まあ、実際皆がどう思ってるかなんて分からないけどね」
友之「……分かりたい、ですか…?」
和樹「え? ……どうだろう。考えた事もないよ」
友之「………」
和樹「ってことは、別に分からなくてもいいのかな…(笑)」
友之「僕……分かりたくて」
和樹「え…?」
友之「人の気持ち、とか…」
和樹「そう……」
友之「………」
和樹「練習台にしては、うちの弟は難し過ぎない?」
友之「え?」
和樹「はは…。だって数馬を攻略できたら他の人間なんかきっと簡単だよ。うん、そう思う」
友之「攻略…」
和樹「そう。あ、でももし難しかったらランク下げて俺から始めてもいいよ? 俺、基本は素直で分かりやすい人間だから」
友之「あ…」
和樹「え?」
友之「今の言い方…数馬に…似てました」
和樹「げっ…本当?」
友之「数馬もよくそういう風に言います。自分は分かりやすいって」
和樹「どこが…」
友之「分かりやすいって言われると、余計分かりにくくなります…。これ…僕だけですか…?」
和樹「………」
友之「あの…」
和樹「あ、ごめん。ううん、友之君だけじゃないよ。そう、分かりやすいって言うのは言わば目晦ましみたいなもんかな。そういう風に言う人間ほど裏があるんだよね…」
友之「………」
和樹「参ったな…。無意識に似てたのかな、俺たち。やっぱり兄弟だな…」



【完】