質問46「心の広い恋人?」

都内・某劇場にて。


雪也「こういう場所で映画観るのなんて久しぶりだよ」
創「やっぱり剣君とは行かないの」
雪也「うん。涼一、映画あんまり興味ないんだ」
創「そうかな。彼、結構80年代の名作とかに詳しいよ。女優の名前も、普通に映画が好きってくらいじゃなかなか出てこないだろう人のもぽんぽん出てくるし」
雪也「え。そうなの?」
創「そういう話全然しないの?」
雪也「うん…。涼一は俺が映画観たいって言っても、大抵は嫌な顔するし…」
創「会話できなくなるから?」
雪也「は、創にもそういう事言った…?」
創「年中言ってるよ。俺が君にビデオを貸す事にだってしょっちゅう文句言うじゃないか。彼は君が自分以外のものに興味を向けるのが面白くないわけだよ」
雪也「……(赤面)」
創「今日のこと知ってるの」
雪也「え?」
創「俺とここに来てること」
雪也「うん、それは…。ちゃんと言ってあるから」
創「命の心配はいらない、と」
雪也「そ、そんな…っ。あのさ、創は涼一をちょっと誤解してんじゃないかな」
創「はっ、誤解…(笑)? どういう風に?」
雪也「だから…。涼一が何でもすぐ怒って…暴れるとか…」
創「暴れるだろ」
雪也「こ、この間のは…ごめんっ」
創「桐野君が謝る事じゃないだろ。勝手に店番頼んだ那智姉さんも悪いし。…しかしよりにもよって店内で寛兎と喧嘩とはね」
雪也「………」
創「それも寛兎が君の作った昼飯を剣君の分まで食べた事が原因? …俺が剣君の事を誤解なんて、本当、彼は誤解しようもない人だと思うけど」
雪也「あ、あれでも…ホントは凄く優しいんだよ」
創「桐野君にだけね」
雪也「違うよっ。大学でも皆に優しい。涼一、人気者なんだ。女の子にも凄く…モテるし」
創「そう」
雪也「……何で笑ってるの」
創「別に」
雪也「………」
創「しかし、俺と映画観に行くって言って剣君が何も言わなかったなんて信じ難いんだけど」
雪也「だからそれが誤解なんだって」
創「彼は君が誰と出掛けようが構わないって?」
雪也「構わないって言うか、ちゃんと言ってくれればいいっていつも言ってくれてるから」
創「本当かなぁ。実は後ろからついてきているんじゃない? 服に盗聴器仕込んで会話聞いているとか」
雪也「は、創…っ。いい加減にしないと怒るよ?」
創「そう、桐野君はたまにちゃんと怒った方がいいんだよ。君、何でも自分の思っている事飲み込んで我慢するだろう。だから剣君もどんどん自分の欲求ばかり先に立ってああいう我がままな人になる」
雪也「そんな事ないよ。涼一はいい奴だよ」
創「………」
雪也「何…? 本当だよ。今日ここに創と行きたいって言った時だって、本当は嫌だけど俺がどうしても行きたいならいいって言ってくれて…」
創「何だやっぱり嫌がってるんじゃないか」
雪也「でも許してくれたんだよ。俺だって自分の我がまま通して来た。だから俺が我慢してるとか涼一が我がままとか…創の言ってる事は、違うよ」
創「まぁ、それじゃあそういう事にしておいてあげてもいいよ。折角桐野君と2人、無事に出てこられたわけだし。……ま、無事かどうかはまだ分からないけど」
雪也「まだ言う…(汗)」
創「恨みがましくもなるね。この試写会が終わったら食事もできないで即お別れじゃないか。入口に剣君が迎えに来るんだろ」
雪也「ご、ごめん」
創「いいけど。そろそろ始まるね。……携帯切った?」
雪也「あっ…。う、うん、さっき…」
創「さっきまでで計何件?」
雪也「え」
創「参考までに知りたいね」
雪也「そ、それは…その……じゅ…っ件」
創「聞こえないよ」
雪也「……30件」
創「端数切捨て?」
雪也「………」
創「あ、そうだ。あともうひとつ聞きたかったんだ」
雪也「何…」
創「結局彼、今日自分が我慢する代わりに君に何を寄越せって?」
雪也「創っ」
創「絶対言ってるだろ。よっぽど酷い事要求しているようだったら、俺が文句言うよ。俺にだって責任あるわけだし」
雪也「創、本当だよ。涼一はそんな酷い奴じゃないんだって」
創「じゃあ何も言ってない?」
雪也「言ってない」
創「……へえ。本当」
雪也「うん。今後1週間泊り込みで食事作れって、それくらい」
創「…………」



【完】